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六章初デート

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 自室に入ってしばらくすると、スマホの振動に気づいた。

 パソコンでエロゲでもしようかなという所だったので、振動だけで盛大にびくついてしまったよ。
 なんせエロゲ中や男の儀式中にいきなり親が入ってくるという恐怖を知っているので、その最中や前後は油断ならんのだ。

 以前、妹や母ちゃんが気配を立てずにノックなしで扉を開けるというドッキリがあったし、あれ以上の恐怖という名の戦慄な出来事はなかったものだ。あの時はちょうど男の儀式が終わった直後で、あと一歩早ければ母ちゃんや未来に思春期の花園を見られていた事になるわけで、俺の背筋が凍ったよ。

 考えるだけでなんというホラー!なんという辱め!空気を読んでくれない親子である。もし見られでもしたら、一か月は部屋から出てこれない自信がある。そしてパラヒキニートまっしぐらだ。辱めを受けて羞恥心で死ねると言っても過言ではない。マジで部屋に鍵でもつけようかな。

 で、スマホの画面を確認。
 む。着信は矢崎、か。

 最近やっと矢崎と連絡先を交換しあった。今までなんで交換しなかったんだろうと思うほど、仲が深まってきていたのに不思議である。まあ、単純に「訊かれなかったから」とかいう理由からなんだけどね。矢崎からすれば本当は知りたかったみたいだけど、なかなか言い出せなかったみたいで別にそれくらいいいのに。遠慮すんなっつうの。案外ヘタレか?

 矢崎をはじめとする四天王は、立場上プライベートな連絡先を知られてはまずいので、信用に値する人物以外は本当の連絡先は教えないんだと聞いた。その場合は仕事用やご学友用等に分類するようで、悪用された場合はすぐに新しい機種と番号を変更するんだとか。

 仕事用、身内親族用、プライベート用が存在するらしく、スマホは3台持っているとか言っていたけど、取引先とか友達とか含めて連絡先を把握するの大変そうだな。

 特にプライベート用は数えるほどしか登録されていないらしく、滅多に人前では取り出さないんだってよ。そのプライベート用に登録されるのが世の女性達の夢らしく、常に連絡先を調べようと親衛隊や全国に大勢いるファンクラブの皆さんは血眼になっている……と、情報屋の健一から聞いた。

 そのプライベート用に俺も登録されたと思うと、矢崎を筆頭とする四天王は俺の事を信頼してくれているって証なんだろうな。そう思うと、少しだけうれしく思ったり、ね。


「もしもし、矢崎か。久しぶり。どうしたんだよ」

 スマホを耳に当てる際、先ほどの写真集の顔を思い出して胸がツキりと痛むが、いつも通りを装う。

『時間ができたから、空いている日を聞きたかったんだ。デートするって約束しただろ?それと……声が聞きたくなった』

 矢崎の声がいつもより優しさを帯びている気がした。

「そ、そうか。デートは……まあ、いつでもいいよ。日曜はバイト入れてないから」

 なんかドキドキするな。たかが電話で話し合っているのに。
 それに声が聞きたくなっただなんて……恋人相手に言うようなもんだろ。

『じゃあ……今度の日曜日でいいか?』
「ああ。その日で構わない」

 今度の日曜日は丁度何も予定がない日だ。いつもなら母ちゃんが暇なら手伝いをしろ、買い物の荷物持ちになれとか何かとお使いを頼んでくるので、今回はすべてお断りに徹するぞ。

「………………矢崎?」

 急に黙り込んで一瞬だけ沈黙が訪れていた。

『たくさん話したいのに……会話が思いつかねー』
「え……あー……無理に話さなくていいだろ。学校で会えるんだし」
『それでも!それでも……最近はなかなか会えてないだろ』
「まあ、たしかに1週間は会ってないけど」

 クラスも違うどころか矢崎は学業より仕事で忙しいし、というか学校にすら来れない日が続いている。あのテロ事件から一週間は顔を見ていないしな。

「日曜日に会えるじゃん」
『オレはもっと……』
「ん?」
『お前に会いたいよ』

 矢崎の一途な求愛宣言に電話越しで面食らう。俺は頬が急激に熱くなっていくのを感じた。

「っ……何、言ってんだよ。野郎相手に……」

 心臓が高鳴って動揺を隠せない。

『野郎相手だからってそんなの関係ないだろ……。お前だから……架谷だからそう思うんだ』
「そ、そうか。そこまで想ってくれて俺って愛されちゃってんなーだははは」
『本当に……愛してるって言ったら……どうするんだよ』
「っ……と、とりあえず、日曜日な!えーと場所は~あんた有名人だから数十キロ離れたショッピングモールとかにしようかねー。え~で~時間は~」

 矢崎の求愛宣言に戸惑う俺。慌てて話題を切り替える。無理にでも切り替えないと、募っていた気持ちが止まらなくなるような気がしたのだ。矢崎への淡い想いが。

『じゃあ時間は9時半に〇〇駅前でいいな。本当はお前の家に迎えに行きたいけど、それじゃあ庶民のデートとは言わないから』
「庶民のデート?」
『……オレ、一般人がどこへ遊びに行っているのかイマイチよくわからないから、お前が教えてほしいんだ』
「ふむ、それならお安い御用だ……と、言いたいところだが、俺デートってした事ないから世間のリア充共がどこに行くかよくわかんないんだよなー。友人と行くところって大体二次元ショップと焼き肉屋かラーメン屋くらいだし……」
『それでいいよ』
「へ!?」

 俺が行く所なんてほぼ二次元ショップとは言葉を濁しているが、はっきり言うとキモオタ御用達エロゲショップだぞ。いいのかよ。

『お前が普段行っている所や好んでいる場所を知りたいってのもあるから、どこへでも着いて行く』

 いいのかそれで。典型的な野郎の行きつけの店って感じでツマらんぞ。

「ま、まあお前がどーしてもって言うならそれでいいけど……マジでいいのか?お前が以前校内放送で朗読したような内容のDVDや本が売られている専門の店なんだけど」

 日曜日に限定版バンビちゃんフィギュアが発売されるから買おうと思っていたしな。そこにも寄る予定でして……

『とらの●なって所だろ?お前がキモオタなドスケベ趣味持ちってのは百も承知だから別にどうってことはない』
「いやいや。とらの●なは有名すぎて逆にそこには置いてないんだよなーこれが。裏通りにある本当のマニアックな店なんだけどー……まあそんなこたぁ別にいいや。つーかドスケベ言うてもドスケベ経験は俺ゼロだから、ドスケベ趣味とは言わないんじゃねえの?」
『それでも童貞なドスケベとは言うだろ。試してみるか?』
「何をだよ。そもそも俺のドスケベは妄想で生きるのであって、実地経験は女相手ならいざ知らず、野郎を相手になんて無理だ。お前だって男相手なんてした事ないだろうし嫌だろ?」
『ない事もないが……オレは全然構わないけど』
「はい?」
『お前相手ならキスもセックスもできるって言ってんだ』
「んなっ……!!」

 絶句である。キスはもうされたが、セクロスなんてそんな……俺の貞操の危機だ。

「お前といるとなんだか身の危険を感じそうなんだけど」

 ある意味ぞっとする。

『半分冗談で半分本当。お前が本当に嫌な事はしないというかしたくないから』
「それでも、お前は俺をその対象で見れるのがすごいよ。恋愛感情があっても野郎同士なんて抵抗あると思うんだが」
『お前のそばにいたいんだから……そう思うのが当然だろ』

 もはや気持ちをあまり隠す事のなくなった矢崎に、俺だけが動揺しているパターンが増えてきた。ツンがもはや皆無である。

「っ……もう何も言わんがな。とりあえず、日曜日は9時半に〇〇駅前という事で!以上終わりだ」

 これ以上話していると、何を言われるかわかったもんじゃないので電話は強制終了した。

 

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