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第1章
幻そして匂い袋
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午後1時。
兄との待ち合わせ場所へとやってきた。
一番上の兄はまだ来ていないようで、カフェの店員にコーヒーを注文する。
時期は春、うららかな陽気が降り注ぐ。
昨日、悪魔を狩っていた血なまぐさいどろりとした雰囲気とは全くの別物。
持ってきていた小説を開き、兄が来るまでのあと一時間暇をつぶす。
「こんにちは、隣いいかい?」
「ええ、どうぞ」
陽が遮られ、頭上に影が堕ちる。
話しかけてきたのは美青年と称するのが正しい男。
華奢ではあるが、銀色の瞳にしっとりとした黒髪・・・
―――銀はすべての悪を討つ
かつて師が言っていた言葉を思い出す。
かなり昔に言われた言葉だが、この男の目を見て思い出すとは・・・と、それほどまでに鮮やかな銀色をしていたのだ。
「私の目が気になるかい?」
「!。失礼、あまりにもきれいな色をしていたもので・・・不快でしたか?」
「ははは・・・その言葉を聞いたら逆に嬉しくなってしまったよ」
青年は笑みを浮かべコーヒーを口につける。
席もだいぶ混んできたようだ
これは、兄が来たら別の店に移る必要があるな・・・
と青年と話を交わしながら三矢は考えた。
午後1時50分。
一番上の兄は時間にルーズではないが、ピッタリと機械のように分刻みで動くのであと10分は姿を現しそうにはない。
隣の席に座った青年とはあれ以来会話をしていない。
青年も何やら分厚い本を読み始めたためだ。
三矢はちらりと青年を見て、窓の外の桜を眺める。
桜がひらりひらりと舞い落ちる。
それが何故か・・・
血に染まった。
薄いピンク色の花弁が、赤い血しぶきに見える。
体の筋が緊張で硬直し、とっさの自体に動けない。
―――おかしい
どんな事態でも動けるように訓練したはずなのに・・・
なぜ俺の体は動かないんだ。
いつの間にか周りには人がいなくなり、手に持っていたコーヒーカップもどこかへと消え失せた。
これは・・・
幻呪・・・!
どこかから精神攻撃を受けている
三矢はそう判断し、痛みで正気を保とうとするがまず体が動かない。
―――まずい
血しぶきから血の水たまり、そして湖になっていく。
あたり一面が真っ赤に染まり、気を抜けば気絶してしまいそうになる。
「あぁ、熟れた気配・・・本当に長いこと待った甲斐があった」
微動だにせず、直立した体に背後から抱きつかれる。
男、いや悪魔は三矢に覆いかぶさるように閉じ込めるように腕で三矢を固定する。
「っだ、れだ・・・」
「わかっているだろう・・・俺は・・・―――」
舌が味見をするようにべろりと頬を這う。
三矢はあまりの禍々しい魔力に圧され息ができず、男の腕の中でなすがまま・・・
―――にい、さん・・・
「―――・・・」
「どうしました?」
「!!!!」
閉じていた目を見開き、机に倒れかけていた上体を起こす。
解呪、できたのか?
