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561.転売屋はサングラスを売り込む

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「想像以上の反響だな。」

「うれしいといえば嬉しいんですけど、おかげでこっちは寝不足っす。」

「製作した80組は即時完売。特に輸送ギルドの運転手からは絶大な支持を得られたとのことです。追加納品についての問合せも多く、仮注文は300を超えたところで一度停止しました。」

「300?どう考えてもここの業者よりも多いよな。」

「国内のギルド関係者は1000人を越えていますし、その七割が現場で動いている事を考えるとまだまだ需要はありそうです。」

様子見で作った調光レンズだったが、思った以上の反響があった。

前回のサングラスで名前が知れていたこともあったが、やはり便利さが勝っているんだろう。

銀貨8枚なんて強気な設定で販売したのに完売だもんなぁ。

こりゃ10枚でも売れそうだ。

「仮注文をさばくのに二ヶ月はかかるっす。正直やばいっす。」

「それは体力的な意味でか?それとも反響か?」

「もちろんどっちもっすよ!あの値段でこんなに売れるとか、最初は冗談言われたかとおもったっす。」

「見せた瞬間に全部くれ、だったそうだな。」

「そうっす。金貨4枚即決っすよ?」

「それだけの品を作ったって事だ、自信をもっていいんじゃないか?」

「でも考えたのはシロウさんっす。」

企画は俺だがそれを形にしたのは間違いなくアーロイだ。

今回の新作もスポーツサングラスのようなデザインで中々にカッコイイ。

どうやってレンズをはめ込んでいるかは不明だが視界を遮らないデザインがかなり好評のようだ。

勿論俺も使っている。

農作業や散歩する時にゴミが入らないので便利なんだよな。

「ま、これは自分の中で消化してもらうとして・・・、材料費が銀貨3枚、アーロイの手間賃が銀貨2枚。まぁ、儲けとしては上々だな。」

「俺の手間賃高すぎません?もっと減らしていいっすよ?」

「バカ言え、作れるのはお前だけなんだから遠慮なく受け取れ。」

「良い仕事には良い報酬をがシロウ様の口癖ですから。」

「いいんですかねぇ・・・。」

「なんなら小屋の賃料値上げしてやろうか?」

賃料は確か銀貨50枚。

この収入なら倍に増やしても問題無さそうだが?

「勘弁してくださいっす!」

「冗談だよ。で、月産はどのくらいいける?」

「今回かなり無理したんで、普通にやって100・・・いえ150っすね。」

「他のサングラスも普通に注文あるしな、100で良いだろう。外注の返事はどうだった?」

「レンズの加工は他の職人が手伝ってくれそうっす。皮膜はまぁそんなに難しくないんで時間があるときにちゃちゃっとやる事にしました。」

「外注費が思ったよりも安いので先ほどの材料費はもう少し減額できますが、そのままで宜しいですね。」

「あぁ。その代わり次に売る時は銀貨10枚でいくぞ、それでも売れる。」

「えぇ!まじっすか!?」

信じられないという顔をするアーロイ。

いやいやもっと自信持てよ、考えもせず即決する値段だぞ?

