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628.転売屋は王都に到着する
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「おぉ。」
「まぁそんな声が出るわよね。」
「コレだけ離れていてもお城が見えるなんて、ものすごく大きいんでしょうね。」
「アレは山を削って作ってあるからな、そしてその下の平野全てが王都になる。」
西洋風といえばありきたりだが、まさにそんな感じの白亜の城が見えてきた。
まだまだ距離があるにもかかわらずその城の存在感はすさまじく、見るものを圧倒してくる。
山の下全部が街となるとかなりの大きさだな。
住民は万単位、なるほど街道の往来の多さにも納得だ。
幅20mぐらいありそうな巨大な街道、その中央を馬車が何台も行き来し端を徒歩で歩く大勢の人も見える。
驚くべきは、そしてそんな人たちを相手にするのであろう住居や商店が何件も並んでいることだ。
いつ魔物に襲われるかわからない城壁の外。
にもかかわらず大勢の人が生活していることが正直信じられない。
よほど魔物がいないのか、それともそれを撃退する準備が整っているのか。
そもそも街道を徒歩で歩くことが珍しいだけに、この光景をすぐに受け入れるのは難しい。
「大きいでしょう。」
「大きさもそうだが住民の多さにも驚きだ、コレだけの人間を食わしていくのに一体どれだけの穀物が必要になるか。確かに穀倉地はたくさんあったが、それでも住民全てを一年食わすには少なすぎる。」
「確かに食糧問題は領地を運営していく中で一番の問題だ。とはいえ、ここは王都。国中のものがここを目指して集まってくる集積地ともいえる。心配には及ばんさ。」
「物は需要のある場所に集まってくる、か。つまり俺の欲しいものもたくさん転がっているというわけだな。」
「王都に無いものは無い、なんて言葉があるぐらいだ。金を出せばほとんどのものが出に入る、それこそ命でも。」
「俺の命にも値段がつくんだろうなぁ。」
「そうよ。だから絶対に一人で出歩いちゃダメだからね。」
金さえあれば何でも手に入る。
それを地で行く場所が今から向かう王都ということだ。
別荘を出て半日、それはもういやというほど聞かされたからいい加減耳タコだが、今まで以上に気をつけなければならない場所だという自覚を持たなければならない。
ここは俺のホームじゃない。
誰かがすぐ助けてくれる場所ではない以上、下手な行動は慎むべきだ。
それを肝に銘じなければ俺の命なんて簡単に失ってしまうだろう。
凄いと同時に恐ろしい場所。
「自由行動ができるのは恐らく明後日からだ、それまでは城の上から見るだけになるだろうが辛抱してくれ。」
「その間に色々と情報収集させてもらうさ、拘束されるのは俺だけだろ?」
「予定ではな。」
「いやな言い方だ。」
「仕方ないだろう、陛下の気まぐれは我々には読めん。」
「あ、そういうこと言っちゃうんだ。」
「別にいまさら体裁を気にしてもしかたあるまい。この国を動かす御仁だ、常人でないのは間違いないからな。」
「確かに。」
馬車の中が笑い声で包まれる。
王都だけでなく国中の人間が生活できるように運営していかないといけないとか、常人には絶対に出来ない。
言い換えればそういう人だからこそ、国をまわしていけるんだろう。
そんな人に今から会うのか俺は。
はぁ、気が重い。
「あと一時間ほどで城門だ。一度検問にて身分照会を受けて貰うが問題はないだろう。話は通してあるし、なにより私がいる。」
「王族は特別か。」
「いいや、私は王族の権力を振りかざした覚えは無い。コレまでもそしてこれからも。」
「貴族の権力は振りかざしたけどな。」
「あの時は必死だったのだ、許せ。」
「あんな美人の嫁さんを手に入れるためだ、仕方ない。」
今思えば笑い話だが、あの時はマジで馬鹿なことをしたもんだ。
今みたいに人に知られているわけでもない、異世界に来たばかりの商人がいきなり貴族に喧嘩を売ったんだからなぁ。
とはいえ、あそこで引いていたらおっちゃんは死んでいたわけで。
大事な人を死なせないために俺も必死だったんだよ。
予定よりも混んでいるのか二時間ほど経ってからやっと巨大な城壁の下に到着した。
見上げるほどの大きな壁、こんなに大きな壁を作っていったい何から守ろうというのだろうか。
「うぅむ、思ったよりも歩みが遅いな。」
「何かあったのか?」
「わからんが、まぁ聞けばいいだろう。」
「それもそうだ。」
俺達の番になり、運転手が門番の塀に向かって何か言っている。
「失礼します、リング様ならびにシロウ様ご一行でお間違いありませんね?」
「間違いない。しかしこの渋滞はなんだ?いつもはもう少しスムーズに行くだろう。」
「申し訳ありません。急遽陛下より二日間の休日宣言が出されまして、街中大騒ぎなもので。」
「休日宣言?お世継ぎが生まれたわけでもないのにいったい何故。」
「わかりません。」
「休日宣言ってのはなんなんだ?」
「ようは仕事を休んで大騒ぎしても良い日だな。住民には費用として銀貨1枚が支給される。」
仮に住民が1万人いるとして金貨200枚を大盤振る舞いするのか。
バカじゃねぇの。
恐らく、っていうか間違いなくマリーさんの妊娠をお祝いしてなんだろうけど、後ろの馬車にいるマリーさんが聞いたらどんな顔をするのやら。
はぁ、さっそく常人離れした事をしでかしてくれたものだ。
「全住民に銀貨1枚ですか、すごいですね。」
「まぁ籍を置いていることが条件だからな、ここにいるすべてではない。旅行者である我々に支給されることもないだろう。」
「それもそうか。」
「護衛の皆様と荷物はここで待機を、皆様はどうぞどうぞお通り下さい。ただ、大通りはかなり混雑しておりますので裏門からをお勧めいたしますが。」
「いや、彼らに王都を見せてやりたい。時間はかかるがこのままいかせてもらおう。陛下には無事に到着した旨だけ伝えてくれ。」
「かしこまりました!ようこそ王都へ!」
見とれてしまうぐらいの素晴らしい敬礼を受けた後、馬車はゆっくりと進みだした。
荷物はここまでなのか。
検閲かなにかあるのかもしれないな。
どこを見ても人人人。
俺達の街が本当に小さく見えてしまう。
一度来たことのあるエリザでさえ、目を真ん丸にして車窓から見える景色に目を奪われていた。
見たことのない品、見たことのない食べ物がいたるところにある。
これだけの大通りに面している店舗だ、かなりの値段なんだろうなぁ。
店だけでなく道行く人も様々だ。
冒険者、商人、兵士、あれは踊り子か何かか?
人種も様々、亜人もそこかしこにいるようだ。
人類の坩堝なんて言葉が昔あったがそれに近い光景だな。
「ね、すごいでしょ?」
「あぁ見事なものだ。」
「驚くのはまだ早いぞ、ここから見える景色など王都の1割にも満たん。まだまだ素晴らしいところがたくさんあるぞ。まぁ、正直裏通りなどは私も知らない世界だが。」
「やばい物とか山ほどあるんだろうなぁ。」
「ご禁制の物は厳しく規制されているが、全くないとは言えんだろう。行かないことをお勧めする。」
全てを規制するのは不可能だ。
この前の薬草の様に、形を変えて様々なものが流通している事だろう。
正直裏通りにも興味はあるが、別に行かなくても死にはしない。
人をかき分けながら馬車は進み、景色が変わったところでぐんと速度が上がった。
見た感じ高そうな屋敷ばかり。
一般エリアを抜け貴族の居住地を通過しているようだ。
「ここを抜ければ王城だ。そろそろ覚悟は出来たか?」
「あぁ、もう諦めた。」
「いい心がけだ。」
今更じたばたしたってどうしようもないのは最初からわかっている。
でも文句を言いたいじゃないか。
女達もそれをわかっているので文句は言わないが、いい加減聞き飽きたって感じだろうな。
さっきまで遠くにあった王城は今や目の前。
いよいよその時が来てしまったか。
「む、止めてもらえるか。」
「どうしたディーネ。」
「どうやら歓迎してもらえるようじゃ。」
「歓迎?」
「ひ、人が!何かにつかまって下さい!」
突然運転手の慌てた声が聞こえてきた。
俺はあわてて横にいるハーシェさんの体を抱き、エリザは横の取っ手を掴んだ。
その直後に前方へと吹き飛ばされるようなGを感じる。
幸いにも前に誰も座っていなかったので、場所を代わるように向かいの席に飛ばされハーシェさんが俺の膝に乗るような形で着地した。
「エリザ、ミラ無事か!」
「私は大丈夫、ミラは?」
「頭を少しぶつけましたが大丈夫です。いったい何が。」
「わからん。」
どうやらリングさんも無事なようだ。
状況を掴めない俺達だったが、何事もなかったかのように停車した馬車からディーネが外に出る。
「おい、ディーネ。」
「シロウも来るがいい、向こうも挨拶がしたいようじゃ。」
「挨拶?」
「やぁ、やっぱり君だったんだねディネストリ。会うのは何年ぶりだろう。」
よく通る澄んだ声が耳に届く。
まるで声を聴くだけで心が落ち着く、そんな穏やかな声だ。
ハーシェさんを膝から降ろしリングさんと共に馬車を降りる。
後ろを振り返るとアニエスさんも同じように馬車から降りていた。
「直接会うのは300年ぶり、いやもっとか。相変わらずなよなよしい姿じゃなぁ。」
「君だっていつものようなあの力強い姿じゃないんだね、でもその姿も僕は好きだよ。」
「ふん、口だけは達者のようじゃ。」
「本当の事なんだけどなぁ。」
鮮やかな青色、まるで夏の空のような髪色をした男がニコニコと微笑み坂の上に立っていた。
少し離れているのでその目を見ることはできないが、なんとなくその瞳も青いんだろうと思ってしまう。
「ガルグリンダム様!」
「お、リング君じゃないか。そういえば君が迎えに行くっていう話だったね、なるほどその横にいる彼がそうなのか。」
まるで心臓を小さい針で刺されるような痛みを感じる。
なんだこれは。
「いい男じゃろう?今の私は彼の物じゃからな。」
「おい。」
「おや、人間嫌いの君がかい?雨でも降るのかな、それとも嵐だろうか。」
「ふふ、嫉妬とはお主にしては珍しい。」
突然さっきまで真っ青だった空に暗雲が立ち込め始めた。
見る見るうちに暗くなり、今にも雷が鳴りそうな暗さだ。
話の流れから察するに目の前の彼が引き起こしているんだろう。
天候を操れるとかやばすぎだろ。
「そういう誤解を抱く言い方はやめた方がよくないか?」
「私では不満か?」
「不満とかそういうのじゃない、俺は地上を案内するために呼ばれただけだろ?」
「それが不満かと聞いておるのだ。まったく、私にこれほど好意を向けられて、こ奴ならすぐに尻尾を振っておるぞ。」
「あはは、違いない。」
表情は崩さず、ずっと笑い続ける男。
名前から察するにこの人が噂の古龍なんだろう。
王都を、王家を庇護する存在。
元嫁がいきなり男を連れてきたらそりゃこんな風になるよな。
そもそも、わかれたかどうかすら聞いてないし。
え、もしかしてこれ浮気なのか?
いやいや、勘弁してくれ。
「何を誤解しているかはわからないが、ディーネとはまだ特別な関係じゃない。」
「それはそれは、どうやら僕の早とちりだったようだ。無礼を許してほしい。」
「まだという事はこの先があるという事じゃな、期待しておるぞシロウ。」
「だから、そういう誤解を抱くような発言はやめろ。」
「私が誰か理解していながらその反応、エドワードから面白い人が来ると聞いていたけど間違いないみたいだね。ようこそ王都へ、歓迎するよ。」
そう言ってこの日一番の笑みを浮かべた彼は優雅に一礼するのだった。
「まぁそんな声が出るわよね。」
「コレだけ離れていてもお城が見えるなんて、ものすごく大きいんでしょうね。」
「アレは山を削って作ってあるからな、そしてその下の平野全てが王都になる。」
西洋風といえばありきたりだが、まさにそんな感じの白亜の城が見えてきた。
まだまだ距離があるにもかかわらずその城の存在感はすさまじく、見るものを圧倒してくる。
山の下全部が街となるとかなりの大きさだな。
住民は万単位、なるほど街道の往来の多さにも納得だ。
幅20mぐらいありそうな巨大な街道、その中央を馬車が何台も行き来し端を徒歩で歩く大勢の人も見える。
驚くべきは、そしてそんな人たちを相手にするのであろう住居や商店が何件も並んでいることだ。
いつ魔物に襲われるかわからない城壁の外。
にもかかわらず大勢の人が生活していることが正直信じられない。
よほど魔物がいないのか、それともそれを撃退する準備が整っているのか。
そもそも街道を徒歩で歩くことが珍しいだけに、この光景をすぐに受け入れるのは難しい。
「大きいでしょう。」
「大きさもそうだが住民の多さにも驚きだ、コレだけの人間を食わしていくのに一体どれだけの穀物が必要になるか。確かに穀倉地はたくさんあったが、それでも住民全てを一年食わすには少なすぎる。」
「確かに食糧問題は領地を運営していく中で一番の問題だ。とはいえ、ここは王都。国中のものがここを目指して集まってくる集積地ともいえる。心配には及ばんさ。」
「物は需要のある場所に集まってくる、か。つまり俺の欲しいものもたくさん転がっているというわけだな。」
「王都に無いものは無い、なんて言葉があるぐらいだ。金を出せばほとんどのものが出に入る、それこそ命でも。」
「俺の命にも値段がつくんだろうなぁ。」
「そうよ。だから絶対に一人で出歩いちゃダメだからね。」
金さえあれば何でも手に入る。
それを地で行く場所が今から向かう王都ということだ。
別荘を出て半日、それはもういやというほど聞かされたからいい加減耳タコだが、今まで以上に気をつけなければならない場所だという自覚を持たなければならない。
ここは俺のホームじゃない。
誰かがすぐ助けてくれる場所ではない以上、下手な行動は慎むべきだ。
それを肝に銘じなければ俺の命なんて簡単に失ってしまうだろう。
凄いと同時に恐ろしい場所。
「自由行動ができるのは恐らく明後日からだ、それまでは城の上から見るだけになるだろうが辛抱してくれ。」
「その間に色々と情報収集させてもらうさ、拘束されるのは俺だけだろ?」
「予定ではな。」
「いやな言い方だ。」
「仕方ないだろう、陛下の気まぐれは我々には読めん。」
「あ、そういうこと言っちゃうんだ。」
「別にいまさら体裁を気にしてもしかたあるまい。この国を動かす御仁だ、常人でないのは間違いないからな。」
「確かに。」
馬車の中が笑い声で包まれる。
王都だけでなく国中の人間が生活できるように運営していかないといけないとか、常人には絶対に出来ない。
言い換えればそういう人だからこそ、国をまわしていけるんだろう。
そんな人に今から会うのか俺は。
はぁ、気が重い。
「あと一時間ほどで城門だ。一度検問にて身分照会を受けて貰うが問題はないだろう。話は通してあるし、なにより私がいる。」
「王族は特別か。」
「いいや、私は王族の権力を振りかざした覚えは無い。コレまでもそしてこれからも。」
「貴族の権力は振りかざしたけどな。」
「あの時は必死だったのだ、許せ。」
「あんな美人の嫁さんを手に入れるためだ、仕方ない。」
今思えば笑い話だが、あの時はマジで馬鹿なことをしたもんだ。
今みたいに人に知られているわけでもない、異世界に来たばかりの商人がいきなり貴族に喧嘩を売ったんだからなぁ。
とはいえ、あそこで引いていたらおっちゃんは死んでいたわけで。
大事な人を死なせないために俺も必死だったんだよ。
予定よりも混んでいるのか二時間ほど経ってからやっと巨大な城壁の下に到着した。
見上げるほどの大きな壁、こんなに大きな壁を作っていったい何から守ろうというのだろうか。
「うぅむ、思ったよりも歩みが遅いな。」
「何かあったのか?」
「わからんが、まぁ聞けばいいだろう。」
「それもそうだ。」
俺達の番になり、運転手が門番の塀に向かって何か言っている。
「失礼します、リング様ならびにシロウ様ご一行でお間違いありませんね?」
「間違いない。しかしこの渋滞はなんだ?いつもはもう少しスムーズに行くだろう。」
「申し訳ありません。急遽陛下より二日間の休日宣言が出されまして、街中大騒ぎなもので。」
「休日宣言?お世継ぎが生まれたわけでもないのにいったい何故。」
「わかりません。」
「休日宣言ってのはなんなんだ?」
「ようは仕事を休んで大騒ぎしても良い日だな。住民には費用として銀貨1枚が支給される。」
仮に住民が1万人いるとして金貨200枚を大盤振る舞いするのか。
バカじゃねぇの。
恐らく、っていうか間違いなくマリーさんの妊娠をお祝いしてなんだろうけど、後ろの馬車にいるマリーさんが聞いたらどんな顔をするのやら。
はぁ、さっそく常人離れした事をしでかしてくれたものだ。
「全住民に銀貨1枚ですか、すごいですね。」
「まぁ籍を置いていることが条件だからな、ここにいるすべてではない。旅行者である我々に支給されることもないだろう。」
「それもそうか。」
「護衛の皆様と荷物はここで待機を、皆様はどうぞどうぞお通り下さい。ただ、大通りはかなり混雑しておりますので裏門からをお勧めいたしますが。」
「いや、彼らに王都を見せてやりたい。時間はかかるがこのままいかせてもらおう。陛下には無事に到着した旨だけ伝えてくれ。」
「かしこまりました!ようこそ王都へ!」
見とれてしまうぐらいの素晴らしい敬礼を受けた後、馬車はゆっくりと進みだした。
荷物はここまでなのか。
検閲かなにかあるのかもしれないな。
どこを見ても人人人。
俺達の街が本当に小さく見えてしまう。
一度来たことのあるエリザでさえ、目を真ん丸にして車窓から見える景色に目を奪われていた。
見たことのない品、見たことのない食べ物がいたるところにある。
これだけの大通りに面している店舗だ、かなりの値段なんだろうなぁ。
店だけでなく道行く人も様々だ。
冒険者、商人、兵士、あれは踊り子か何かか?
人種も様々、亜人もそこかしこにいるようだ。
人類の坩堝なんて言葉が昔あったがそれに近い光景だな。
「ね、すごいでしょ?」
「あぁ見事なものだ。」
「驚くのはまだ早いぞ、ここから見える景色など王都の1割にも満たん。まだまだ素晴らしいところがたくさんあるぞ。まぁ、正直裏通りなどは私も知らない世界だが。」
「やばい物とか山ほどあるんだろうなぁ。」
「ご禁制の物は厳しく規制されているが、全くないとは言えんだろう。行かないことをお勧めする。」
全てを規制するのは不可能だ。
この前の薬草の様に、形を変えて様々なものが流通している事だろう。
正直裏通りにも興味はあるが、別に行かなくても死にはしない。
人をかき分けながら馬車は進み、景色が変わったところでぐんと速度が上がった。
見た感じ高そうな屋敷ばかり。
一般エリアを抜け貴族の居住地を通過しているようだ。
「ここを抜ければ王城だ。そろそろ覚悟は出来たか?」
「あぁ、もう諦めた。」
「いい心がけだ。」
