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422.転売屋は噂の人物と対面する

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新しい化粧品は早くも開発が始まったらしい。

コンセプトは『体の中から美しく』。

どこかで聞いたことのある内容だが、この世界ではまだまだ珍しい考えのようだ。

だがカーラの中にはしっかりと設計図が描かれている。

上手くいけば今月中に開発が終了、23月には販売を開始できるらしい。

何ともまぁスピード感のある事。

そのおかげで年末までにある程度の纏まった金が用意できそうだ。

だが油断は禁物。

俺は俺でしっかりと稼いでいかないとな。

「と、いう事でまずは本人に会ってみようと思う。」

「それがよろしいかと。」

「とんでもない相手だったらそもそも手を出す必要はない。屋敷だって別に今すぐ買わなきゃいけないわけじゃないしな。」

「でも貴族のお姫様なんでしょ?さすがにそこまで酷くないんじゃない?」

「金があってある程度の自由が約束されるとな、変な方向に行きがちなんだよ。」

「随分と知ったような口ぶりじゃない。」

「知ったようなじゃなくて知ってるんだよ。小金持ちはまだいい、だが大金持ちは話が別だ。」

金がなければ制限がかかる。

趣味にも行動にもだ。

だが、金があると話は変わってくる。

世の中金で片付くことがどれだけ多いか。

それこそ犯罪だってもみ消すことが出来る・・・らしい。

さすがにその現場を見たわけじゃないが、金にものを言わせて人を雇い、それで物を買い漁ってる連中を俺は知っている。

金さえあれば飛ぶ鳥も落ちるとはよく言ったもんだ。

「つまりご主人様は今回の方もそうだと思っておられるんですね?」

「あぁ。太陽のティアラなんてものに選ばれている時点で普通じゃなさそうだ。」

「そもそも、この世界に飛んできたシロウも普通じゃなかったわね。忘れてたわ。」

「エリザ様、シロウ様を普通の人に当てはめるのは聊か無理があるかと。」

「おい、それはさすがに酷くないか?」

「お金にならないとわかっていて、金貨1000枚の奴隷を買おうとしている時点で普通じゃないと思います。」

「ま、それもそうか。」

いずれは帰ってくる金だとは思っている。

だがそれがいつになるかの保証はない。

唯一担保として手に入れられるのは大きな屋敷。

だがその屋敷も別に今すぐ欲しいもんじゃない。

それなのに金貨1000枚、いや全部合わせると2000枚か。

ともかくそれだけの金額をポンと使おうとしている俺は十分普通じゃないな。

知ってた。

「ではこの後レイブ様に打診を・・・。」

ミラがすべて話し終わる前にトントンと店のドアからノックの音が聞こえてきた。

はて、こんな朝早くに客か?

いやいや、冒険者がそんな早起きなわけがない。

まだ朝食の真っ最中だ。

奴らが動き出すまでにあと一時間はかかる。

「客か?」

「見てきます。」

アネットが素早く立ち上がり様子を見に行ってくれた。

さすがの羊男もこの時間から来ることはないだろう。

「あ、レイブ様!どうされたんですかこんな時間に。」

「え、レイブさん?」

「珍しいですね。」

「何かあったんじゃないの?」

「やめろよな、そういうこと言うの。」

時間にキッチリとして何事にも動じないレイブさんがこんな朝早くに店に来る?

それこそエリザの言う何かが無ければありえない事だ。

落ち着くために手に持った香茶を一気に流し込み店へと向かうと、中に案内されたレイブさんが俺に向かって深々と頭を下げた。

「朝早くから申し訳ございません。」

「いや、それは別に構わないんだが。何かあったのか?」

「はい、その何かが起きましたのでお力をお借りしたく。」

「マジか。」

「マジです。」

レイブさんがマジとか言ってるんだが、マジか。

「シロウふざけないの。」

「ふざけてないっての。あ~とりあえず座ってくれ、ミラ、香茶を頼む。」

「すぐに。」

ミラがドタバタと足音を立てるなんて珍しい。

余程動揺しているんだろう。

すぐに話を聞きたいところだが、とりあえず香茶が来るまで待つとしよう。

沈黙の時間がいつもよりも長く感じられる。

何が起きた?

あのレイブさんが使いを出さずに自分で来たんだぞ?

