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Chapter3(楓編)
Chapter3-⑤【ぼくの憂鬱と不機嫌な彼女】前編
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「おい、何時まで寝てんだ!
とっとと起きて、支度しろ!
朝定は待ってくんねぇぞ!」
階下からの怒鳴り声で目が覚める。
布団には一人だけだ。
しかも裸のままだった。
汗だくの身体から発する饐えた臭いが鼻に衝く。
畳まれたシングレットの上に紙が置いてある。
『昨夜はありがとうございました。
朝一の電車なので、きちんとお礼が言えなくてすみません。
必ず東京の会社に就職して、戻ってきます。
その時はもう一度相手して下さい。』
几帳面な文字で書かれていた。
「おーい、さっさと降りてこい!」
シンの声は絶叫へと変わっていた。
「お前さ、その臭いなんとかしろ。
臭くて仕事にならん。
腐った魚でも、そこまで酷くないぜ。
隣でウエットティッシュ買ってこい。」
シンが千円札を差し出す。
便所の中で腰掛け、ウエットティッシュで身体を拭く。
臍の上でザーメンがガビガビに乾いていた。
これは自分が放出した分だろう。
悪臭の原因をティッシュで拭う。
同時に排便もする。
直ぐに戻らないと、また雷が落ちるだろう。
便器の中から若々しい雄の匂いが立ち込める。
こっちはレンの物だ。
きっと戻ってくる筈だ。
俺の方こそ、もう一度相手をして欲しい。
年の離れた青年の責めは刺激的だった。
格好悪い自分に、新しい興奮を覚えたのだ。
「すみません、これで多少マシになりました。
昼にどこかでシャワー浴びるので、午前中はこれで我慢して下さい。」
返事はない。
腕を組んだシンは一点を見詰めていた。
吊り下げられたテレビに目を向ける。
『若い男性がホームから転落死。自殺か?』
テロップが流れた。
「男性がホームから転落して死亡しました。
午前5時すぎ、薮田蓮さん(21)が線路へ転落し、入ってきた始発電車にはねられ死
亡しました。
警察は現場の状況などから男性が自殺を図ったと見て、詳しく調べています。
防犯カメラには耳を押さえた薮田さんが転落する様子が映っていて、警察は薮田さん
に持病がなかったか調査しています。
次のニュースは…。」
「嘘だ!」
口が勝手に叫んでいた。
シンは黙ったままテレビを見続ける。
止まった時間の中でキャスターはニュースを読み続けた。
「おい、今日は休んでいいぞ。
どうせ今日はいたってって、役に立ちそうもないし。」
呪縛の解けたシンが言う。
「いや、平気です。
二日目から休む訳にいかないです。」
ワタルは二階に上がる。
レンの書いた紙がある。
それを警察に見せれば、自殺の疑いはなくなる筈だ。
死ぬ数時間前に書いた内容でない事は明白だ。
「あれっ、ない…。」
狭い部屋の何処にも見当たらない。
窓は開いているが、昨夜から殆ど無風だ。
風で飛ぶとは思えない。
「そんな…、馬鹿な…。」
布団を広げてみるが、出てくるのは埃だけだ。
「就活に悩んでたんだな。
そんな風には見えなかったが。」
下りていくと、シンが声を掛けてきた。
『違う。そんなんじゃない。』
だが敢えて否定はしない。
直感がそう訴えるだけで、上手く説明は出来ない。
「マツヤはもう知ってるのかな?」
シンがポツリと言った。
(つづく)
とっとと起きて、支度しろ!
朝定は待ってくんねぇぞ!」
階下からの怒鳴り声で目が覚める。
布団には一人だけだ。
しかも裸のままだった。
汗だくの身体から発する饐えた臭いが鼻に衝く。
畳まれたシングレットの上に紙が置いてある。
『昨夜はありがとうございました。
朝一の電車なので、きちんとお礼が言えなくてすみません。
必ず東京の会社に就職して、戻ってきます。
その時はもう一度相手して下さい。』
几帳面な文字で書かれていた。
「おーい、さっさと降りてこい!」
シンの声は絶叫へと変わっていた。
「お前さ、その臭いなんとかしろ。
臭くて仕事にならん。
腐った魚でも、そこまで酷くないぜ。
隣でウエットティッシュ買ってこい。」
シンが千円札を差し出す。
便所の中で腰掛け、ウエットティッシュで身体を拭く。
臍の上でザーメンがガビガビに乾いていた。
これは自分が放出した分だろう。
悪臭の原因をティッシュで拭う。
同時に排便もする。
直ぐに戻らないと、また雷が落ちるだろう。
便器の中から若々しい雄の匂いが立ち込める。
こっちはレンの物だ。
きっと戻ってくる筈だ。
俺の方こそ、もう一度相手をして欲しい。
年の離れた青年の責めは刺激的だった。
格好悪い自分に、新しい興奮を覚えたのだ。
「すみません、これで多少マシになりました。
昼にどこかでシャワー浴びるので、午前中はこれで我慢して下さい。」
返事はない。
腕を組んだシンは一点を見詰めていた。
吊り下げられたテレビに目を向ける。
『若い男性がホームから転落死。自殺か?』
テロップが流れた。
「男性がホームから転落して死亡しました。
午前5時すぎ、薮田蓮さん(21)が線路へ転落し、入ってきた始発電車にはねられ死
亡しました。
警察は現場の状況などから男性が自殺を図ったと見て、詳しく調べています。
防犯カメラには耳を押さえた薮田さんが転落する様子が映っていて、警察は薮田さん
に持病がなかったか調査しています。
次のニュースは…。」
「嘘だ!」
口が勝手に叫んでいた。
シンは黙ったままテレビを見続ける。
止まった時間の中でキャスターはニュースを読み続けた。
「おい、今日は休んでいいぞ。
どうせ今日はいたってって、役に立ちそうもないし。」
呪縛の解けたシンが言う。
「いや、平気です。
二日目から休む訳にいかないです。」
ワタルは二階に上がる。
レンの書いた紙がある。
それを警察に見せれば、自殺の疑いはなくなる筈だ。
死ぬ数時間前に書いた内容でない事は明白だ。
「あれっ、ない…。」
狭い部屋の何処にも見当たらない。
窓は開いているが、昨夜から殆ど無風だ。
風で飛ぶとは思えない。
「そんな…、馬鹿な…。」
布団を広げてみるが、出てくるのは埃だけだ。
「就活に悩んでたんだな。
そんな風には見えなかったが。」
下りていくと、シンが声を掛けてきた。
『違う。そんなんじゃない。』
だが敢えて否定はしない。
直感がそう訴えるだけで、上手く説明は出来ない。
「マツヤはもう知ってるのかな?」
シンがポツリと言った。
(つづく)
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