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420.転売屋は食事に誘われる

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「・・・と、いう事なのよ。」

「よくわからんがよくわかった。」

「どっちなの?」

「急に乾季がやってきて、急速に川の水が減ってきたためにこうなったんだろ?対処法もわかってるんだし後はそれを実行するだけ。問題は急激に乾燥したことによる肌荒れの増加程度のもんだ。」

「程度って貴方ねぇ。」

「シロウ様今の発言は女性全てを敵に回しますよ、お気を付けください。」

「マリー様と私でしたから良かったものを、事実ナミル様は敵に回られたようです。」

いや、ただの乾燥による肌荒れだろ?と二度いう事は流石にしない。

ナミル女史はともかくマリーさんとアニエスさんを敵に回して生きて帰れると思えない。

アニエスさんは物理的に、マリーさんは地位的に殺しにかかってくるだろう。

それこそ国家権力が最強の暴力で俺みたいな小さな商人を叩き潰しに来る。

恐ろしい話だ。

「ともかく、これだけ乾燥がひどいとおちおち外出もしてられないわ。かといって、すぐに収まるものでもないし、早急に肌荒れ対策をしないといけないわけ。」

「具体的に策はあるのか?」

「なくはないけど・・・。」

「つまりはまだ実現段階じゃないわけか。」

「肌荒れの原因はお肌の隙間から体内の水分が出ていくから、なら出ていかないようにバリアを張れば保持できるはず!ってところまでは思いついているんだけど。」

「バリアねぇ。」

そんな魔法みたいな・・・って魔法があるんだよなこの世界には。

とはいえ、お肌を守るための魔法は存在しない。

だからこそ化粧品の出番というわけだ。

「保湿力を高めるのではだめですか?」

「それでもいいんだけど、出ていく水分の方が多いから保ちきれないの。」

「つまり維持できないから短時間でもいいから強力なやつで守る必要があるわけだろ。」

「そういう事ね。」

「膜を張る、覆ってしまう、いっそ隠してしまえばいいじゃないか。この布みたいに。」

「ちょっと、高いんだから触らないでくださる?」

「まだ怒っているのかよ。」

「当然よ。」

女の恨みはしつこいなぁ・・・って原因は俺か。

口は禍の元とはよくいったもんだよ。

「確かに覆ってしまえばマシになるけど、それでも出て行ってしまうのは止められないわ。」

「なら布そのものを化粧水かなんかにしてしまえばいい。先にそっちから水分が抜ければ下は保たれるだろう。それか、体の中から増やすとか。」

「体内から増やす、考えもしませんでした。」

「あるの?」

「さぁ、調べてみないことには何とも。」

確かネバネバした食い物がお肌によかったはずだ。

おくらとか納豆とか長芋とかを食えと前にテレビで言っていいたのを覚えている。

それと一緒にスッポンとかフカヒレとか鳥のトサカとか、コラーゲン的なものも良かったはずだ。

俺には関係のない話だとばかり思っていたが、世の中いつ何時そういう知識が必要になるかわからないものだな。

「確かアングリーチキンの足から取ったスープはお肌によかったよな?」

「そうですね、街の奥様方はそうおっしゃっていました。」

「トサカとか足とか、軟骨成分がお肌にいいはずだ。確かこの街にも似たような鶏料理があっただろ?」

「えぇ、隣の町で養鶏をしているからそこから仕入れてるわ。」

「なら飲む化粧水とかどうだ?」

「飲む。」「化粧水。」

「食べて中から増やす。布にも保水か保湿かわからんが、ともかくそんな事をしてやれば二重で防げるだろう。」

飲むヒアルロン酸?

そんなCMもあったんだ、あながち嘘じゃないんだろう。

女って生き物はそういうのに弱いからなぁ。

「はぁ、私がどれだけ考えてもいい案浮かんでこなかったのに・・・。」

「そういう男なのよ、こいつは。あきらめなさい。」

「どういう意味だよ。」

「人の苦労なんて全然気にせず好き勝手言う男ってことよ。」

「悪かったな。」

別に何も気にせず発言してるわけじゃない。

一応気は使っているんだぞ?

そりゃさっきみたいな失言はあるが、悪意はない・・・つもりだ。

「でもおかげで目処が立ちそうです。ほら、あのカーラの顔みてください。あれはやる気のある時の顔ですよ。」

「マリー、そんなこと言うってことは手伝ってくれるのよね?」

「手伝うって何を?」

「もちろん研究よ!今日は寝かさないんだから覚悟してよね。」

「えぇぇぇ!ちょっとカーラ!」

「お供しますマリー様。」

なんだかやる気になってしまったカーラさんに引きずられて二人が奥に消えてしまった。

邪魔すると怒られそうだから大人しく宿に戻るとしよう。

どこに泊まるかは書置きしておけばいいだろう。

あとは馬車にいてきた荷物の引き取り先を探して・・・。

「ねぇ。」

「なんだよ。」

「この後暇よね?」

「暇じゃないぞ。」

「何よまだ怒ってるの?」

事務所兼研究所に取り残されたナミル女史と俺だったが、まさか向こうから声がかかるとは思わなかった。

「そうじゃないが、持ってきた荷をさばかないといけないんで暇じゃないだけだ。」

「卸すって言ってもギルド協会でしょ?なら一緒に行ってあげるから付き合いなさいよ。」

「別に便宜を図ってもらうきはないんだが?」

「うるさいわねぇ、さっさとついてくりゃいいのよ!」

「わかったからそんなに大声出すなって。」

「なんで男って良い所で察しが悪いのかしら。」

「いや、むしろ察してるから行きたくないんだが?」

「あら、私との食事は嫌?」

正確に言えばもちろん嫌だ。

だが同じ轍は二度踏まないのがいい男・・・っていうかまともな男。

口に出そうものならどんなことになるか、想像もしたくない。

「美味い物御馳走してくれるんだろうな。」

「当たり前じゃない、私のとっておきのお店を紹介するわ。」

「はぁ、いったい何を要求されるんだか。」

「ちょっと要求前提で話をするのやめてもらえるかしら。これでも貴方には感謝してるのよ?」

「何をだ?」

「あの子を紹介してくれたことをよ。」

あの子とはカーラの事だろう。

別に紹介したわけじゃない、ただ俺たちの町に土地がなかっただけの話だ。

あればわざわざこの街に案内することはなかったんだが・・・。

そのおかげで色々とメリットがあったのも事実。

必要な物資が出たらお互いに融通しあったり、素材を安く手に入れたり出来るようになったのもカーラさんが来てからの話だ。

本人にその気は全くないが、多大なる恩恵があるのは事実。

特に女豹は化粧品を回してもらっているそうだから、そっちの部分でも多大な貢献があるんだろう。

「ここでカーラさんが何をしているかは俺の知ったこっちゃない。礼を言うなら本人に言えよ。」

「でも彼女を紹介してくれたのは事実でしょ?」

「残念なことに土地がなかったからなぁ。」

「ふふ、そうだったわね。」

「とりあえず連れて行くところに連れて行ってもらおうか。それと、うちの商品高く買ってくれよ。」

「もちろん任せて頂戴。」

ここまで来たんなら覚悟を決めるしかない。

毒を食らわば皿までっていうだろ?

そう気合を入れつつ一度ギルド協会により、思っていた以上の値段で持ってきた物資を買い取ってもらった。

といっても一割増ぐらいだが、持って出るときの税金も込みらしい。

早くもさっきの自分の発言を撤回したくなってきた。

いったいどんな毒を食わされるんだろうか。

「さ、入って。」

「どう見ても飯屋じゃないよな。」

「見た目はね。」

「っていうかどう考えてもここはアレだよな。」

「アレって?」

「連れ込み宿だよ。」

まさかこんな場所に案内されるとは思わなかった。

入り口はごく普通の民家。

だがウナギの寝床のように縦長になっており、左右に小部屋がたくさん並んでいる。

なにより中からそういう声が聞こえてくるんだが。

左右から聞こえる艶めかしい声を無視しながら先を行く女豹の後ろを追いかける。

そして一番奥の部屋で立ち止まった。

「私は準備があるから先に入って頂戴。」

「もう一度聞くが飯だよな?」

「そうよ。」

「抱く気はないぞ。」

「あら、残念。」

「その気ありかよ。」

「そのつもりだったんだけど考えが変わったわ。それに、食事に誘ったのは本当よ。」

それだけ言い残して女豹が俺の横をすり抜け来た道を戻っていく。

ここまで来て帰るわけにもいかず仕方なく中に入ると、部屋は案外普通だった。

ベッドがあることを除けば。

大きなダイニングテーブルは6人ぐらい座れそうだ。

そこに椅子が二つ、他にもソファーが向かい合って置いてあり、真ん中には商談に使うんだろうかローテーブルも設置されている。

調度品はなかなかに一目で高価だとわかるが決して派手じゃない。

本当に接待するために用意された部屋のようだ。

とりあえずソファーに深く腰掛け深いため息をつく。

食い物には気を付けよう。

媚薬か何かを淹れられたんじゃたまったもんじゃない。

「お待たせ。」

「・・・おい。」

「別に着替えただけじゃない。」

「着替えてそれかよ。」

「私、普段は薄着なの。仕事の時は仕方なくあぁいう服を着ているけど重くて嫌いなのよね。」

戻って来た女豹は、下着が透けて見えるような薄い布『だけ』を纏ってもどってきた。

あれだ、インドのサリーとかこんな感じだ。

縫製するのではなく幾重にも布を重ねて着るタイプの服。

確かに似合ってはいるが、目のやり場に困る。

むしろ見ろと言わんばかりだ。

なら男が取る手段はただ一つ。

「気持ちはわかるが、TPOをわきまえてほしいものだな。」

「なにそれ。」

「時と場所だよ。わざわざ男と二人っきりになる状況でその服を着て来るか?」

「私は着たいものを着ているだけ。さぁ、食事にしましょう。」

パンパンと手を叩くと同時に入り口が空き、料理を載せたカートと一緒に従業員らしき女性が四人入ってきた。

よかった、こっちの人はまともなようだ。

さぁ、羊男も身構える女豹との一対一の対決・・・もとい食事だ。
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