563 / 1,027
561.転売屋はサングラスを売り込む
しおりを挟む
「想像以上の反響だな。」
「うれしいといえば嬉しいんですけど、おかげでこっちは寝不足っす。」
「製作した80組は即時完売。特に輸送ギルドの運転手からは絶大な支持を得られたとのことです。追加納品についての問合せも多く、仮注文は300を超えたところで一度停止しました。」
「300?どう考えてもここの業者よりも多いよな。」
「国内のギルド関係者は1000人を越えていますし、その七割が現場で動いている事を考えるとまだまだ需要はありそうです。」
様子見で作った調光レンズだったが、思った以上の反響があった。
前回のサングラスで名前が知れていたこともあったが、やはり便利さが勝っているんだろう。
銀貨8枚なんて強気な設定で販売したのに完売だもんなぁ。
こりゃ10枚でも売れそうだ。
「仮注文をさばくのに二ヶ月はかかるっす。正直やばいっす。」
「それは体力的な意味でか?それとも反響か?」
「もちろんどっちもっすよ!あの値段でこんなに売れるとか、最初は冗談言われたかとおもったっす。」
「見せた瞬間に全部くれ、だったそうだな。」
「そうっす。金貨4枚即決っすよ?」
「それだけの品を作ったって事だ、自信をもっていいんじゃないか?」
「でも考えたのはシロウさんっす。」
企画は俺だがそれを形にしたのは間違いなくアーロイだ。
今回の新作もスポーツサングラスのようなデザインで中々にカッコイイ。
どうやってレンズをはめ込んでいるかは不明だが視界を遮らないデザインがかなり好評のようだ。
勿論俺も使っている。
農作業や散歩する時にゴミが入らないので便利なんだよな。
「ま、これは自分の中で消化してもらうとして・・・、材料費が銀貨3枚、アーロイの手間賃が銀貨2枚。まぁ、儲けとしては上々だな。」
「俺の手間賃高すぎません?もっと減らしていいっすよ?」
「バカ言え、作れるのはお前だけなんだから遠慮なく受け取れ。」
「良い仕事には良い報酬をがシロウ様の口癖ですから。」
「いいんですかねぇ・・・。」
「なんなら小屋の賃料値上げしてやろうか?」
賃料は確か銀貨50枚。
この収入なら倍に増やしても問題無さそうだが?
「勘弁してくださいっす!」
「冗談だよ。で、月産はどのくらいいける?」
「今回かなり無理したんで、普通にやって100・・・いえ150っすね。」
「他のサングラスも普通に注文あるしな、100で良いだろう。外注の返事はどうだった?」
「レンズの加工は他の職人が手伝ってくれそうっす。皮膜はまぁそんなに難しくないんで時間があるときにちゃちゃっとやる事にしました。」
「外注費が思ったよりも安いので先ほどの材料費はもう少し減額できますが、そのままで宜しいですね。」
「あぁ。その代わり次に売る時は銀貨10枚でいくぞ、それでも売れる。」
「えぇ!まじっすか!?」
信じられないという顔をするアーロイ。
いやいやもっと自信持てよ、考えもせず即決する値段だぞ?
