ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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森の民は贅沢な御馳走に出会う

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 結果を先に伝えるとビクトリアは村の脱出に失敗した。
 彼女は今、大人たちに囲まれ……接待を受けていた。

「どうぞ、どうぞ、エルフ様。こちらは鳥のソテーでございます」

 出来上がったばかりの料理が目の前に運ばれる。

「あーら、いいのかしら~? ちょっ~と魔物を追っ払ったくらいでこんな扱いを受けちゃって~」
「いえいえ、これくらいの当然のお礼です。エルフ様は村を救ってくれた英雄なのですから」

 接待するのは村のリーダーを名乗る青年。彼は先の魔物との戦いでも中心にいて指示を出していた。

「英雄だなんて褒めすぎよ~」

 そんな彼に褒められ、ビクトリアは謙遜しながら思う。

(うわ~~短命種ちょろ~~~~~~!)

 彼女が使った魔法は人間でも扱える通常のレベル。たまたまタイミングと環境が噛み合ったせいで過大評価されていた。
 事情を知らない彼女は──

(子供エルフの私なんかでもこんな扱いされるんだから人間の魔法使いってのは大したことのないのかもね~)

 ──非常に付け上がっていた。

 出された料理を湯気が消える前に平らげる。

「短命種にしては料理がどうしてなかなか上手じゃない!」
「おお、エルフ様! なかなかの健啖家ですな!」

 故郷でも食べたことのない料理が大量に運ばれてくる。味付けは濃く感じたが、疲労が蓄積され栄養不足気味だった身体はいくらでも受け付けた。

「もしやエルフ様はこちらも興じておられますかな」

 木の器に注がれると蜂蜜の甘い香りを漂わせる液体。その芳醇な香りにビクトリアは覚えがあった。

(こ、これはただの蜂蜜でない……蜂蜜酒ミュード……!)

 蜂蜜と水、そして酵母で作られる蜂蜜酒。その歴史はビールやワインよりも古い。
 故郷でも愛飲する者は多かった。ビクトリアの両親も愛飲し、飲みすぎて潰れることも多々。

(お酒……興味あったけど子供扱いされていた私は禁じられていたのよね……)

 掟では年齢よりも身体の成長具合が優先される。背丈の低い彼女は一口も飲んだことがない。
 今でも興味はあった。いかに大人を堕落させるのか、その禁じられた味に。
 しかし、

(……忘れちゃだめよ。ここは短命種の村。一瞬でも油断しちゃいけないんだから)

 散々出された料理を食しておいて、変なところで警戒する。

「……もしやお酒を飲めない体質ですか? これは失礼しました。すぐに片づけます」

 この宴に悪意はない。心の底からビクトリアに感謝するために準備されている。

「ち、違うわよ! 飲めないんじゃない! 飲まないのよ!」

 ビクトリアはまた変なところで強がる。

「お酒を飲むと頭がぼんやりするでしょう? あれは毒だからよ。長生きしたいならお酒は控えておきなさい」
「お言葉ですが今を生きるためには飲まずにはいられないのですよ」

 そう言ってリーダーはビクトリアの分の酒を一気に煽った。彼は理知的で精悍な顔つきをしていたが酒を飲んだことで頬が赤く染まる。

「……お酒は良い。悩みが吹き飛ぶ」

 接待用の笑顔が消えて、しみじみと真顔になる。

「あんたもいろいろと苦労してるようね」
「そうです! 私はとても苦労しているのです!」

 リーダーは食い気味に顔を寄せる。

「エルフ様、ご提案があります」
「うわ、なんだか面倒くさいこと言いそうね」
「とんでもありません。お互い得になる素晴らしい提案です」
「今は食べるのに忙しいから後にして」

 骨付き肉を拾うも、

「エルフ様、この村で用心棒になってくれませんか?」
「後にしてって言ったでしょうに……」

 ビクトリアは料理を皿に戻す。

「はっきり言っておくわよ。嫌よ。面倒くさい」
「即答ですか。困りましたね~」

 リーダーは困ったように愛嬌のある笑顔を見せた。

「この村は鉄の採集で手一杯。その日の食事だってあるものしか食べられません」
「それにしてはこの宴会は豪華じゃない」
「そりゃもう大奮発です。だいぶ無理してますよ。しかしこれを豪華と言ってくださるとは、エルフ様もお人が良い」

 リーダーはビクトリアの食いつきっぷりの良さをよく見ていた。これは良い交渉材料になると睨む。

「別に気に入ったとかじゃないんだからね」
「毎日これほどの料理を出すとは約束できません。できませんが、月一程度ならなんとか捻出します」
「月一でこれ……」

 心が揺らぐ。食事中だというのに腹が鳴りそうになる。どうせ行く当てがない。それならば食事を出してもらえるこの村に定着するのも手ではないだろうか。近くに別のエルフの集落があるという情報もない中、こんなに高評価好待遇される環境を手に入れる機会は滅多にない。

「いややっぱでも……」

 ここは人間の村。異種族のコミュニティ。見たところ、ほかにエルフ、そのほかのドワーフのような妖精の血を引く種族は居ないがリーダーは優しそうだし異種族に対して偏見はないように……見える。
 しかし今こそは歓迎ムードだがいつ裏切られるかわからない。決別したはずの両親の教えが頭にちらつく。

(……うん、決めた。やっぱり離れることにしましょう)

 そう、心は変わる。永遠に優しく甘やかしてくれると思っていた両親が保身のために我が子を生贄にした。大人は子供を見くびるし軽んじる。信用ができなかった。

(それに私は自由を選んだ身。短命種のために命なんて張ってられないわ)

 身軽が一番。当分の食料はお礼に分けてもらうことにしよう。

「……悪いけど私はこの村を──」
「エルフさまあああ! お祭りみたいで楽しいねええええ!」
「──げえふ!?」

 エミリはビクトリアの背後から抱き着く。

「うぐ、私としたことが警戒を怠るなんて……」

 周りはどんちゃん騒ぎだった。お酒も入り、ムードは最高潮。エミリはそこに上手く滑り込んだのだった。

「エミリ。お姉さんからの忠告よ。危ないから今後は食事中に抱き着くような──」
「ねえねえねえ、エルフ様。お父さん見なかった?」
「あんたの父親? そういえばまだ見てないわね」

 家を飛び出した後から彼の姿を見ていない。宴会にも参加していないようだった。
 するとリーダーがエミリに笑顔で話しかける。

「あー……君のお父さんは、ちょっと大事な用事があって、今は村の外に出ているんだ」
「えー!? なんでー!?」
「その、あれだ、エルフ様をもてなすためのとっておきを持ってきてもらっているんだ」
「ええ!? エルフ様のために!? それなら……仕方、ないかも……」

 エミリは納得しかける。

「は? 私、そんなの頼んでないんだけど」
「サプライズですから、そりゃ! ……エルフ様、ここは私にお任せください」
「でも大丈夫かな……最近のお父さん、ちょっと元気なかったし……」

 子供ながら父親の身を案じる。

「っ……」

 リーダーはエミリの肩に震えた手を乗せる。

「……心配ないさ。取りに行った先にはお母さんと会っているからね」
「ええ、お母さんと会ってるの!? じゃあ心配ない……って、ずるいぃ! わたし、ずーっとお母さんと会えてないのに! お父さんが行くなら……わたしも会いに行こうかな」
「こらこら、エミリ。君には大事な仕事があるだろう。エルフ様を世話する大事なお仕事が」
「んんん!?」

 すぐに否定でしようとしたが骨のある魚を咀嚼していたため、それが叶わなかった。

「うん、エルフ様を世話する! まずは……野菜が食べたい感じかな?」

 外れである。本当は水が飲みたかった。

「今はリーダーであるこの俺に任せて、エミリは子供たちと遊んでいなさい」
「わーい! リーダー、エルフ様をよろしくおねがいしまーす!」

 エミリが去った後に、ビクトリアは魚の骨が喉に刺さらないように飲み込み文句を言おうとした時、

「残念ながら彼女の父親は亡くなりました」

 さらりと隠していた事実を打ち明かした。

「……は?」
「鳥型の魔物にやられました。首をすぱっと……回復魔法を施そうとしたのですが自分の身を守るのに精いっぱいでした」
「……は? そんなに……あっさり?」

 リーダーは続けざまに、

「母親も魔物の襲撃にやられました。彼女の仕事は森に行き、果物や薬草を採集することです。今は娘のエミリが引き継いでます」
「あ、あんた!? 善人面しておいて、9歳の赤子同然の子になんて危険な真似を!?」
「魔法が達者のエルフ様にはわかりにくいでしょうが……これが行き場のない人間たちの生活なのです。それでも、この村に悪人は居ません。そりゃ窃盗程度はいますが……食べ物に困ってのことです。みんな支えあって絞り出して、つつましく生きてるのです」
「……買収が駄目とわかったら今度は泣き脅し?」
「ええ、そうです。みっともないでしょうが俺はこの村のリーダー。みんなに選ばれた以上、守るためならなんでもしなくちゃいけないんです」
「……みんなに選ばれた?」
「エルフ様にはなじみがないでしょうが、この村では最高責任者を最年長や世襲ではなく、多数決で決められます」
「……あんた、他人に人生決められて、それなのに……」

 ビクトリアの理解の範疇を越えていた。差異あれど自分も同じ境遇にあい、逃亡を選んだ。しかし目の前の男は違う。
 使命に燃える男は笑ってみせる。

「……一晩お待ちします。是非もう一度よくお考え下さい。きっと我々はよきパートナーになれます」

 蜂蜜酒と器を下げる。

「あなたと蜂蜜酒を酌み交わす日が来ることを楽しみにしています」

 そう言って席を外した。
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