つまりは安いって事だ。

良いものが安いのは消費者としてはありがたいが、製作者からしてみれば勿体無い。

高すぎるのは論外だが、多少悩むぐらいの値段の方が有りがたみもあるというもの。

それに多少高めに設定しておけば大量購入してくれたので安くしますとか言っても損は出ないからな。

銀貨10枚で売れば俺の儲けは銀貨5枚。

これでも安いと俺は思っている。

「わざわざ安売りしてやる必要はない、売れる時に売らず何時売るんだ?」

「いや、そうなんですけど・・・。」

「この前アイン様にお渡ししましたがガレイ様も大変お喜びとのことでした。これなら国中の船乗りが喜んで買うとのことです。」

「ならそっちは任せるか。銀貨8枚で卸して売値は任せよう。」

「お優しいんですね。」

「大事な金づるだからな、顔を覚えてもらうのにちょうどいい。」

元船乗りだし顔なじみぐらいいるだろうが、商売柄大勢に顔を覚えてもらう必要がある。

そのエサとしては最高の品に違いない。

「相変らずやる事が大きいっすねぇ、尊敬するっす。」

「尊敬するならマートンさんみたいな人にしとけよ。」

「親方は尊敬し続けるっす。でもそれと同じぐらいシロウさんは尊敬してるっす。」

「そりゃどうも。」

「ふふ、シロウ様が照れています。」

「茶化すなよ。」

「職人として常に新しい物を考案できるのは十分に尊敬に値するっす。俺も負けずに頑張らないと。」

「ま、当分はこのサングラスに忙殺されるだろうから余計な事考えている暇はないだろうけどな。」

俺を尊敬してくれるって?

まさかそんな事を言われるとは思っていなかったので、どういう返答をすればいいのか迷ってしまった。

嬉しいのは嬉しいが、やはり尊敬に値するって言うのはマートンさんみたいな人にした方がいいだろうな。

俺みたいな金のことしか考えていない商売人は、止めた方が言いと思うぞ。

「あはは、頑張るっす。」

「ひとまず追加注文が終わる頃に連絡をくれ、材料に関しては随時発注していくが構わないな?」

「そうしていただけると助かるっす。」

「では100セット揃うたびに納品させていただきます。代金は追加分の納品まではこちらで立て替えて起きますので次回からは随時お支払いをお願いします。」

「了解っす!」

「無理はするな、代わりはいないんだサボれる時にしっかりサボれわかったな?」

お前の代わりはいくらでもいるなんてのは元の世界での話。

この世界ではその人にしかできない仕事が山のようにある。

代替が利かないからこそ、無理をされてつぶれてもらっては困る。

何事も程々が一番だ。

「さて、どうしたもんか。」

アーロイとの打ち合わせを終え、店に帰りがてら俺は腕を組み思わず唸ってしまった。

「今の注文を捌き終えるのに三ヶ月、出来れば勢いのあるうちに売ってしまいたいのですが厳しいでしょう。」

「需要の多い夏までに量産できればと思ったんだが難しそうだ。慣れてきたら150はいけると思うが、それ以上はどう考えても無理だろう。せめてあと一人似たような仕事の出来る職人がいればいいんだがなぁ。」

