上 下
124 / 319
八章御三家と球技大会とアンチ王道

8-1

しおりを挟む
※ユカイtheスピンオフの「仁義なき女の闘い」を読んでからどうぞ。


 あの濃厚なデートから二か月ほど経ち、それぞれが普通の生活に戻っていた。

 矢崎の様子はいつも通りではあるが、きっと心の中では今でも親友との別れに傷ついているはずで、気休めの言葉はかけられないからこそそっとしておく事にした。本当は心配だし、そばにいたいけど……今は心の整理が落ち着くまでやめた方がいいよな。

 最近は裏社会の奴らもあまり襲ってこないし、理事長と校長の馬鹿共も秘密の花園関連で雲隠れしてんのか学校に姿を見せていないようだ。なんだかつかの間の平和というか、嵐の前の静けさのような感じがして不気味さを感じる。

 ていうか理事長と校長のくせに学校にいないってどーよ?そんなに身辺や闇討ちを警戒してんのかよ、と。やっぱこの学校は世間とは乖離しまくっている。

 ここ最近の二か月といえば、パンチラじいさんのケツ穴手術の付き添いや、クラス全員で行った海水浴、夏休み恒例じいちゃんとの地獄の猛特訓に精を出したって所だ。おかげでまた一段と筋力と体力がパワーアップして、この調子ならいつかじいちゃんに勝てるかなと思っているんだが、まだまだ勝てなかった……。

 楽しい夏休みも終わり、今や新学期中盤というところで球技大会の話題が出た。


「球技大会は金持ち御三家合同でやるらしい」

 健一が一足早く一か月後の球技大会の情報を掴んできた。さすが情報屋と言わんばかりの素早さだなと思っていたら、直接職員室で教師が話していたのを聞いたらしい。

 球技大会か、金持ち学園なくせしてそんなものもちゃんとあるんだな。それに金持ち御三家って百合ノ宮と無才学園も参加って事かな。あの曲者揃いの女子校と男子校もか。なんか嫌な予感が走った。


 脳裏に知り合いの百合ノ宮学園と無才学園の連中の面々が思い浮かぶ。あの二校は仲が悪かったはずだ。

 濃い面々を思い浮かべると、言わずもがな俺の妹の未来と友里香ちゃん。超絶男嫌いな生徒会役員と百合の世界にいる女子一同。まあ、楽園な感じがしてそれはまだいい。可愛い美少女が俺のようなキモオタの目に写るなら目の保養にもなろう。

 だがしかし、無才学園。お前らはダメだ。くんな。汗臭い野郎なんて見ても学園の名前通りむさいだけだ。俺の視界に野郎はいらん。シッシッ。

 特に無才学園の生徒会長の天草ってドM野郎はリコール希望だ。
  
 どM野郎は俺が宮本君を助けるためにカンチョーをしてから翌日、俺が気に入ったのか5割の確率で登下校時によく現れるようになり、ケツを蹴ってくれだとか、ケツにナニヲ入れてくれだとか、うざってーほどに俺に付きまとうようになったのだ。タヒね。

 もうあいつの存在自体が気持ち悪くて気持ち悪くて、とんでもない奴を目覚めさせてしまったのが俺の落ち度である。あんなドM野郎が生徒会長って事も終わっているが、その他の生徒会役員も頭がいかれているって噂なので、ロクな奴がいねえ学校なんだろう。

 俺、その日だけ仮病使ってさぼろうかな。そう思っていたら、


「ちなみに球技大会の優勝クラスは一年間食堂無料券が贈呈されるんだってよ」
「なんだと!!」

 まじか!!

 クラス全員がどよめき、健一の情報に食いついてくる。特に大食いデブの屯田林を筆頭にクラスの巨漢共が騒ぎ出す。もちろん俺もだけど、しかし……懸念材料が多すぎて素直に喜べない俺……(´;ω;`)

「へえ、食堂の利用一年タダ券なんて今年は例年にに比べて随分と豪華じゃないの」と、由希。
「今年は三校合同だからだろうな。学園の野郎共の団結力を深めるために奮発したんだろう」と、健一。
「うおおお!食堂のタダ券なら金持ちお坊ちゃん共には負けられねーぜ!そうだろ!?みんな!!」
「「うおおおおおお!!当然だろうがバカ野郎!!」」

 クラス一のお調子者のなっちが脳筋野郎共に鼓舞すると、野太い野郎共のきめえ咆哮が教室中どころか廊下中に響き渡る。お前らの不協和音のせいでガラスが割れるからやめい。

「食堂なんてEクラスじゃ利用させてくれないもんね。それに私たちの大半が貧乏人の集まりだから、利用できないどころかお金がなくて注文できないし」
「でも優勝できたらクラス全員利用だから、貧乏人の私らは助かっちゃう」
「あたし今月お金ピンチだから、優勝できたら食費めっちゃ助かっちゃうし、こりゃやるっきゃなくね!?」
「「だよねー!!」」

 かしまし三人娘も、先ほどまでは「もうすぐ球技大会だるー」などやる気ゼロであったが、食堂利用タダ券と聞いてイケメン彼氏を見つける以上にやる気を見せている。

 Eクラスってだけで食堂を一度も利用した事がないので、高級料理がタダで食えるとなるとクラスメート一同が俄然やる気を出さないはずがない。おまけにEクラスは頭はバカだが脳筋として有名なので、体力勝負では歴代のEクラス達は毎年上位に食い込むのだ。

「ああん、あたしも架谷くんのためにがんばっちゃうわぁ~」
「こ、光栄でございます……」

 クラス一の乙女志向で巨体の花野総子はなのふさこが俺にアピールするような(不気味な)流し目をむけてくるので、俺は視線をかわしながら愛想笑い。この手の女子を怒らせたら怖いのだ。

「甲斐君はどの競技に出るの?」

 悠里が俺が花野に絡まれているのを見かねてか声を掛けてきた。

「俺はまだ考え中で「架谷くんはあたしとラブラブフォークダンスに参加するのよ」
「ひいぃっ!!」

 花野が俺にひっついて腕を組んだと思ったら正面から抱き着いてきやがった。

 く、苦しい!なんて馬鹿力!外れない!?ていうかフォークダンスなんて競技ねえし。 

「だからぁ~一位まちがいなしよぉん」
「ぐぇえ」

 花野の胸につぶれるっつーか女の分厚い大胸筋につぶされるううう!

「うふふふ架谷くんてばなんて顔してるのかしら~。あ、もしかしてあたしとペアになれて嬉しいって事?や~ん甲斐くんてばあ!かわいいんだからぁ~ういやつよのう~」

 花野の三つある鼻が鼻息荒く興奮し、テンション高くなる。

 俺、マジ死ぬ。絞殺される……だ、だれか……

「ちょっと総子ちゃん!甲斐君が死にそうな顔をしているから放してあげなよ。そんなに強く抱きしめちゃ苦しそうでしょ?」
「あら、あたしとした事が!つい愛する甲斐くんをぎゅっと強く抱きしめすぎちゃったわん!うふふふ。ごめんなさいダーリング!」

 花野が死にかけの俺からやっと退く。やっと解放されたっ。死ぬかと思ったっ。そもそも俺はあんたのダーリングになった覚えはありませんがな。

「もう総子ちゃん!甲斐君の事ダーリングなんて呼んじゃだめよ!甲斐君を気になってる子が他にもいるかもしれないんだよ。少しは他の子にも配慮しなきゃ」
「ふん!甲斐君はあたしのものよん!だぁれにも渡さないんだからんっ!球技大会でラブラブカップルパワーを見せつけるのよ!」
「ふーん……総子ちゃんさっきまで球技大会なんてお肌に悪いとか、女の子がはしたなく運動に精を出すなんてみっともないわとか言ってなかった?それに球技大会さぼって四天王のおっかけに行くとも言ってたし……それってうそつきじゃないの?甲斐君の前でも嘘ついちゃうの?恋する乙女が嘘つきなんてよくないよ~?」

 悠里が小悪魔風に先ほどの花野の様子を暴露すると、花野が焦ったような表情に変わっていく。

「あーそ、それは~まあ言葉のあやっていうか~気が変わったっていうか~……う、嘘だなんて人聞きの悪い事を言わないでちょうだいよっ!あたしが嘘をつく時は甲斐くん以外の男だけよ!し、四天王様は別だけど。悠里ちゃんてば意地悪なんだからんっ!あほほほほ」

 花野は滝のように汗をかいたと思ったら、焦った顔で逃げるように去って行った。巨体でドスドスと重みある足音を響かせながらも、意外に素早い逃げ足の速さだ。イケメンの追っかけはどうあがいてもやめられないようだな。

「た、助かったよ、悠里」
「ううん。甲斐君に付き纏うお邪魔虫ブスタンクを排除したかったから」
「え」
「ううんなんでもないの。甲斐君が無事でよかった」
「本当にな」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:249pt お気に入り:1

アムネーシス 離れられない番

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:1,223

天獄パラドクス~夢魔と不良とギリギリライフ

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:54

ブラザー・キス

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

僕がアイツに捕まった話

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:501

処理中です...