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871.転売屋はバイトに行く
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「それじゃあ講義を始める。あー、いきなりこんな奴が出てきて驚いていると思うが気にしないでくれ。最低限の知識で言えば君達よりも上だ。俺はシロウ、この街で買取屋を営んでいる。」
突然講義室にやってきた俺を見て目を点にする受講者を前に、俺は臆する事無く言葉を紡ぐ。
どうして俺がこんな事をしているのか。
それは半日ほど前までさかのぼる。
マリーさんの出産で迎えた15月。
港町までのナイトフライトを終え、フラフラのままベッドに倒れ込んだ俺を叩き起こしたのは同じくフラフラのニアだった。
「お願いシロウさん、助けて。」
「お疲れのところ申し訳ないが俺も疲れてるんだ。」
「そこを何とか、もうシロウさんにしか頼めないのよ。」
睡眠時間は三時間ほど。
いつも六時間は眠る俺にとっては安眠妨害もいい所だが、目の下にクマを作り藁にもすがるような感じで来られたら無碍にする訳にもいかない。
とりあえず応接室に移動して、お互いにアネットお手製の栄養剤と眠気覚ましを飲んで一息つく。
「で?」
「春になって拡張工事が始まったでしょ?」
「だな、街中出稼ぎ労働者だらけだ。正直これ程とは思ってなかった。」
「それに加えて新規の冒険者が殺到してるの。」
「農閑期ならともかく今からが農繁期だろ?なんでまた今なんだ?」
農閑期になると働き口を失った労働者が一時的に冒険者になるケースは多い。
もちろんそのまま冒険者としてやっていくやつもいるが、大半は春になり種まきが始まると元の場所に戻るってのがいつもの流れだ。
なのでこの時期は冒険者が減るはずなのに、なぜか今年は増えているらしい。
街中どこを見ても出稼ぎでやってきました!って感じの人ばかりだ。
屈強な人もいれば、こいつ大丈夫なのかという感じのひょろひょろっとした人もいる。
まぁ、どの人にも最適な仕事ってのがあるからそれをやってもらえばいいだけなんだけども。
「人がね、増えすぎて仕事が足りないのよ。」
「マジか。」
「後は仕事はあっても体力に見合わないとか稼ぎが少ないとかで、冒険者の方が稼げるって噂をどこからか聞いてギルドに来たって感じね。そんな希望者に対処するだけでも精いっぱいなのに、その後新人向けの講義までしなくちゃいけなの。でも、講義が出来るような子はみんな希望者の相手に追われちゃって・・・。」
「それで俺に話を持ってきたと。あのなぁ、俺は買取屋であって冒険者じゃないんだが?」
「もちろんわかってるわよ。でも、シロウさんはエリザの講義を何度も見てるし、初心者冒険者について詳しいでしょ?お願い、資料はあるし簡単な説明だけでいいから。もちろんお礼は出すわ。」
事情は察した。
突然の事にギルドは手一杯なうえに講義をしていたエリザが育休に入ってしまって猫の手も借りたい状況のようだ。
だが、お礼が出るからといってなんで俺が講義なんてしなきゃならないんだ?
「断る、といったら?」
「ここで泣いて騒ぐわ。」
「子供かよ!」
「だって他に頼れる人がいないんだもの。お願い!一日四コマだけでいいから!日給はずむから!」
「ちなみにいくらだ?」
「銀貨3枚!」
「却下。」
それっぽっちで俺を雇おうなんて百年早い。
一日でいくら稼ぐと思ってるんだ?
