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五章仮面ユ・カイダー爆誕
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『オレ……今までいろんな女がいたけど、最近……拓実に言われてなのが悔しいが、今までの女と手を切り始めているんだ。お前とちゃんと向き合うために』
急に話が変わったのでなんの事かと思ったが先日の事か。今時のアイドルグループ以上に人気な四天王だもんな。大金持ちだもんな。
そりゃあ世界中の女が放ってはおかないだろう。矢崎に女の影があってもそれが普通だろうし、愛人とかがいない方が逆におかしいとも言われている世界だ。
「別に無理すんじゃねーよ。仕事上での付き合いとかで仕方ないんだろうなって思うと納得もするし、お前も性欲旺盛な10代の男だもんな。今後のビジネスのために女と『仕方なくなんてねーよ!!』
矢崎が急に大きな声を出して怒鳴るので驚いて怯んでしまった。
いきなり怒った事に呆然とするが、矢崎はすぐに『悪い』と意気消沈した声で謝罪する。
『……オレ、お前以外の奴なんて興味ないし、好きでもない。それだけは本当』
「……」
『お前に不真面目で遊んでいるって思われたくないから、今まで遊んでいた女全てと手を切ってる。今さらだって思うかもしれないが、全ての女と関係を絶ててやっとスタートラインに立てると思うんだ。何もないまっさらな状態で、お前とちゃんと向き合いたいから……』
「……矢崎……」
『オレには……時間がない、から…』
「え?」
あまりに小声でよく聞こえなかった。
『……なんでもない』
それ以上は矢崎は何も言わなかった。
俺もなんて返事をしていいかわからなくなり、少しの間沈黙が流れる。
『………………なあ、明日……』
少しの間を置いて矢崎が恐る恐る話し出す。
『お前が作った弁当……食べたい』
「……弁当?」
『この前食べた時美味かったから』
「……弁当、か。それならお安いご用だけど」
『……じゃあ、昼にラウンジに持ってきてくれよ。お前のお手製を』
「ふむ………わかった。昼になったらいの一番に持って行く」
『それから一緒に……』
「一緒に食べたいってか?」
俺がなんとなく矢崎の言いたいことを察して言う。
『お前が作ったやつだから、作った本人がいないと感想がすぐ言えない』
「でも、俺にとっては学校は戦場だから、絶対来れるとは言えないからな。親衛隊と鬼ごっこする事になって来られないかもしれないし、猫の世話もあるから」
『……それでも、待ってる。一緒に、いたいから……』
「……確約はできないけど、善処しよう。弁当だけは、もし来れなくても誰かに頼んでおくから」
行ってあげたいのは山々だが、こちらにも都合というものがあるからな。
『そろそろ、時間だから切る。これから海外支店とのリモート会議だから』
「大変だな。その年齢で子会社といえど社長って立場も」
『主要会社じゃないだけまだマシな方だ。財閥社長となって全指揮権を持つと寝る間もないほど忙しいって聞いてる。これでもまだ暇な方だろう』
「うへー……俺にゃあ想像できん世界だ。じゃあ、そろそろ……『架谷』
改めて名前を呼ばれる。
「ん?」
『ありがとう……電話、うれしかった』
矢崎からお礼を言われるとは思わず俺は固まる。次第に恥ずかしくなって口ごもり、妙に照れ臭くなってしまった。
「ま、まあ……どういたしましてだ。仕事、がんばれよ」
『……うん』
そうして電話を終えた。
通話時間1時間30分か。結構長電話したものだ。俺の通話時間の最高記録かもしれん。
案外、楽しいもんだな。電話で会話をするっていうのも。電話でしか話せない事ってのもあるだろうし、新たな発見が大いにあった。
また、電話してもいいかな。
翌日、いつもより早起きして弁当作りに気合いを入れた。
毎日作っていると言っても、矢崎にあげるのは初日だから豪華なおかずでも入れておいてやろうという心意気だ。
眠いけど、他人にあげるものだと思うといつも以上に張り切ってしまう。舌が肥えていそうな奴だから美味いと言ってくれりゃあいいけどな。
「おはよう、甲斐くん」
「おはよう、神山さん」
登校途中で神山さんと近所で遭遇した。
