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第7章:武者修行編
第69話:オーク
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バルニ圏谷には銅級冒険者の中でも上級の力を持つパーティで当たるような魔物が生息している。
セネカの戦闘力は銀級冒険者に匹敵する水準になってきている。マイオルとプラウティアは銅級では中級から下級の戦闘力で、ガイアは魔法なしでは鉄級上位の実力だろう。
パーティとしての力、例えば連携力などはまだまだ拙く、例えばバエティカのベテランパーティである『樫の枝』と比べると差がある。しかし、近づいてきている部分もあるとマイオルは思っていた。だからこそ力を試すためにここにきたのだ。
山の中腹には、少数だがオークも生息すると言われている。セネカとマイオルの目には見事な連携でオークを倒した『樫の枝』の戦闘が目に焼き付いている。
バルニ圏谷では敵との遭遇は少ないが、一つ一つの戦闘は重たい。
例えばアイスフォックスは非常にすばしっこい魔物であり、氷の息を吐いてくる。その速さは全力時のセネカを超えるので攻撃を当てるのに苦労する。マイオルが俯瞰的視点で得た情報をガイアが解析するまでかすり傷をつけることもできなかったが、攻撃が当たってしまえば倒れるのは早かった。
ラクーンベアも強敵だった。毛皮が厚く剣が通りにくかったので、何度も攻撃を重ねる必要があった。
パーティでの戦闘を数多く経験して役割分担もできつつある。基本的にセネカとプラウティアが前衛で、状況に応じてマイオルが前に出る。ガイアは後衛から攻撃をして援護したり、罠を発動する係となっている。
ガイアはこれまで長距離攻撃手段を持っていなかったが、さまざまな武器を試した結果、スリングショットを使うことにした。いまガイアが持っているスリングショットは、伸縮性のある糸をセネカが縫い付けながら編み込んだ物なので強度が高い。
戦いを続けながら、四人は自信をつけていった。
自分たちは強くなったという実感を持ち、街にいる銅級のパーティに劣らないと考え始めていた。ただし、対応力に課題があることは痛感していたので浮つかないように自制することも忘れなかった。
◆
バルニ圏谷に来てから四日経った。
気候や地形、魔物に慣れてきたので、四人はより高地にある狩場に行くことにした。そこではより強い魔物が出現する。
慣らすために植物を採取しながら上の区域を歩いているとマイオルの【探知】に魔物の反応があった。
「オークが二体こっちに向かってくるわ。どうする?」
「戦いたい」
「わ、私はどっちでも良いです」
「戦おう」
「⋯⋯それじゃあ、戦いましょうか。セネカが一体、あたしとプラウティアで一体ね。ガイアは退路を確保しつつ、援護お願いね。あと、いつでも魔法が撃てるように準備だけしておいて」
「分かった」
四人は戦いやすい場所にオークを誘導しながらうまく引き付けた。
オークは豚の魔物である。二足歩行で巨体を活かした攻撃を仕掛けてくる。知恵は高く、技巧的な技を使ってくることがある。そして肉が厚くて攻撃が通りにくく、浅い傷であれば魔法で即座に回復してしまう。
中堅の壁とも言われる有名な魔物だ。中でもバルニ圏谷のオークは、肉付きが良くてイキイキとしている。ハイオークに匹敵する強さがあると評する者もいるほどだ。
二匹のオークが攻撃圏内に入った途端、マイオルの矢とガイアの石がオークに飛んで行った。片方のオークは矢に注目していたので、その後に飛んできたガイアの石が直撃した。
「ぐぴぃぃぃぃ」
セネカは痛がるオークの方に刀を向け、すぐさま腹を切りつけた。二度目の叫び声が響くが、決定打にはならなかったようで、傷がみるみるうちに回復してゆく。
「なるほどね」
