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五章仮面ユ・カイダー爆誕

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 その後、母ちゃんがなぜか「直くんに電話してやれ。電話しないと晩飯抜きね」としつこく言うので、仕方なくスマホで電話をすることになった。

 つーかなんで電話しなきゃいけないんだよ。別に用もないのに……とグジグジ呟くと、今日ひどい事を言った自覚があるなら、謝罪の意味ですればいいじゃないと返された。まあ、それなら様子を窺う程度で電話をしてもいいかと思い、スマホを手にするも連絡先を交換していなかった事を思い出した。

 連絡先がわからんから無理と母ちゃんに伝えると、アホみたいに驚かれてとりあえずは母ちゃんの電話から掛けることにした。

「あんた、直くんの連絡先知らないってなんでそうなってんのよ」
「いや、ただ単に連絡先訊かれてなかったし、別に俺も知りたいと思わなかったからだよ。掛ける機会もないしな。用件なんて学校で言えば済むだろ」
「……じゃあなんで穂高くんと相田くんと久瀬くんの連絡先は知ってんの」
「穂高は猫の世話の事で連絡を取り合うし、相田はバイト関連。久瀬は弁当の交換のため。野郎同士の連絡なんて必要最低限の事を話したらすぐ切るだろ。そんな長話なんて女々しいし、連絡先なんてむしろいらないくらいだ」

 女の電話みたいに用もないのに長々とどうでもいい事で会話できないのが野郎の電話ってやつだろ。俺、コミュ障だしな。
 そう言ったら、母ちゃんが海よりも深い溜め息を吐いた。

「………かわいそ、直くん。あんたのデリカシーがなさすぎて」
「は……なんで可哀想なんだよ」

 謂れのない批難の声に抗議だ。あと野郎にデリカシーもクソもないだろ。

「あんたが配慮のないバカだからよ。直くんの乙女心を何もわかっちゃいないんだから」
「乙女心って……矢崎は男じゃなかったっけ?あ、もしかしてあんな綺麗な顔してるからやっぱりおんn「男の子に決まってんでしょうが!!」

 なんだ、やっぱ男か。残念だ。

「直くんは繊細って意味よ!中身は乙女みたいに壊れやすい純粋って事!あんたみたいなオス臭いお下劣とは別物って言いたいの!あんたもし直くんの前で女なのか?なんて質問したらあんたマジで嫌われても知らないわよ」

 そんなんで嫌われたら今頃ここまで仲良くなってないと思うんだがねー。
 母ちゃんの例え方は極端で説明不足なので、俺マジで矢崎が女なのかって一瞬思っちゃったよ。

「でもつまり矢崎は考え方が女みたいに繊細って事だろ。そーか。見た目は男で中身が女のネカマみたいなもんか。そりゃ俺とは考え方が違うわけだよな」

 童貞不潔の汗くさい野郎の俺とは感性が真逆だ。少女マンガの清潔王子様ポジとは価値観はあわんよ。

「あんた……やっぱデリカシーなさすぎね。品位の欠片もないのかしら」
「野郎にそんなの求めるなよ。女のそーゆー言ってないけど察してよっていうのがまず男からすれば無理な話で、鈍感な俺には察せないし、男って言わないとわからない単純バカな生き物なわけ。だから母ちゃんの言う繊細やら乙女心なんて男には理解できないんだよ」
「まあ……それはお父ちゃんもそうだったからわかるんだけど、だからってあんたは鈍すぎるわよ。もうちょっと相手の気持ちになって考えなさいよ。直くんもなんでこんなバカ息子に気があるのか……あたしが友人ならこんなキモオタやめときなよって言ってあげているくらいだわ」
「ひっでーの。その台詞可愛い息子つかまえて言うことかよ。矢崎の事ばかり持ち上げてよー。イケメン贔屓だな」
「イケメン贔屓どころかあんたがもうちょっと利口だったらここまで苦労せんわ!!」

 いいから電話をかけろと怒られたので、母ちゃんの電話からロックオン。矢崎の連絡先しらねーからな。
 それにしても用件が今日の事を謝りたい的なものだけじゃ弱い気がするなー。それって電話する意味ってあんのかねーって思うけど、それだけで「直くんは喜ぶわ」との事。俺なら電話するより直接会って話すタイプだから別に明日学校で会話するのでいい気がするんだけどなー……。


「えー……あー……もしもし矢崎……か?」

 ちゃんと繋がっているのか把握する緊張の一瞬だ。

『……その声……架谷……?』 
「お、ちゃんと繋がってる。そうだ。架谷だ。いきなりすまんな」

 とりあえず今平気かと訊ねると大丈夫だと返してきたので会話開始。

「その……今日はちょっと悪かったと思って電話をしたというか……だな。元気かなーと思いましてだな……母ちゃんの電話を借りて通話するに至ったわけだ」
『…………ふーん………』と、抑揚のない声。
「あ、あと……お前、みんなの前で話しかけるんじゃねーよ。ただでさえEクラスって事で下に見られてんのに、親衛隊に見つかったら厄介なんだからな。お前が話かけてきたからああいう態度をとらざるを得なかったんだから仕方ないというかだな……まあ、俺もあんな態度とってごめんな」

 よし、謝罪したぞ。これで満足である。

『お、オレも……』
「ん?」
『話しかけて悪かった。お前の立場を悪くするところだった……。はやく……顔が見たかったから……つい、抑えられなかった』
「っ………そ、そう。ま、まあ……用件てそれだけだから、ただそれを言いたかっただけ。じゃ、じゃあまた明日『それだけなのかよ』

 恥ずかしくなってすぐに電話を切ろうとしたが、矢崎の名残惜しそうな一言が終了ボタンを躊躇わせた。

「それだけだけど……」
『……お前……ほんと、残酷な奴』

 矢崎の悲しげな一言に固まる。

「は……?」
『期待させるだけさせていざ近づこうとすれば離れていく』
「いや……そういうつもりじゃ「そうだろ」

 即答されて俺は返す言葉を失う。

『せっかく、お前から電話してくれたのに……』
「や、その……仕事とか忙しいのかなって思ったら手短にしようっていうのもあってだな……学校ではあえるし、用件があればその場で話そうと思えば話せるし……」
『それでも電話……うれしかったから……もっと話していたいって思うのはダメな事なのかよ』

 以前と違って一途に思いを告げるようになってきた矢崎に戸惑うが、求めてくる気持ちを無下にはできない。せっかく電話したもんな。たしかに短いよな。

「そこまで言うなら……電話につきあうけど、つまらないとか言って文句言うなよ」

 俺は会話とか手短にするタイプだし、電話で長話なんてコミュ障なので苦手なんだけど、矢崎がなんでもいいからお前の事を話せというので俺のどうでもいいプロフィールでも話してやろうか。くだらねーけど。誕生日や血液型とかから。

 基本的な情報を訊ねてくる矢崎は、強姦魔事件で俺の情報を入手していそうなのに『他人からのマニュアル情報より本人に改めて訊く方が信憑性もあるし面白いんだよ』と言う。それは同意見だな。

『誕生日は夏なのか……』
「そーそー夏生まれなんだ。だからもーすぐなわけ。俺の方があんたより早生まれだな」

 矢崎は冬生まれらしい。血液型はB型みたいだが、なんか曖昧な言い方だった。
 ちなみに俺はO型である。母ちゃんがOで親父がBなのでガサツで大雑把な一家なのだ。

『年齢は一緒だろうが』
「ま、そーなんだけど。俺の誕生日てっきり知っていたのかと思った」
『言っただろ?金で入手したプロファイリング情報に意味はなさないって。興味のない人間の誕生日とかなんて知っても意味がないし、ほとんど相手の不利になる家の情報や機密事項にしか目を通さない。それに……あの頃のオレは思い出したくない黒歴史だ。オレはお前にひどい事をしたのは事実だから』
「……反省してるならいいよ。嫌な事はすぐ忘れる」

 根には持つけどな。
 もちろん、反省しない奴に対して。

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