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五章仮面ユ・カイダー爆誕

5ー15

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 4限目の授業がやっと終わり、飯だー!と喜んで出ていくEクラスの男共。
 なっちとEクラス一の巨漢で坊主頭デブの屯田林大丸とんだばやしだいまるを筆頭にぞろぞろ購買へ向かって行った。

 ここの購買ってクソ高いんだよな。
 パン一個が500円くらいするという謎。金持ち学園だからなんでも物価が高いし、たかがミントガムが一個300円もするのだ。
 健一や由希ならEクラスでありながらもわりと家が裕福なのでどうってことはないが、俺レベルの貧乏だと購買ですら無理と感じるよ。

 宮本くんや本木くんの家も俺ほど貧乏ではないが、平凡な一般中流家庭なので購買ではなく弁当を持参してきている。やっぱ自炊が一番安つくよ。しかし、俺も大丸やなっち並みに大食いだが貧乏なので、食費を考えるとたくさんは食えない……泣。

「はー食堂に行ってみたいよねー」
「無理な事言うなよ。俺らが食堂なんて行けば上位クラスの奴等に投石されてフクロにされちまうべよ」
「そうなんだけどさーでも食堂には高級寿司やら鰻重やらステーキやらがあるんでしょ?昼から贅沢するってうらやましいよねー。卒業するまでには一度でいいから利用してみたいもんだわ」
「この学校にカースト制度がなくなれば食堂にも行けるかもなー。夢の話だけど」

 吉村がかしまし娘らと食堂について話し合っている。そんな吉村の昼飯はカップ焼きそばであった。お湯はポットを持参したらしい。なんとも貧しい昼飯だ。

「親衛隊とドンぱちしてる甲斐ですら食堂って行ったことないんだろ?」
「そりゃあ俺でさえあんなとこ行った事ねーな。ていうかむしろ行きたくねーわ。敵だらけだし、うるせーしな」

 食堂は高級レストラン顔負けの料理が並んでいると聞く。しかし、我々Eクラスが易々と入れる領域ではない。
 なぜなら、Eクラスだからだ。言わずもがな最下層身分だからだ。平民か奴隷かの奴が貴族のお食事会なんぞにお呼ばれするはずがないのだ。入ればボコボコにされてつまみ出されるがオチ。

 本当は羽振りがいい時に食堂で一番安い定食でも頼んでみたい願望があるけど、Eクラスの生徒がいるとわかれば迫害を受けるので、それぞれ家から持参か購買で済ませるのが我々下級民族の昼食の過ごし方である。何より、食堂付近は親衛隊どもが張り込んでやがるので、豪華な飯のために命を懸けてまで敵の中心部なんかに行きたくはない。

「たしかに。食堂には親衛隊とか四天王信者がうろちょろしてるもんな。おまけに生徒会長の草加の変なファンもゴロゴロしてるし」
「あの会長にもその手のファンがいるのか」
「そりゃあの容姿でSクラスで生徒会長だぜ?ショタ好きの女のファンが大半だが、Aクラスとかにいるゴツい野郎からもモテるって話」
「……なんとなく想像できるわ」

 Aクラスのゴツい野郎って……先日、本木くんやオタ熊らをいじめていたAクラスのレスラー軍団の事かな。
 開星三大美女が好きなくせに、草加というショタみたいなもやしも好きとは節操がない奴等だ。ああいうのをバイっていうんだっけ?二刀流とは趣味の範囲が幅広い。

「あれ甲斐。荷物持って今日は外で食べるのか?」
「あーちょっとな」

 周囲に人がいないのを見計らって俺は教室を出た。もう一人分の弁当を持参して。

 四天王の溜まり場である展望ラウンジは、特殊なエレベーターを乗り継いで四天王が了承を得ている者のみ入れる最新式VIPルームである。
 VIPというだけあってただの在校生や教師は入れないし、Sクラスで四天王と関わりがある者でさえ四天王の了承を得ていなければ入室する事はできない。

 入室するには四天王からの了承はもちろんの事、エレベーターに入室する前の指紋認証やエレベーター後の毎日変わるパスコードの入力が必須で、なんとも面倒な手続きを踏まなければ展望ラウンジの入り口へ辿り着けないのだ。親衛隊からの接触や命を狙われる立場ゆえに強固な防犯なのは仕方がないんだろうけど、本当に用がある人にとっては面倒な事この上ないよ。

 俺は矢崎の従者なので前々から入室許可が出ているし、最初のエレベーター前の指紋認証はクリア。
 あっさりエレベーターの扉が開き、最上階行きを選択。ちなみにエレベーター内には常にAI人工知能式監視カメラが作動しており、そのAIがカメラ上で不振人物だと判断すれば展望ラウンジへ向かうどころか自動的に地下の警備室行きに直行ということになるのだ。AIが管理とか最新式なだけあって金かけてるよな。

 俺は従者だからAIのカメラ認証もあっさりクリアし、エレベーターが展望ラウンジ入り口前に到着。最後のパスコード入力前まで来てそれもとっとと打ち込む。

 このパスコードだけは毎日変わるので、一度忘れてしまうといちいち警備室へ訊きに行かなければならないという面倒くささがあるのだ。おまけに二回以上パスコードを間違えると、なんだろうとどんな事情があろうと二日以上は入室禁止になってしまう。たとえ本当に用があってもよほどの理由がない限り入室許可がおりず、どうしても入室したい場合は始末書を記入し、警備システムと四天王への許可をもらわない限り解除ができないという決まりだ。

 手間を考えるとあまりここを待ち合わせに指定してほしくないものである。まあ、矢崎も仕事が忙しいので最近は常にラウンジにこもっているらしいし……外に出れば面倒なファンに絡まれるだろうからって仕方なくラウンジでの待ち合わせだ。銀行の暗証番号がわからなくなるより面倒な手続きが必要なので、ここへ入室する際は無駄に緊張してしまうよ。

 ピ、ピ、ピー……ポーン

 数秒の沈黙の末、パスコードの間違いもなくラウンジの玄関扉が開いたのでホッとする。
 ラウンジのフロアに入室すると、先程までとは違う大理石の廊下が広がる。長い窓から外を見れば高層ビルとお台場方面がよく見えていい眺めだ。この眺めを四天王どもは独り占めしていると思うとズルいものである。

 ええと、矢崎がいるのは奥の部屋かな。廊下にいくつも部屋があるが、カラオケールームやビリヤードなどの娯楽ルームからスイート顔負けの寝室や執務室までなんでもあるそうで、無意味に部屋がありすぎだな。

 ん……あれは……。
 俺は踏み入れる足を戻して立ち止まった。


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