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一章最低最悪な出会い

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 架谷甲斐を矢崎直の従者にする――――と、辞令のような貼り紙が貼り出されたのは翌日の事だ。

 校門近くのたくさんの生徒の人だかりが気になって見に行ってみれば、一斉に俺に視線が注がれた。

 なんだよ。なんでそんな顔して俺を見やがるんだよ皆様。なんて言いたいのに、この辞令の貼り紙を見れば納得。俺を哀れむような同情の視線もあれば、なんであいつがというやっかみも含まれている。やっかみの大半は四天王に盲目的なファンの一部だ。

 おいおい。やっかみなんてよしてくれ。四天王なんて俺は大嫌いだぞ。むしろあんな奴らというか矢崎の野郎の従者にされて俺はめちゃんこ迷惑してるんですって。だから誰か代わりに矢崎の従者やってくれよと言いたい。という事でほんと前途多難。学園カーストなどくそくらえだ。変態バカ理事長共を野放しにしているクソ四天王共も貴様らに良心はねーのかよ。

「ねえ、あなたが架谷甲斐?」

 かなりの美貌を持つモデル級の美女が声をかけてきた。長身にスタイル抜群なプロポーション。胸の谷間を見せつけたシャツとミニスカが他の野郎共の視線を独占した。すげー巨乳美女だな。見た感じ20代くらいか?この学校の生徒ではなさそうだ。

「おい見ろよ。桐谷杏奈だ」
「すげー美女だよなあ。胸でけーし。ヤりてー」
「パリコレとかでモデルしてて今は留学中って聞いてたけど一時帰国してたんだ~」
「直様と付き合ってるって本当なのかな」
「悔しいけどあたしらじゃ勝ち目ないわー」

 現れた美女に周りが一斉にざわめく。桐谷杏奈さんというのか。キモオタの俺は知らんわ。

 相当この学園では有名な女らしく、華やかな容姿と知名度が彼女に釘付け。しかも矢崎と付き合っているって噂が耳に入った。へえ、この女は矢崎の女なのかもしれんのか。相当な美女相手を手玉にとってやがんだなあ。

 リア充爆発しろやくそが。

「俺になにか用?えーと桐谷さんとやら」
「あなたと話をしたくて。ねえ、場所を移しましょ」
「え、いや……ここで話せない事か?」

 なんか嫌な予感するし。

「そうよ。あなただけの特別なは・な・し」
「いやいーです」

 俺は即答してその場を去ろうとした。が、桐谷さんは食い下がる。腕をつかんできて胸を押し付けてきやがった。女を武器にしやがって計算高そうだな。

「もう♪そんな事言わないで。あとでいいことしてあげるんだから」
「いいことなんていりません。オレは二次元があればいいしがないキモオタなんで」
「あら、こちらに来てくれたらあなたが欲しそうなこのフィギュア……あげてもよくってよ」

 桐谷さんとやらが近くにいたマネージャーみたいな奴に紙袋を持ってこさせてなにかを取り出す。

「こ、これは!!」

 美少女怪傑戦士バンビちゃんではないか!
 バンビちゃんは今人気の美少女エロアニメに出ているキャラなんだが、俺の今一番の推しキャラなのだ。それを出されると俺でさえもハニトラに引っ掛かってしまうがな。つーかもう目移りしてしまってます。

 くそ、俺に金髪碧眼美少女のバンビちゃん人形で誘惑しようとするとは小癪な。
 つーか俺がこのフィギュア好きだなんてどこで知ったんだよ。どいつのタレコミだ。

「さあ、いらっしゃい」
「なんなりと」

 ぶりっ子口調で話す桐谷さんとやらは、目先の欲に負けたちょろQな俺をその場から連れ出した。

 なんの話をしたいのかわからんが、矢崎の女ってだけで油断しない方がいいだろう。あいつが何かしてこないとも限らないしな。っつーかもはやバンビちゃんに負ける俺が油断もクソもないんだけれども。あー欲望には勝てんわい。
 
「で、俺になんの話があるんで?」

 近くの空き教室で話を聞くことにした。さっさとそのフィギュアくれ。

「直の従者になったと聞いて気になったから声をかけたの」

 あのねーそんなヒマな理由で声かけなくてもいいんですけど。こっちもひまじゃないっつうの。バンビちゃんくれってば。

「いや、別に俺は従者になったつもりはないんですけど」
「でも決定したと彼は言っているわ。すごいのね。あの彼に反抗的な態度を取ったって学園中大騒ぎよ。それだけ自信があるのね。見た目は平凡そうなのに」

 女の視線は俺の全身をジロジロ見ている。

「平凡そうでどーも」

 計算高くとも所詮は見た目で判断するような女かと呆れていると、

「ねえ……」

 女の手が俺の手首を強引に掴んで胸元に近づけ…………は?

 柔らかい感触に唖然とした。俺、女の……女の乳をさわっているんですけど!(超興奮)二次元じゃなくて三次元の。これ現実か!?

 や、や、柔らかいっ!

「あ、あああああの、な、な、何してんすか。なんなんすか」

 仰天している俺。これが現実とは思えんくて思わずどもる。でかい。キモオタだから刺激が強いっす。

「何って……いい事しましょうって意味」
「一応訊くが、いい事って……なんだよ」

 エッッッな展開ですかね。

「あら、あたしから言わせる気?男がとっーても好きな事を」

 そう悪戯っぽくさらに胸を揉ませてくれる桐谷さんとやら。いいのかこれ。あとで矢崎にぶっ殺されないかな。

「あたし、直からDV受けてるの。直に反抗したあなたなら助けてくれると思って。ねえ、助けて。さらにいい事してあげるから」

 胸元どころかシャツのボタンをひとつ外しての生乳を揉ませようとする桐谷さん。黒いブラが丸見えである。ひいいい。おっぱいパブにいる気分だ。

「ちょ、さすがにもうやめ……」

 俺は慌てて手を引っ込めようとすると、

「きゃああああーーーー!!」

 桐谷の甲高い悲鳴が響き渡った。

「痴漢よーーー!!誰かあーーーー!!助けてーー!!」

 その悲鳴が俺を冷静に引き戻した。
 悲鳴をあげながらも桐谷の顔は腹黒く嗤っていたのだ。俺の顔を見ながらにやりと。

 なるほどな。

 俺、オワタ。はめられました。


 人生そんなうまい話はない。おまけにこんな美女でしかも矢崎の女相手に。

 そう戒めていたはずが、バンビちゃんの罠にひっかかり、女の胸の柔らかさに驚いて動転していたのが油断に繋がったのだ。いやだって揉んだことないし、男の夢だろ女の胸なんて。って言い訳している俺は女の味を知らない童貞チェリーボーイだ。

 敗因は間違いなくバンビちゃんと童貞。二次元の世界しかしらない俺は三次元の誘惑に悉く負けたのだ。ちくしょう。

 てことで、俺は自業自得である。自分自身の邪念が招いた童貞事変。バカだ。笑うがいい。この俺を。

 さてどうやってこの状況を覆そうかな。俺ってつくづく不運続きだよ。入学前に見た雑誌の占いが悉く当たっている。


「サイテー男」
「変態」
「痴漢」
「婦女暴行魔」
強姦レイパー
「気違いEクラスのケダモノ」

 そんなレッテルをこの日を境に全校生徒達から貼られたのは言うまでもない。
 俺の肩書きは変態仮面やウンコマンと結構増えて、肩書きキラーだなーとか、今度はもっと最低な強姦魔って肩書きかなーとか、連れて来られた警察署で次のあだ名を呑気に予想していた。
 
 危機感がなくてすまんな。前歴持ちともなると警察に再度ご用となっても慣れちゃってねー。どーせ内申書はクソほど悪いだろうからもーどうでもいいやーってかんじ。

 こういう展開は俺の人生の中でよくある事だしね。だって俺って犯人扱いされやすいんだもん。あと恨みを持たれやすいっていうかねー。これでも真面目に生きてきたつもりなんですけど、神様はどうも俺に試練を与えるのがお好きなようでしてねー。フーテンの弱田雑魚次郎は困ってしまいます。

「おい、聞いてんのか。いい高校生が盛ってあんな美女を襲おうなんて恥ずかしいと思わねーのかよ。クソ忙しい時に面倒くせー事件起こしやがってよォ」

 薄暗い取調室の中で、だんっと机を叩いて俺を怒鳴る刑事その1。
 名前は下衆谷げすたにって名前らしい。髭面のやる気ないおっさんでタバコと酒臭い。現役刑事が職務中に酒飲んでんじゃねーよと言ってやったら「本官を侮辱するとは公務執行妨害と名誉毀損に当たる」とか生意気にほざかれた。これこそ横暴もいい所である。

 中学時代に逮捕された時にもコイツを見かけたが、あの時からゲスな所は変わっていないようだ。変わったのは部署だけでまたお世話にならなきゃならんのが嫌なご縁である。

「あんな美女の胸を揉んだだなんてうらやま……いや、けしからん!!」

 こいつは下衆谷の助手。小太りの熊谷くまがやってクマみたいな警官。説教しながらも俺に胸の感触はどうだったかとしつこく訊いてくる。取調より感触を気にする此奴はむっつり野郎だな。

 全く昨今のマッポ共は腐りきっているもので嘆かわしい。しかも警察や刑事共は俺をヤっただとか証拠もないのに決めつけて、犯行を認めるよう誘導尋問してきやがる。揉みはしたがヤってませんがな。向こうが無理矢理手を掴んで揉んでしまったんですってば……って誰も信じてはくんないけど。

 特に婦警さんの目が俺を女性の敵みたいな目で見てきたのが辛かった。俺はハメられたんだよ。矢崎の女に。真の黒幕は矢崎だけどな。電車内での痴漢の冤罪容疑をかけられた気持ちがようわかるよ。

 何度説明しても平行線なので、しまいにはぼーっと取調室で刑事共の怒声を右から左へ流していると、その場を丁度見ていたEクラスの生徒達がいたらしく、それらの証言や監視カメラの様子を解析した結果、不処分で釈放。学校側も大事にしたくなかったのか数日の謹慎だけで済むそうだ。

 あー説教長かった。やっぱ慣れてると言っても警察署の檻の中で過ごすってきついな。このまま鑑別かネンショー行きかと思っちゃったよ。

 疲弊しつつ取調室から出ると、入り口付近に佐伯先生が警察共に頭を下げている。ついでに両親達も。開星に入学早々問題起こしてごめんなちゃい。

「お兄ちゃん!胸なんていくらでも私が揉ませてあげるのにあんなケバい女の胸にひっかかるなんてひどい」
 怒るとこそこかよ。
「甲斐、お前は真っ当に育てたはずだ。だが胸一つのせいで人生が終わる時もある。女というのは魔物だということを覚えておきなさい」

 親父は過去にその手の女から手痛い仕打ちにあった事があるのか格言のように諭してきた。まあ、俺も女は策士で怖いと思っているのでさらに用心します。

「まったく、あんたってつくづくいろんな問題をしょいこむわねー。あんたのことだからどーせハメられたんでしょうけど、これも修行よ。自分で解決なさい」
「そうだ。これも修行のうちの一つだ。失敗から学ぶということもある。乳に惑わされたお前が悪い。乳に惑わされない修行を積むことだ。よって今日から一ヶ月は牛乳禁止だ」

 牛乳禁止ってなぜに。いやまあ人生経験にはなったんじゃないかなーとは思うんですけども、乳に惑わされない修行ってなんなんだ。おっパブにでも行けということかじいちゃんよ。

 まあ言わずもがな家族全員は俺が故意にしていないとわかりきっているようで、それ以上は追求してこなかった。でも迷惑をかけたことには変わりないので、今度腕によりをかけて飯を作ってやらなきゃな。

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