つまりは安いって事だ。
良いものが安いのは消費者としてはありがたいが、製作者からしてみれば勿体無い。
高すぎるのは論外だが、多少悩むぐらいの値段の方が有りがたみもあるというもの。
それに多少高めに設定しておけば大量購入してくれたので安くしますとか言っても損は出ないからな。
銀貨10枚で売れば俺の儲けは銀貨5枚。
これでも安いと俺は思っている。
「わざわざ安売りしてやる必要はない、売れる時に売らず何時売るんだ?」
「いや、そうなんですけど・・・。」
「この前アイン様にお渡ししましたがガレイ様も大変お喜びとのことでした。これなら国中の船乗りが喜んで買うとのことです。」
「ならそっちは任せるか。銀貨8枚で卸して売値は任せよう。」
「お優しいんですね。」
「大事な金づるだからな、顔を覚えてもらうのにちょうどいい。」
元船乗りだし顔なじみぐらいいるだろうが、商売柄大勢に顔を覚えてもらう必要がある。
そのエサとしては最高の品に違いない。
「相変らずやる事が大きいっすねぇ、尊敬するっす。」
「尊敬するならマートンさんみたいな人にしとけよ。」
「親方は尊敬し続けるっす。でもそれと同じぐらいシロウさんは尊敬してるっす。」
「そりゃどうも。」
「ふふ、シロウ様が照れています。」
「茶化すなよ。」
「職人として常に新しい物を考案できるのは十分に尊敬に値するっす。俺も負けずに頑張らないと。」
「ま、当分はこのサングラスに忙殺されるだろうから余計な事考えている暇はないだろうけどな。」
俺を尊敬してくれるって?
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったので、どういう返答をすればいいのか迷ってしまった。
嬉しいのは嬉しいが、やはり尊敬に値するって言うのはマートンさんみたいな人にした方がいいだろうな。
俺みたいな金のことしか考えていない商売人は、止めた方が言いと思うぞ。
「あはは、頑張るっす。」
「ひとまず追加注文が終わる頃に連絡をくれ、材料に関しては随時発注していくが構わないな?」
「そうしていただけると助かるっす。」
「では100セット揃うたびに納品させていただきます。代金は追加分の納品まではこちらで立て替えて起きますので次回からは随時お支払いをお願いします。」
「了解っす!」
「無理はするな、代わりはいないんだサボれる時にしっかりサボれわかったな?」
お前の代わりはいくらでもいるなんてのは元の世界での話。
この世界ではその人にしかできない仕事が山のようにある。
代替が利かないからこそ、無理をされてつぶれてもらっては困る。
何事も程々が一番だ。
「さて、どうしたもんか。」
アーロイとの打ち合わせを終え、店に帰りがてら俺は腕を組み思わず唸ってしまった。
「今の注文を捌き終えるのに三ヶ月、出来れば勢いのあるうちに売ってしまいたいのですが厳しいでしょう。」
「需要の多い夏までに量産できればと思ったんだが難しそうだ。慣れてきたら150はいけると思うが、それ以上はどう考えても無理だろう。せめてあと一人似たような仕事の出来る職人がいればいいんだがなぁ。」
「ルティエ様に相談してみますか?」
「いや、職人には職人のプライドがある。自分で動くまでは様子見にしよう。」
一人でやるから大変なだけでルティエのように分業制にすれば数が作れる。
だがそれは諸刃の剣。
常に新しい物を考え、作り続ける職人にとって同じ作業をし続けるのは腕を鈍らせるのと同じ事。
だからルティエ達には自分の好きなこともするようにと会う度に言い続けている。
気晴らしに別の作品を作らせているのもそのためだ。
絵描きが息抜きに絵を描くようなものだな。
「わかりました。」
「材料の発注は今の製作数に応じて無駄が無いように頼む、今の感じだと常時依頼するよりも単発で数を稼いだ方がいいかもしれん。」
「ご心配には及びません、前回の依頼よりそのように変更してあります。」
「さすが、できる女は違うな。」
「お褒めに預かり光栄です。でも、もっと褒めて良いんですよ、できればベッドの中で。」
「・・・善処しよう。」
「ちなみに今日の夕食はワイバーン肉のステーキです。ハワード様にお願いしておきました。」
おかしい、昨日もステーキだったはず。
