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七月二十九日|梢ちゃんの結婚祝い
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梢ちゃんの結婚祝いに、ハンドメイドのアクセサリーをあげることになった。わたしは梢ちゃんのリクエスト通り、外国の海を彷彿とさせる青緑色のペンダントを作った。材料にするシーグラスを探すところからこだわったのでかなり大変だったけれど、小さい頃からずっと仲のいい梢ちゃんのためならちっとも苦じゃなかった。しばらく他の依頼はストップして時間を作り、プレゼントはなんとか完成した。
「ほんとにうれしい、一生大切にする」
梢ちゃんはそのペンダントを見て、心から喜んでくれた。わたしはうれしくなるよりも先にほっとした。梢ちゃんは小学生の頃からファッションにこだわりがあって、全身のコーディネートをすべて同じブランドで揃えるような子だった。だから、いくらアクセサリー作りで生計を立てているとはいえ、わたしなんかの手作りで本当に喜んでもらえるか心配だったのだ。
「だってわたしがリクエストしたんだよ? うれしいに決まってんじゃん」
不安だったことを正直に打ち明けると、梢ちゃんは茶化すように笑った。それでわたしもようやく安心し、心からおめでとうと言うことができた。
プレゼントしてから一ヶ月も経たないうちに、梢ちゃんから連絡が来た。半年後にある結婚式でわたしが作ったペンダントを付けるから、あのペンダントに合うピアスも作ってほしいという連絡だった。
「これは友達にじゃなくて、ハンドメイド作家に対する依頼だから」
梢ちゃんは何度もそう言ったので、わたしはありがたく料金を受け取って制作した。ペンダントと似た色のシーグラスで作ったピアスは、我ながらいい出来だった。納品すると、梢ちゃんは「イメージにぴったり」と喜んでくれた。
再び連絡を受けたのは、その翌週だ。電話がかかってきたときにはまさかと思ったけれど、そのまさかだった。梢ちゃんは、今度は指輪を、それも結婚指輪を作ってほしいと言った。
「結婚指輪、もう買ったって言ってなかった? 梢ちゃんが好きなブランドのやつ」
「うん、買ったんだけど、ペンダントもピアスも作ってもらったし、せっかくだから揃えたくて」
指輪だって作ったことがないのに、ましてや結婚指輪なんて、わたしの作風でどう作ればいいか見当もつかなかった。でも、電話の向こうで頼み込む梢ちゃんの声を聞くと、依頼を断れなかった。一番高級そうに見えるリングパーツを取り寄せ、シーグラスをできるだけ小さく加工し、なんとか結婚指輪に見えそうな指輪を二つ作った。
そこまではまだよかった。問題はそのあとだ。
「せっかくだからドレスも作ってほしいの」
その依頼はさすがにどう考えても無理だったので、わたしははっきり断った。でも梢ちゃんは絶対に譲らなかった。「大丈夫、市販のドレスに飾りつけるだけでいいから」と頑なに言い張って、結局わたしは依頼を受けてしまった。
引き受けてしまった以上はなんとか期待に応えようと、買ったウェディングドレスに加工したシーグラスを飾りつけてみた。でも、高級感にあふれるドレスにシーグラスの素朴さは合わなくて、幼稚園のお遊戯会のようなちぐはぐなドレスになった。
「がんばってはみたけど、とても結婚式で着られるものじゃないよ。やっぱり普通のドレスを着た方がいいと思う。ほら、梢ちゃんの好きなブランドのドレスとか……」
なんとか思い直してもらおうとわたしが言うと、梢ちゃんはあっけらかんとした調子で言った。
「だって、ペンダントもピアスも指輪も作ってもらったんだよ。これでドレスだけ別のブランドなんて気持ち悪くない? わたし、コーディネートは全部同じブランドじゃなきゃ嫌なの」
ドレスだけ違うブランドになるくらいだったら、ちぐはぐなドレスを着た方がいい。梢ちゃんにそうとまで言われたら、わたしはもう何も言えなかった。
結婚式の日はすぐそこまで迫っていた。ドレスとシーグラスの相性は悪く、デザインをし直したところでまったく噛み合わない。頭を抱えていると、電話が鳴った。梢ちゃんからだ。出るか出ないか迷いながら、そういえば全身コーディネートするには靴が足りていないなと思った。
「ほんとにうれしい、一生大切にする」
梢ちゃんはそのペンダントを見て、心から喜んでくれた。わたしはうれしくなるよりも先にほっとした。梢ちゃんは小学生の頃からファッションにこだわりがあって、全身のコーディネートをすべて同じブランドで揃えるような子だった。だから、いくらアクセサリー作りで生計を立てているとはいえ、わたしなんかの手作りで本当に喜んでもらえるか心配だったのだ。
「だってわたしがリクエストしたんだよ? うれしいに決まってんじゃん」
不安だったことを正直に打ち明けると、梢ちゃんは茶化すように笑った。それでわたしもようやく安心し、心からおめでとうと言うことができた。
プレゼントしてから一ヶ月も経たないうちに、梢ちゃんから連絡が来た。半年後にある結婚式でわたしが作ったペンダントを付けるから、あのペンダントに合うピアスも作ってほしいという連絡だった。
「これは友達にじゃなくて、ハンドメイド作家に対する依頼だから」
梢ちゃんは何度もそう言ったので、わたしはありがたく料金を受け取って制作した。ペンダントと似た色のシーグラスで作ったピアスは、我ながらいい出来だった。納品すると、梢ちゃんは「イメージにぴったり」と喜んでくれた。
再び連絡を受けたのは、その翌週だ。電話がかかってきたときにはまさかと思ったけれど、そのまさかだった。梢ちゃんは、今度は指輪を、それも結婚指輪を作ってほしいと言った。
「結婚指輪、もう買ったって言ってなかった? 梢ちゃんが好きなブランドのやつ」
「うん、買ったんだけど、ペンダントもピアスも作ってもらったし、せっかくだから揃えたくて」
指輪だって作ったことがないのに、ましてや結婚指輪なんて、わたしの作風でどう作ればいいか見当もつかなかった。でも、電話の向こうで頼み込む梢ちゃんの声を聞くと、依頼を断れなかった。一番高級そうに見えるリングパーツを取り寄せ、シーグラスをできるだけ小さく加工し、なんとか結婚指輪に見えそうな指輪を二つ作った。
そこまではまだよかった。問題はそのあとだ。
「せっかくだからドレスも作ってほしいの」
その依頼はさすがにどう考えても無理だったので、わたしははっきり断った。でも梢ちゃんは絶対に譲らなかった。「大丈夫、市販のドレスに飾りつけるだけでいいから」と頑なに言い張って、結局わたしは依頼を受けてしまった。
引き受けてしまった以上はなんとか期待に応えようと、買ったウェディングドレスに加工したシーグラスを飾りつけてみた。でも、高級感にあふれるドレスにシーグラスの素朴さは合わなくて、幼稚園のお遊戯会のようなちぐはぐなドレスになった。
「がんばってはみたけど、とても結婚式で着られるものじゃないよ。やっぱり普通のドレスを着た方がいいと思う。ほら、梢ちゃんの好きなブランドのドレスとか……」
なんとか思い直してもらおうとわたしが言うと、梢ちゃんはあっけらかんとした調子で言った。
「だって、ペンダントもピアスも指輪も作ってもらったんだよ。これでドレスだけ別のブランドなんて気持ち悪くない? わたし、コーディネートは全部同じブランドじゃなきゃ嫌なの」
ドレスだけ違うブランドになるくらいだったら、ちぐはぐなドレスを着た方がいい。梢ちゃんにそうとまで言われたら、わたしはもう何も言えなかった。
結婚式の日はすぐそこまで迫っていた。ドレスとシーグラスの相性は悪く、デザインをし直したところでまったく噛み合わない。頭を抱えていると、電話が鳴った。梢ちゃんからだ。出るか出ないか迷いながら、そういえば全身コーディネートするには靴が足りていないなと思った。
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