せめて銀貨10枚は出してもらわないと。
ちなみに一コマな。
「えぇぇぇ、やってよぉぉぉ。」
「そんな声だしてもダメだっての。」
「最低限説明してくれたら後は好きに講義していいから、宣伝しても怒らないから、お願い!」
ふむ、宣伝か。
それはアリかもしれない。
ちょうど時期的にアレが始まるし、集める労働力としては最適じゃなかろうか。
ふむふむなるほど。
いい事を聞いた。
「本当だな?」
「え?やってくれるの!?」
「あぁ、そこまで言われたのなら仕方ない。知らない仲でもないし最低限の講義ぐらいはしてやろう。ただしそれが終わったら好きにしていいんだよな?」
「・・・犯罪はダメよ?」
「そこまでバカじゃねぇよ。」
ってな感じでバイトを引き受けることになったわけだ。
ちなみに日給は銀貨5枚まで引き上げさせた。
それはそれ、これはこれって奴だ。
突然やってきた俺をにらみつけるいかつい労働者も数人いるが、普段からもっと強面の冒険者を相手にしているだけになんとも思わない。
さて、お仕事しますかね。
「この講義では主に冒険者としての心得と、最初に用意するべき道具について説明する。装備に関しては各自の適性に応じてギルドからの貸し出しがあるが、あくまでも貸し出しな上にまともな装備じゃない。自分の命を預かるものだ、さっさと金を貯めて相応のものを買うことをお勧めする。」
「そうやって俺達から金を巻き上げるんだろ!」
「巻き上げる?何を勘違いしているか知らないが、さっきも言ったように俺は買取屋だ。巻き上げるところかむしろ金を渡す側なんだが?」
「じゃあ何でそんな奴がここにいるんだよ。」
「職員はどこにいる?さっさと他のやつを出せ!」
「騒ぐのは結構だがこれを受講しない限りは冒険者証は発行されないから諦めて話を聞いておけ。あー、とりあえず冒険者としての心得だが簡単に言えば二つだけだ。『生きて帰れ』『やばくなる前に逃げろ』以上だ。」
騒いでいた労働者がさらにポカンとした顔をする。
何をえらそうなこと言うと思ったらそんなことかよ!なんて俺なら言ってしまいそうだが、本当の事だから仕方が無い。
この心得を守れない奴は死ぬ。
それはもうあっさりと。
「なにを言ってると思ったやつ、ダンジョンを甘く見ないほうがいいぞ。地上と違って逃げる場所は限られてる上に集団で襲われることもある。まだいけると思ってる奴が大抵奥まで行って生きて帰れずに死ぬんだ。どれだけ珍しい装備を見つけても、地上に持ち帰れないんじゃ意味は無い。だからやばくなったら逃げろ、生きて戻れ。それが装備が揃うまでの心得だ。」
「じゃ、じゃあ装備が揃ったらいいんですか?」
「そうだな、まともな装備さえあれば実力が多少劣っても何とかなる。魔物に切られても装備がしっかりしていれば切断されることは無い。とりあえず切り落とされなければ薬草で何とかなるが、切り落とされれば高くつくしな。まぁ、出血多量で死ななければの話だが。」
ニヤリと笑った俺を見て静かに話を聴いていた労働者達がゴクリとつばを飲む音が聞こえた。
話に聞いていたのと違うぞ、そんな風に思っているかもしれない。
だがそれでいい。
下手にダンジョンにもぐって働き盛りの命を散らすぐらいなら、地上で働いてもらったほうが何かと都合がいい。
もちろんそれなりに戦えるのであれば話は別だ。
過去に地上で魔物と戦ったことのあるような奴は、俺の話を聞いてもなんとも思ってなさそうだし。
「まずは金になる仕事をして装備を整え、それから奥に潜る。潜れば潜るほど稼げるからそれでまた装備を買う、その繰り返しだ。冒険者って連中は見た目には金遣いも荒くて儲かってそうに見えるが、実際そこまで出来る連中は半分もいないだろう。残りの半分は途中で怪我をしたり魔物におびえて挫折するか、それか死んだ。」
「聞いてた話と違う・・・。」
「まぁ世の中そんなものだ、儲かる話なんて普通は人に教えないもんだからな。とはいえ、冒険者が儲かるのは事実。もちろんしっかりと準備をして装備を整えられたらの話だが、俺みたいな奴でもそれなりに魔物とやりあうことも出来るぞ。いい装備を用意するって事はすなわち自分の命を守ることだ。そして俺ならその装備をそろえる為に必要な金儲けの方法を知っている。」
ザワッ。
そんな音が講義室に響いた気がする。
いや、気がしたんじゃ無くて実際に響いた。
儲け話を人に教えないといいながら、その方法を知っているという怪しい男の話だというのにここにいる全員が聞き漏らすまいと意識を集中させてくる。
いいねぇ、このストレートな欲求。
まぁ、金儲けする為にここに来てるんだから当然といえば当然か。