色々と作りたいハワードがそれを許すなんてどんな圧力がかけられたんだろうか。
せめてもの救いは肉の種類が違うことか・・・。
「あ、シロウにミラじゃない。」
「エリザ様お帰りなさいませ。」
「今日はもう上がりなのか?」
「みんな気を使って早く上がれってうるさいのよ。」
「よかったじゃないか。」
「いいのか悪いのか、早く剣を振りたくてウズウズするわ。」
何もない空間を同じくあるはずの無い剣が切り裂いていく。
まるでニコチンの切れた喫煙者のようにエリザは素振りを続けた。
「人様の迷惑になるから通りで素振りは止めろ。」
「は~い。二人ももう終わり?」
「あぁ、戻ってこまごまとした書類整理ぐらいだな。」
「手伝おっか?」
「いえ、エリザ様の手を煩わせるほどではありません。」
かぶせるようにしてミラが返事をしていく。
まったく、こんな所でも対抗心をあらわにしなくていいじゃないか。
「露骨に対抗心を燃やすな、授かり物だって話になっただろ。」
「申し訳ありません。」
「ミラの気持ちはわかるわ、逆の立場だったら私も同じ事していたもの。」
「・・・はい。」
「だからしっかり頑張ってよね、それこそ毎日孕ませる感じで宜しく!」
「外で話すような内容じゃねぇな。」
「あはは、しっつれ~い。」
絶対そんな風に思ってないだろう。
エリザに子供が出来たという知らせは女達に衝撃を与えた。
そして次の日には新たな順番表が組まれ、露骨に行為の熱量があがったのがわかる。
俺も若いので大歓迎ではあるのだが、子作りがメインになるのはいただけない。
その辺も女達には伝えたうえで、こうなっているのはまぁ致し方ないのだろう。
「今日はワイバーン肉のステーキだそうだ。」
「やった、お肉!」
「前みたいに動かないんだ、食いすぎると一気に太るぞ。」
「心配いらないわ、適度には運動するつもりだから。」
「適度ってのはどのぐらいだ?」
「シロウが悲鳴を上げるくらいかしら。」
「頼むから程ほどで頼む。」
「わかってるわよ、これでもいつもの半分にセーブしてるから。」
さすが肉体が資本の冒険者。
日ごろの鍛錬量がやばすぎる。
いや、エリザだけか。
「そうそう、新作サングラスだけど冒険者の中にも結構ほしいって声が多いの。アレっていつ頃になりそう?」
「かなりの数か?」
「護衛系の依頼についている冒険者からは注文が貰えそうだから、少なく見積もって100多くて150かしら。」
「結構いるなぁ。」
「予備も含めてだから実際はもう少し少なくても大丈夫だとは思うけど。」
そうか、予備という物を考えていなかった。
壊れたら買い換える、でも再び手に入れるのに時間がかかるならあるときに買っておこうというワケか。
そういう需要も考えると予定よりも上の注文数が着そうだな。
「いや、買ってくれるなら売るだけだ。しかし100かぁ、こりゃ1000行くかな。」
「可能性はありますね。」
「とりあえず追加注文分を作ってもらいつつ、ガレイさん用のサンプルを回して貰って売り込んでもらうかぁ。銀貨12枚でもいけるかもな。」
「私は15でも可能かと。」
「マジか?」
「必要だと思っていただけるのであれば多少高額でも売れると思います。消耗品と違って破損さえしなければ長持ちしますし、修理や紛失の特約を付けても面白いかもしれません。」
「一年以内になくしたら半額、面白いな。」
「高いのには理由がある、そう思わせれば売れます。」
確かにそれは売れるかもしれない。
ただ高いだけじゃなく高いのに理由がある。
勿論ロスやリスクもあるが全員がなくすわけではないだろうし、今のほぼ倍の値段設定だ。
トータルで考えればかなりの儲けになるだろう。
「ミラがシロウみたいになってる。」
「当然だ、一番近くで仕事してるんだから。」
「まだまだ足元にも及びません、精進いたします。」
「私も算術習おうかしら。」
「教えますよ?」
「折角時間もあるし、宜しくお願いします。」
新しいことに打ち込むのはいい事だ。
エリザも計算関係ができるようになると、俺達も色々と助かる。
二人並んで話しこむ二人を後ろから見つめながら、のんびりと家路を進むのだった。
「うれしいといえば嬉しいんですけど、おかげでこっちは寝不足っす。」
