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十二章明かされた過去と真実
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『さすがに相手が悪いんだ。あの矢崎財閥なんだ」
父が深刻な顔で話した。
『っ、矢崎財閥……ですか』
桁違いの大きな相手にさすがの私も言葉を失った。
『特に力を入れているホテル事業をはじめ、食品事業、オンライン事業、小売り事業など、あらゆる事業を展開している巨大財閥だ。今の日本の財閥の頂点に立つグループなのは知っているだろう。敵にまわせば私達程度の会社などあっという間につぶされてしまう。それどころか、いろんな弱みを握られ、私達を路頭に迷わせることだって造作ない権力と財産を持ち合わせている。お前もわかるだろう?矢崎がどれだけのものか。小さな損害かもしれんが、さすがに矢崎財閥相手にだけは目をつけられたくないんだよ』
矢崎財閥を敵にまわす事はすなわち社会的に抹殺される。
と、いう暗黙のルールがある事はこの社交界等では有名な話だ。私も小さい頃に聞いたことがある。矢崎財閥相手には下手に手を出すなと。下手をすればいろんな意味で殺される、と。
たとえ小さな損害レベルでも、矢崎に不利益を負わせ、不愉快だと一度目をつけられてしまえば、トップの声一つで中小企業程度の会社など簡単に潰す事などわけないという事も聞いた覚えがある。
『だからって、それとこれとは関係ないはずよ。それになぜ私の元へ来るのです?私はもうあなた方両親とは縁を切りましたが』
別に両親の損害云々は勘当された私にとって全く関係のない事だ。冷たい言い方かもしれないが、血縁者と言えど縁を切られたのなら尚更。会社の業績目当てな両親に愛想が尽きている今、この期に及んで助ける義務などないのが正直な気持ち。
それにだ。なぜ関係のない我が息子の直を差し出さなくてはならないのだ。そんなの冗談でも言ってはならない事だ。
『先日、矢崎財閥の次期跡取りとなる息子さんが肺炎で亡くなったのよ』
母が暗い顔で話す。
『亡くなったんですか』
一年半ほど前、跡取りが産まれたというニュースを盛大にテレビが取り上げていた事を思い出す。それに最近第一夫人が亡くなったばかりだった。
跡取り息子まで亡くなったとなれば、それとなく大きくマスコミが取り上げるはずだが、そのニュースは一向に流れている気配がない。
『これは矢崎の側近クラスしか知らない極秘情報だから、マスコミも当然知らない事なんだ。だから、決して表には漏らせないトップシークレット。今更世間に向けて息子が亡くなったなんて矢崎家からすれば沽券に関わるから公にはできないんだろう。たった一人の跡取りが亡くなった以上、矢崎家は極秘で養子をとる事にしたらしい』
父の言葉にピンときた私は、青褪めて体を震わせた。
『まさか……その養子の候補にあがっているのが……私の息子だっていうの……?』
『……そうだ。候補どころか、社長はお前の息子をいたく気に入ってな……もう養子にと決定したも同然の反応だそうだ。亡くなったご子息に顔つきも少なからず似ており、白人系のクオーターである事も願ってもいない偶然だそうだ』
たしかに自分は英国のハーフであるから直はクオーターになる。そして、亡くなった矢崎家の息子も北欧系クオーター。それだけで選ばれたというのか。
『だが、一番の理由はその息子の体に流れる特殊な血が理由らしい』
心当たりがある私はドキリと緊張した。
『っ……どうして、それを……!!』
『矢崎の情報網を舐めない方がいいだろう。受診歴等の情報を辿れば、病気の有無などもわかる。そこからお前の息子の情報など簡単に調べがついたらしい』
『っ……直の血が……何だって言うのですか。普通の子と何も変わらないじゃないですか。少し体が弱いとは思いましたが』
『その息子の体に流れる血は、霊薬の血と呼ばれるらしい』
『霊薬の、血……?』
『詳しい事は知らん。社長がそう言っておられたのだ。本人が訪ねて来た時に訊くといい』
なぜ。どうして。直の血が何だって言うの。霊薬?どういう事なの。
『私どもにその情報をよこしたのは、損害に対する示談という名の取引を持ちかけたからなのよ』と、母が話す。
『向こう側がな、今すぐにでも養子にくれないかと交渉してきてな……もし、養子に譲ってくれるというのならば、今回の損害の事は大目に見てくれる上に、私達の会社に多額の援助をしてやってもいいという願ってもないお言葉を頂けた。これを逃せば、私達は矢崎財閥の機嫌を損ね、目をつけられてしまうかもしれないのだ。だから『冗談じゃないわ!!』
私は父の言葉を遮って声を張り上げた。
『あなた達の自業自得なのにっ……息子を矢崎財閥へ人身御供にしろっていうの!?』
『だ、誰もそんな事は言っていない』
慌てて否定しようとする父だけれど、つまりは息子を差し出せば全てが丸く収まると言いたいのだろう。
『同じような事じゃない!業績のためなら私さえも捨てるようなあなた方なら、孫を売る事なんて息を吸うかのごとく簡単なんでしょうね!それに、私たちの事も目先の欲ばかりを見て認めて下さらなかったくせにっ。いいけしゃあしゃあとっ!本当に自分達の事しか考えてないのね、貴方達両親は』
父が深刻な顔で話した。
『っ、矢崎財閥……ですか』
桁違いの大きな相手にさすがの私も言葉を失った。
『特に力を入れているホテル事業をはじめ、食品事業、オンライン事業、小売り事業など、あらゆる事業を展開している巨大財閥だ。今の日本の財閥の頂点に立つグループなのは知っているだろう。敵にまわせば私達程度の会社などあっという間につぶされてしまう。それどころか、いろんな弱みを握られ、私達を路頭に迷わせることだって造作ない権力と財産を持ち合わせている。お前もわかるだろう?矢崎がどれだけのものか。小さな損害かもしれんが、さすがに矢崎財閥相手にだけは目をつけられたくないんだよ』
矢崎財閥を敵にまわす事はすなわち社会的に抹殺される。
と、いう暗黙のルールがある事はこの社交界等では有名な話だ。私も小さい頃に聞いたことがある。矢崎財閥相手には下手に手を出すなと。下手をすればいろんな意味で殺される、と。
たとえ小さな損害レベルでも、矢崎に不利益を負わせ、不愉快だと一度目をつけられてしまえば、トップの声一つで中小企業程度の会社など簡単に潰す事などわけないという事も聞いた覚えがある。
『だからって、それとこれとは関係ないはずよ。それになぜ私の元へ来るのです?私はもうあなた方両親とは縁を切りましたが』
別に両親の損害云々は勘当された私にとって全く関係のない事だ。冷たい言い方かもしれないが、血縁者と言えど縁を切られたのなら尚更。会社の業績目当てな両親に愛想が尽きている今、この期に及んで助ける義務などないのが正直な気持ち。
それにだ。なぜ関係のない我が息子の直を差し出さなくてはならないのだ。そんなの冗談でも言ってはならない事だ。
『先日、矢崎財閥の次期跡取りとなる息子さんが肺炎で亡くなったのよ』
母が暗い顔で話す。
『亡くなったんですか』
一年半ほど前、跡取りが産まれたというニュースを盛大にテレビが取り上げていた事を思い出す。それに最近第一夫人が亡くなったばかりだった。
跡取り息子まで亡くなったとなれば、それとなく大きくマスコミが取り上げるはずだが、そのニュースは一向に流れている気配がない。
『これは矢崎の側近クラスしか知らない極秘情報だから、マスコミも当然知らない事なんだ。だから、決して表には漏らせないトップシークレット。今更世間に向けて息子が亡くなったなんて矢崎家からすれば沽券に関わるから公にはできないんだろう。たった一人の跡取りが亡くなった以上、矢崎家は極秘で養子をとる事にしたらしい』
父の言葉にピンときた私は、青褪めて体を震わせた。
『まさか……その養子の候補にあがっているのが……私の息子だっていうの……?』
『……そうだ。候補どころか、社長はお前の息子をいたく気に入ってな……もう養子にと決定したも同然の反応だそうだ。亡くなったご子息に顔つきも少なからず似ており、白人系のクオーターである事も願ってもいない偶然だそうだ』
たしかに自分は英国のハーフであるから直はクオーターになる。そして、亡くなった矢崎家の息子も北欧系クオーター。それだけで選ばれたというのか。
『だが、一番の理由はその息子の体に流れる特殊な血が理由らしい』
心当たりがある私はドキリと緊張した。
『っ……どうして、それを……!!』
『矢崎の情報網を舐めない方がいいだろう。受診歴等の情報を辿れば、病気の有無などもわかる。そこからお前の息子の情報など簡単に調べがついたらしい』
『っ……直の血が……何だって言うのですか。普通の子と何も変わらないじゃないですか。少し体が弱いとは思いましたが』
『その息子の体に流れる血は、霊薬の血と呼ばれるらしい』
『霊薬の、血……?』
『詳しい事は知らん。社長がそう言っておられたのだ。本人が訪ねて来た時に訊くといい』
なぜ。どうして。直の血が何だって言うの。霊薬?どういう事なの。
『私どもにその情報をよこしたのは、損害に対する示談という名の取引を持ちかけたからなのよ』と、母が話す。
『向こう側がな、今すぐにでも養子にくれないかと交渉してきてな……もし、養子に譲ってくれるというのならば、今回の損害の事は大目に見てくれる上に、私達の会社に多額の援助をしてやってもいいという願ってもないお言葉を頂けた。これを逃せば、私達は矢崎財閥の機嫌を損ね、目をつけられてしまうかもしれないのだ。だから『冗談じゃないわ!!』
私は父の言葉を遮って声を張り上げた。
『あなた達の自業自得なのにっ……息子を矢崎財閥へ人身御供にしろっていうの!?』
『だ、誰もそんな事は言っていない』
慌てて否定しようとする父だけれど、つまりは息子を差し出せば全てが丸く収まると言いたいのだろう。
『同じような事じゃない!業績のためなら私さえも捨てるようなあなた方なら、孫を売る事なんて息を吸うかのごとく簡単なんでしょうね!それに、私たちの事も目先の欲ばかりを見て認めて下さらなかったくせにっ。いいけしゃあしゃあとっ!本当に自分達の事しか考えてないのね、貴方達両親は』
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