「話を聞く気になったようだな。それじゃあ心得は話したし冒険する上で必要な道具について説明する。まず絶対に用意するべきは薬草と・・・。」
そんな感じで講義は滞りなく進み、最初とは違って帰ることには羨望の眼差しで俺を見るようになった。
とりあえず言うべきことは言ったし、怒られることはないだろう。
もちろん宣伝もした。
むしろ後半はそれメインの話だったしな。
この後彼らがどう動くかはそのときが来てみないと分からないが、まぁ大丈夫だろう。
最後の一人が講義室を出て行くのと同時に、あわてた感じでニアが部屋に飛び込んできた。
「シロウさん、参加した人たちがすごい目を輝かせて出て行ったんですけど、何を話したんですか?」
「何って言われたことだよ。生きて戻れ、やばかったら逃げろ。後は必要な装備とか、最低限用意するべき道具とかだな。薬草もそうだし毒消しの実なんかも最低限あったほうがいいものについては話してる。」
「絶対それだけじゃないですよね。」
「宣伝していいって言われたから宣伝しただけだ。ちゃんと、素材の買取はギルドでしろって言っておいたぞ。」
「絶対それだけじゃありませんよね。」
もちろんそれだけじゃない。
新米冒険者が特に危険も少なく金を稼ぐ方法。
ちょうどこれからの時期に大量発生する例の魔物について詳しく話をしただけだ。
比較的安全に倒せて、更にはそれなりの収入になるすばらしい素材。
昨冬もいい金になったので今回もしっかり準備しないとな。
「詳しく聞きたきゃ参加者にでも聞けばいい。ほら、さっさと次を案内してくれ。」
「犯罪はダメですからね!」
「だからそんなことしないっての。」
可愛い子供がいるのにそんなことするわけがない。
っていうかそんなことしなくても勝手に向こうからやって来るんだよ、金って奴は寂しがりだからな。
あわただしく部屋を出て行くニアと入れ違うように、再び労働者が講義室に集まってくる。
さぁ、大事な新規顧客にプレゼン・・・じゃなかった、しっかり新人冒険者としての心得を教えようじゃないか。
突然講義室にやってきた俺を見て目を点にする受講者を前に、俺は臆する事無く言葉を紡ぐ。
どうして俺がこんな事をしているのか。
それは半日ほど前までさかのぼる。
マリーさんの出産で迎えた15月。
港町までのナイトフライトを終え、フラフラのままベッドに倒れ込んだ俺を叩き起こしたのは同じくフラフラのニアだった。
「お願いシロウさん、助けて。」
「お疲れのところ申し訳ないが俺も疲れてるんだ。」
「そこを何とか、もうシロウさんにしか頼めないのよ。」
睡眠時間は三時間ほど。
いつも六時間は眠る俺にとっては安眠妨害もいい所だが、目の下にクマを作り藁にもすがるような感じで来られたら無碍にする訳にもいかない。
とりあえず応接室に移動して、お互いにアネットお手製の栄養剤と眠気覚ましを飲んで一息つく。
「で?」
「春になって拡張工事が始まったでしょ?」
「だな、街中出稼ぎ労働者だらけだ。正直これ程とは思ってなかった。」
「それに加えて新規の冒険者が殺到してるの。」
「農閑期ならともかく今からが農繁期だろ?なんでまた今なんだ?」
農閑期になると働き口を失った労働者が一時的に冒険者になるケースは多い。
もちろんそのまま冒険者としてやっていくやつもいるが、大半は春になり種まきが始まると元の場所に戻るってのがいつもの流れだ。
なのでこの時期は冒険者が減るはずなのに、なぜか今年は増えているらしい。
街中どこを見ても出稼ぎでやってきました!って感じの人ばかりだ。
屈強な人もいれば、こいつ大丈夫なのかという感じのひょろひょろっとした人もいる。
まぁ、どの人にも最適な仕事ってのがあるからそれをやってもらえばいいだけなんだけども。
「人がね、増えすぎて仕事が足りないのよ。」
「マジか。」
「後は仕事はあっても体力に見合わないとか稼ぎが少ないとかで、冒険者の方が稼げるって噂をどこからか聞いてギルドに来たって感じね。そんな希望者に対処するだけでも精いっぱいなのに、その後新人向けの講義までしなくちゃいけなの。でも、講義が出来るような子はみんな希望者の相手に追われちゃって・・・。」
「それで俺に話を持ってきたと。あのなぁ、俺は買取屋であって冒険者じゃないんだが?」
「もちろんわかってるわよ。でも、シロウさんはエリザの講義を何度も見てるし、初心者冒険者について詳しいでしょ?お願い、資料はあるし簡単な説明だけでいいから。もちろんお礼は出すわ。」
事情は察した。
突然の事にギルドは手一杯なうえに講義をしていたエリザが育休に入ってしまって猫の手も借りたい状況のようだ。
だが、お礼が出るからといってなんで俺が講義なんてしなきゃならないんだ?
「断る、といったら?」
「ここで泣いて騒ぐわ。」
「子供かよ!」
「だって他に頼れる人がいないんだもの。お願い!一日四コマだけでいいから!日給はずむから!」
「ちなみにいくらだ?」
「銀貨3枚!」
「却下。」
それっぽっちで俺を雇おうなんて百年早い。
一日でいくら稼ぐと思ってるんだ?
せめて銀貨10枚は出してもらわないと。
ちなみに一コマな。
「えぇぇぇ、やってよぉぉぉ。」
「そんな声だしてもダメだっての。」
「最低限説明してくれたら後は好きに講義していいから、宣伝しても怒らないから、お願い!」
ふむ、宣伝か。
それはアリかもしれない。
ちょうど時期的にアレが始まるし、集める労働力としては最適じゃなかろうか。
ふむふむなるほど。
いい事を聞いた。
「本当だな?」
「え?やってくれるの!?」
「あぁ、そこまで言われたのなら仕方ない。知らない仲でもないし最低限の講義ぐらいはしてやろう。ただしそれが終わったら好きにしていいんだよな?」
「・・・犯罪はダメよ?」
「そこまでバカじゃねぇよ。」
ってな感じでバイトを引き受けることになったわけだ。
ちなみに日給は銀貨5枚まで引き上げさせた。
それはそれ、これはこれって奴だ。
突然やってきた俺をにらみつけるいかつい労働者も数人いるが、普段からもっと強面の冒険者を相手にしているだけになんとも思わない。
さて、お仕事しますかね。
「この講義では主に冒険者としての心得と、最初に用意するべき道具について説明する。装備に関しては各自の適性に応じてギルドからの貸し出しがあるが、あくまでも貸し出しな上にまともな装備じゃない。自分の命を預かるものだ、さっさと金を貯めて相応のものを買うことをお勧めする。」
「そうやって俺達から金を巻き上げるんだろ!」
「巻き上げる?何を勘違いしているか知らないが、さっきも言ったように俺は買取屋だ。巻き上げるところかむしろ金を渡す側なんだが?」
「じゃあ何でそんな奴がここにいるんだよ。」
「職員はどこにいる?さっさと他のやつを出せ!」
「騒ぐのは結構だがこれを受講しない限りは冒険者証は発行されないから諦めて話を聞いておけ。あー、とりあえず冒険者としての心得だが簡単に言えば二つだけだ。『生きて帰れ』『やばくなる前に逃げろ』以上だ。」
騒いでいた労働者がさらにポカンとした顔をする。
何をえらそうなこと言うと思ったらそんなことかよ!なんて俺なら言ってしまいそうだが、本当の事だから仕方が無い。
この心得を守れない奴は死ぬ。
それはもうあっさりと。
「なにを言ってると思ったやつ、ダンジョンを甘く見ないほうがいいぞ。地上と違って逃げる場所は限られてる上に集団で襲われることもある。まだいけると思ってる奴が大抵奥まで行って生きて帰れずに死ぬんだ。どれだけ珍しい装備を見つけても、地上に持ち帰れないんじゃ意味は無い。だからやばくなったら逃げろ、生きて戻れ。それが装備が揃うまでの心得だ。」
「じゃ、じゃあ装備が揃ったらいいんですか?」
「そうだな、まともな装備さえあれば実力が多少劣っても何とかなる。魔物に切られても装備がしっかりしていれば切断されることは無い。とりあえず切り落とされなければ薬草で何とかなるが、切り落とされれば高くつくしな。まぁ、出血多量で死ななければの話だが。」
ニヤリと笑った俺を見て静かに話を聴いていた労働者達がゴクリとつばを飲む音が聞こえた。
話に聞いていたのと違うぞ、そんな風に思っているかもしれない。
だがそれでいい。
下手にダンジョンにもぐって働き盛りの命を散らすぐらいなら、地上で働いてもらったほうが何かと都合がいい。