「製作した80組は即時完売。特に輸送ギルドの運転手からは絶大な支持を得られたとのことです。追加納品についての問合せも多く、仮注文は300を超えたところで一度停止しました。」
「300?どう考えてもここの業者よりも多いよな。」
「国内のギルド関係者は1000人を越えていますし、その七割が現場で動いている事を考えるとまだまだ需要はありそうです。」
様子見で作った調光レンズだったが、思った以上の反響があった。
前回のサングラスで名前が知れていたこともあったが、やはり便利さが勝っているんだろう。
銀貨8枚なんて強気な設定で販売したのに完売だもんなぁ。
こりゃ10枚でも売れそうだ。
「仮注文をさばくのに二ヶ月はかかるっす。正直やばいっす。」
「それは体力的な意味でか?それとも反響か?」
「もちろんどっちもっすよ!あの値段でこんなに売れるとか、最初は冗談言われたかとおもったっす。」
「見せた瞬間に全部くれ、だったそうだな。」
「そうっす。金貨4枚即決っすよ?」
「それだけの品を作ったって事だ、自信をもっていいんじゃないか?」
「でも考えたのはシロウさんっす。」
企画は俺だがそれを形にしたのは間違いなくアーロイだ。
今回の新作もスポーツサングラスのようなデザインで中々にカッコイイ。
どうやってレンズをはめ込んでいるかは不明だが視界を遮らないデザインがかなり好評のようだ。
勿論俺も使っている。
農作業や散歩する時にゴミが入らないので便利なんだよな。
「ま、これは自分の中で消化してもらうとして・・・、材料費が銀貨3枚、アーロイの手間賃が銀貨2枚。まぁ、儲けとしては上々だな。」
「俺の手間賃高すぎません?もっと減らしていいっすよ?」
「バカ言え、作れるのはお前だけなんだから遠慮なく受け取れ。」
「良い仕事には良い報酬をがシロウ様の口癖ですから。」
「いいんですかねぇ・・・。」
「なんなら小屋の賃料値上げしてやろうか?」
賃料は確か銀貨50枚。
この収入なら倍に増やしても問題無さそうだが?
「勘弁してくださいっす!」
「冗談だよ。で、月産はどのくらいいける?」
「今回かなり無理したんで、普通にやって100・・・いえ150っすね。」
「他のサングラスも普通に注文あるしな、100で良いだろう。外注の返事はどうだった?」
「レンズの加工は他の職人が手伝ってくれそうっす。皮膜はまぁそんなに難しくないんで時間があるときにちゃちゃっとやる事にしました。」
「外注費が思ったよりも安いので先ほどの材料費はもう少し減額できますが、そのままで宜しいですね。」
「あぁ。その代わり次に売る時は銀貨10枚でいくぞ、それでも売れる。」
「えぇ!まじっすか!?」
信じられないという顔をするアーロイ。
いやいやもっと自信持てよ、考えもせず即決する値段だぞ?
つまりは安いって事だ。
良いものが安いのは消費者としてはありがたいが、製作者からしてみれば勿体無い。
高すぎるのは論外だが、多少悩むぐらいの値段の方が有りがたみもあるというもの。
それに多少高めに設定しておけば大量購入してくれたので安くしますとか言っても損は出ないからな。
銀貨10枚で売れば俺の儲けは銀貨5枚。
これでも安いと俺は思っている。
「わざわざ安売りしてやる必要はない、売れる時に売らず何時売るんだ?」
「いや、そうなんですけど・・・。」
「この前アイン様にお渡ししましたがガレイ様も大変お喜びとのことでした。これなら国中の船乗りが喜んで買うとのことです。」
「ならそっちは任せるか。銀貨8枚で卸して売値は任せよう。」
「お優しいんですね。」
「大事な金づるだからな、顔を覚えてもらうのにちょうどいい。」
元船乗りだし顔なじみぐらいいるだろうが、商売柄大勢に顔を覚えてもらう必要がある。
そのエサとしては最高の品に違いない。
「相変らずやる事が大きいっすねぇ、尊敬するっす。」
「尊敬するならマートンさんみたいな人にしとけよ。」
「親方は尊敬し続けるっす。でもそれと同じぐらいシロウさんは尊敬してるっす。」
「そりゃどうも。」
「ふふ、シロウ様が照れています。」
「茶化すなよ。」
「職人として常に新しい物を考案できるのは十分に尊敬に値するっす。俺も負けずに頑張らないと。」
「ま、当分はこのサングラスに忙殺されるだろうから余計な事考えている暇はないだろうけどな。」
俺を尊敬してくれるって?
まさかそんな事を言われるとは思っていなかったので、どういう返答をすればいいのか迷ってしまった。
嬉しいのは嬉しいが、やはり尊敬に値するって言うのはマートンさんみたいな人にした方がいいだろうな。
俺みたいな金のことしか考えていない商売人は、止めた方が言いと思うぞ。
「あはは、頑張るっす。」
「ひとまず追加注文が終わる頃に連絡をくれ、材料に関しては随時発注していくが構わないな?」
「そうしていただけると助かるっす。」
「では100セット揃うたびに納品させていただきます。代金は追加分の納品まではこちらで立て替えて起きますので次回からは随時お支払いをお願いします。」
「了解っす!」
「無理はするな、代わりはいないんだサボれる時にしっかりサボれわかったな?」
お前の代わりはいくらでもいるなんてのは元の世界での話。
この世界ではその人にしかできない仕事が山のようにある。
代替が利かないからこそ、無理をされてつぶれてもらっては困る。
何事も程々が一番だ。
「さて、どうしたもんか。」
アーロイとの打ち合わせを終え、店に帰りがてら俺は腕を組み思わず唸ってしまった。
「今の注文を捌き終えるのに三ヶ月、出来れば勢いのあるうちに売ってしまいたいのですが厳しいでしょう。」
「需要の多い夏までに量産できればと思ったんだが難しそうだ。慣れてきたら150はいけると思うが、それ以上はどう考えても無理だろう。せめてあと一人似たような仕事の出来る職人がいればいいんだがなぁ。」
「ルティエ様に相談してみますか?」
「いや、職人には職人のプライドがある。自分で動くまでは様子見にしよう。」
一人でやるから大変なだけでルティエのように分業制にすれば数が作れる。
だがそれは諸刃の剣。
常に新しい物を考え、作り続ける職人にとって同じ作業をし続けるのは腕を鈍らせるのと同じ事。
だからルティエ達には自分の好きなこともするようにと会う度に言い続けている。
気晴らしに別の作品を作らせているのもそのためだ。
絵描きが息抜きに絵を描くようなものだな。
「わかりました。」
「材料の発注は今の製作数に応じて無駄が無いように頼む、今の感じだと常時依頼するよりも単発で数を稼いだ方がいいかもしれん。」
「ご心配には及びません、前回の依頼よりそのように変更してあります。」
「さすが、できる女は違うな。」
「お褒めに預かり光栄です。でも、もっと褒めて良いんですよ、できればベッドの中で。」
「・・・善処しよう。」
「ちなみに今日の夕食はワイバーン肉のステーキです。ハワード様にお願いしておきました。」
おかしい、昨日もステーキだったはず。
色々と作りたいハワードがそれを許すなんてどんな圧力がかけられたんだろうか。
せめてもの救いは肉の種類が違うことか・・・。
「あ、シロウにミラじゃない。」
「エリザ様お帰りなさいませ。」
「今日はもう上がりなのか?」
「みんな気を使って早く上がれってうるさいのよ。」
「よかったじゃないか。」
「いいのか悪いのか、早く剣を振りたくてウズウズするわ。」
何もない空間を同じくあるはずの無い剣が切り裂いていく。
まるでニコチンの切れた喫煙者のようにエリザは素振りを続けた。
「人様の迷惑になるから通りで素振りは止めろ。」
「は~い。二人ももう終わり?」
「あぁ、戻ってこまごまとした書類整理ぐらいだな。」
「手伝おっか?」
「いえ、エリザ様の手を煩わせるほどではありません。」
