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第2章 清須景明の悩み
第4話 訃報
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あれから2年の月日がたち、俺は父の車に揺られ山道を走っていた。
衣替えをしてから間もない頃の昼休みに、父から俺のスマホではなく、高校に直接連絡が入った。担任の先生から受話器を受け取り、電話を変わった旨を伝えると、
『須藤家当主が今日、亡くなったらしい! 今から迎えに行くから、用意しておきなさい!』
それだけ言うと電話が切れた。
荷物をまとめ校門近くのロータリーに行くと、父の車がすでに止まっていた。
「遅い! 何をしていたんだ?」
父はイライラしているのか、ハンドルを握ったまま指でコツコツと叩き、助手席の窓を開けて言い放つ。俺は助手席に乗り込みながら、軽く説明する。
「すみません。先生方や友人に説明していたら、遅くなりました」
「ったく、グズグズするな! ここで遅れを取ったら、あの娘は他の者に奪われるかもしれんのだぞ!?」
シートベルトを締めながら、俺は疑問を口にする。
「奪われる……? 何かあったのですか?」
「あぁ、今回の葬儀は阿倍野も出席すると言い出してきたらしい。まったく……どこで嗅ぎつけたのやら」
助手席の窓を閉めながら、父は車を出す。
「阿倍野って、御当主本人が……ですか?」
「そこまではわからん。だが、これを機に須藤の姫御子を手篭めにしようと画策してくるかもしれん。とにかく、急ぐぞ」
こうして俺は今、再び須藤家を訪ねるべく車に揺られているのだった。
「そういえば景明、遺言書はどうした?」
「どうしたもなにも、父上に言いつけたられたように厳重に保管してあります。清須の厳重な守りが破られてなければ、そこにありますよ」
「ならばそれでいい。原本に何かあったら、大変だからな。私は一応、遺言書をもらった時にとったコピーを持ってきた。何もないよりはマシだろう」
それから間も無くして、少しひらけた場所に着いた。そこにはすでに車が数台止まっていた。父はてきとうな場所に車を止める。止まっている車のうち、2、3台は使用人の車だろう。残りの車は……阿倍野家関連の車か?
チラリと横目で見ながら車を降り、そこから石段を上がって、須藤家の門をくぐる。
玄関前に使用人が立っており、俺たちを見ると小走りでかけて来て戸惑いを隠せない様子で伝える。
「お待ちしておりました、旦那様。実は少々込み入った状況になっておりまして……」
「わかっている。どうせ阿倍野が無茶を言って来たんだろう? 大丈夫だ、遺言状は私たちが持っている」
「それが、阿倍野も遺言状を預かっていると言って、たった今、使者の方々が来たのです!」
「なんだと?!」
「……そ、それは本当なんですか?!」
父も俺も驚きを隠せない。すると、縁側に面した障子がスーッと開き、見知らぬ男が顔を出した。見知らぬ男は、標準語だが西寄りのイントネーションで声をかけてきた。
「なんか騒がしいと思ったら、清須さんも来たんですか? まぁ、立ち話もなんですから、一緒にお茶でも飲みましょ?」
「おい、自分の家でもねぇくせに図々しいぞ! すみません、清須殿。躾がなってなくて……」
もう一人体格が良い男が出てきて、関西訛りの男を叱りつける。
「ふんっ! とりあえず、中に入って事情を聞くか」
父は鼻を鳴らし、須藤家の邸宅へと足を踏み入れたので俺も後に続く。
父は使用人の案内なく、ずんずんと廊下を早歩きで進んで行く。まるで須藤家の間取りを知ってるかのように迷いなく。俺たちの後ろから使用人が、申し訳なさそうについてくる。
目的の部屋に着くと、父は間髪入れずに襖を開け、部屋に踏み入る。
さきほどの男たちと目が合った。関西訛りの方は、30手前くらい。体格が良い方は……40代くらいだろうか?