もちろんそれなりに戦えるのであれば話は別だ。
過去に地上で魔物と戦ったことのあるような奴は、俺の話を聞いてもなんとも思ってなさそうだし。
「まずは金になる仕事をして装備を整え、それから奥に潜る。潜れば潜るほど稼げるからそれでまた装備を買う、その繰り返しだ。冒険者って連中は見た目には金遣いも荒くて儲かってそうに見えるが、実際そこまで出来る連中は半分もいないだろう。残りの半分は途中で怪我をしたり魔物におびえて挫折するか、それか死んだ。」
「聞いてた話と違う・・・。」
「まぁ世の中そんなものだ、儲かる話なんて普通は人に教えないもんだからな。とはいえ、冒険者が儲かるのは事実。もちろんしっかりと準備をして装備を整えられたらの話だが、俺みたいな奴でもそれなりに魔物とやりあうことも出来るぞ。いい装備を用意するって事はすなわち自分の命を守ることだ。そして俺ならその装備をそろえる為に必要な金儲けの方法を知っている。」
ザワッ。
そんな音が講義室に響いた気がする。
いや、気がしたんじゃ無くて実際に響いた。
儲け話を人に教えないといいながら、その方法を知っているという怪しい男の話だというのにここにいる全員が聞き漏らすまいと意識を集中させてくる。
いいねぇ、このストレートな欲求。
まぁ、金儲けする為にここに来てるんだから当然といえば当然か。
「話を聞く気になったようだな。それじゃあ心得は話したし冒険する上で必要な道具について説明する。まず絶対に用意するべきは薬草と・・・。」
そんな感じで講義は滞りなく進み、最初とは違って帰ることには羨望の眼差しで俺を見るようになった。
とりあえず言うべきことは言ったし、怒られることはないだろう。
もちろん宣伝もした。
むしろ後半はそれメインの話だったしな。
この後彼らがどう動くかはそのときが来てみないと分からないが、まぁ大丈夫だろう。
最後の一人が講義室を出て行くのと同時に、あわてた感じでニアが部屋に飛び込んできた。
「シロウさん、参加した人たちがすごい目を輝かせて出て行ったんですけど、何を話したんですか?」
「何って言われたことだよ。生きて戻れ、やばかったら逃げろ。後は必要な装備とか、最低限用意するべき道具とかだな。薬草もそうだし毒消しの実なんかも最低限あったほうがいいものについては話してる。」
「絶対それだけじゃないですよね。」
「宣伝していいって言われたから宣伝しただけだ。ちゃんと、素材の買取はギルドでしろって言っておいたぞ。」
「絶対それだけじゃありませんよね。」
もちろんそれだけじゃない。
新米冒険者が特に危険も少なく金を稼ぐ方法。
ちょうどこれからの時期に大量発生する例の魔物について詳しく話をしただけだ。
比較的安全に倒せて、更にはそれなりの収入になるすばらしい素材。
昨冬もいい金になったので今回もしっかり準備しないとな。
「詳しく聞きたきゃ参加者にでも聞けばいい。ほら、さっさと次を案内してくれ。」
「犯罪はダメですからね!」
「だからそんなことしないっての。」
可愛い子供がいるのにそんなことするわけがない。
っていうかそんなことしなくても勝手に向こうからやって来るんだよ、金って奴は寂しがりだからな。
あわただしく部屋を出て行くニアと入れ違うように、再び労働者が講義室に集まってくる。
さぁ、大事な新規顧客にプレゼン・・・じゃなかった、しっかり新人冒険者としての心得を教えようじゃないか。
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