スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ

文字の大きさ
上 下
68 / 213
第7章:武者修行編

第68話:バルニ圏谷

しおりを挟む
 セネカ達はニシロから北西に移動し、都市エインについた。

 エインは華やかな街で、貴族をはじめとしたお金持ちが集まることで知られている。
 ここでゆっくりと閑暇な時間を過ごすのも良さそうだとセネカは思ったが、生憎とここは目的地ではない。

 ニシロ密林は弱い魔物がたくさん出るところだった。今度の目的地、バルニ圏谷は強い魔物が少数出現する場所である。

 敵をたくさん倒すことでパーティの地力がついた実感を全員が持っていた。そこでやや難度の高い場所で次の修行を行う。

 バルニ圏谷は高山地帯となる。いまは暖かい季節だが、寒暖差が激しいので対処が必要だ。過酷な環境で強い敵と戦うことが出来れば冒険者としての成長が見込めるとマイオルは判断した。

 実入りが良いとは言えないので人気の地ではない。しかし、魔物が適度に少ないため、苦戦した時に逃げやすい。

 比較的安全に中堅どころの魔物と対峙できる場所はバルニ圏谷だけだ。
 四人は「行くしかない」と考えた。

 華やかなエインで一泊した後、一行はバルニ村に向かった。
 バルニ村は山の麓にある。
 村は広大な山々に囲まれており、観光客が多い。村から少し離れたところにある橋から圏谷を見上げることができるので、大抵の人はそこまでしか足を踏み入れない。
 そんな中で一部のごつい人間達が重々しい装備を抱えて山に入っていくのだ。

 セネカ達も重い荷物を抱えて、バルニの山に足を踏み入れた。

「すごい景色だね!」

 一刻ほど歩くと、川が見えてきた。
 周囲は緑に囲まれているが、少し顔を上げれば雪のかかった山が見える。
 雄大な景色を見ることができるのは冒険者の特権である。

「こういうときに冒険者で良かったって思うのかもね」

 セネカの言葉に同意してガイアが言った。

「高い依頼料で観光を願う貴族もいるようだが、やはり自分たちの力で踏み入ってこその感動がある。これが、冒険だな」

 ガイアの噛み締めるような表情を見て、プラウティアは柔らかく微笑んだ。

「うふふ。ここはまだまだ序の口みたいですよ。魔物の強さ的に私たちは中腹までしか入れなさそうですが、登れば登るほど素晴らしい景色が待っているようです。それに珍しい高山植物もたくさんですよ!」

「研究が進んでいなくて素材として買い取ってもらえないんだけどね⋯⋯」

 財務も担当しているマイオルは遠い目をした。

「ですが、持ち帰ってキトさんに調べてもらえることになっているので、何かわかるかもしれません」

 プラウティアはキトと意気投合して調薬の話を度々しているそうだ。

 ガイアは地図を見ながら現在の場所を確かめた。
 四人は今、野営地にする予定の場所を目指している。

「ガイアがこういう場所で野営した経験があって良かったわ。現地の人の情報を集めるのもうまかったしね」

「慣れもあるな。準備が疎かになると平気で命を落とすから、自然と上手くなっていくんだよ。きっとみんなも分かってくる」

 マイオルはガイアの謙遜だと思ったが、素直に受け止めることにした。

 ガイアの手並みは見事で、様々な想定を立てながら荷物が多くなりすぎないように調整するのも異常にうまかった。経験だけのおかげとはとても思えない。

 普通の新人パーティであればバルニ圏谷に行くのは躊躇ってしまうだろう。だが『月下の誓い』にはもっと過酷な環境で一人修行をしたガイアがいたので、この地に来ることができた。

 パーティとしての幅が広い。それこそが『月下の誓い』の一番の強みだとセネカは直感して、にんまりと笑いながら歩みを進めていった。





 現地の様子を見ながらガイアの指示のもとで天幕を張り、この地の魔物用に調合された高価な魔物避けを撒いた。

 その後、周囲を調べるために四人で武器を持って散策することになった。

 プラウティアは珍しい植物が生えているのを見て目を輝かせている。レベルアップによって【植物採取】の能力も向上した。今ではエレファントツリーの体内にある果実も手を触れずに採取できるだろう。

「あ、これ美味しいよ!」

 プラウティアが指をさした方向に赤くて小さい実がなっている。コケモモという植物だ。
 
 プラウティアは手をかざし、スキルを発動する。すると、手の届く範囲にあった実が全て採取され、プラウティアの両手の中におさまった。

「たくさんあるし、飲んでみよっか」

 察したガイアが腰につけていた木製のカップをプラウティアの前に差し出す。

「[選別]」

 プラウティアは果実の液体成分だけを選り分けて採取した。カップの中にコケモモの果汁が見事に入っている。

「ガイア、飲んでみて」

 ガイアは頷くと一口飲んでみた。

「ほのかに甘いがだいぶん酸っぱいな。正直、好みだ」

 酸っぱいもの好きのガイアはお気に召したようだ。

 ガイアが美味しそうに飲むものだから、マイオルも試してみた。
 しかし、予想以上に酸味が強かったので顔の中心に全ての部位が集まってしわくちゃな顔になった。

 その顔を見て笑っていたセネカにマイオルは無言で勧めてきたので、セネカはカップを手に取って「こくっ」と喉を鳴らしながら飲んだ。

「おいしい!」

 セネカも酸っぱいもの好きである。
 分かってはいたが、セネカが酸っぱい顔をしなかったのでマイオルは悔しそうだった。

 ちなみにプラウティアは酸味が強すぎるものは苦手なので、後で花の蜜を入れてマイオルと分けた。

「やっぱりプラウティアのサブスキルは面白いよね」

 休憩に入った時、セネカがプラウティアに言った。

 プラウティアの新しいサブスキルは[選別]だ。
 植物を採取する時に部位や組織ごとに分取したり、固体と液体などを分けて獲得したりすることができる。

 今のところは明確な使い道が見えているわけではないのだが、セネカは『キトが好きそうな能力だな』と感じたので、プラウティアの許可が出たら報告するつもりである。





 野営地に戻ってからは各自分担して食事を作った。メインはガイア特製のシチューだ。セネカが仕留めたうさぎ肉をとろとろに煮込んでいる。

 明日は準備日で、セネカとマイオルは一度下山して食料や水を調達し、戻ってくることになっている。

 プラウティアとガイアは改めて地形の確認や周囲の探索だ。食材が豊富に見つかれば、下山する回数が減るので、それだけ訓練に集中できる。

 最近は毎日四人一緒だ。
 寝巻きに入ってからもよく話をしている。

 ここのところは恋愛の話もよく話題に上がる。

「マイオルはどんな人が好みなんだ? やっぱり冒険者か?」

「そうねぇ。いざという時に守って貰いたい気もするけれど、戦い以外の所で頼りになる人も良いわよねぇ」

「例えばどんな所だ?」

「うーん。料理がすごく上手とか、職人とか?」

「⋯⋯あんまりピンと来てないようじゃないか」

「そうなのよねー。龍を倒す戦いについて来れる人も良いんだけど、そんな英雄があたしなんか相手にするかしら」

 マイオルは変な所で自信がない。

「龍と戦うような女ってモテないような気がするのよねぇ⋯⋯」

 マイオルは冒険者学校でもかなり人気なのだが本人には自覚がない。ガイアは話しながら段々と残念な子を見る目になっていった。

「学校で人気の男子達はどうだ? プルケル君とか、ストロー君とか」

「うーん。格好いいとは思うんだけれど、彼らを熱烈に慕っている子達がいるでしょう? あれを見ちゃうとあたしは違うかなって思うなぁ」

 ガイアは心の中で『ごめん。ストロー君』と呟いた。

「そういうガイアはどうなのよ。ガイアが男の子と喋っている姿ってほとんど見たことないわ」

「私は一緒にいてホッとする人が良いな。そりゃあ、強い人の方が良いが、冒険者には粗野な者が多いから考えてしまうな」

「冒険者にも穏やかな人はいるわよ?」

「そうなんだろうが、生憎と出会ったことがないのだよ」

 好きな相手のいるセネカとプラウティアはなんとなく黙って二人の話を聞き、静かに眠りの世界に入っていった。
しおりを挟む
感想 127

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...