セネカはどうやって仕留めるか考えながら戦いを続けた。
プラウティアとマイオルは無傷のオークにかかり、二匹の分断を試みている。
無傷のオークは憤怒の表情を浮かべて最前にいたプラウティアに殴りかかる。
強烈な攻撃を向けられたが、プラウティアはふわっとした動きで華麗に躱わす。プラウティアの動きは機敏ではないが、宙を舞う羽毛のように捉えにくい。
マイオルはオークとプラウティアのやり取りをスキルで詳細に観察しながら、隙を見て二人の間に割って入った。マイオルがオークと真正面で対峙し、プラウティアがオークの虚をついた攻撃を繰り出す。
マイオルもプラウティアも引き気味に戦っているので強力な攻撃を貰うことはない。だが、勝てる見込みもない。戦況は硬直していった。
ガイアは主にセネカの戦いの補助をしている。セネカが危ない攻撃を貰いそうな時に石を飛ばしている。まだ狙いが正確ではない部分があるので牽制狙いだ。
セネカは何度もオークを切りつけているけれど、決定打にはならない。
敵もそれを良いことに、肉を切らせて骨を断つような戦法に切り替えて来たため、ひやっとする場面が何度かあった。
一刀で両断できれば良いのだろうが、それほどの力を込める猶予は作れそうになかった。
「ガイア! お願い!」
セネカの声を聞いたガイアは赤い林檎を取り出し、マイオル達の方にスリングショットで撃った。これは魔法の合図だ。
林檎が飛んできたのに気がついたマイオルは【探知】して周囲の状況を確認する。
魔法を放っても問題なさそうだ。
「ガイア! いけるわ!」
その声に従ってガイアは魔法の準備を開始した。
即座にセネカが合流してマイオルに声をかける。
「一人では倒しきれなかったよ」
「初めてのオークだからね。きっと良い経験になったわよ」
オーク達はこちらに向かってきている。
プラウティアとセネカとマイオルの三人で動き、ガイアの準備ができるまでオークを押し留める。
「整ったぞ」
その声を聞くや否やプラウティアとマイオルは即座に翻って撤退を開始した。
セネカは十本の[まち針]を散弾のように同時に発射し、オーク達の接近を阻む壁にする。
セネカが十分に退いたことを確認してからガイアは魔法を発動した。
「撃つぞ!」
ゴッドバオーン!!!
オーク達は灰塵に帰した。
◆
ガイアの魔法を使ってしまったので、四人は野営地に向かって歩いていた。
「それで、オークはどうだった? 一人で倒せそう?」
「むーん。連続技で押し切るか、一撃で仕留めないとダメだねぇ。どうしたらいいかまだ分からないなぁ。パーティだったら大丈夫だと思うけど」
オークを安定して一人で倒せるのは銀級冒険者相当である。セネカはその領域に近づきつつあった。
「火を纏わせる攻撃ではダメなのか?」
「火針のこと? うーん。効果的だとは思うけれど、それでも威力は足りなさそうかなぁ。連撃もできないし⋯⋯」
何か対策がないか四人で考えている。
「スキルを使って強引に攻撃しに行くことはできるけれど、被弾の可能性がかなり上がるから使えない手段なんだよね。プラウティアはどう思った?」
「ふむむ。そうだねぇ。想像以上にオークはこちらのことを見ていると思ったかなぁ。わたしとマイオルちゃんの連携も甘いと見破られた。だから搦手よりは真正面から強い攻撃をしたほうが良いんだと思うなぁ」
「私たちって受けと範囲攻撃が苦手なのよねぇ。やっぱり、急所を狙うしかないわね」
「ガイア、オークも頭か心臓を斬れば死ぬんだよね?」
「あぁ、解剖学的にはそうだ。だが、頭蓋は非常に硬いと聞くし、心臓も骨と肉で守られている」
「頭を叩くなら打撃武器でないとダメね」
マイオルが付け足して言った。
「そっかぁ。心臓を一刀で斬れる時間があるなら、他の場所も斬れるんだけどね。やっぱり『樫の枝』みたいに複数人で傷をつけて、回復が遅れたところに致命打を放つのがとりあえずの戦略だね。一人だったらどうするかは戦いながら考えるよ」
