210 / 370
手当て
しおりを挟む
お父様とじいやは慣れた手つきで治療にあたる。この傷口に貼り付けている植物は、森の民にとって馴染み深いものらしく、傷にも打ち身にも良く効く薬草とのことだった。
「ふむ、骨は折れてはいないようだな」
「モズ殿も折れていないようです」
お父様たちは、万が一骨が折れていた時の為にと添え木まで用意して来ていた。手や腕の処置が終わると、呆然とお父様を見つめているクジャと視線を合わせたお父様が口を開く。
「嫁入り前の女性に、こんなに触れてしまい済まないな。謝罪ついでに顔も触らせてもらうぞ」
正直に言うと、娘の目から見てもお父様は格好良いのだ。狼や狐のような鋭い目つきと、野生動物のように、おいそれと簡単に近寄れない雰囲気をまとっている。そんなお父様に「嫁入り前の女性」と言われたクジャは、スイレンに会った時のように赤面している。硬直しているのを良いことに、お父様はクジャの顔の処置も始めた。
「処置とはいえ、女性の顔をこんなことにしてしまい悪いな。ただこの薬草は効くから、しばらくこのままでいてほしい」
テープというものがないので、クジャのおでこや頬に包帯のように細長く切った布を巻いている。クジャは顔の傷が少なかったが、モズさんは目と鼻と口以外は全てぐるぐる巻きにされている。
そしてお父様は、入り口付近に置いたままにしていたカップを持ち、クジャとモズさんに手渡す。が、モズさんは両手もぐるぐる巻きだったため、カーラさんが手伝い飲ませようとしている。
「薬草茶だ。本来なら乾燥させたものを使うのだが、この状況だ。生で作ったので香りがきついかもしれん」
ふんわりどころか強烈に香るその薬草茶は、日本人には馴染み深いあの香りがする。
「……ヨーモギ……?」
この世界ではそう呼ばれているのだろう。よもぎの凝縮された香りが寝具の周辺に立ち込める。ふと、端午の節句に草餅を食べる理由を思い出した。よもぎは古くから、万能な薬草として日本で使われてきたのだ。その効能の中に、止血や造血作用もあったと記憶している。
「……味も匂いもヨーモギじゃ……」
一口飲んだクジャは、何ともいえない表情でそう漏らす。リーンウン国では、止血のために傷口に葉の絞り汁を塗るらしいが、こうやって飲むのは初めてらしい。
「傷の治りが早くなりますからの。慣れないと匂いがきついでしょうが、頑張って全部飲んでくだされ」
じいやはクジャとモズさんにそう言うと、二人は少しずつ口に含み、やがて全てを飲み干した。
「傷は治りかけていた。これで数日中には治るだろう。食欲はあるか?」
お父様が聞くと、クジャは小さく首を振る。カーラさんが言うには、ここ数日は果実水くらいしか口にしていないそうだ。
「カレン、何か食べやすいものを作ってくれ。その間に二人は眠ると良い。今はまだ聞かないが、必ず私たちが助けると約束しよう。まずは自分の体を……命を大事にしろ」
お父様が言うのと、普通の人が言うのとは重みが違う。森の民の話を知っている二人は涙ぐみながら、静かに横になる。それを見届け部屋を出ようとしたが、カーラさんだけは何かあった時のためにと残ることになった。
「ペーターさん、台所をお借りしても良いかしら?」
「あぁいくらでも使ってくれ。食材も好きに使って構わない」
部屋を出たところでペーターさんに問いかけると、そのまま台所へと案内してくれた。お父様たちはヨーモギを干したいと言うと、ペーターさんは台所に私を残し、案内のために出て行ってしまった。
食材の確認のために棚を開けると、ヒーズル王国でお馴染みの野菜が入っている。この町で種や苗を購入したのでそれは当然なのだが。そして調味料の確認をすると、塩とペパーしかない。初期のヒーズル王国のようだと苦笑いしてしまうが、あの時に作ったトウモロコーンのスープであれば、口の中を怪我しているモズさんも飲みやすいだろう。
ならば、と料理を始めようとしたが、どうにも火を起こすのが下手な私は、結局お父様を頼ったのだった。
「さてと……」
お父様がそのまま台所に残ってくれたおかげで、力が必要な細かく切った芯を搾る作業をしてくれる。今回はモズさんが食べやすいようにと、とにかくトウモロコーンの粒を細かくみじん切りのようにした。すり潰そうかとも思ったが、あまり食感が無さ過ぎても口の中が無事なクジャには物足りないと思い、あえて細かく砕いたのだ。
塩と極々少量のペパーの粉末で味付けをしていると、私が頼んだ森での採取を終えたじいやとペーターさんが戻って来た。
熱いまま二人に出すと傷が痛むと思い、水の中に鍋を入れて冷まし、それを器に盛ってクジャたちを訪ねた。
「クジャ……モズさん……汁物を作ったの……」
私たちが来たからか、クジャは落ち着き泣き叫ぶこともなく眠っている。小声で声をかけると、眠りが浅かったのか二人はすぐに目覚めてくれた。二人の体を起こし、カーラさんがクジャを、私がモズさんを担当し、二人の口にスープを運ぶ。
「……これをカレンが? ……美味い……」
クジャが呟くとモズさんもコクコクと頷いている。
「モズさん、傷にしみない? 大丈夫?」
声をかけるとモズさんは頷いてくれる。モズさんは本当は痛いだろうに、全てのスープを飲んでくれた。
そしてこの日は丸一日かけて、全員で二人の手当てをしたのだった。
「ふむ、骨は折れてはいないようだな」
「モズ殿も折れていないようです」
お父様たちは、万が一骨が折れていた時の為にと添え木まで用意して来ていた。手や腕の処置が終わると、呆然とお父様を見つめているクジャと視線を合わせたお父様が口を開く。
「嫁入り前の女性に、こんなに触れてしまい済まないな。謝罪ついでに顔も触らせてもらうぞ」
正直に言うと、娘の目から見てもお父様は格好良いのだ。狼や狐のような鋭い目つきと、野生動物のように、おいそれと簡単に近寄れない雰囲気をまとっている。そんなお父様に「嫁入り前の女性」と言われたクジャは、スイレンに会った時のように赤面している。硬直しているのを良いことに、お父様はクジャの顔の処置も始めた。
「処置とはいえ、女性の顔をこんなことにしてしまい悪いな。ただこの薬草は効くから、しばらくこのままでいてほしい」
テープというものがないので、クジャのおでこや頬に包帯のように細長く切った布を巻いている。クジャは顔の傷が少なかったが、モズさんは目と鼻と口以外は全てぐるぐる巻きにされている。
そしてお父様は、入り口付近に置いたままにしていたカップを持ち、クジャとモズさんに手渡す。が、モズさんは両手もぐるぐる巻きだったため、カーラさんが手伝い飲ませようとしている。
「薬草茶だ。本来なら乾燥させたものを使うのだが、この状況だ。生で作ったので香りがきついかもしれん」
ふんわりどころか強烈に香るその薬草茶は、日本人には馴染み深いあの香りがする。
「……ヨーモギ……?」
この世界ではそう呼ばれているのだろう。よもぎの凝縮された香りが寝具の周辺に立ち込める。ふと、端午の節句に草餅を食べる理由を思い出した。よもぎは古くから、万能な薬草として日本で使われてきたのだ。その効能の中に、止血や造血作用もあったと記憶している。
「……味も匂いもヨーモギじゃ……」
一口飲んだクジャは、何ともいえない表情でそう漏らす。リーンウン国では、止血のために傷口に葉の絞り汁を塗るらしいが、こうやって飲むのは初めてらしい。
「傷の治りが早くなりますからの。慣れないと匂いがきついでしょうが、頑張って全部飲んでくだされ」
じいやはクジャとモズさんにそう言うと、二人は少しずつ口に含み、やがて全てを飲み干した。
「傷は治りかけていた。これで数日中には治るだろう。食欲はあるか?」
お父様が聞くと、クジャは小さく首を振る。カーラさんが言うには、ここ数日は果実水くらいしか口にしていないそうだ。
「カレン、何か食べやすいものを作ってくれ。その間に二人は眠ると良い。今はまだ聞かないが、必ず私たちが助けると約束しよう。まずは自分の体を……命を大事にしろ」
お父様が言うのと、普通の人が言うのとは重みが違う。森の民の話を知っている二人は涙ぐみながら、静かに横になる。それを見届け部屋を出ようとしたが、カーラさんだけは何かあった時のためにと残ることになった。
「ペーターさん、台所をお借りしても良いかしら?」
「あぁいくらでも使ってくれ。食材も好きに使って構わない」
部屋を出たところでペーターさんに問いかけると、そのまま台所へと案内してくれた。お父様たちはヨーモギを干したいと言うと、ペーターさんは台所に私を残し、案内のために出て行ってしまった。
食材の確認のために棚を開けると、ヒーズル王国でお馴染みの野菜が入っている。この町で種や苗を購入したのでそれは当然なのだが。そして調味料の確認をすると、塩とペパーしかない。初期のヒーズル王国のようだと苦笑いしてしまうが、あの時に作ったトウモロコーンのスープであれば、口の中を怪我しているモズさんも飲みやすいだろう。
ならば、と料理を始めようとしたが、どうにも火を起こすのが下手な私は、結局お父様を頼ったのだった。
「さてと……」
お父様がそのまま台所に残ってくれたおかげで、力が必要な細かく切った芯を搾る作業をしてくれる。今回はモズさんが食べやすいようにと、とにかくトウモロコーンの粒を細かくみじん切りのようにした。すり潰そうかとも思ったが、あまり食感が無さ過ぎても口の中が無事なクジャには物足りないと思い、あえて細かく砕いたのだ。
塩と極々少量のペパーの粉末で味付けをしていると、私が頼んだ森での採取を終えたじいやとペーターさんが戻って来た。
熱いまま二人に出すと傷が痛むと思い、水の中に鍋を入れて冷まし、それを器に盛ってクジャたちを訪ねた。
「クジャ……モズさん……汁物を作ったの……」
私たちが来たからか、クジャは落ち着き泣き叫ぶこともなく眠っている。小声で声をかけると、眠りが浅かったのか二人はすぐに目覚めてくれた。二人の体を起こし、カーラさんがクジャを、私がモズさんを担当し、二人の口にスープを運ぶ。
「……これをカレンが? ……美味い……」
クジャが呟くとモズさんもコクコクと頷いている。
「モズさん、傷にしみない? 大丈夫?」
声をかけるとモズさんは頷いてくれる。モズさんは本当は痛いだろうに、全てのスープを飲んでくれた。
そしてこの日は丸一日かけて、全員で二人の手当てをしたのだった。
44
あなたにおすすめの小説
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる