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十七章トラウマと嫉妬
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「男恐怖症ってやつだろう。きっとばあちゃんの訓練が影響しちまってるんだと思う。しばらくはこういう状態が続くかもしれないけど」
違う。牧田が俺に何か細工をしたからだ。それ以外に考えられない。
「甲斐……本当に平気なのか」
それでも心配そうな表情をする直。
「どうしてか家族やEクラスの皆とかは平気なんだ。他の奴らと絡まなければそこまで生活に支障はでないよ」
震えそうな手を自らの手で強く掴んで押し殺す。動揺と困惑を直に悟られまいと強かに笑って見せた。
「それよりアンタだって忙しいんだから仕事戻れよ。今夜は鈴木財閥と接触があるんだろ」
各国の来賓を招いたレセプションパーティーに矢崎財閥も招待された。次期社長の友里香ちゃんは海外へ飛んでいるため、直が代理参加となっている。
白井の傘下に下った鈴木財閥だ。まるでアジトに乗り込むようなもんだから奴らの情報をそれとなく探れる。こんな機会を逃せば白井の情報がまた遠のく気もする。だから俺にかまけてチャンスを棒に振ってほしくない。
「お前がこんな状態なのに今は仕事なんて「バカ」
「そんなんで仕事は放棄するな。友里香ちゃんも誠一郎さんもいない中でアンタしか探れない」
「っ、でも、オレはお前が心配で……っ」
「心配してくれているのはありがたいし嬉しい。だけど、俺の事で迷うなよ。やるべきことをしろ。役割を忘れるな。そんなに心配なら、四天王や相沢先生にでも護衛つけてもらうから」
「甲斐……」
そう言いくるめて、俺は直を仕事へ向かわせた。直は腑に落ちない顔をしていたけれど、俺は大したことがないような仮面を貼り付けて直を送り出した。
「甲斐君!」
「甲斐、大丈夫か」
悠里、篠宮、宮本君、本木君、健一、昭弘君、あずみちゃんが、直と入れ替わりに入ってきた。
「あれ、みんなどうしたんだよ」
「心配で様子を見に来たんだよ。アンタが倒れてみんな授業どころじゃなかったし。だから、全員来るわけにもいかなかったから代表としてウチらがきたってわけ」
篠宮がそう説明する。あんな盛大に倒れちゃみんな驚くよな。
「心配かけちまったな……」
「直は仕事に行ったけど、いいの?」
「……いいんだ。俺のわがままで一緒にいてほしいなんて言えないし」
本当は、今は一緒にいたくないからなんて言えない。なんとか口実をつけて追い出したなんて口が裂けても言えやしない。
「全校集会の時、咄嗟に助けられなくてごめんね。直が来たりでびっくりしちゃって」
「いや、いいよ。俺もあんな目にあうなんて思わなかったし」
「それで甲斐君、今日様子がおかしいと思ったんだけど……何かあったんだろ?」
「……昭弘君とあずみちゃんは俺が他のクラスの男に絡まれてるの見てたもんな」
「甲斐君が絡まれてるって……いつもの事なのにどうかしたの?」
「それが甲斐君がかくかくしかじかで」
もはや絡まれるのは万年行事だから悠里が首をかしげるのも無理はない。これからは面倒な接触を避けるためにゴキをもっと大量持参しておかないとだめだな。
ゴキおもちゃで不要な揉め事が避けられるならいいんだけど、ゴキおもちゃに最近は耐性をつけてきた奴らもいるので慣れって嫌なもんだ。ゴキに慣れるって本人達も不服だろうけど。
「あ、ちょっと待った」
あずみちゃんが説明しようとすると、俺が待ったをかけた。
「直には言わないでほしいんだ」
「……何か、事情があるんだね?」
「……うん。言ったら、アイツ、すごく傷つくから」
「甲斐君……」
男が怖い、直が怖い、なんて思ってはダメなのにどうしてこうなっちまったんだろうか。十中八九、牧田の仕業なのはわかっているが、だからといって催眠にかかった記憶なんてないし。男性恐怖症なんて俺には不釣り合いな現象だ。
「それで、男恐怖症はEクラスのみんなや信頼している相手なら大丈夫なんだ」
「じゃなかったら、今頃ここにいる我々男子見てパニック起こしてるもんね。てことは……もしかして、直君に言えないのは……」
宮本くんがピンときた顔で俺に向き直ると、俺が頷く。
「俺……直にも恐怖を感じているんだ。白井の事を考えるだけで気分が悪くなるように、直と一緒にいるだけで震えが……どうしてか震えが止まらないんだ」
今はまだごまかせる程度の震えしか感じないからまだ悟られはしないだろう。しかし、この症状がもっとひどくなったら?さらにひどくなればごまかしなんてきかないだろう。
先ほど、ずっと直が手を握ってくれていたけれど、正直俺は震えて逃げ出しそうなのを必死で我慢していた。脂汗がどっとわいて、顔色の悪さを隠すのも一苦労だった。
過呼吸から助けてくれた相手にひどいよな、こんなの。
「名前も知らない男だけならまだしも、一番信頼すべき存在に恐怖しているなんて……こんな事知られれば直をどれだけ傷つけてしまう事になるだろうかって思ったら、言えなくて」
愛している人に恐怖を抱く爆弾を抱えちまったんだよ俺……。
「そうだったんだね……」
「とりあえず、直には黙っておくけど……いずれバレるならちゃんと話した方がいいと思うよ。黙ってられる方がよほど直は傷つくと思うから」
「……わかってる。そのうち話すよ。今はその勇気が出ないんだ」
違う。牧田が俺に何か細工をしたからだ。それ以外に考えられない。
「甲斐……本当に平気なのか」
それでも心配そうな表情をする直。
「どうしてか家族やEクラスの皆とかは平気なんだ。他の奴らと絡まなければそこまで生活に支障はでないよ」
震えそうな手を自らの手で強く掴んで押し殺す。動揺と困惑を直に悟られまいと強かに笑って見せた。
「それよりアンタだって忙しいんだから仕事戻れよ。今夜は鈴木財閥と接触があるんだろ」
各国の来賓を招いたレセプションパーティーに矢崎財閥も招待された。次期社長の友里香ちゃんは海外へ飛んでいるため、直が代理参加となっている。
白井の傘下に下った鈴木財閥だ。まるでアジトに乗り込むようなもんだから奴らの情報をそれとなく探れる。こんな機会を逃せば白井の情報がまた遠のく気もする。だから俺にかまけてチャンスを棒に振ってほしくない。
「お前がこんな状態なのに今は仕事なんて「バカ」
「そんなんで仕事は放棄するな。友里香ちゃんも誠一郎さんもいない中でアンタしか探れない」
「っ、でも、オレはお前が心配で……っ」
「心配してくれているのはありがたいし嬉しい。だけど、俺の事で迷うなよ。やるべきことをしろ。役割を忘れるな。そんなに心配なら、四天王や相沢先生にでも護衛つけてもらうから」
「甲斐……」
そう言いくるめて、俺は直を仕事へ向かわせた。直は腑に落ちない顔をしていたけれど、俺は大したことがないような仮面を貼り付けて直を送り出した。
「甲斐君!」
「甲斐、大丈夫か」
悠里、篠宮、宮本君、本木君、健一、昭弘君、あずみちゃんが、直と入れ替わりに入ってきた。
「あれ、みんなどうしたんだよ」
「心配で様子を見に来たんだよ。アンタが倒れてみんな授業どころじゃなかったし。だから、全員来るわけにもいかなかったから代表としてウチらがきたってわけ」
篠宮がそう説明する。あんな盛大に倒れちゃみんな驚くよな。
「心配かけちまったな……」
「直は仕事に行ったけど、いいの?」
「……いいんだ。俺のわがままで一緒にいてほしいなんて言えないし」
本当は、今は一緒にいたくないからなんて言えない。なんとか口実をつけて追い出したなんて口が裂けても言えやしない。
「全校集会の時、咄嗟に助けられなくてごめんね。直が来たりでびっくりしちゃって」
「いや、いいよ。俺もあんな目にあうなんて思わなかったし」
「それで甲斐君、今日様子がおかしいと思ったんだけど……何かあったんだろ?」
「……昭弘君とあずみちゃんは俺が他のクラスの男に絡まれてるの見てたもんな」
「甲斐君が絡まれてるって……いつもの事なのにどうかしたの?」
「それが甲斐君がかくかくしかじかで」
もはや絡まれるのは万年行事だから悠里が首をかしげるのも無理はない。これからは面倒な接触を避けるためにゴキをもっと大量持参しておかないとだめだな。
ゴキおもちゃで不要な揉め事が避けられるならいいんだけど、ゴキおもちゃに最近は耐性をつけてきた奴らもいるので慣れって嫌なもんだ。ゴキに慣れるって本人達も不服だろうけど。
「あ、ちょっと待った」
あずみちゃんが説明しようとすると、俺が待ったをかけた。
「直には言わないでほしいんだ」
「……何か、事情があるんだね?」
「……うん。言ったら、アイツ、すごく傷つくから」
「甲斐君……」
男が怖い、直が怖い、なんて思ってはダメなのにどうしてこうなっちまったんだろうか。十中八九、牧田の仕業なのはわかっているが、だからといって催眠にかかった記憶なんてないし。男性恐怖症なんて俺には不釣り合いな現象だ。
「それで、男恐怖症はEクラスのみんなや信頼している相手なら大丈夫なんだ」
「じゃなかったら、今頃ここにいる我々男子見てパニック起こしてるもんね。てことは……もしかして、直君に言えないのは……」
宮本くんがピンときた顔で俺に向き直ると、俺が頷く。
「俺……直にも恐怖を感じているんだ。白井の事を考えるだけで気分が悪くなるように、直と一緒にいるだけで震えが……どうしてか震えが止まらないんだ」
今はまだごまかせる程度の震えしか感じないからまだ悟られはしないだろう。しかし、この症状がもっとひどくなったら?さらにひどくなればごまかしなんてきかないだろう。
先ほど、ずっと直が手を握ってくれていたけれど、正直俺は震えて逃げ出しそうなのを必死で我慢していた。脂汗がどっとわいて、顔色の悪さを隠すのも一苦労だった。
過呼吸から助けてくれた相手にひどいよな、こんなの。
「名前も知らない男だけならまだしも、一番信頼すべき存在に恐怖しているなんて……こんな事知られれば直をどれだけ傷つけてしまう事になるだろうかって思ったら、言えなくて」
愛している人に恐怖を抱く爆弾を抱えちまったんだよ俺……。
「そうだったんだね……」
「とりあえず、直には黙っておくけど……いずれバレるならちゃんと話した方がいいと思うよ。黙ってられる方がよほど直は傷つくと思うから」
「……わかってる。そのうち話すよ。今はその勇気が出ないんだ」
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