窓の外には美しいピンク色の花弁が舞っている。
隣には銀の瞳を持った青年が腰掛け、三矢を心配そうに覗き込んでいる。
―――・・・この人の声で
幻呪(ゆめ)から逃れられたのか・・・
あまりの展開にボーッと青年を見つめる。
青年は懐をごそごそと探ると「はい」と匂い袋を渡してきた。
「これ、あげあす。貴方疲れているようですから・・・これは柚子のかおりですけど、好みでフレーバーを変えれば色々と効果があって面白いですよ」
青年はにこりと微笑むと本を閉じ空になったマグカップを置き、帰り支度を始めた。
匂い袋を渡され、ほんのり香るゆずの香りを嗅ぎながら三矢はぼんやりと「ゆず」と青年の言葉を復唱する。
そして青年の背が見えなくなるまでぼんやりと見つめ、一番上の兄が話しかけるまでぼーっとしたままであった。
兄との待ち合わせ場所へとやってきた。
一番上の兄はまだ来ていないようで、カフェの店員にコーヒーを注文する。
時期は春、うららかな陽気が降り注ぐ。
昨日、悪魔を狩っていた血なまぐさいどろりとした雰囲気とは全くの別物。
持ってきていた小説を開き、兄が来るまでのあと一時間暇をつぶす。
「こんにちは、隣いいかい?」
「ええ、どうぞ」
陽が遮られ、頭上に影が堕ちる。
話しかけてきたのは美青年と称するのが正しい男。
華奢ではあるが、銀色の瞳にしっとりとした黒髪・・・
―――銀はすべての悪を討つ
かつて師が言っていた言葉を思い出す。
かなり昔に言われた言葉だが、この男の目を見て思い出すとは・・・と、それほどまでに鮮やかな銀色をしていたのだ。
「私の目が気になるかい?」
「!。失礼、あまりにもきれいな色をしていたもので・・・不快でしたか?」
「ははは・・・その言葉を聞いたら逆に嬉しくなってしまったよ」
青年は笑みを浮かべコーヒーを口につける。
席もだいぶ混んできたようだ
これは、兄が来たら別の店に移る必要があるな・・・
と青年と話を交わしながら三矢は考えた。
午後1時50分。
一番上の兄は時間にルーズではないが、ピッタリと機械のように分刻みで動くのであと10分は姿を現しそうにはない。
隣の席に座った青年とはあれ以来会話をしていない。
青年も何やら分厚い本を読み始めたためだ。
三矢はちらりと青年を見て、窓の外の桜を眺める。
桜がひらりひらりと舞い落ちる。
それが何故か・・・
血に染まった。
薄いピンク色の花弁が、赤い血しぶきに見える。
体の筋が緊張で硬直し、とっさの自体に動けない。
―――おかしい
どんな事態でも動けるように訓練したはずなのに・・・
なぜ俺の体は動かないんだ。
いつの間にか周りには人がいなくなり、手に持っていたコーヒーカップもどこかへと消え失せた。
これは・・・
幻呪・・・!
どこかから精神攻撃を受けている
三矢はそう判断し、痛みで正気を保とうとするがまず体が動かない。
―――まずい
血しぶきから血の水たまり、そして湖になっていく。
あたり一面が真っ赤に染まり、気を抜けば気絶してしまいそうになる。
「あぁ、熟れた気配・・・本当に長いこと待った甲斐があった」
微動だにせず、直立した体に背後から抱きつかれる。
男、いや悪魔は三矢に覆いかぶさるように閉じ込めるように腕で三矢を固定する。
「っだ、れだ・・・」
「わかっているだろう・・・俺は・・・―――」
舌が味見をするようにべろりと頬を這う。
三矢はあまりの禍々しい魔力に圧され息ができず、男の腕の中でなすがまま・・・
―――にい、さん・・・
「―――・・・」
「どうしました?」
「!!!!」
閉じていた目を見開き、机に倒れかけていた上体を起こす。
解呪、できたのか?
窓の外には美しいピンク色の花弁が舞っている。
隣には銀の瞳を持った青年が腰掛け、三矢を心配そうに覗き込んでいる。
―――・・・この人の声で
幻呪(ゆめ)から逃れられたのか・・・
あまりの展開にボーッと青年を見つめる。
青年は懐をごそごそと探ると「はい」と匂い袋を渡してきた。
「これ、あげあす。貴方疲れているようですから・・・これは柚子のかおりですけど、好みでフレーバーを変えれば色々と効果があって面白いですよ」
青年はにこりと微笑むと本を閉じ空になったマグカップを置き、帰り支度を始めた。
匂い袋を渡され、ほんのり香るゆずの香りを嗅ぎながら三矢はぼんやりと「ゆず」と青年の言葉を復唱する。
そして青年の背が見えなくなるまでぼんやりと見つめ、一番上の兄が話しかけるまでぼーっとしたままであった。
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