かぶせるようにしてミラが返事をしていく。
まったく、こんな所でも対抗心をあらわにしなくていいじゃないか。
「露骨に対抗心を燃やすな、授かり物だって話になっただろ。」
「申し訳ありません。」
「ミラの気持ちはわかるわ、逆の立場だったら私も同じ事していたもの。」
「・・・はい。」
「だからしっかり頑張ってよね、それこそ毎日孕ませる感じで宜しく!」
「外で話すような内容じゃねぇな。」
「あはは、しっつれ~い。」
絶対そんな風に思ってないだろう。
エリザに子供が出来たという知らせは女達に衝撃を与えた。
そして次の日には新たな順番表が組まれ、露骨に行為の熱量があがったのがわかる。
俺も若いので大歓迎ではあるのだが、子作りがメインになるのはいただけない。
その辺も女達には伝えたうえで、こうなっているのはまぁ致し方ないのだろう。
「今日はワイバーン肉のステーキだそうだ。」
「やった、お肉!」
「前みたいに動かないんだ、食いすぎると一気に太るぞ。」
「心配いらないわ、適度には運動するつもりだから。」
「適度ってのはどのぐらいだ?」
「シロウが悲鳴を上げるくらいかしら。」
「頼むから程ほどで頼む。」
「わかってるわよ、これでもいつもの半分にセーブしてるから。」
さすが肉体が資本の冒険者。
日ごろの鍛錬量がやばすぎる。
いや、エリザだけか。
「そうそう、新作サングラスだけど冒険者の中にも結構ほしいって声が多いの。アレっていつ頃になりそう?」
「かなりの数か?」
「護衛系の依頼についている冒険者からは注文が貰えそうだから、少なく見積もって100多くて150かしら。」
「結構いるなぁ。」
「予備も含めてだから実際はもう少し少なくても大丈夫だとは思うけど。」
そうか、予備という物を考えていなかった。
壊れたら買い換える、でも再び手に入れるのに時間がかかるならあるときに買っておこうというワケか。
そういう需要も考えると予定よりも上の注文数が着そうだな。
「いや、買ってくれるなら売るだけだ。しかし100かぁ、こりゃ1000行くかな。」
「可能性はありますね。」
「とりあえず追加注文分を作ってもらいつつ、ガレイさん用のサンプルを回して貰って売り込んでもらうかぁ。銀貨12枚でもいけるかもな。」
「私は15でも可能かと。」
「マジか?」
「必要だと思っていただけるのであれば多少高額でも売れると思います。消耗品と違って破損さえしなければ長持ちしますし、修理や紛失の特約を付けても面白いかもしれません。」
「一年以内になくしたら半額、面白いな。」
「高いのには理由がある、そう思わせれば売れます。」
確かにそれは売れるかもしれない。
ただ高いだけじゃなく高いのに理由がある。
勿論ロスやリスクもあるが全員がなくすわけではないだろうし、今のほぼ倍の値段設定だ。
トータルで考えればかなりの儲けになるだろう。
「ミラがシロウみたいになってる。」
「当然だ、一番近くで仕事してるんだから。」
「まだまだ足元にも及びません、精進いたします。」
「私も算術習おうかしら。」
「教えますよ?」
「折角時間もあるし、宜しくお願いします。」
新しいことに打ち込むのはいい事だ。
エリザも計算関係ができるようになると、俺達も色々と助かる。
二人並んで話しこむ二人を後ろから見つめながら、のんびりと家路を進むのだった。
12
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる