転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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421.転売屋はお誘いを断る

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期待してというだけあって食事は大変美味しかった。

先程話に出た鳥料理をはじめ、魚や牛など物流の拠点ならではの食材の豊富さで俺の舌を堪能させてくれた。

場所が場所でなければ用意された酒にも手を出したんだが、酔っ払って面倒なことになってもこまるので、そこはしっかりとお断りした。

目の前には妖艶な格好をした女豹が一人。

舌なめずりをして俺をどう料理しようか悩んでいるご様子。

後ろのベッドに引きずりこまれないためにも油断は禁物だ。

「美味しい食事だった、自慢するだけの事はある。」

「満足してくれたようで嬉しいわ。でもデザートが残っているの、ちょっと待ってね。」

「まだあるのか。」

「えぇ、とっておきのがあるわよ。」

「自分ですなんてオチか?」

「そんな事をするのは小娘ぐらいなものよ。私ぐらいになるとそんな露骨なことはしないの。」

「その割に場所は露骨だけどな。」

後ろにはキングサイズはあろうかという巨大なベッドが鎮座している。

コレを露骨といわずなんというのか。

「お待たせしました。」

「ほら、来たわよ。」

先程から姿が見えなかった四人のお手伝いさんの一人が机の中央にトレイを乗せる。

その上にはおなじみの半円形の蓋が被されていて中身はまだ見えない。

「食べる前に一つ聞きたいんだけど。」

「なんだ?」

「私と手を組む気は無い?」

いよいよ本性を現したか。

手を組むとは中々にストレートな発言だが、メリットがまだわからないな。

「メリットデメリットもわからずに手を組む奴がどこにいる。」

「そういうの抜きにして私と手を組む気があるかを聞きたいの。」

「そういうことならノーだ。」

「どうして?」

「大切な奴隷や従業員を抱えていてね、彼らの生活を守るためにも好き勝手は出来ないんだ、昔と違ってな。」

「がんじがらめにされた人生で楽しい?他人に自分の生き方をコントロールされるなんて私には耐えられないわ。」

確かに女豹の性格を考えれば自分のしたいように出来ないのは大変なストレスだろう。

もちろんそれを受け入れなければならない役職にいるが、窮屈なのは変わりない。

だからこそこんな格好で気を休めているんだろうけども、俺は違う。

昔と違って守るべき人間が増えてしまった。

彼女達を不幸にしないためにも俺は望んで今のやり方を選んだんだ。

「悪いが今の俺は情報もなしに手を組むことは出来ない。が、金になり、安全が保障されているのであればやぶさかでもない。どちらにせよモノを見てからになるだろう。」

「やっぱりそうよね。」

「不満か?」

「いいえ、そんなこと無いわ。だって可能性が残っているんだもの。」

何か納得したような顔をして女豹は二度小さくうなずいた。

それからゆっくりとふたを開ける。

中に隠れていたのは銀色に輝く紐。

どう見ても食べ物ではなさそうだ。

「これは・・・何かの繊維か?」

「なかなかいい所を狙ってくるわね。でも触っちゃだめよ、鑑定スキルはまだお預け。」

「ヒントはないのか?」

「この国ではまだ珍しいものよ。国外ではそれなりに有名だけど、ここではまだ手に入りにくい物。それが用意できると言っても貴方は手を組まないの?」

「それだけじゃなぁ。」

「連れないわね。」

「だが金になりそうな匂いはする。つまり、これを用意してやるから一緒に儲けないかってことなんだろ?」

「そうよ、私と手を組めばこれはあなたの思うまま。国外では無理でもこの国で莫大な利益を稼ぎだせるはずだわ。」

目の前に置かれた銀の紐。

光で反射して見えにくいがタコ糸程の太さしかなさそうだ。

これを使えば莫大な利益を手に入れることが出来るようには見えないんだけどなぁ。

「条件は?」

「利益は折半。そのかわり、必ず私達からこの素材を買う事。」

「専属専売契約か。」

「他が安いからって浮気しちゃだめよ。」

「ここじゃ珍しいんだろ?」

「そうだけどいずれ誰かが同じものを作るわ。そうなってから見捨てられたら困るもの。だから10年は私達から買ってちょうだい。その後は好きにしてくれてかまわないわ。」

「10年か・・・。」