「お、清須さん! お早いお着きで。やっぱり普段から覗き見してる人は違いますなぁ」
「覗き見……?」
俺が疑問を口にすると、父があからさまに苛立った様子で唸るように問いかける。
「さきほど、うちの使用人に聞いたが、『遺言状を預かってる』とはどういう意味だ?」
「それを答える前に、清須殿に確認したいことがある。今、うちの使用人と言ったがどういう意味だ?」
体格の良い男が質問する。父は面倒くさそうに大きくため息をつくと、説明を始める。
「はあぁ。これだから、部外者は……。まぁいいだろう。ここに勤めている使用人は全部清須から遣わした者だ。須藤はとうの昔に財力はつき、家や土地の管理も自分たちだけではままならなかった。だから、分家筋である我々清須が何代かにわたって支えてきたのだ。清須に借金を作るカタチでな。……清須も本日亡くなった須藤家当主・須藤 暁平殿の遺言書を預かっている。阿倍野家が預かっているという遺言書の内容によっては、うちへの負債を背負うことになることは、承知してもらいたい」
顎に手を当てて、体格の良い男が思案する。
「ふむ、なるほどな……」
「あらら、じゃあこの書状も意味ないですね。どうします、紅尾さん?」
「まぁ、俺はそもそもその書状見た時点で、そんな気はしていたが……」
そこで、何かを引きずる音とともに、襖が開く。
「失礼します。阿倍野様がいらっしゃるとのことで身支度をしていたので、遅れました。私、須藤 暁平の娘の、小夜です。阿倍野様は、どちらにいらっしゃるのですか?」
三指ついて頭下げる女を皆が見た。
つづく
衣替えをしてから間もない頃の昼休みに、父から俺のスマホではなく、高校に直接連絡が入った。担任の先生から受話器を受け取り、電話を変わった旨を伝えると、
『須藤家当主が今日、亡くなったらしい! 今から迎えに行くから、用意しておきなさい!』
それだけ言うと電話が切れた。
荷物をまとめ校門近くのロータリーに行くと、父の車がすでに止まっていた。
「遅い! 何をしていたんだ?」
父はイライラしているのか、ハンドルを握ったまま指でコツコツと叩き、助手席の窓を開けて言い放つ。俺は助手席に乗り込みながら、軽く説明する。
「すみません。先生方や友人に説明していたら、遅くなりました」
「ったく、グズグズするな! ここで遅れを取ったら、あの娘は他の者に奪われるかもしれんのだぞ!?」
シートベルトを締めながら、俺は疑問を口にする。
「奪われる……? 何かあったのですか?」
「あぁ、今回の葬儀は阿倍野も出席すると言い出してきたらしい。まったく……どこで嗅ぎつけたのやら」
助手席の窓を閉めながら、父は車を出す。
「阿倍野って、御当主本人が……ですか?」
「そこまではわからん。だが、これを機に須藤の姫御子を手篭めにしようと画策してくるかもしれん。とにかく、急ぐぞ」
こうして俺は今、再び須藤家を訪ねるべく車に揺られているのだった。
「そういえば景明、遺言書はどうした?」
「どうしたもなにも、父上に言いつけたられたように厳重に保管してあります。清須の厳重な守りが破られてなければ、そこにありますよ」
「ならばそれでいい。原本に何かあったら、大変だからな。私は一応、遺言書をもらった時にとったコピーを持ってきた。何もないよりはマシだろう」
それから間も無くして、少しひらけた場所に着いた。そこにはすでに車が数台止まっていた。父はてきとうな場所に車を止める。止まっている車のうち、2、3台は使用人の車だろう。残りの車は……阿倍野家関連の車か?
チラリと横目で見ながら車を降り、そこから石段を上がって、須藤家の門をくぐる。
玄関前に使用人が立っており、俺たちを見ると小走りでかけて来て戸惑いを隠せない様子で伝える。
「お待ちしておりました、旦那様。実は少々込み入った状況になっておりまして……」
「わかっている。どうせ阿倍野が無茶を言って来たんだろう? 大丈夫だ、遺言状は私たちが持っている」
「それが、阿倍野も遺言状を預かっていると言って、たった今、使者の方々が来たのです!」
「なんだと?!」
「……そ、それは本当なんですか?!」
父も俺も驚きを隠せない。すると、縁側に面した障子がスーッと開き、見知らぬ男が顔を出した。見知らぬ男は、標準語だが西寄りのイントネーションで声をかけてきた。
「なんか騒がしいと思ったら、清須さんも来たんですか? まぁ、立ち話もなんですから、一緒にお茶でも飲みましょ?」
「おい、自分の家でもねぇくせに図々しいぞ! すみません、清須殿。躾がなってなくて……」
もう一人体格が良い男が出てきて、関西訛りの男を叱りつける。
「ふんっ! とりあえず、中に入って事情を聞くか」
父は鼻を鳴らし、須藤家の邸宅へと足を踏み入れたので俺も後に続く。
父は使用人の案内なく、ずんずんと廊下を早歩きで進んで行く。まるで須藤家の間取りを知ってるかのように迷いなく。俺たちの後ろから使用人が、申し訳なさそうについてくる。
目的の部屋に着くと、父は間髪入れずに襖を開け、部屋に踏み入る。
さきほどの男たちと目が合った。関西訛りの方は、30手前くらい。体格が良い方は……40代くらいだろうか?
「お、清須さん! お早いお着きで。やっぱり普段から覗き見してる人は違いますなぁ」
「覗き見……?」
俺が疑問を口にすると、父があからさまに苛立った様子で唸るように問いかける。
「さきほど、うちの使用人に聞いたが、『遺言状を預かってる』とはどういう意味だ?」
「それを答える前に、清須殿に確認したいことがある。今、うちの使用人と言ったがどういう意味だ?」
体格の良い男が質問する。父は面倒くさそうに大きくため息をつくと、説明を始める。
「はあぁ。これだから、部外者は……。まぁいいだろう。ここに勤めている使用人は全部清須から遣わした者だ。須藤はとうの昔に財力はつき、家や土地の管理も自分たちだけではままならなかった。だから、分家筋である我々清須が何代かにわたって支えてきたのだ。清須に借金を作るカタチでな。……清須も本日亡くなった須藤家当主・須藤 暁平殿の遺言書を預かっている。阿倍野家が預かっているという遺言書の内容によっては、うちへの負債を背負うことになることは、承知してもらいたい」
顎に手を当てて、体格の良い男が思案する。
「ふむ、なるほどな……」
「あらら、じゃあこの書状も意味ないですね。どうします、紅尾さん?」
「まぁ、俺はそもそもその書状見た時点で、そんな気はしていたが……」
そこで、何かを引きずる音とともに、襖が開く。
「失礼します。阿倍野様がいらっしゃるとのことで身支度をしていたので、遅れました。私、須藤 暁平の娘の、小夜です。阿倍野様は、どちらにいらっしゃるのですか?」
三指ついて頭下げる女を皆が見た。
つづく
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