310 / 366
汎用人型最強遊具
しおりを挟む
納得がいかない。すこぶる納得がいかない……。
お父様とオヒシバが放り投げ、タデとヒイラギが砕いた岩を私は集め、荷車に載せることを繰り返している。
結局私は他の者たちが作業をしているのを黙って見ていることなんて出来ず、ツルボと共にひたすら動き回っているのだ。
私もまたお父様と同じく、体を動かし何かをしていないと駄目なんだと気付いた。マグロのように泳ぐのを止めると死んでしまうわけではないが、見ているだけなんて出来ない。
このことから、お父様に似ていると自覚してしまったのが一つ目の納得がいかない理由だ。
そして二つ目の理由はテックノン王国側にある。
『ニコライ様が言っていたお姫様を見たかったな』
『あぁ。あの女の子はとても可愛いが、お姫様ではないだろ? お姫様って、もっとこう……なぁ?』
『それにとても立派な王様がいるとも言っていたが、二人とも忙しいのだろう。会えなくて残念だ』
『あんな小さな女の子まで働くなんて、本当に大変なんだな。そもそも国があるなんて信じられなかったけどな』
作業員たちが作業をしながら小声で話しているのだが、カクテルパーティー効果により聞こえてしまうのだ。断じて私の耳が良いわけではない。
ニコライさんは私たちを『カレン嬢、モクレン様』と呼ぶが、その二人が噂の姫と王様とまでは説明をしていなかったらしい。ニコライさんの知り合いくらいにしか思われていないようだ。
タデとヒイラギは『姫』と呼んでいるけれど、王様であるお父様を呼び捨てにしているし、私の愛称くらいに思っているのだろう。
考えてみれば、いや、考えなくても大きな岩を笑顔で放り投げる王様なんていないだろうし、スコップでホームランを打つ姫なんてどこにもいないだろう。
さらには、自らの手を汚して率先して岩を集め走り回る姫なんていないはずだ。『お姫様!』とチヤホヤされたいわけではないが、心中はモヤモヤとし納得がいかないのだ。
聞こえないフリを徹底して作業をしていると、タデが叫んだ。
「モクレン!」
普通の人であれば持ち上げることも困難な大きさの岩を放り投げ、今は普通の大きさの岩を軽々と投げていたお父様が岩山から降りて来た。
ちなみにその岩山は、お父様とオヒシバのおかげで今ではだいぶ小さな山となっている。
「どうした? 何かあったか?」
「先程ニコライ殿に聞いたのだが……」
タデが私にも手招きして呼び、お父様に説明をする。今日はこの場に作業員しかいないが、明日テックノン王国の王様が来て簡単な開通式をやりたいとのことだった。
ちなみにニコライさんとマークさんは慣れない肉体労働のせいか、皆の邪魔にならない場所で完全に伸びている。ニコライさん本人は「体が鈍っていますね……」と言い訳をしていたが。
「なのでお前たち父娘は一度戻ったらどうだ? さすがに他国の王に会うのに、その格好はないだろう」
改めて自分の服を見てみれば、土埃に砂埃、さらに石が砕けた粉まで隅々まで付着している。
「……帰りたいのはお前たちだろう?」
お父様は少し考えた後にそう言ったが、タデは「今日明日ではないはずだ」と言う。
出産の近い奥さんが心配だろうに、ヒーズル王国の面子を立てることを優先しようとしてくれている。
「しかし……」
「大丈夫だ。レンゲやおババも側にいる。何も問題はない」
タデを心配するお父様だが、タデは真面目な顔でそう言いきった。
そうまで言われてしまえば、私もお父様も戻らないわけにはいかない。今度は私たちがタデの面子を立てることにした。
「お父様、直に日が暮れるわ。急いで帰りましょう。タデの言う通り、さすがにこの格好で会うのは向こうに悪いわ」
「そうだ。明日は思いっきり着飾って来い」
そう言ったタデは笑ってお父様の肩を叩いた。お父様はその肩を撫で、少年のように笑った。
「分かった。ここは任せたぞ」
「あぁ。明日には平坦な道にしておいてやる」
こうして『お父様』と『お父さん』はハイタッチを交わした。
それを遠目に見たヒイラギが現れ、一部始終を話すと「暗くなる前に早く戻って」と私たちを心配してくれる。
二人の勇姿は、それぞれの奥様に伝えねばならない。
オヒシバとツルボにも話をしたが、ツルボは笑顔でこの場に残ると言った。だが問題はオヒシバである。
「頭にモヤがかかっているようで……私は広場には戻らないほうが良い気がします……」
どうやら軽い記憶喪失となっているらしく、私たちはその言葉に上手く反応が出来ず、かと言って励ますことも出来ず、お父様が「……この場を頼む」と言い残して岩山を越えた。
「カレンよ、疲れているのか?」
歩き始めるとお父様は不意に質問をした。
「そうね……さすがに今日は疲れたわ」
正直な感想を言うとお父様が笑う。
「いつもより歩く速度が遅いのでな。背負ってやろう」
優しく微笑んだお父様はそう言いながらしゃがみ、疲れていた私はそのままお父様の背中にしがみついた。なんだかんだ言っても、私はやはりお父様が好きなのだ。
「では行くぞ」
お父様は肩ごしに私を見てそう言うと、一歩ずつゆっくりと歩き出す。だが何だか様子がおかしい……。
「おと……お父様!? ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
「はははは! カレンよ! 口を閉じろ! 舌を噛むぞ! 早く帰ろうではないか!」
やはりお父様はお父様だった。私を背負ったまま、人とは思えぬスピードで走り出し、私は異世界に転生したのに人力……いや、人型ジェットコースターを味わったのだ。
以前お父様はクジャを背負って走ったが、脳内だけは変に冷静な私は、あの時はかなり気を使って走っていたのだと悟った。
前言撤回である。通常のお父様は好きだが、こういった部分は娘でも引くのだ……。
お父様とオヒシバが放り投げ、タデとヒイラギが砕いた岩を私は集め、荷車に載せることを繰り返している。
結局私は他の者たちが作業をしているのを黙って見ていることなんて出来ず、ツルボと共にひたすら動き回っているのだ。
私もまたお父様と同じく、体を動かし何かをしていないと駄目なんだと気付いた。マグロのように泳ぐのを止めると死んでしまうわけではないが、見ているだけなんて出来ない。
このことから、お父様に似ていると自覚してしまったのが一つ目の納得がいかない理由だ。
そして二つ目の理由はテックノン王国側にある。
『ニコライ様が言っていたお姫様を見たかったな』
『あぁ。あの女の子はとても可愛いが、お姫様ではないだろ? お姫様って、もっとこう……なぁ?』
『それにとても立派な王様がいるとも言っていたが、二人とも忙しいのだろう。会えなくて残念だ』
『あんな小さな女の子まで働くなんて、本当に大変なんだな。そもそも国があるなんて信じられなかったけどな』
作業員たちが作業をしながら小声で話しているのだが、カクテルパーティー効果により聞こえてしまうのだ。断じて私の耳が良いわけではない。
ニコライさんは私たちを『カレン嬢、モクレン様』と呼ぶが、その二人が噂の姫と王様とまでは説明をしていなかったらしい。ニコライさんの知り合いくらいにしか思われていないようだ。
タデとヒイラギは『姫』と呼んでいるけれど、王様であるお父様を呼び捨てにしているし、私の愛称くらいに思っているのだろう。
考えてみれば、いや、考えなくても大きな岩を笑顔で放り投げる王様なんていないだろうし、スコップでホームランを打つ姫なんてどこにもいないだろう。
さらには、自らの手を汚して率先して岩を集め走り回る姫なんていないはずだ。『お姫様!』とチヤホヤされたいわけではないが、心中はモヤモヤとし納得がいかないのだ。
聞こえないフリを徹底して作業をしていると、タデが叫んだ。
「モクレン!」
普通の人であれば持ち上げることも困難な大きさの岩を放り投げ、今は普通の大きさの岩を軽々と投げていたお父様が岩山から降りて来た。
ちなみにその岩山は、お父様とオヒシバのおかげで今ではだいぶ小さな山となっている。
「どうした? 何かあったか?」
「先程ニコライ殿に聞いたのだが……」
タデが私にも手招きして呼び、お父様に説明をする。今日はこの場に作業員しかいないが、明日テックノン王国の王様が来て簡単な開通式をやりたいとのことだった。
ちなみにニコライさんとマークさんは慣れない肉体労働のせいか、皆の邪魔にならない場所で完全に伸びている。ニコライさん本人は「体が鈍っていますね……」と言い訳をしていたが。
「なのでお前たち父娘は一度戻ったらどうだ? さすがに他国の王に会うのに、その格好はないだろう」
改めて自分の服を見てみれば、土埃に砂埃、さらに石が砕けた粉まで隅々まで付着している。
「……帰りたいのはお前たちだろう?」
お父様は少し考えた後にそう言ったが、タデは「今日明日ではないはずだ」と言う。
出産の近い奥さんが心配だろうに、ヒーズル王国の面子を立てることを優先しようとしてくれている。
「しかし……」
「大丈夫だ。レンゲやおババも側にいる。何も問題はない」
タデを心配するお父様だが、タデは真面目な顔でそう言いきった。
そうまで言われてしまえば、私もお父様も戻らないわけにはいかない。今度は私たちがタデの面子を立てることにした。
「お父様、直に日が暮れるわ。急いで帰りましょう。タデの言う通り、さすがにこの格好で会うのは向こうに悪いわ」
