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#1 見知らぬ病院にて

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(えっと…… 今の状況をまとめると)


 見知らぬ病院で目が覚める
  ↓
 とても綺麗な看護婦さんに出会う
  ↓
 声をかけたら看護婦さんが部屋からすごい勢いで出て行く。


(も、もしかして)


 この状況を鑑みて、真人が出した答えは……


(自分の声があまりにも聞き苦しくて出て行っちゃった……?)


 そう、この男、かなり自己肯定感が低かった。

 過去にあった事を考えると仕方のないことかも知れないが、真人は言ってしまえばネガティブ思考で、その上あまり物事をポジティブに捉える事は出来ないタチでもあった。


「はぁ…… 結局また嫌われるんだな……」


 1人ベッドでどんよりしていると、何やら部屋の外が騒がしいような気がしてきた。

 その騒がしさは徐々に近づいてきて、ついに部屋の前まで来た。

 そして、ガラっと扉が開かれると、そこには先程の看護婦に加えて、これまた綺麗な白衣を羽織った恐らく女医であろう女性がそこには立っていた。

 髪は黒髪のショートカットで、どちらかというとスレンダーな体つきだが、ちゃんと出るとこは出ているという完璧なプロポーションをしている。
少しキツめの印象を受けさせるような顔立ちをしているが、その顔は今、驚愕の二文字がよく当てはまる表情を浮かべていた。


「お、大野様……? お身体の方は大丈夫なのですか……?」

「はい……? そ、そうですね、特には……」

「そうですか…… あの、お近くに寄ってもよろしいですか? 少し簡単な検査をしたいのですが……」

「? 全然、大丈夫ですよ」


(近づくのに許可を求めるなんて、すごく礼儀のある人なんだな)


 それからというものの、女医と看護婦の2人は、手際よく真人の脈や心音、体温などを測って記録していった。

 その中でも、どうしても真人に触れなければいけない時などは、2人とも真人に逐一確認をとり、真人のことを割れ物を扱うかの如く丁寧に優しく接してくれた。

 そんな中、真人は、


(ち、近いっ……! こんなに近いとより2人ともめちゃくちゃ綺麗に見える…… な、なんかいい匂いも…… って、何を考えてるんだ自分は!?)


 そんな雑念と戦っていた。

 10分も経たない時間でそれらの検査は終わったが、真人にはもっと長く感じられていた。 

 それだけ緊張していたのである。


「お疲れ様でした、真人様。 お身体の方は特に問題ありませんでした」

「あ、ありがとうございます……」


(うわ、微笑んでくれた…… 笑った顔もめちゃくちゃ綺麗だな……)


「お疲れのところ申し訳ないのですが、いくつか聞きたい事がありますので、そのままの楽な体勢でいいので答えてください。 答えられないものは分からないと言ってもらえれば結構ですので」

「は、はい……」

「ご自分のお名前は?」

「えっと、大野真人です」

「ご自身の年齢は?」

「30です」


 そう答えると、一瞬、目の前の女医も看護婦もピクっと反応した気がするが、女医はすぐに元の態度に戻った。


「……分かりました。 次に誕生日は分かりますか?」

「えーっと、5月30日です」

「家族構成は?」

「……一応、父と母がいます」(ほぼ絶縁状態だけど……)

「それだけですか?」

「え? は、はい……」

「分かりました、ありがとうございます。 以上で質問は終わりです。 お疲れ様でした」

「あ、はい……」

「それでは一旦、私は検査結果をまとめて来ます。 家族の方にも目を覚まされたことを報告しておきますね」

「あ、家族には……」

「何かありましたらこちらの者を部屋の前に控えさせておきますので、何なりとお申し付けください。 それでは失礼します」


 そう言って頭を下げると、2人は部屋から出て行ってしまった。

 真人は家族に伝えられるのはまずいと、伝えようとしたが、その声はあまりにも小さく、2人には届かなかった。


(というか、声がおかしくないか?)


 仮にも肉体労働の職場で働いていたため、とにかくハッキリ大きく話す事は意識していたはずだが、どうにも声が出ない、そしていつもより高い音が出ている気がする。

 などと色々と考えていたのだが、寝起きの生理現象なのか、不意に尿意を催してきた。


(ト、トイレに…… こういった時にも声をかけた方がいいのだろうか?)


 手元にはいわゆるナースコールのボタンもあるのだが、わざわざ呼びつけるのも悪いと思い、一先ずベッドから降りてみることにした。

 しかし、ベッドから降りる際にいつもの感覚で降りると、不意に眩暈がし、バランスが取れなくなってしまった。


(ま、まずいっ。 倒れるっ)


 抵抗虚しく、真人はそのままドテっと横向きに倒れてしまった。


(いつつ…… そんなに長い事寝ていたのかな…… 立ちくらみなんて初めてなったよ)

 
 すぐに起きあがろうとしても、まだ少し頭がクラクラしており、すぐには立てそうに無かった。


 ガララっ!

 
 真人がどうにかこうにか立ちあがろうと、地面でウゴウゴしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。


「失礼します! どうかなされましたか!? って、真人様!?」


 どうやら看護婦が真人が倒れた音を聞いて入ってきたようである。


「非常時なので、し、失礼しますっ」


 看護婦は慌てて倒れている真人に近づき、ゆっくりと助け起こしてくれた。


「す、すみません」

「いえ、こちらこそ本当に申し訳ありませんっ! どこか痛むところなどはございませんかっ?」

「だ、大丈夫です。 少し転んだだけなので」

「そうですか…… それと勝手にお身体に触れてしまって本当に申し訳ございませんでした。 責任は取りますので……」


 そう言うと看護婦は頭を深々と下げ、謝罪の意を示してきた。


「えっ、いや、そんな責任なんて…… 助けてくれてありがとうございます。 体に触れたことも全然気にしてないですから……」


(むしろ少し役得だったかも……)


「そ、それなら良いのですが…… それで、どうなさったのですか? お申し付けていただければ伺いましたのに……」

「あ、えっとそのー…… お手洗いに行きたくて……」

「あっ…… そ、そうなんですね。 気が回らず申し訳ございませんでしたっ」

「いえ…… それで、どこにあるか分からないので場所を教えてもらえますか……?」

「かしこまりました。 案内致しますのでこちらに来ていただけますか?」

「えっ、あの、1人で大丈夫ですよ?」

「それは…… 申し訳ありません、男性1人で歩かせるのはあまり良くないとされています。 なので、形だけでも結構ですからご一緒させていただきたいのです……」


(男性1人で……? 普通そこは女性じゃないか……?)


「それに、まだ大野様は病み上がりですから……。 現に倒れられてしまいましたし…… どうか、許していただけませんか?」

「わ、分かりました…… お願いします」

「はい、ではこちらへどうぞ」


 実際倒れた手前、断り切れずに用意されたスリッパを履き、部屋の外へ出ると、そこにはとても広い空間が広がっていた。

 が、しかし周りには同じような扉が2つ存在するのみで、あとは一切何もなかった。


(綺麗なところだけど、すごい隔離空間って感じがする……他の人の気配もしないし……)


「こちらです、真人様」

「あ、はい……」


 看護婦さんに着いていって今いる空間から出ると、すぐ近くに男性専用と書かれたトイレがあった。

「こちらになります。 私はここで待っていますので何か困ったことがあったら遠慮なく申し付けてください」

「あ、ありがとうございます……」


 そう言ってくれた看護婦さんに礼をし、トイレに入ると、そこは先程の部屋に負けないくらいものすごく綺麗な空間だった。

 そして、さっきの空間と同じように3つ扉があり、その一つを開けると、やたら広い部屋に、普通の洋式便器が置いてあった。

 便器の横には謎のタッチパネルもあって、便器に座りながら見てみると、色々な機能が備え付けられているみたいであった。


(すごい設備だな…… ウォシュレットとかは当たり前のように付いてるし、なんかよく分からない機能も色々ある……)


 あまりにも綺麗すぎて少し気後れしてしまうが、生理現象には勝てず、少し長めに用を足し、身だしなみを整えて便器から立ち上がった。

 扉を開け、手を洗うために水道まで来たのだが、そこもまた言わずもがな綺麗であった。


(本当になんなんだろう、ここは…… こんな設備がありそうな病院、住んでいる近くにあっただろうか?)


 自分の置かれた状況に不安を抱きつつ、タオルも横にあったので、少し顔も洗おうと顔を上げた。

 すると、そこにある鏡に当たり前のように自分の姿が映るのだが、それを見た瞬間、真人は動きを完全に止めた。


「え…… 誰だ……?」


 そこに映っていたのは、いつも通りの髭を生やした老け顔の男ではなく、男目線で見ても間違いなくイケメンの少年が立っていた。

 どこか現実味のないその美貌は、驚きに満ちており、今の自分の感情を鏡を通して嫌でも理解させられた。

 頬をつねったり、目をパチパチしてみたりしても、そのイケメン少年は自らの動きと同じ動きをひたすらし続けてきた。


「ど、どうなってるんだ……???」


 目を覚ましてから1番の謎に、思考が停止した真人が帰ってくるまでには10分ほどかかってしまった。
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