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05-05 諦め、それとも
しおりを挟む酔わないというのにまた酒に溺れ、所持金が底をつきかけたところでヘニルはようやく目を覚ました。
そもそもあの男は何者なのか。セーリスの恋人では無いのは間違いなかった。
何せ彼女は初体験もまだで、それを自分に捧げたのだから。男との触れ合い自体少なそうな、とても初々しい反応だったのをよく覚えている。
「(ただあいつのこと好きなだけ、なのか……? いや、もしかしたら何かの間違いかもしれねぇ。ともかく姫様に問いただすのが一番だ)」
だが相当プライベートな話であるし、普通に聞きに行って教えてくれる可能性は低いだろう。なぜお前に言わねばならないのだとでも返されかねない。
できれば二人きりでじっくり会話できるのが理想だ。それこそ、彼女の部屋で愛おしい一夜を過ごすとか。
「……怒らせない程度に何かするしかないか。っていっても何すりゃいいんだ?」
デルメルが怒るようなことはできない。何か奇行でも起こしようものなら、セーリスからの好感度自体下がってしまう。
ならセーリスに嫌われない程度の、彼女に“ちょっとこれは抑えなければ”と思わせるようなことが望ましい。しかしその塩梅が難しいのだが。
「あー……」
一つ、奇跡的にも思いつく。しかしそれを禁じられるのは、彼にとって非常に苦しいものになる。
だが背に腹は代えられない。このままではモヤモヤした感情を抱えたまま、乱れるセーリスの姿を思い出し一人寂しく自分の身を慰めるしかできなくなる。
「(もし姫様が本当にそいつのことが好きで、そうなりたいと思ってるなら……身を、引くしかない)」
そんなことになればこれが最後になるだろう。だから時間の許す限り、彼女を愛でよう。
そう覚悟を決めて、ヘニルは計画を実行に移した。
計画内容はこうだ。ただひたすらに、セーリスの前に現れる。一日に何度でも、彼女に話しかける。
そうすればセーリスは必ず、必要以上に会いに来るなとかそういうことを言うに違いない。
「おはようございます姫様~」
自室付近の通路で待ち構えていればセーリスは歩いてきて、彼はすぐに手を振って挨拶をする。
「何してるの」
「何って、ご挨拶ですよごあいさつ! 最近姫様に会ってなかったからさび……」
口から本音が出そうになってヘニルは慌てて閉口する。それに不思議そうにセーリスは首を傾げるが、その表情は別に普通だ。
「確かに、なんか最近会ってなかったわね。元気にしてる?」
もっと会話を嫌がられるかと思いきや、セーリスはそうヘニルに返してくる。不覚にも嬉しくなって彼は幸せそうに笑った。
「神族は病気にもなりませんから、元気も元気ですよ」
「まぁそうなんだけど……身体だけ元気でも意味ないでしょ」
ぎくりとヘニルは核心を突かれた気がして焦る。そうだ、ここ最近荒れるに荒れていたのだ。身体はピンピンしていようとも、心はズタボロに近い。
「ん、やっぱり、ちょっと顔色悪い?」
セーリスの手が伸びてきて彼の頬を撫でる。久しぶりの触れ合いに一気に身体の熱が増して、ヘニルは慌ててしまう。
「か、顔赤いけど平気? またお酒飲んできたの?」
「いやいやっ、そんなことないです、平気です!」
飢えた身体は頬を触られただけで彼女を求めてしまいそうになって、彼はセーリスから一歩距離を取る。
「俺、もう行きますから、それじゃ姫様また今度!」
「え、ヘニル……?」
計画ではもっと付き纏う予定だったのだがそれすらできず、走り去ったヘニルは頭を抱えた。
「はあぁ……大好きだ……」
身体だけでなく心の調子も気遣ってくれるセーリスに、ほんの少しでも自分の変化に気付く彼女に、酷く惑わされてしまう。
「(やっぱ諦めるなんて無理だ。もし姫様があいつのこと好きでも、さりげなく邪魔してやる。好きな女にアピールして何が悪い、こっちは告白もできねぇんだぞ……)」
もう一度決意を固め、ヘニルは再度セーリスに会いに行くのだった。
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