「ルティエ様に相談してみますか?」

「いや、職人には職人のプライドがある。自分で動くまでは様子見にしよう。」

一人でやるから大変なだけでルティエのように分業制にすれば数が作れる。

だがそれは諸刃の剣。

常に新しい物を考え、作り続ける職人にとって同じ作業をし続けるのは腕を鈍らせるのと同じ事。

だからルティエ達には自分の好きなこともするようにと会う度に言い続けている。

気晴らしに別の作品を作らせているのもそのためだ。

絵描きが息抜きに絵を描くようなものだな。

「わかりました。」

「材料の発注は今の製作数に応じて無駄が無いように頼む、今の感じだと常時依頼するよりも単発で数を稼いだ方がいいかもしれん。」

「ご心配には及びません、前回の依頼よりそのように変更してあります。」

「さすが、できる女は違うな。」

「お褒めに預かり光栄です。でも、もっと褒めて良いんですよ、できればベッドの中で。」

「・・・善処しよう。」

「ちなみに今日の夕食はワイバーン肉のステーキです。ハワード様にお願いしておきました。」

おかしい、昨日もステーキだったはず。

色々と作りたいハワードがそれを許すなんてどんな圧力がかけられたんだろうか。

せめてもの救いは肉の種類が違うことか・・・。

「あ、シロウにミラじゃない。」

「エリザ様お帰りなさいませ。」

「今日はもう上がりなのか?」

「みんな気を使って早く上がれってうるさいのよ。」

「よかったじゃないか。」

「いいのか悪いのか、早く剣を振りたくてウズウズするわ。」

何もない空間を同じくあるはずの無い剣が切り裂いていく。

まるでニコチンの切れた喫煙者のようにエリザは素振りを続けた。

「人様の迷惑になるから通りで素振りは止めろ。」

「は~い。二人ももう終わり?」

「あぁ、戻ってこまごまとした書類整理ぐらいだな。」

「手伝おっか?」

「いえ、エリザ様の手を煩わせるほどではありません。」

かぶせるようにしてミラが返事をしていく。

まったく、こんな所でも対抗心をあらわにしなくていいじゃないか。

「露骨に対抗心を燃やすな、授かり物だって話になっただろ。」

「申し訳ありません。」

「ミラの気持ちはわかるわ、逆の立場だったら私も同じ事していたもの。」

「・・・はい。」

「だからしっかり頑張ってよね、それこそ毎日孕ませる感じで宜しく!」

「外で話すような内容じゃねぇな。」

「あはは、しっつれ~い。」

絶対そんな風に思ってないだろう。

エリザに子供が出来たという知らせは女達に衝撃を与えた。

そして次の日には新たな順番表が組まれ、露骨に行為の熱量があがったのがわかる。

俺も若いので大歓迎ではあるのだが、子作りがメインになるのはいただけない。

その辺も女達には伝えたうえで、こうなっているのはまぁ致し方ないのだろう。

「今日はワイバーン肉のステーキだそうだ。」

「やった、お肉!」

「前みたいに動かないんだ、食いすぎると一気に太るぞ。」

「心配いらないわ、適度には運動するつもりだから。」

「適度ってのはどのぐらいだ?」

「シロウが悲鳴を上げるくらいかしら。」

「頼むから程ほどで頼む。」

「わかってるわよ、これでもいつもの半分にセーブしてるから。」

さすが肉体が資本の冒険者。

日ごろの鍛錬量がやばすぎる。

いや、エリザだけか。

「そうそう、新作サングラスだけど冒険者の中にも結構ほしいって声が多いの。アレっていつ頃になりそう?」

「かなりの数か?」

「護衛系の依頼についている冒険者からは注文が貰えそうだから、少なく見積もって100多くて150かしら。」

「結構いるなぁ。」

「予備も含めてだから実際はもう少し少なくても大丈夫だとは思うけど。」

そうか、予備という物を考えていなかった。

壊れたら買い換える、でも再び手に入れるのに時間がかかるならあるときに買っておこうというワケか。

そういう需要も考えると予定よりも上の注文数が着そうだな。

「いや、買ってくれるなら売るだけだ。しかし100かぁ、こりゃ1000行くかな。」

「可能性はありますね。」

「とりあえず追加注文分を作ってもらいつつ、ガレイさん用のサンプルを回して貰って売り込んでもらうかぁ。銀貨12枚でもいけるかもな。」

「私は15でも可能かと。」

「マジか?」

「必要だと思っていただけるのであれば多少高額でも売れると思います。消耗品と違って破損さえしなければ長持ちしますし、修理や紛失の特約を付けても面白いかもしれません。」

「一年以内になくしたら半額、面白いな。」

「高いのには理由がある、そう思わせれば売れます。」

確かにそれは売れるかもしれない。

ただ高いだけじゃなく高いのに理由がある。

勿論ロスやリスクもあるが全員がなくすわけではないだろうし、今のほぼ倍の値段設定だ。

トータルで考えればかなりの儲けになるだろう。

「ミラがシロウみたいになってる。」

「当然だ、一番近くで仕事してるんだから。」

「まだまだ足元にも及びません、精進いたします。」

「私も算術習おうかしら。」

「教えますよ?」

「折角時間もあるし、宜しくお願いします。」

新しいことに打ち込むのはいい事だ。

エリザも計算関係ができるようになると、俺達も色々と助かる。

二人並んで話しこむ二人を後ろから見つめながら、のんびりと家路を進むのだった。
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