上 下
629 / 1,027

627.転売屋は作戦を立てる

しおりを挟む
魔物の襲撃があり予定より時間がかかってしまったため日が暮れてから別荘に到着したのだが、遅い時間にもかかわらず夫人と息子がわざわざ出迎えて挨拶してくれた。

うぅむ、もったいないぐらいの美人だ。

息子も母親に似てなかなかに良い顔をしている。

そりゃあ血眼になってクリムゾンティアを探すわけだな。

ていうか王族って美人多すぎない?

マリーさんは自分の望んだ姿だけど、オリンピア様もなかなかに綺麗だった。

となると母親もまた美人なのかもしれない。

ちなみに到着した別荘は、別荘という名の豪邸だった。

聞けば個人のではなく、王族のみが使用できる場所らしい。

しかも維持する為に使わない時もかなりの人数が常駐しているというから恐れ入る。

いつ使われるかもわからない家を維持するために毎日掃除をしているのだとか。

大変だよなぁ。

家に続きこれまた質素という名の豪華な食事をいただき、各自に用意された部屋へと戻る。

船のベッドも中々に広かったが、少し硬めだった為に少し寝心地が悪かった。

その点ここのベッドはどれもフカフカ。

シーツは清潔で汚れ一つない。

長旅の疲れをいやすべく、早々にシャワーを浴びて俺はベッドの上でくつろいでいた。

一人で寝るのも久々かもしれない。

たまにはこんな日があってもいいだろう。

さすがにミラもアニエスさんもここでは自重するようだ。

と思っていたらコンコンとノックの音が聞こえてくる。

「シロウ様まだ起きておいでですか?」

「お、ミラか。入っていいぞ。」

「失礼します。」

すぐに扉が開き、ミラが部屋に滑り込んでくる。

向こうもシャワーを浴びた後なのか髪の毛をアップにしているのが少し新鮮だ。

「どうした?」

「少し聞いておきたいことがありまして。」

「食事会でのことか?」

「はい。」

「俺相手に取引を持ちかけようとしている貴族が複数人いるらしいが、どう思う?」

「正直に申しまして我々の為にわざわざ儲け話を持ってくるとは思えません。悪意があると考えるべきです。」

「まぁそうだよなぁ。」

「その複数人がグルという可能性もあります、そういうお話が出た場合は出来るだけ時間を伸ばしていただけますでしょうか。本当はお断りしたいところですが、シロウ様はお受けになるのですよね?」

食事会でのことだ。

奥様から大陸の名産などを聞いていた時に、複数の貴族が俺へのアポを取れないかとの打診があったことを教えてくれた。

ひとまずその場は『聞いてみる』とだけ言ってお茶を濁したらしいが、目的は十中八九金だろう。

俺がこっちで儲けを出そうと思っているように、向こうも俺で儲けようとしている。

珍しい品だからとか、絶対に高値で売れるからとか色々言ってくるに違いない。

どう考えてもヤバいだけに早々に断ってもかまわないのだが、イザベラが貴族の間に入って商売しているだけに無下に断るのは難しい。

受ければ地獄、引いても地獄。

なら迎え撃つのが一番だ。

幸いにも俺には相場スキルがあるわけで、下手に安い物とかをつかまされることはないはずだ。

むしろそれをエサに他の優良素材を引き出すという手もある。

食うか食われるか、相手が相手だけに無茶なことはできないが、今回は王族という強いバックがついているのでそれを有効に使わせてもらおう。

「イザベラの仕事を邪魔しない為にもある程度は受ける必要はあるだろう。とはいえ、みすみす損をするつもりはない。食いに来たのならば逆に食ってやるさ。」

「やはりそうなりますよね。」

「心配か?」

「相手が普通の商人であればまだしも、貴族が相手です。無礼だと言って切り掛かってくる可能性もあります。必ず商談には誰かを付けるようにお願いします。」

「もちろん、正々堂々大勢の前で受けるつもりでいる。それを拒むなら断るまでだ。」

「それならば結構です。それで、シロウ様はどうするおつもりですか?」

色々と考えてはいるのだが、できれば一番大きいのを釣り上げたい。

その為の餌はもう手元にあるしな。

「魔石を買い付ける。」

「え?」

「あぁ、もちろん魔石鉱山が国有なのは分かっている。しかし、それを管理しているのはまた別の話。国から委託されるような形で貴族が鉱山を運営しているのは調査済みだ。」

「貴族に委託を?」

「どういう行先かは知らないが、国への奉仕に対する報酬みたいなもんなんだろう。で、貴族は任された鉱山を運営して富を得て、一割ほどを報酬として自分の懐に入れているわけだ。もちろん本当に一割かどうかはしらんけどな。」