神山さんは今は神山夫婦の元を家出して、黒崎家で居候として暮らしているようで、肩の荷が下りたのか以前より明るくなったように思えた。
「もう、甲斐くん!私は名前で呼んでいるのに、甲斐くんも私の事を名前で呼んでって言っているじゃない」
「あーごめん。つい、まだ癖が抜けなくて」
「じゃあホラ言ってみて」
「え、……あー……えー……ゆ、悠里……」
恥ずかしくなりつつ名前を呼ぶ俺。まだまだ彼女を名前呼びって慣れない。
「ぎこちないけどまあいいか。はやくスムーズに呼べるようになってね」
最近の彼女は以前のように内気さがなくなり、暇さえあれば俺にどんどんアタックしてきている。
彼女の積極的な部分は日々上昇しており、その度にドキドキする俺はやはりチェリーボーイだ。
「あれ、甲斐くんいつもより荷物多いね」
両手鞄が二つあるのに気づかれる。
「あーこれは弁当で……」
「甲斐くんのお弁当?でも二つあるけど……」
「こ、これは猫にあげるやつだ。特製キャットフード!新商品を試してみようって事になってさー」
矢崎にあげるやつなんて言えば神山さ……いや悠里と矢崎が揉めそうなので絶対に言えない。
あの二人、出会えば俺をめぐっての口喧嘩をするようになってるし、その口喧嘩に巻き込まれるのも嫌だしな。
俺をめぐってという所がなんとも非現実的ではあるが、それプラス相田とかまで加わるともっと面倒である。
あいつら、なんで俺なんかに気があるんだか……。
「新商品かー。甲斐くんの猫ちゃん可愛いもんね。また触りにいってもいいかな?」
「いいよ、お安いご用さ」
「じゃあ、お昼のお弁当食べた後に猫ちゃんの家に行ってもいいかな?」
「んー……昼、か」
矢崎と約束しているなんて言えないしなー。でも矢崎には絶対ってわけではないことは伝えてあるしよ。なんか二股かけているみたいで罪悪感がわいてしまう。二人とはそういう関係ではないのに……むうう。
「予定あるの?」
「あ、いやそういうわけじゃないんだが……テスト近いからよ、呼び出されるかもなーって思って」
「そっか~じゃあ、時間空いてたら教えて。メッセでもなんでもいいから」
「ああ、わかったよ」
神山さ……悠里とはアド交換しているけど、未だに矢崎とは連絡先を交換していない謎である。
でも向こうから訊かれないから別にいいよな。お昼に会った時にでも訊けばいいし。
急に話が変わったのでなんの事かと思ったが先日の事か。今時のアイドルグループ以上に人気な四天王だもんな。大金持ちだもんな。
そりゃあ世界中の女が放ってはおかないだろう。矢崎に女の影があってもそれが普通だろうし、愛人とかがいない方が逆におかしいとも言われている世界だ。
「別に無理すんじゃねーよ。仕事上での付き合いとかで仕方ないんだろうなって思うと納得もするし、お前も性欲旺盛な10代の男だもんな。今後のビジネスのために女と『仕方なくなんてねーよ!!』
矢崎が急に大きな声を出して怒鳴るので驚いて怯んでしまった。
いきなり怒った事に呆然とするが、矢崎はすぐに『悪い』と意気消沈した声で謝罪する。
『……オレ、お前以外の奴なんて興味ないし、好きでもない。それだけは本当』
「……」
『お前に不真面目で遊んでいるって思われたくないから、今まで遊んでいた女全てと手を切ってる。今さらだって思うかもしれないが、全ての女と関係を絶ててやっとスタートラインに立てると思うんだ。何もないまっさらな状態で、お前とちゃんと向き合いたいから……』
「……矢崎……」
『オレには……時間がない、から…』
「え?」
あまりに小声でよく聞こえなかった。
『……なんでもない』
それ以上は矢崎は何も言わなかった。
俺もなんて返事をしていいかわからなくなり、少しの間沈黙が流れる。
『………………なあ、明日……』
少しの間を置いて矢崎が恐る恐る話し出す。
『お前が作った弁当……食べたい』
「……弁当?」
『この前食べた時美味かったから』
「……弁当、か。それならお安いご用だけど」
『……じゃあ、昼にラウンジに持ってきてくれよ。お前のお手製を』
「ふむ………わかった。昼になったらいの一番に持って行く」
『それから一緒に……』
「一緒に食べたいってか?」
俺がなんとなく矢崎の言いたいことを察して言う。
『お前が作ったやつだから、作った本人がいないと感想がすぐ言えない』
「でも、俺にとっては学校は戦場だから、絶対来れるとは言えないからな。親衛隊と鬼ごっこする事になって来られないかもしれないし、猫の世話もあるから」
『……それでも、待ってる。一緒に、いたいから……』
「……確約はできないけど、善処しよう。弁当だけは、もし来れなくても誰かに頼んでおくから」
行ってあげたいのは山々だが、こちらにも都合というものがあるからな。
『そろそろ、時間だから切る。これから海外支店とのリモート会議だから』
「大変だな。その年齢で子会社といえど社長って立場も」
『主要会社じゃないだけまだマシな方だ。財閥社長となって全指揮権を持つと寝る間もないほど忙しいって聞いてる。これでもまだ暇な方だろう』
「うへー……俺にゃあ想像できん世界だ。じゃあ、そろそろ……『架谷』
改めて名前を呼ばれる。
「ん?」
『ありがとう……電話、うれしかった』
矢崎からお礼を言われるとは思わず俺は固まる。次第に恥ずかしくなって口ごもり、妙に照れ臭くなってしまった。
「ま、まあ……どういたしましてだ。仕事、がんばれよ」
『……うん』
そうして電話を終えた。
通話時間1時間30分か。結構長電話したものだ。俺の通話時間の最高記録かもしれん。
案外、楽しいもんだな。電話で会話をするっていうのも。電話でしか話せない事ってのもあるだろうし、新たな発見が大いにあった。
また、電話してもいいかな。
翌日、いつもより早起きして弁当作りに気合いを入れた。
毎日作っていると言っても、矢崎にあげるのは初日だから豪華なおかずでも入れておいてやろうという心意気だ。
眠いけど、他人にあげるものだと思うといつも以上に張り切ってしまう。舌が肥えていそうな奴だから美味いと言ってくれりゃあいいけどな。
「おはよう、甲斐くん」
「おはよう、神山さん」
登校途中で神山さんと近所で遭遇した。
神山さんは今は神山夫婦の元を家出して、黒崎家で居候として暮らしているようで、肩の荷が下りたのか以前より明るくなったように思えた。
「もう、甲斐くん!私は名前で呼んでいるのに、甲斐くんも私の事を名前で呼んでって言っているじゃない」
「あーごめん。つい、まだ癖が抜けなくて」
「じゃあホラ言ってみて」
「え、……あー……えー……ゆ、悠里……」
恥ずかしくなりつつ名前を呼ぶ俺。まだまだ彼女を名前呼びって慣れない。
「ぎこちないけどまあいいか。はやくスムーズに呼べるようになってね」
最近の彼女は以前のように内気さがなくなり、暇さえあれば俺にどんどんアタックしてきている。
彼女の積極的な部分は日々上昇しており、その度にドキドキする俺はやはりチェリーボーイだ。
「あれ、甲斐くんいつもより荷物多いね」
両手鞄が二つあるのに気づかれる。
「あーこれは弁当で……」
「甲斐くんのお弁当?でも二つあるけど……」
「こ、これは猫にあげるやつだ。特製キャットフード!新商品を試してみようって事になってさー」
矢崎にあげるやつなんて言えば神山さ……いや悠里と矢崎が揉めそうなので絶対に言えない。
あの二人、出会えば俺をめぐっての口喧嘩をするようになってるし、その口喧嘩に巻き込まれるのも嫌だしな。
俺をめぐってという所がなんとも非現実的ではあるが、それプラス相田とかまで加わるともっと面倒である。
あいつら、なんで俺なんかに気があるんだか……。
「新商品かー。甲斐くんの猫ちゃん可愛いもんね。また触りにいってもいいかな?」
「いいよ、お安いご用さ」
「じゃあ、お昼のお弁当食べた後に猫ちゃんの家に行ってもいいかな?」
「んー……昼、か」
矢崎と約束しているなんて言えないしなー。でも矢崎には絶対ってわけではないことは伝えてあるしよ。なんか二股かけているみたいで罪悪感がわいてしまう。二人とはそういう関係ではないのに……むうう。
「予定あるの?」
「あ、いやそういうわけじゃないんだが……テスト近いからよ、呼び出されるかもなーって思って」
「そっか~じゃあ、時間空いてたら教えて。メッセでもなんでもいいから」
「ああ、わかったよ」
神山さ……悠里とはアド交換しているけど、未だに矢崎とは連絡先を交換していない謎である。
でも向こうから訊かれないから別にいいよな。お昼に会った時にでも訊けばいいし。
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