どう考えても大事だろう。

「お待たせしました。」

「いただきます。」

心なしかミラの手が震えているように見えたが、気のせいじゃないんだろう。

ミラにとっては俺に次ぐ恩人だ。

「よいお茶です、上手くなられましたね。」

「恐縮です。」

「で、レイブさんが来るんだからよほどの事だと思うんだが・・・。例の女か?」

「ウィフ様よりシロウ様が購入するであろうという連絡は頂戴しております。期限は年末まで、しかしながらそれまで待てない可能性が出てまいりました。」

「というと?」

「かなりネガティブな思考をお持ちなようで、現時点で二度自殺を図っております。」

「は?」

「幸い大事に至る前に発見しておりますので商品価値に問題はありません。しかしながら、このままではその可能性も出てきてしまいます。」

まさかの自殺未遂って。

さすがにそれは想像してなかった。

「売られることに悲観してそこまでするか?」

「元が元ですので・・・。」

「気持ちはわかります、私も何度か考えましたから。」

「私はシロウ様に買ってもらうことしか考えていませんでしたので。」

すかさずアネットが同情するが、ミラはなんていうか予想通りの反応だ。

生きていれば何とかなるとは言うものの、あまりの落差に心が追いつかないんだろうか。

うーむ・・・。

「で、レイブさん的にどうして欲しいんだ?」

「出来れば早めにご購入いただけると助かります。」

「とはいってもなぁ・・・。」

「本当は一度面会を打診しようと思っていた所なのですが、それもやめたほうがよろしいですか?」

「いえ、できればそうしてくださると助かります。可能性があるとわかるだけでも多少はマシになるでしょう。」

「在らぬ期待をかけられてもこまるんだが?」

「買ってくださると信じておりますので。」

「それとコレとは話が別だ。使い道の無い女に用は無い。」

「手厳しいですが、その通りです。」

レイブさん的にもある程度は理解してくれているようだ。

何せ金額が金額だからなぁ。

売る方もかなり大変だろう。

太陽のティアラなんていうお荷物も一緒だし、加えて自殺未遂までするような奴だ。

傷物にでもなったら売り物にならなくなる。

「とりあえず会ってから考えよう。今日昼からでもかまわないか?」

「よろしいのですか?」

「元からそのつもりだったんだ、問題ない。」

「では本人にもそのようにお伝えいたします。」

「買い手が見つかったと?」

「さすがにそこまでは。ですが、くれぐれも気をつけてください。何をしでかすか私も想像できませんので。」

「・・・会うのやめようかな。」

何を気をつけるんだよ。

あれか?押し倒されたとか襲われたとか勝手に言うような奴なのか?

二人っきりで会うことはまずしないが、念のため全員で行くほうがいいかもしれない。

いや、いっそのことプロに同席して貰うか。

貴族相手に遣り合ってきた最高の人材がいるじゃないか。

レイブさんを見送った後、すぐにマリーさんと連絡を取る。

向こうも忙しいだろうが、数少ない事情を知っている仲間だ。

説明すると二つ返事で同席してくれることになった。

行くのは俺とマリーさん、それとアニエスさんとミラの四人。

奴隷が一人でもいたほうが安心するだろうとのレイブさんの助言に従った形だ。

「悪いな、化粧品の準備で忙しいのに。」

「まだそこまで忙しくありませんから。ですが随分と癖のありそうな方ですね。」

「仮にマリーさんが同じ立場ならどうする?」

「私ですか?自殺はしないと思います。死ぬぐらいであれば何か別の方法を考えるかと。」

「別の方法?」

「いかにして主人に取り入り解放して貰うか、もしくは手篭めにできるかです。」

「・・・随分と恐ろしいことを考えるんだな。」

「国が滅んだ場合、復興の為に一番大切なのは血筋です。半分でも血が残っていれば復興は可能、相手が誰であっても生きていれば可能性は残ります。」

なるほど。

まさに王族的発想だ。

しかし貴族にもそれは言えるだろう。

特に、太陽のティアラなんてものを授かっている相手だ、血を残さなければどうなるかはずっと言われ続けているはず。

それをわかっていて自殺しようとしている時点でアレなんだが、もしかするとそれも買ってもらうための演技なのかもしれない。

相手はかなり知略に富んでいると思っておいたほうがいいだろう。

レイブさんの言うように、気をつけなければ。

二人と合流した後レイブさんの店へと向かう。

昼に行くしか言っていないのに、レイブさんは外で俺達の事を待っていてくれた。

「お待ちしておりました。」

「反応はどうだった?」

「顔には出しませんでしたが喜んでいるようです。いえ、アレは覚悟かもしれません。」

「何の覚悟だよ。」

「ここで決める、という覚悟でしょうか。」

「怖すぎないか?」

「この街で暮らしていればシロウ様のことを知らないはずがありません。ここを出る数少ない可能性となれば気合も入るでしょう。」

そんな恐ろしい事いわないで欲しいんだがなぁ。

商談用の部屋へと案内され中に入ると、マリーさんとアニエスさんから感嘆の声が漏れた。

おとなしいがどれも高級品とわかるものばかり。

相変わらずセンスがいいなぁ。

「では連れてまいります。奴隷ですが首輪はまだつけておりません、つけると自死する可能性がありましたので。」

「武器を外された理由もそれか。」

「飲み物も提供しない予定です、ご了承ください。」

「まさに厳戒態勢だな。」

はぁ、なんでそこまで警戒しなきゃいけないんだ。

まぁ、元が元だけに何かあったら世界が大変なことになるかもしれないわけだし、気を使うのは仕方がないかもしれないが、そもそも本人もそうなることはわかっているはず。

それなのにもかかわらず死のうとするとはどういう事だ?

まさか、もう世界とかどうでもいい!とか悲劇のヒロインみたいなことを言ってるんだろうか。

もしそうなら思いっきり頭をはたいてしまうかもしれない。

「皆、くれぐれも気を抜かないでくれ。」

「分かりました。」

「妙な動きをした場合は即座に拘束いたしますが、かまいませんね?」

「あぁ、アニエスさんの判断に任せる。」

「予定通り最初は私がお話をさせていただきます。」

最終確認をしているとトントンと扉がノックされた。

「どうぞ。」

「失礼します。」

レイブさんの返事が聞こえ、扉が開けられる。

さぁ、どんな人がくるんだろうか。

全員が同時に息をのむ音が部屋に響くのだった。
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