「貴族が管理しているとしてもシロウ様に売るでしょうか。」

「嫌でも売ることになる。」

「弱味でも?」

「いやいや、そんな危険な事はしないさ。」

そもそも誰が鉱山を運営しているかも知らないのに弱みなんて握りようがない。

っていうかそんなことしたらマジで命を狙われてしまうだろう。

態々王都に来てまでそんなやばい橋はわたりたくない。

「魔石を売るしかない、という事は何か損失が出るということでしょうか。」

「お、鋭いな。馬車の中でリングさんが魔力結晶について話したのを覚えているか?」

「確か産出量が減っていると・・・。なるほど、理解しました。」

「ローランド様があの手紙に何を書いたかは知らないが、魔力結晶関係であることは間違いないだろう。確か動力としては魔力結晶の方が魔石よりも上なんだよな?」

「はい。特に純度の高い物は結界維持などの国防に関する物にも使われているそうです。」

「しかしながら産出量が少ないから仕方なく魔石で代用しているのが、現状というわけだ。」

「もし結晶が市場に流れれば、魔石の消費は一気に減りますね。」

「減ればもちろん値崩れする。だが、いきなり供給を減らすことはできないだろうからあっという間に魔石の在庫が積みあがっていく。保管するにも金はかかるわけだし、それならば安値でも売ってしまいたいと思うのが普通だ。」

もちろんこれは絵に描いた餅。

この通りになるとはもちろん思っていないが、流れとしてはあり得る話だ。

絡んできた貴族とある程度商談しながら情報を収集、魔石を欲しがっているという情報を向こうに流し管理している貴族を引っ張り出せれば作戦成功。

引っかからなければ持ち込んだ素材を売って終わればいい。

ようは損をしなければいいだけの事、相場スキルさえあればそれを防げるわけだから常に俺が優位に立つのは間違いない。

「ですが向こうも無理を言ってきますよね?」

「その時はディーネの力を借りればいい。王族を庇護している古龍の元嫁だぞ?全員の前で俺達の味方だと最初に誇示してしまえば無茶はいってこないはずだ。」

「そう上手くいくでしょうか。」

「それは始まってみないと何とも言えないだろうな。ま、密談をせず正々堂々商談をすればいいだけの事。なんならアニエスさんに同席してもらえばいい。なんせ監査官様だからな。」

「そう言えばそうでした。」

彼女の前では悪い事は言えない筈、もちろん俺もそうだがそもそもそういう事をするつもりがない。

「安心したか?」

「はい。」

「気をつけるのは百も承知、向こうについたらすぐに情報収集だ。あぁ、王都の美味い店珍しい店もよろしくな。」

「ふふ、お任せください。」

一番の目的は王都観光。

国王陛下からの呼び出しなんてのはおまけみたいなものだ。

美味い店に面白い店、こっちにきても狭い世界しか知らなかった俺が出会う本当の意味での異世界を楽しむためにこんな遠い所まで来たんだ。

下準備はバッチリとしておかないとな。

「とりあえず食い物関係はエリザとディーネの為に必須、アネットの土産に珍しい薬草なんかも見ておきたい。それと調合器具だな。後は街への土産か。」

「王都に到着しましたら取引所の方はお任せください、ハーシェ様と二人で確認しておきます。」

「持って来た品は適当に売り捌いて構わないからな。イザベラの分は別として貴族に売ってやる義理はない。」

「出来れば二倍以上の品を探しておきます。」

「移動には常に護衛をつけるのも忘れずにな。」

「それはシロウ様もですよ。」

「アニエスさんの舞い上がり方から察するに俺は当分王宮にカンヅメだろう。その後は嫌でも護衛がつくさ。」

なにせマリーさんを妊娠させたわけだからなぁ。

王家から出されたとはいえそれは表向きの話。

血のつながりは今もしっかりと残っている。

王家に新しい血筋が生まれるとなれば大騒ぎになるのも致し方ない。

はぁ、例の薬草の件もあるし国王陛下に謁見するのがマジで気が重い。

出来れば会いたくない。

「シロウ様、お顔色が優れませんが。」

「大丈夫だ、ちょっと心の準備をしていただけだから。」

「明日はいよいよ王都です、今日はゆっくりとお休みください。私も失礼致します。」

「おぅ、また明日な。」

頬にキスをしてからミラは部屋を後にした。

案ずるより産むがやすし、か。

まぁなるようになるさ。

そう自分に言い聞かせて、いつもよりも早くベッドにもぐりこむのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...