七月の七等星

七草すずめ

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七月二十八日|海とクリームソーダ

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 寄せては返す波が立てるしゅわしゅわした音を聞きながら、この海が巨人のクリームソーダである可能性について考える。
 なくはない話だと思う。だって北極とかでは氷も浮いているし、南極の山はアイスっぽい。海がクリームソーダなら、地球はそのグラスにすぎない。でもそうだとしたら、ストローがどこにも刺さっていないのはおかしい。もしストローなしに巨人がクリームソーダを飲もうとしたら、地球は傾くどころかひっくり返るだろう。今のところ地球がひっくり返った記録はないので、巨人がストローを使っているのはまちがいない。だから多分、人目のつかないどこかにストローが刺さっているのだと思う。
 いや、ちょっと待ってほしい。この仮定には穴がある。そもそも海は、クリームソーダにしては塩分が多すぎやしないか。わたしは海で溺れかけて海水を飲んだ経験があるけれど、あれは尋常じゃないしょっぱさだった。ストローで海水を勢いよく吸ったら確実にむせる。スイカに塩をかけるとおいしいよとかいう次元の話じゃない。となるとやはり、この地球は巨人のクリームソーダではないのだろうか。
 と、そこで気付いた。言い切るのはまだ早い。だって、巨人がわたしたちと同じ味覚を持っているとは限らないじゃないか。わたしは一度金魚のえさを食べたことがあるけれど、あれは尋常じゃないまずさだった。甘いのがおいしいなんてのは人間の味覚であり、金魚には金魚の、巨人には巨人の「おいしい」があるにちがいない。巨人はしょっぱいのが好きなのだ。そうに決まってる。
 想像してみる。宇宙を遊泳していた巨人は、ちょっと疲れたから休憩しようとカフェに寄る。カフェにはいろんな飲み物が並べられているけれど、巨人は迷わず美しい球体のグラスを選ぶ。カフェの主人に「この青がきれいなんだよね」とかなんとか言いながら、ストローを吸う。「くう、たまんないしょっぱさだ」と言われて、カフェの主人は照れ臭そうに笑う。……みたいなことがわたしの知らない場所で行われている可能性について、真剣に考えてみる。
「お待たせ、ジュース買ってきたよ」
 声をかけられ振り向いたら、クリームソーダを持った彼氏が立っていた。わたしが「ありがとう」と笑うと、海風でスカートがひらりと揺れた。受け取ったカップの中で、氷がことんと小さな音を立てる。
「待ってるあいだ、何してたの?」
「うーん? ぼーっとしてたかな」
 わたしは彼氏と手をつなぎ、しゅわしゅわと音を立てる波に背を向けて歩き出した。巨人になったつもりでカップの中の海を飲み込むと、刺激的で甘ったるい味がした。
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