「もちろん私達もそれなりに勉強はさせてもらうつもりよ。専売だからって胡坐をかくつもりはないわ。」

10年。

まだ国内では数が少なくても、それだけ経てばメジャーになってるかもしれない。

そうなれば価格競争が始まる事は必至。

だがこの契約をしている以上他所で買うことはできないだろう。

それほどの価値があるものなのか。

物を見て判断しろってのがせこいよなぁ。

でも、何かはおおよそ見当がついた。

「面白い提案だが断る。」

「・・・理由を聞かせてもらえる?」

「確かに国内では珍しいし、俺の求めている素材ではある。だが国外でも手に入る以上専属契約を結ぶのはリスクが多すぎる。最近港町とも友好的な関係を築いているんでね、やり方次第ではここよりも安く買えるだろう。でもなぁ、向こうの場合は時間の制約があるから、そこは臨機応変に対応出来ればと思っている。もっとも、ここが他所と専属契約を結んでいるのならあきらめるしかないけどな。」

「つまりこれが何かわかったのね?」

「魔毛だろ?」

「なんでわかったの?」

「国外では手に入るが国内ではまだの部分、それと俺がこの前大量の毛玉を処理しているのを聞いたんじゃないかと思ってな。」

女豹の事だ、俺が毛糸を作ったことをどこかで聞きつけ自力で魔毛へとたどり着いたんだろう。

今年の冬が寒くなるってのはわかる人にはわかる話だ。

ここの空気が乾燥しているのも、その予兆なのかもしれない。

本格的に準備をした方がよさそうだな。

「ほんと、つまらない男ね。」

魔毛をつまむようにして持ち上げ、俺の手の上にひらりと落とすナミル女史。

俺の上に乗った瞬間、予想通りの鑑定結果が脳裏に浮かんだ。

『魔糸。魔力を編み込んだ特殊な糸。日用品から防具に至るまで多種多様な用途で使用されるが、編み込むのが難しく作成には高度な技術を要求される。組み込む素材により効果が変わるので使用にもかなりの知識が必要。最近の平均取引価格は銀貨3枚。最安値銀貨1枚、最高値銀貨6枚。最終取引日は三日前と記録されています。』

なかなかに扱いの難しい素材なようだ。

だが、そんな貴重な素材をここで作れるようになったってのは正直かなり物凄い事だぞ。

なんせ国内では製造できなくてざわざわ国外から輸入しているような商材だ、輸入するという事は必然的に値段は割高になる。

だが、国内であればそれよりも安くかつ安定して供給できるだろう。

これは契約しておいた方がよかったか・・・?

いや、短期的に考えれば儲かるかもしれないが長期で考えれば他所の方が安くなる可能性もある。

輸出先も、高値で売れなくなれば必然的に値を下げてくるだろう。

専属契約でなくても、購入できるように交渉すれば済むだけの事。

マイナスではないはずだ。

「しかし、良く作れたなこんなもの。」

「これもカーラさんのおかげよ。」

「魔科学とは関係なさそうだが?」

「でも素材の魔力を有効に利用するという考えは通じるものがるわ。彼女と話をして学んだことを職人たちが上手くかみ砕き、試行錯誤して作り上げたの。品質的にもまだまだ伸びしろはあるわ。」

「こりゃ国中の商人がここに群がるな。」

「そうよ、今更泣きついたって許してあげないんだから。でもそうね、そこで一晩楽しませてくれるなら考え直してもいいけど?」

「男に二言はない。専属契約はしないが、取引契約は望むところだ。ただしその場合は俺とではなくギルド協会との契約になるだろうがな。」

「わざわざギルド協会を通さなくても貴方が卸せばいいじゃない。」

儲けを考えればそのほうが良いだろう。

俺が問屋として取り扱うだけで仲介手数料的なものがそれこそ湯水のように流れ込んでくる。

それは間違いない。

だが、それじゃ意味ないんだ。

俺だけが儲けてしまうと、どうしても悪い目で見る人が出てくる。

商売柄ネガティブな感情はあまりよろしくない。

ただでさえ定価がない商売なんだ、悪い印象があると納得されずに帰られる可能性も出てくるだろう。

一応今までも俺『だけ』が儲かるようにはやってきていないつもりだ。

何かしらの部分で他の人にも恩恵があるようにふるまってきたが、今回はそうじゃない。

それに、この人と濃い付き合いをすると色々と面倒そうだってのもあるんだが、それは言わないでおこう。

「俺がそんな面倒なことすると思うか?」

「ふふ、そうね。」

「ともかく魔毛に関してはギルド協会を通じて買わせてもらうつもりだ。仕入れ値次第では継続して買ってもいい。なんせ毛糸は山のようにあるんだ、それに今年は寒くなりそうだからな。」

「こっちにも安く卸してよね。」

「そりゃ素材を譲ってくれた分は勉強させてもらうつもりだ。ハーシェさんに言って向こうの仕入れ値を確認しておかないとなぁ。」

「それと、新しい化粧品もお願いね。」

「それはカーラさんに言えよ。」

化粧品製造はカーラの仕事だ。

今頃マリーさんと一緒に昔話をしつつ何か閃いていることだろう。

飲む化粧品。

素材が決まり次第依頼を出して買い込んでおかないと。

金貨300枚も夢じゃないかもしれないな。

「はぁ、せっかくこんな格好して誘惑してみたのに。お金に困ってるって話だったから食いつくと思ったのに、残念だわ。」

「なんだそんな噂になってるのか?」

「破産した貴族の娘を買うんでしょ?」

「・・・どこ情報だよ。」

「教えてあげない。で、本当に買うの?正直貴族の娘なんて面倒なだけよ?」

「知り合いなのか?」

「顔は見たことあるわ。それに、太陽のティアラの持ち主ってこともね。」

「そっちは有名らしいじゃないか。」

「あんな小娘より私の方が何倍も価値があると思うんだけど、どう思う?」

そう言いながら女豹は前傾姿勢になり両腕で自分の胸を押し上げる。

柔らかな胸のふくらみが形を変え、深い谷を作り出した。

だがこんなことで誘惑される俺ではない。

「仕事ができるという意味ではそうだろう。」

「じゃあ。」

「これ以上は何も言えない。だが買うのは事実だ、そして金が必要なのもな。もっとも、魔毛のおかげでその目処が立つかもしれないから、また必要数がわかり次第連絡する。今日は御馳走様、ナミルさん。」

「ほんと、つまらない男。」

これ以上はお互いに何のメリットもない。

お互いに情報を出し合い、そして妥協点を見つけた。

今後もいいお付き合いをできるとは思うが、本人がどう出て来るかだな。

流石にもっと強引な手段で誘惑してくることはないだろう。

もしそうなったとしても俺の好みではない。

左右から聞こえてくる艶めかしい声をBGMに俺はゆっくりと来た道を戻る。

さて、宿に戻るか。

カーラの所に戻ることも考えたが、二人の邪魔をするのは野暮ってもんだ。

そんな事を考えながら外に出るとアニエスさんが目の前に立っていた。

「その御様子ですと無事に終わられたようですね。」

「わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「マリー様に頼まれましたが、杞憂だったようです。」

「そこまで女に飢えてるわけじゃないぞ。」

「それはそれで問題ですが、まぁ良いでしょう。宿までお供します。」

「二人は・・・明日でいいか。」

「はい。」

アニエスさんも二人の邪魔をする気はないようだ。

徒歩で宿まで向かい、用意してもらった部屋に入る。

普通のベッドが二つ。

さっきの部屋に比べれば随分と質素だ。

だが、これで十分だよ。

「で、なんでアニエスさんも一緒なんだ?」

「誘惑しようと思いまして。」

スカートのすそをつまんで軽く持ち上げて見せる。

ゆっくりと上がっていく様子はなかなかにそそられるが、今はそういう気分じゃない。

「マリーさんに言いつけるぞ。」

「かまいません。どうですか?それなりに胸はありますし、閨の技も仕込まれています。」

「どうですかも何もお断りだ。」

「残念です。」

まったく、飢えてるのはお前たちの方じゃないか?

素知らぬ顔でベッドメイキングをするアニエスさんを無視して早々とベッドに横になる。

いつもと違う女性の気配に違和感を感じながらも、その日はすぐに眠りの淵へと落ちていくのだった。
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