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Chapter3(楓編)
Chapter3-⑤【ぼくの憂鬱と不機嫌な彼女】後編
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夕方、マツヤが顔を出した。
黒いスーツ姿を見て、帰郷する事が分かる。
「残念だったな。」
シンがしんみりと言う。
「知ってたんですか?」
焼けた顔が逆に憔悴さを増して見せた。
「ああ、ニュースで見た。」
「何で言ってくれなかってんだろ。
幼稚園からずっと連んでいたのに…。
最後に会いに来てくれたのかな…。」
マツヤが唇を噛み締める。
「あっ、昨日の代金払ってないから。」
財布を出した。
「そうだったな。
18,960円だけど…。」
シンが言い淀む。
この状況を加味して、只にするのだろうとワタルは思った。
シンの優しさに触れて、今日は頑張ろうと拳を握り締める。
「ダチの分も含めて二万でいいぞ。
負けてやる。」
シンはタバコを咥えると、右手を出した。
「今日はお前が賄い飯を作れ。」
「はい!」
態と音を立てて、コンロにフライパンを置く。
「何、怒ってんだ?
辛い時こそ、人は笑顔を見せるもんだ。
人に当たるなんて、最低だぜ。」
シンが説教を始めた。
ワタルはそれを無視して、フライパンと格闘する。
「今日は早めに閉めるか。
客が来そうもねぇし。
何だ、雨降ってんのか。
道理でな。」
シンが表に顔を出し、通りを見て言う。
ワタルは洗い物を済まし、前掛けで手を拭く。
「だったら風呂へ連れてってくれませんか?
昨日も入ってないし。」
ユーリとの約束を破る事になるが、今日は仕方あるまい。
「そうだな、久し振りに行ってみるか。」
シンがいつもの様に指差し点検を始めた。
駅の反対側に出る為に踏切を渡る。
逆側のロータリーに来るのは始めてだ。
店側と違い結構賑わっていた。
スポーツジムの大きな看板があり、24時間営業を告知している。
雨が上がった様だ。
傘を閉じ、空を見上げる。
二階の窓に面してジョギングマシンが並んでいた。
その一つで走る男と視線が合う。
昨夜来たリュウノスケだ。
慌てて視線を逸らすが、唇を這う舌をしっかりと見てしまった。
「止んだな、雨。
仕事覚えたら、ここでも通え。
それ位の給料は出してやるから。
風呂代も馬鹿にならねぇし。
ここならオールでやってるから一石二鳥だ。」
シンはリュウノスケに気付いてない。
「明日からでもいいですか?」
確かに筋トレとシャワーは魅力的だ。
ランチが終わった後に来れば、レンとの約束も守れる。
「ポンコツの癖にせっかちだな。
まあ好きにしろ。
2時から4時は自由に使え。」
シンは口笛を吹き出した。
ワタルが今日一日黙っていたので、多少は気を遣っている様子だ。
悪い男でない事は確かだった。
サウナでたっぷり汗を掻く。
逆上せれば、何も考えなくて済んだ。
ひたすら汗を流し、塩を揉み込む。
そしてぼっーとする。
「おい、まだいんのか?
俺は帰るぜ。」
シンが顔を出し、だみ声で言う。
回りにいた人が一斉にシンを見た。
「じゃ、じゃあな。」
気まずさに慌てて扉を閉める。
「お疲れ様です。」
ワタルは小声で閉まった扉に言った。
(つづく)
黒いスーツ姿を見て、帰郷する事が分かる。
「残念だったな。」
シンがしんみりと言う。
「知ってたんですか?」
焼けた顔が逆に憔悴さを増して見せた。
「ああ、ニュースで見た。」
「何で言ってくれなかってんだろ。
幼稚園からずっと連んでいたのに…。
最後に会いに来てくれたのかな…。」
マツヤが唇を噛み締める。
「あっ、昨日の代金払ってないから。」
財布を出した。
「そうだったな。
18,960円だけど…。」
シンが言い淀む。
この状況を加味して、只にするのだろうとワタルは思った。
シンの優しさに触れて、今日は頑張ろうと拳を握り締める。
「ダチの分も含めて二万でいいぞ。
負けてやる。」
シンはタバコを咥えると、右手を出した。
「今日はお前が賄い飯を作れ。」
「はい!」
態と音を立てて、コンロにフライパンを置く。
「何、怒ってんだ?
辛い時こそ、人は笑顔を見せるもんだ。
人に当たるなんて、最低だぜ。」
シンが説教を始めた。
ワタルはそれを無視して、フライパンと格闘する。
「今日は早めに閉めるか。
客が来そうもねぇし。
何だ、雨降ってんのか。
道理でな。」
シンが表に顔を出し、通りを見て言う。
ワタルは洗い物を済まし、前掛けで手を拭く。
「だったら風呂へ連れてってくれませんか?
昨日も入ってないし。」
ユーリとの約束を破る事になるが、今日は仕方あるまい。
「そうだな、久し振りに行ってみるか。」
シンがいつもの様に指差し点検を始めた。
駅の反対側に出る為に踏切を渡る。
逆側のロータリーに来るのは始めてだ。
店側と違い結構賑わっていた。
スポーツジムの大きな看板があり、24時間営業を告知している。
雨が上がった様だ。
傘を閉じ、空を見上げる。
二階の窓に面してジョギングマシンが並んでいた。
その一つで走る男と視線が合う。
昨夜来たリュウノスケだ。
慌てて視線を逸らすが、唇を這う舌をしっかりと見てしまった。
「止んだな、雨。
仕事覚えたら、ここでも通え。
それ位の給料は出してやるから。
風呂代も馬鹿にならねぇし。
ここならオールでやってるから一石二鳥だ。」
シンはリュウノスケに気付いてない。
「明日からでもいいですか?」
確かに筋トレとシャワーは魅力的だ。
ランチが終わった後に来れば、レンとの約束も守れる。
「ポンコツの癖にせっかちだな。
まあ好きにしろ。
2時から4時は自由に使え。」
シンは口笛を吹き出した。
ワタルが今日一日黙っていたので、多少は気を遣っている様子だ。
悪い男でない事は確かだった。
サウナでたっぷり汗を掻く。
逆上せれば、何も考えなくて済んだ。
ひたすら汗を流し、塩を揉み込む。
そしてぼっーとする。
「おい、まだいんのか?
俺は帰るぜ。」
シンが顔を出し、だみ声で言う。
回りにいた人が一斉にシンを見た。
「じゃ、じゃあな。」
気まずさに慌てて扉を閉める。
「お疲れ様です。」
ワタルは小声で閉まった扉に言った。
(つづく)
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