今更じたばたしたってどうしようもないのは最初からわかっている。
でも文句を言いたいじゃないか。
女達もそれをわかっているので文句は言わないが、いい加減聞き飽きたって感じだろうな。
さっきまで遠くにあった王城は今や目の前。
いよいよその時が来てしまったか。
「む、止めてもらえるか。」
「どうしたディーネ。」
「どうやら歓迎してもらえるようじゃ。」
「歓迎?」
「ひ、人が!何かにつかまって下さい!」
突然運転手の慌てた声が聞こえてきた。
俺はあわてて横にいるハーシェさんの体を抱き、エリザは横の取っ手を掴んだ。
その直後に前方へと吹き飛ばされるようなGを感じる。
幸いにも前に誰も座っていなかったので、場所を代わるように向かいの席に飛ばされハーシェさんが俺の膝に乗るような形で着地した。
「エリザ、ミラ無事か!」
「私は大丈夫、ミラは?」
「頭を少しぶつけましたが大丈夫です。いったい何が。」
「わからん。」
どうやらリングさんも無事なようだ。
状況を掴めない俺達だったが、何事もなかったかのように停車した馬車からディーネが外に出る。
「おい、ディーネ。」
「シロウも来るがいい、向こうも挨拶がしたいようじゃ。」
「挨拶?」
「やぁ、やっぱり君だったんだねディネストリ。会うのは何年ぶりだろう。」
よく通る澄んだ声が耳に届く。
まるで声を聴くだけで心が落ち着く、そんな穏やかな声だ。
ハーシェさんを膝から降ろしリングさんと共に馬車を降りる。
後ろを振り返るとアニエスさんも同じように馬車から降りていた。
「直接会うのは300年ぶり、いやもっとか。相変わらずなよなよしい姿じゃなぁ。」
「君だっていつものようなあの力強い姿じゃないんだね、でもその姿も僕は好きだよ。」
「ふん、口だけは達者のようじゃ。」
「本当の事なんだけどなぁ。」
鮮やかな青色、まるで夏の空のような髪色をした男がニコニコと微笑み坂の上に立っていた。
少し離れているのでその目を見ることはできないが、なんとなくその瞳も青いんだろうと思ってしまう。
「ガルグリンダム様!」
「お、リング君じゃないか。そういえば君が迎えに行くっていう話だったね、なるほどその横にいる彼がそうなのか。」
まるで心臓を小さい針で刺されるような痛みを感じる。
なんだこれは。
「いい男じゃろう?今の私は彼の物じゃからな。」
「おい。」
「おや、人間嫌いの君がかい?雨でも降るのかな、それとも嵐だろうか。」
「ふふ、嫉妬とはお主にしては珍しい。」
突然さっきまで真っ青だった空に暗雲が立ち込め始めた。
見る見るうちに暗くなり、今にも雷が鳴りそうな暗さだ。
話の流れから察するに目の前の彼が引き起こしているんだろう。
天候を操れるとかやばすぎだろ。
「そういう誤解を抱く言い方はやめた方がよくないか?」
「私では不満か?」
「不満とかそういうのじゃない、俺は地上を案内するために呼ばれただけだろ?」
「それが不満かと聞いておるのだ。まったく、私にこれほど好意を向けられて、こ奴ならすぐに尻尾を振っておるぞ。」
「あはは、違いない。」
表情は崩さず、ずっと笑い続ける男。
名前から察するにこの人が噂の古龍なんだろう。
王都を、王家を庇護する存在。
元嫁がいきなり男を連れてきたらそりゃこんな風になるよな。
そもそも、わかれたかどうかすら聞いてないし。
え、もしかしてこれ浮気なのか?
いやいや、勘弁してくれ。
「何を誤解しているかはわからないが、ディーネとはまだ特別な関係じゃない。」
「それはそれは、どうやら僕の早とちりだったようだ。無礼を許してほしい。」
「まだという事はこの先があるという事じゃな、期待しておるぞシロウ。」
「だから、そういう誤解を抱くような発言はやめろ。」
「私が誰か理解していながらその反応、エドワードから面白い人が来ると聞いていたけど間違いないみたいだね。ようこそ王都へ、歓迎するよ。」
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