年下俺様アイドルの、正しい飼い方

無防備過ぎる女① side奏

「......あぁ、ヤバ。腹痛ぇ！」

　車を、運転しながら。
　先ほど知り合ったばかりの女性、千尋さんの真面目が過ぎる言動を思い出してまたしてもブフォッと吹き出し、そのまま堪え切れず爆笑した。

　今はもう深夜だし、誰も見ていないであろうとは思いながらも、油断は禁物だ。
　こんな風に品無く笑う姿を、人様に見られるのは大変よろしくない。
　だって俺は今年度の『弟にしたいタレントNO.1』に選ばれたアイドル、皆川みながわ　奏かなでなのだから。

　清く正しく、愛らしく。
　それが事務所の考えた、俺のコンセプト。
　ボーイズグループ『JOKER』の、可愛い担当。......それが、俺。

　あのマンションは全室販売のみの物件なため、賃貸は一切なし。
　セキュリティも万全で、即入居可。
　行動が日々過激化するファンの子達に追われる身なので、駅から離れているという点も逆に俺からしてみたら好条件だった。

　だから人様の所有物であるという点は多少気になったものの、家主はほぼ使わないまま海外に転勤になったとの話だったし、新居を探すまでの間の仮住まいとしては及第点であろうと考えて、信頼出来る友人からの紹介だったのもあり、あそこを借りる事に決めたのはおよそ二週間前。

　帰宅した際、玄関に綺麗に並べられたハイヒールを目にした瞬間はかなりびびった。
　家がまたしてもファンにバレただけでなく、もしや勝手に侵入されたのかと思うと、正直かなりゾッとした。

　だけど部屋にいた彼女の反応から、どうやら俺の方がストーカー、あるいは泥棒と本気で思われているらしき状況にすぐに気付いた。