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Chapter3(楓編)
Chapter3-⑥【夏蝉の音】前編
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低温サウナは人の出入りが少ない。
皆、一度入ると、たっぷり時間を使って汗を流す。
ぼっとしたいのに、次々に難題が浮かんでくる。
昼の休憩時、精算をしにホテルへ行ってきた。
「荷物はありませんでしたので、ご精算のみお願いします。」
連絡しなかったので、部屋を片されても仕方がない。
シャワーを浴びてから、精算したかった。
「あの…、ドアノブにレイが掛けてあったと思うのですが…。」
「レイって、ハワイのですか?」
女性が怪訝な顔で聞き返す。
「あっ、そうです。
ドライフラワーにしたかったので…。
もしあれば…。」
「そうですか…。
清掃スタッフに聞いてみますので、少々お待ち下さい。」
女性が奥へ入っていく。
「ハワイのレイなんだけど、501号室になかった?
そう、枯れてたら、捨てちゃったのね。
うん、分かった。
お客様にそう伝えてみます。」
奥から声が聞こえてきた。
というより、聞こえる様に大声で話したのだろう。
「申し訳ありませんが…。」
「いや、なければ結構です。
これで精算をお願いします。」
笑顔で金を出す。
クレーマーだと、思われているのかもしれない。
何か、大事な物を失った気がしてきた。
大粒の汗をタオルで拭う。
『ワタルを守ってくれるから。』
ユーリはレイの効果をそう言った。
何から守ってくれるのか?
失くしたらどうなるのか、聞かなかった事を今更ながら後悔する。
一人の男が入ってきた。
ワタルの正面に座ると、足を組んだ。
「あっ…。」
顔を見て、声が漏れる。
リュウノスケだ。
話し掛けるべきか、様子を伺う。
ここで喋れば、シンの二の舞だ。
リュウノスケからも話し掛けてこない。
それ幸いにワタルは瞳を閉じた。
膝に何かが当たり、目を開ける。
リュウノスケの組んだ足を避けようとして、通行人が当たった様だ。
非常識な奴だと、無神経な足に視線を向ける。
股間のタオルが盛り上がっていた。
その奥に硬くなった竿が垣間見える。
顔を上げると、鋭い視線と搗ち合う。
蛇に睨まれた蛙の如く、視線を外せない。
舌舐めずりする口元をぼっと見続けた。
風が頬を掠め、呪縛が解けた。
リュウノスケの背中が扉の向こうへ消える。
吹き出した汗がサウナの所為だけでない事が分かった。
「あれっ、お客さん、もう閉店だけど、放送聞こえなかった?」
清掃道具を持ったスタッフが入ってきた。
見回すと、他に誰もいない。
ワタルは子供の様に顔を振る。
「そっか、ここのスピーカー壊れてると、苦情が来てたな。
申し訳ないけど、閉店時間が過ぎてんだ。
至急、お引き取り下さい。」
スタッフが面倒臭そうに言った。
ワタルは仕方なく、腰を浮かす。
折角来たのに、この汗だくでは帰れない。
せめてシャワーを浴びようと、シャワーブースへ向かう。
一番奥から水の弾け飛ぶ音が聞こえる。
『何だ、まだいるじゃないか。』
怒られるなら一人じゃない方がいい。
ワタルは一番奥へ入っていく。
(つづく)
皆、一度入ると、たっぷり時間を使って汗を流す。
ぼっとしたいのに、次々に難題が浮かんでくる。
昼の休憩時、精算をしにホテルへ行ってきた。
「荷物はありませんでしたので、ご精算のみお願いします。」
連絡しなかったので、部屋を片されても仕方がない。
シャワーを浴びてから、精算したかった。
「あの…、ドアノブにレイが掛けてあったと思うのですが…。」
「レイって、ハワイのですか?」
女性が怪訝な顔で聞き返す。
「あっ、そうです。
ドライフラワーにしたかったので…。
もしあれば…。」
「そうですか…。
清掃スタッフに聞いてみますので、少々お待ち下さい。」
女性が奥へ入っていく。
「ハワイのレイなんだけど、501号室になかった?
そう、枯れてたら、捨てちゃったのね。
うん、分かった。
お客様にそう伝えてみます。」
奥から声が聞こえてきた。
というより、聞こえる様に大声で話したのだろう。
「申し訳ありませんが…。」
「いや、なければ結構です。
これで精算をお願いします。」
笑顔で金を出す。
クレーマーだと、思われているのかもしれない。
何か、大事な物を失った気がしてきた。
大粒の汗をタオルで拭う。
『ワタルを守ってくれるから。』
ユーリはレイの効果をそう言った。
何から守ってくれるのか?
失くしたらどうなるのか、聞かなかった事を今更ながら後悔する。
一人の男が入ってきた。
ワタルの正面に座ると、足を組んだ。
「あっ…。」
顔を見て、声が漏れる。
リュウノスケだ。
話し掛けるべきか、様子を伺う。
ここで喋れば、シンの二の舞だ。
リュウノスケからも話し掛けてこない。
それ幸いにワタルは瞳を閉じた。
膝に何かが当たり、目を開ける。
リュウノスケの組んだ足を避けようとして、通行人が当たった様だ。
非常識な奴だと、無神経な足に視線を向ける。
股間のタオルが盛り上がっていた。
その奥に硬くなった竿が垣間見える。
顔を上げると、鋭い視線と搗ち合う。
蛇に睨まれた蛙の如く、視線を外せない。
舌舐めずりする口元をぼっと見続けた。
風が頬を掠め、呪縛が解けた。
リュウノスケの背中が扉の向こうへ消える。
吹き出した汗がサウナの所為だけでない事が分かった。
「あれっ、お客さん、もう閉店だけど、放送聞こえなかった?」
清掃道具を持ったスタッフが入ってきた。
見回すと、他に誰もいない。
ワタルは子供の様に顔を振る。
「そっか、ここのスピーカー壊れてると、苦情が来てたな。
申し訳ないけど、閉店時間が過ぎてんだ。
至急、お引き取り下さい。」
スタッフが面倒臭そうに言った。
ワタルは仕方なく、腰を浮かす。
折角来たのに、この汗だくでは帰れない。
せめてシャワーを浴びようと、シャワーブースへ向かう。
一番奥から水の弾け飛ぶ音が聞こえる。
『何だ、まだいるじゃないか。』
怒られるなら一人じゃない方がいい。
ワタルは一番奥へ入っていく。
(つづく)
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