七月の七等星

七月二十二日｜未来からのメッセージ

　メッセージアプリの調子が悪く、未来からメールが来るようになってしまった。最初は迷惑メールの日付がおかしい程度だったから、日付がバグって表示されているだけだと思っていた。おや、と思ったのは「豪雨で臨時休講のお知らせ」という二週間後の日付のメールが届いたときで、実際に二週間後に豪雨で休講となって初めて、未来からメールが来ていることに気付いた。
　ためしに「メッセージアプリ　未来の日付」で検索してみたら、〈メッセージアプリの様子がおかしい！　未来からのメールが来たときの対処法〉という記事が引っかかった。それによると、アプリと端末の不具合で未来からのメールを受信してしまうケースがあるのだという。その記事は、タイトルに対処法とあるくせに〈この不具合を解消する対処法は今のところありません。スマホを今すぐに買い換えるのをおすすめします。〉と締められていた。買い替えとあるが、ちょうどスマホを最新機種に変えたばかりで分割払いもまだまだ残っていたし、未来からメールが来たら便利そうだとも思ったので、そのまま放っておくことにした。
　せっかくだから、未来からのメールで一儲けできないかと考えたこともあった。たとえば友人に競馬の結果をメールしてもらうとか、宝くじの番号を教えてもらうとか、いくらでも活用方法はありそうだ。でも、狙ったメールを未来から受け取ることはできず、結局は何も得しなかった。
　いや、得しないどころか、むしろストレスでしかなかった。未来から来たメールは、すぐに返信できない。本来メールが来るはずだった日時まで待って、それから返事を書かなければおかしなことになるからだ。一度、未来から来たメールだと気付かずにゼミの先生に返事を送ったら、「なぜその情報を知ってるんだ」と怪しまれたこともあった。それからは、メールの日時を過剰なほどに確認したり、未来から重要なメールが来たらカレンダーに印をつけておいたりと、常に気を遣って過ごした。
　一番嫌だったのは、就活関連のメールが未来から届いたことだ。いよいよ最終面接だと意気込んで家を出た瞬間に「ご活躍を心よりお祈り申し上げます」のメールが来たときには、さすがに泣いた。せめて未来から採用メールが来てくれたらまだがんばろうと思えるのに、今のところ来ていない。
　これだけ困った思いをしているにもかかわらず、今すぐ絶対にスマホを買い替えてやろうと思うほどの出来事は起きないから余計に困る。たとえば友達の寿命がわかってしまうぐらいのショッキングなメールが届けば、借金をしてでも分割払いの残りを返済して買い替えようという決意ができる。だけど今のところ、せいぜい楽しみにしているドラマの犯人を知って愕然とする程度だ。
　未来からのメールが届くなんて、映画や小説ならいくらでもロマンチックなストーリーやら大事件やらに発展しそうなのに、現実はこんなにも無意味で無感動なものなのか。わたしは今日も一ヶ月後のメルマガを開き、一ヶ月後にポイント五倍キャンペーンがあるという今はどうでもいい情報を手に入れ、ため息をついている。最新スマホの分割払いが終わるまで、あと二十二ヶ月。あと二年弱の辛抱だ。