「そうだ。明日は思いっきり着飾って来い」
そう言ったタデは笑ってお父様の肩を叩いた。お父様はその肩を撫で、少年のように笑った。
「分かった。ここは任せたぞ」
「あぁ。明日には平坦な道にしておいてやる」
こうして『お父様』と『お父さん』はハイタッチを交わした。
それを遠目に見たヒイラギが現れ、一部始終を話すと「暗くなる前に早く戻って」と私たちを心配してくれる。
二人の勇姿は、それぞれの奥様に伝えねばならない。
オヒシバとツルボにも話をしたが、ツルボは笑顔でこの場に残ると言った。だが問題はオヒシバである。
「頭にモヤがかかっているようで……私は広場には戻らないほうが良い気がします……」
どうやら軽い記憶喪失となっているらしく、私たちはその言葉に上手く反応が出来ず、かと言って励ますことも出来ず、お父様が「……この場を頼む」と言い残して岩山を越えた。
「カレンよ、疲れているのか?」
歩き始めるとお父様は不意に質問をした。
「そうね……さすがに今日は疲れたわ」
正直な感想を言うとお父様が笑う。
「いつもより歩く速度が遅いのでな。背負ってやろう」
優しく微笑んだお父様はそう言いながらしゃがみ、疲れていた私はそのままお父様の背中にしがみついた。なんだかんだ言っても、私はやはりお父様が好きなのだ。
「では行くぞ」
お父様は肩ごしに私を見てそう言うと、一歩ずつゆっくりと歩き出す。だが何だか様子がおかしい……。
「おと……お父様!? ……あぁぁぁぁぁぁ!!」
「はははは! カレンよ! 口を閉じろ! 舌を噛むぞ! 早く帰ろうではないか!」
やはりお父様はお父様だった。私を背負ったまま、人とは思えぬスピードで走り出し、私は異世界に転生したのに人力……いや、人型ジェットコースターを味わったのだ。
以前お父様はクジャを背負って走ったが、脳内だけは変に冷静な私は、あの時はかなり気を使って走っていたのだと悟った。
前言撤回である。通常のお父様は好きだが、こういった部分は娘でも引くのだ……。
11
お気に入りに追加
1,950
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
恩恵沢山の奴隷紋を良かれと思ってクランの紋章にしていた俺は、突然仲間に追放されました
まったりー
ファンタジー
7つ星PTに昇格したばかりのPTで、サポート役をしていた主人公リケイルは、ある日PTリーダーであったアモスにクランに所属する全員を奴隷にしていたと告げられてしまいます。
当たらずとも遠からずな宣告をされ、説明もさせてもらえないままに追放されました。
クランの紋章として使っていた奴隷紋は、ステータスアップなどの恩恵がある以外奴隷としての扱いの出来ない物で、主人公は分かって貰えずショックを受けてしまい、仲間はもういらないと他のダンジョン都市で奴隷を買い、自分流のダンジョン探索をして暮らすお話です。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
転生王女は現代知識で無双する
紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。
突然異世界に転生してしまった。
定番になった異世界転生のお話。
仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。
見た目は子供、頭脳は大人。
現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。
魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。
伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。
読んでくれる皆さまに心から感謝です。
料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!
ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました
。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。
令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。
そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。
ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる