6 / 7
第1章
長兄
しおりを挟む
「三矢」
「!、兄さん・・・」
「どうかしたのか・・・?」
三矢は兄の声にビクリと背筋を揺らし、振り向く
短く整えられた黒髪、おっとりとした目元は三矢にそっくりだが、それ以外はどことなく弐戸に似ている。
久方の三兄弟、その長兄である久方一(ひさかた ひとつ)
階級は特等エクソシストで弐戸の位よりひとつ上、そして兄弟の中で最も頂点に近いのが一である。
三矢は兄の問に、答えようとしたが
今起きた出来事を簡潔に述べようとして口をモゴモゴとさせる。
ありのままを話せばいいが、どこから話していいのかわからないのだ。
一は「おちついて」と三矢をなだめ三矢はぽつりぽつりと話しだした。
幻呪にかかったこと、そしてそれが解かれたこと。
匂い袋を兄に差し出し、掌に落とす。
兄はじっくりとそれを見聞するが「特に何かあるわけではないな」といって三矢に返す。
「だが・・・こんな街中で陽も高いうちから悪魔が幻呪を仕掛けてくるとは・・・」
「にわかに信じがたい・・・」と一がつぶやく。
「うそでは・・・」
「嘘だとは思ってない、三矢は嘘をつくような子ではないからな」
と一はニコリと三矢に微笑む。
「しばらくはその匂い袋を持っているといい。俺にはわからない仕掛けがあるのかもしれないからな。それにしてもその青年・・・のおかげかはまだわからないが、強い幻呪を解呪できる何者か、か・・・気になるな」
ある程度先程の幻呪に関することを話し終え三矢は「ところで」と切り出す。
「弐戸から兄さんが呼んでいると聞いたんだが、なにか・・・?」
「あったのか」と声を出す前に一が「あぁ」と返事をする。
「師匠から伝言を預かっててな。しばらくしたら、こっちに戻ってくるそうだから、三矢の手料理が食べたいそうだ」
「三矢は俺たち兄弟の中でいちばん料理がうまいからな」と言いながら先に買っていたであろうドーナッツにかぶりつく、そしてコーヒー・・・と思いきやカフェオレを口に運んで「ふぅ、うまい」とつぶやく一。
―――そういえば兄さんは甘党で辛いのが駄目だったな。師匠は辛いのが好きでよくご飯を作るときは困ったものだ。
と、思い出に馳せる。
それから・・・
幻呪にかかった三矢を心配して三矢が拠点としている施設・・・
名前は西部第2支部というのだが・・・拠点としているものは大概「ホーム」と呼んでいる施設の宿坊に戻ってきた。
途中やはり三矢を貶す言葉が飛び交っていたのだが、一の姿が見えた途端に静まり返り蜘蛛の子を散らすように離れるエクソシストたち。
特等エクソシスト久方一・・・この男、普段は温和だが怒らせるとかなり怖い。
笑顔でぶん殴る系優等生風不良というのが師匠がつけたあだ名である。
ちなみに弐戸は子犬系不良、三矢はメシウマ猪突猛進野郎である。
余談だが、子犬系不良とは・・・雨の日に子犬を拾う不良、というわけではなく。
子犬みたいに泣きわめくかららしい。
子犬にも弐戸にも失礼である。
「では、この支部には今エルさんがいるんだな」
「ああ、先日担当が変わってついこの間から・・・」
「そうか。なら安心だが・・・三矢、悪魔も怖いが人間の言葉の刃も油断ならない。いざとなったらエルさんのところに行くんだ、いいな?」
「わかった、兄さんはいつここを出発するんだ?」
「そうだな」と腕を組みしばし考えたあと、一は「師匠と会ってからにしようと思ってるんだが・・・」と答える。
「じゃあ、しばらくここがホームか・・・久しぶりにキッチンを借りて兄さんのために料理でも作ろうかな」
「!」
一は笑みを浮かべ、グッと親指を立てる。
ゆらりゆらり、揺れるゆりかご。
赤子は眠り、夢を見る。
ゆらりゆらり、魅せる夢は。
水底から水面へ上がる水の泡。
「ああ、退屈しなさそうだ」
「!、兄さん・・・」
「どうかしたのか・・・?」
三矢は兄の声にビクリと背筋を揺らし、振り向く
短く整えられた黒髪、おっとりとした目元は三矢にそっくりだが、それ以外はどことなく弐戸に似ている。
久方の三兄弟、その長兄である久方一(ひさかた ひとつ)
階級は特等エクソシストで弐戸の位よりひとつ上、そして兄弟の中で最も頂点に近いのが一である。
三矢は兄の問に、答えようとしたが
今起きた出来事を簡潔に述べようとして口をモゴモゴとさせる。
ありのままを話せばいいが、どこから話していいのかわからないのだ。
一は「おちついて」と三矢をなだめ三矢はぽつりぽつりと話しだした。
幻呪にかかったこと、そしてそれが解かれたこと。
匂い袋を兄に差し出し、掌に落とす。
兄はじっくりとそれを見聞するが「特に何かあるわけではないな」といって三矢に返す。
「だが・・・こんな街中で陽も高いうちから悪魔が幻呪を仕掛けてくるとは・・・」
「にわかに信じがたい・・・」と一がつぶやく。
「うそでは・・・」
「嘘だとは思ってない、三矢は嘘をつくような子ではないからな」
と一はニコリと三矢に微笑む。
「しばらくはその匂い袋を持っているといい。俺にはわからない仕掛けがあるのかもしれないからな。それにしてもその青年・・・のおかげかはまだわからないが、強い幻呪を解呪できる何者か、か・・・気になるな」
ある程度先程の幻呪に関することを話し終え三矢は「ところで」と切り出す。
「弐戸から兄さんが呼んでいると聞いたんだが、なにか・・・?」
「あったのか」と声を出す前に一が「あぁ」と返事をする。
「師匠から伝言を預かっててな。しばらくしたら、こっちに戻ってくるそうだから、三矢の手料理が食べたいそうだ」
「三矢は俺たち兄弟の中でいちばん料理がうまいからな」と言いながら先に買っていたであろうドーナッツにかぶりつく、そしてコーヒー・・・と思いきやカフェオレを口に運んで「ふぅ、うまい」とつぶやく一。
―――そういえば兄さんは甘党で辛いのが駄目だったな。師匠は辛いのが好きでよくご飯を作るときは困ったものだ。
と、思い出に馳せる。
それから・・・
幻呪にかかった三矢を心配して三矢が拠点としている施設・・・
名前は西部第2支部というのだが・・・拠点としているものは大概「ホーム」と呼んでいる施設の宿坊に戻ってきた。
途中やはり三矢を貶す言葉が飛び交っていたのだが、一の姿が見えた途端に静まり返り蜘蛛の子を散らすように離れるエクソシストたち。
特等エクソシスト久方一・・・この男、普段は温和だが怒らせるとかなり怖い。
笑顔でぶん殴る系優等生風不良というのが師匠がつけたあだ名である。
ちなみに弐戸は子犬系不良、三矢はメシウマ猪突猛進野郎である。
余談だが、子犬系不良とは・・・雨の日に子犬を拾う不良、というわけではなく。
子犬みたいに泣きわめくかららしい。
子犬にも弐戸にも失礼である。
「では、この支部には今エルさんがいるんだな」
「ああ、先日担当が変わってついこの間から・・・」
「そうか。なら安心だが・・・三矢、悪魔も怖いが人間の言葉の刃も油断ならない。いざとなったらエルさんのところに行くんだ、いいな?」
「わかった、兄さんはいつここを出発するんだ?」
「そうだな」と腕を組みしばし考えたあと、一は「師匠と会ってからにしようと思ってるんだが・・・」と答える。
「じゃあ、しばらくここがホームか・・・久しぶりにキッチンを借りて兄さんのために料理でも作ろうかな」
「!」
一は笑みを浮かべ、グッと親指を立てる。
ゆらりゆらり、揺れるゆりかご。
赤子は眠り、夢を見る。
ゆらりゆらり、魅せる夢は。
水底から水面へ上がる水の泡。
「ああ、退屈しなさそうだ」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる