七月の七等星

七草すずめ

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七月二十三日|向日葵

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 花を育てるのが好きなのですが、どうしてもひまわりだけうまく育ちません。なぜかわたしの庭で育ったひまわりは、太陽の方を向かず俯いてしまうのです。ひまわりは漢字で「向日葵」と書きます。太陽を仰いでこその花です。わたしに育てられたひまわりはきっと幸せではないだろう。そう思い、ひまわりを育てるのはやめました。
 ところが、今年の夏に妙なことが起こりました。ある暑い日に昼寝をしていたら、夢にひまわりが出てきてこう言ったのです。
「あたしはあなたに育ててもらいたいの」
 びっくりしていると、土の中からぽんぽんひまわりが生えてきて、次々に言いました。「そうだそうだ」「ぼくもあなたに育てられたい」「育てるのをやめないで」
 ひまわりたちに懇願され困りきったところで、夢から覚めました。わたしはぼんやりした頭のままでホームセンターへ行き、ひまわりの苗をあるだけ買ってきました。庭にもうひまわり用のスペースは残っていなかったので、いくつかの花を引っこ抜き、買ったばかりの苗を植えました。
 それからしばらくして、大きく成長したひまわりは花を咲かせました。でも、やっぱりどの花も太陽を見ていません。ああ、結局また失敗してしまった。落胆しましたが、その夜にもう一度夢を見ました。ひまわりたちは悲しむわたしに言いました。「ありがとう」「この庭に来られて幸せ」「あなたがいてくれてよかった」
「どうして? この庭で育ったら、太陽を見られないのに」
 泣きそうになりながらそう聞くと、ひまわりたちは言いました。「みんながみんな太陽を見てたいわけじゃない」「あたし太陽嫌い」「あんな眩しいもの見ていたくない」
「そうなの?」
「うん。ひまわりがみんな明るい性格だと思わないで」
 そのとき、雷に打たれたような衝撃を受けました。わたしはずっと勘違いしていました。「向日葵」はみんな太陽が好きなのだと。でも、よく考えたら「人間」だって、みんながみんな社会的なわけではありません。コミュニケーションが苦手な人間もいれば、内気な性格のひまわりがいたっておかしくないのです。
「わかった、これからもひまわりを育てる。内気なひまわりの居場所を作る」
 わたしがそう言うと、ひまわりたちは微笑んで、すうっと消えていきました。
 その後、わたしは内気なひまわりたちを迎えるために、庭の草花を全て抜きました。そこらじゅうのホームセンターや花屋をめぐり、ひまわりの苗を集めました。もちろん間違いがないように、
「あなたは内気なタイプ? うちに来る?」
 と聞き、「うん」と答えが返ってきたものだけを購入しました。
 今、わたしの庭はひまわりでいっぱいです。みんな太陽から目を逸らすように下を向き、一生懸命に咲き誇っています。わたしの庭で育ったひまわりは、太陽の方を向かず俯いてしまいます。でもそれは、内気なひまわりにとって楽園のような庭なのです。わたしはこれからも、この庭を守り続けていきたいと思います。
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