そう締め括った後、セネカは『むんむん』と言いながらオークとの戦い方を考え続けた。
セネカの戦闘力は銀級冒険者に匹敵する水準になってきている。マイオルとプラウティアは銅級では中級から下級の戦闘力で、ガイアは魔法なしでは鉄級上位の実力だろう。
パーティとしての力、例えば連携力などはまだまだ拙く、例えばバエティカのベテランパーティである『樫の枝』と比べると差がある。しかし、近づいてきている部分もあるとマイオルは思っていた。だからこそ力を試すためにここにきたのだ。
山の中腹には、少数だがオークも生息すると言われている。セネカとマイオルの目には見事な連携でオークを倒した『樫の枝』の戦闘が目に焼き付いている。
バルニ圏谷では敵との遭遇は少ないが、一つ一つの戦闘は重たい。
例えばアイスフォックスは非常にすばしっこい魔物であり、氷の息を吐いてくる。その速さは全力時のセネカを超えるので攻撃を当てるのに苦労する。マイオルが俯瞰的視点で得た情報をガイアが解析するまでかすり傷をつけることもできなかったが、攻撃が当たってしまえば倒れるのは早かった。
ラクーンベアも強敵だった。毛皮が厚く剣が通りにくかったので、何度も攻撃を重ねる必要があった。
パーティでの戦闘を数多く経験して役割分担もできつつある。基本的にセネカとプラウティアが前衛で、状況に応じてマイオルが前に出る。ガイアは後衛から攻撃をして援護したり、罠を発動する係となっている。
ガイアはこれまで長距離攻撃手段を持っていなかったが、さまざまな武器を試した結果、スリングショットを使うことにした。いまガイアが持っているスリングショットは、伸縮性のある糸をセネカが縫い付けながら編み込んだ物なので強度が高い。
戦いを続けながら、四人は自信をつけていった。
自分たちは強くなったという実感を持ち、街にいる銅級のパーティに劣らないと考え始めていた。ただし、対応力に課題があることは痛感していたので浮つかないように自制することも忘れなかった。
◆
バルニ圏谷に来てから四日経った。
気候や地形、魔物に慣れてきたので、四人はより高地にある狩場に行くことにした。そこではより強い魔物が出現する。
慣らすために植物を採取しながら上の区域を歩いているとマイオルの【探知】に魔物の反応があった。
「オークが二体こっちに向かってくるわ。どうする?」
「戦いたい」
「わ、私はどっちでも良いです」
「戦おう」
「⋯⋯それじゃあ、戦いましょうか。セネカが一体、あたしとプラウティアで一体ね。ガイアは退路を確保しつつ、援護お願いね。あと、いつでも魔法が撃てるように準備だけしておいて」
「分かった」
四人は戦いやすい場所にオークを誘導しながらうまく引き付けた。
オークは豚の魔物である。二足歩行で巨体を活かした攻撃を仕掛けてくる。知恵は高く、技巧的な技を使ってくることがある。そして肉が厚くて攻撃が通りにくく、浅い傷であれば魔法で即座に回復してしまう。
中堅の壁とも言われる有名な魔物だ。中でもバルニ圏谷のオークは、肉付きが良くてイキイキとしている。ハイオークに匹敵する強さがあると評する者もいるほどだ。
二匹のオークが攻撃圏内に入った途端、マイオルの矢とガイアの石がオークに飛んで行った。片方のオークは矢に注目していたので、その後に飛んできたガイアの石が直撃した。
「ぐぴぃぃぃぃ」
セネカは痛がるオークの方に刀を向け、すぐさま腹を切りつけた。二度目の叫び声が響くが、決定打にはならなかったようで、傷がみるみるうちに回復してゆく。
「なるほどね」
セネカはどうやって仕留めるか考えながら戦いを続けた。
プラウティアとマイオルは無傷のオークにかかり、二匹の分断を試みている。
無傷のオークは憤怒の表情を浮かべて最前にいたプラウティアに殴りかかる。
強烈な攻撃を向けられたが、プラウティアはふわっとした動きで華麗に躱わす。プラウティアの動きは機敏ではないが、宙を舞う羽毛のように捉えにくい。
マイオルはオークとプラウティアのやり取りをスキルで詳細に観察しながら、隙を見て二人の間に割って入った。マイオルがオークと真正面で対峙し、プラウティアがオークの虚をついた攻撃を繰り出す。
マイオルもプラウティアも引き気味に戦っているので強力な攻撃を貰うことはない。だが、勝てる見込みもない。戦況は硬直していった。
ガイアは主にセネカの戦いの補助をしている。セネカが危ない攻撃を貰いそうな時に石を飛ばしている。まだ狙いが正確ではない部分があるので牽制狙いだ。
セネカは何度もオークを切りつけているけれど、決定打にはならない。
敵もそれを良いことに、肉を切らせて骨を断つような戦法に切り替えて来たため、ひやっとする場面が何度かあった。
一刀で両断できれば良いのだろうが、それほどの力を込める猶予は作れそうになかった。
「ガイア! お願い!」
セネカの声を聞いたガイアは赤い林檎を取り出し、マイオル達の方にスリングショットで撃った。これは魔法の合図だ。
林檎が飛んできたのに気がついたマイオルは【探知】して周囲の状況を確認する。
魔法を放っても問題なさそうだ。
「ガイア! いけるわ!」
その声に従ってガイアは魔法の準備を開始した。
即座にセネカが合流してマイオルに声をかける。
「一人では倒しきれなかったよ」
「初めてのオークだからね。きっと良い経験になったわよ」
オーク達はこちらに向かってきている。
プラウティアとセネカとマイオルの三人で動き、ガイアの準備ができるまでオークを押し留める。
「整ったぞ」
その声を聞くや否やプラウティアとマイオルは即座に翻って撤退を開始した。
セネカは十本の[まち針]を散弾のように同時に発射し、オーク達の接近を阻む壁にする。
セネカが十分に退いたことを確認してからガイアは魔法を発動した。
「撃つぞ!」
ゴッドバオーン!!!
オーク達は灰塵に帰した。
◆
ガイアの魔法を使ってしまったので、四人は野営地に向かって歩いていた。
「それで、オークはどうだった? 一人で倒せそう?」
「むーん。連続技で押し切るか、一撃で仕留めないとダメだねぇ。どうしたらいいかまだ分からないなぁ。パーティだったら大丈夫だと思うけど」
オークを安定して一人で倒せるのは銀級冒険者相当である。セネカはその領域に近づきつつあった。
「火を纏わせる攻撃ではダメなのか?」
「火針のこと? うーん。効果的だとは思うけれど、それでも威力は足りなさそうかなぁ。連撃もできないし⋯⋯」
何か対策がないか四人で考えている。
「スキルを使って強引に攻撃しに行くことはできるけれど、被弾の可能性がかなり上がるから使えない手段なんだよね。プラウティアはどう思った?」
「ふむむ。そうだねぇ。想像以上にオークはこちらのことを見ていると思ったかなぁ。わたしとマイオルちゃんの連携も甘いと見破られた。だから搦手よりは真正面から強い攻撃をしたほうが良いんだと思うなぁ」
「私たちって受けと範囲攻撃が苦手なのよねぇ。やっぱり、急所を狙うしかないわね」
「ガイア、オークも頭か心臓を斬れば死ぬんだよね?」
「あぁ、解剖学的にはそうだ。だが、頭蓋は非常に硬いと聞くし、心臓も骨と肉で守られている」
「頭を叩くなら打撃武器でないとダメね」
マイオルが付け足して言った。
「そっかぁ。心臓を一刀で斬れる時間があるなら、他の場所も斬れるんだけどね。やっぱり『樫の枝』みたいに複数人で傷をつけて、回復が遅れたところに致命打を放つのがとりあえずの戦略だね。一人だったらどうするかは戦いながら考えるよ」
そう締め括った後、セネカは『むんむん』と言いながらオークとの戦い方を考え続けた。
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