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197.転売屋は布を買う

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12月が来た。

いよいよ冬本番、心なしか月が替わったと同時に寒くなってきた気がする。

この間は突然の寒気だったが、それに匹敵するような寒さだ。

今月はオークション、それに還年祭が待っている。

お守りを使った仕込みもひとまず完了した。

後はどのタイミングでやるかだが・・・。

「エリザ、ビアンカはどんな感じだ?」

「ん~、必死に頑張ってるみたいだけどあまり良くないかも。」

「あまりいい品が見つかってないみたいだな。」

「最初のはビギナーズラックだったのかもね、最近は良くても全員で銀貨50枚ぐらい。」

「それじゃあ全くたまらないな。」

「そうなのよね~。」

ふむ、頑張ってはいるみたいだな。

とはいえまだ欲しい情報は集まっていない。

時間はまだあるしもう少し泳がせるとするか。

「しっかし寒いな。」

「12月ですから冬本番です。」

「毎日鍋でもいいぐらいだ。」

「わかります、お鍋美味しいですよね。」

昨日も鍋、一昨日は肉、その前は・・・鍋だった気がする。

鍋は野菜が取れるし温まるし最高の料理だと俺は思っている。

「外出するのも嫌になる。」

ドアに手をかけ、少しだけ開いてみたが入ってきた冷気に扉を閉めた。

「ダメよ、稼ぎに行くんでしょ。」

「そうなんだけどなぁ。」

「私が行きましょうか?」

「いや、露店は俺の仕事だミラは温かい所でゆっくりしてくれ。風邪をひかれても困る。」

「シロウじゃないんだから。」

「うるせぇ。」

仕込みをしたという事は金をかけたという事だ。

使った分は稼がなければならない。

また大金を出してくれと言われるかもしれないしな。

店の前に泊めたリアカーを肩をすくめながら引き、北風の吹く大通りを抜けて露店へ。

「お、来たな。」

「おはよう、おっちゃんおばちゃん。」

「そんな恰好で寒くないのかい?」

「少し寒いが・・・まぁ何とかなる。」

「また風邪ひくんじゃないよ。」

「は~い。」

まるで俺のおかんだな・・・って義理の母みたいなものか。

いつものように準備をして店を開ける。

売れ行きは・・・上々とは言えなかった。

やはり寒さからか人通りが少ない。

例の飯屋は大繁盛しているようだが、他はさっぱりって感じだ。

後でデリバリーしてもらうとしよう。

横の二人も食べるだろうし。

「いらっしゃい。」

「買取を頼めるか?」

「買取は店で頼む、ここは販売だけだ。」

「そうか・・・。」

「どうかしたのか?」

「昼過ぎには街を出たいと思っているんだが、店は混んでいたからこっちならと思ってきたんだ。」

と、早速やってきたのは50ぐらいのオッサン。

見た目は商人って感じだが、着ぶくれしているからかかなりごつく見える。

「ブツは何だ?」

「これだ。」

オッサンが袋から出してきたのは鮮やかな朱色をした布だった。

見た感じ細長いからマフラーにも使えそうだ。

「みせてもらっていいか?」

オッサンは無言でうなずき布を差し出す。

それを受け取るとといつものようにスキルが発動した。

『ヒートカプラの布。常に熱を帯びており、寒い地域では必須。主に防寒着に使われている。最近の平均取引価格は銀貨25枚。最安値銀貨18枚、最高値銀貨38枚。最終取引日は3日前と記録されています。』

「へぇ、珍しい品だな。はじめてみた。」

「火焔山羊は遥北方の火山帯にしか生息しない生き物だからな。」

「あぁ、なるほど。だがこの時期なら引く手あまただろ?」

「普通はそうなんだが、ここじゃ焔の石が取れるそうじゃないか。そのせいで売上が芳しくないんだ。」

「で、時間が無くなってここに来たと。」

「頼む、何とかならないか?」

何とかって言われてもなぁ。

物は確かに珍しいが、オッサンの言うように焔の石が安定供給されるようになったので防寒道具には困らなくなった。

石を懐に入れておけば十分あったかいし、かという俺も一個忍ばせてある。

「全部でいくつあるんだ?」

「あと10反あるんだ。」

「結構あるなぁ。」

「仕立て屋にもっていけばいい防寒着になるんだが。」

「残念ながらここはあまり寒くならないんだよ。」

「そうらしい。ほんと、参ったよ。」

当てが外れたとはまさにこのこと。

しかし見れば見るほど鮮やかな布だ。

持っているだけでじんわりと熱が伝わってくる。

これを首に巻くとさぞ暖かいだろう。

ふむ・・・。

時期的に悪くはない。

なら試してみるか。

「だが珍しい品であることは間違いない。金貨1.5枚なら買うぞ。」

「もう少し何とかならないか?」

「なんせ11反まとめてだからな。出せても金貨1.8枚だ。」

「仕方ないか・・・。次回はまた別のものを持ってくるよ。」

「そうしてくれ。」

即金で支払い、代わりに反物をもらう。

売る前から荷物が増えてしまった。

「そんなものどうするんだい?」

「そりゃどうにかするさ。」

「金貨1.8枚をポンと出すなんざ、相変わらずやることが豪快だな。」

「金額的には可愛いもんだ。最近俺の金を目当てに無理ばっかり言うやつが多いからなぁ。」

「下手に金なんて持つもんじゃねぇな。」

「いやいや、貴族相手に随分と儲けてるって聞くぞ?」

「そりゃ実家の話だ。俺に入ってくるのはここの儲けだけだよ。」

そうだったのか。

そんな事なら言ってくれれば毎回買い占めたのに。

「アンタたちなんて小遣い程度だろ?私は生活が懸かってるんだ、なんならさっきの金額で全部売ってやってもいいんだよ。」

「釣りは出るのか?」

「出るわけないだろ。」

今度はおばちゃんが無茶を言い出したぞ。

全部買い占めても銀貨80枚にもいかないはずだ。

金貨1枚丸々ポケットに入れるつもりだろう。

もちろんたくさん売れた日はおばちゃんの店でも買い物をしている。

使いやすいと好評だからな、商業ギルドに寄付すると喜ばれるんだ。

「で、どうするんだい?」

「マフラーかひざ掛けか、ストールでも加工したらいいかもしれない。なかなか綺麗な色だろ?」

「確かにきれいだけど少し派手だねぇ。」

「それぐらいでいいんだよ。冬だからってグレーとか黒とかばっかりで面白味がなさすぎる。こういう時期だからこそ明るい色を付けるべきなんだ。」

「確かに兄ちゃんの言うとおりだな、見てみろよみんな辛気臭い色してよぉ。」

「アンタだってそんな色の服着てるだろうが。」

「俺にはほら、こいつの黄色があるからな。」

そういっておっちゃんは商品のチーズを誇らしげに持った。

「でも確かにそうかもね、気持ちぐらい明るくいないと長い冬は越せないよ。」

「だろ?って事で・・・。」

「職人を紹介しろっていうんだろ?まったく、自分で探せばいいじゃないか。」

「ギルドの紹介でもいいんだが、やっぱり知っている人に紹介してもらうほうがお互いに気持ちがいいからな。」

「気持ちはわかるよ。そうだねぇ、職人通りにヒューターって名前の裁縫職人がいる。夫婦でやっててねなかなか腕がいいんだよ。」

「へぇ、ヒューターだな。」

「私の紹介だって言えば話ぐらいは聞いてくれるだろう。でも話すなら旦那にしな、嫁さんに話しかけると大変だよ。」

「何が大変なんだ?」

「行けばわかるよ。忠告はしたからね。」

わざわざ忠告してくれたんだ、大人しく従うとしよう。

話しかけるのは旦那のほうで、嫁さんが出てきたら日を改めたほうがいいかもしれないな。

その日もやはり客は少なく、二人と一緒にデリバリーしてもらった昼食を食べてさっさと店に戻った。

「ただいま。」

「おかえりなさい、いかがでしたか?」

「やっぱりこの時期は売れないな。買い取った分を入れたらトントンだ。」

「あら、買取もされたんですね。」

「一度ここに来たが混んでいたらしい。大丈夫だったか?」

「素材の買取が重なっただけですので。お手数をお掛けしました。」

「いや、むしろこっちに来てもらって助かった。」

ミラに任せたら買い取っていいか悩んでしまっただろう。

鑑定スキルはあっても相場はわからない。

普段買い取っている品なんかはある程度データがあるからそこから導き出せるが、初見の品はそういうわけにいかない。

「何を買い取ったんですか?」

「こいつだ。」

リアカーから荷物を下ろしつつ、買い付けた反物を二人に渡す。

「わ!あったか~い。」

「ヒーターカプラですか。聞いたことはありますが、現物を見るのは初めてです。」

「大分北のほうに行かないと生息していないらしい。向こうの人には必須の装備なんだとさ。」

「これがあったら外で活動しても問題なさそうですね。」

「でもこれをどうするんですか?」

「モイラさんに職人を紹介してもらったから、そこで加工してもらうんだ。」

「ちなみに何を?」

「マフラー、ストール、ひざ掛けなんかどうだ?」

「「欲しいです!」」

二人が目を輝かせて俺を見る。

座りっぱなしの仕事だからなぁ、欲しがる気持ちはわかる。

「派手じゃないか?」

「そうでもないですよ。この色なら若い子にも売れると思います。」

「絶対売れますよ!」

二人の反応は良好っと。

後はどうやって加工してもらうかだな。

「ならそのままちょっと行ってくるわ。引き続き頼んだぞ。」

さて、どんな人が出てくるのやら。


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