鈍感王女は狂犬騎士を従わせる

りりっと

文字の大きさ
上 下
41 / 120

05-06 攻勢

しおりを挟む

 しかし意外にもセーリスはヘニルが度々会いに来ることに嫌そうな顔をしなかった。自然と会話が続いて、気付けばデルメルの執務室付近や自室の前あたりで別れる、そんなことが増えた。
 セーリスの侍女サーシィには苦言を呈されるものの、それでも大好きなセーリスと過ごせる時間が増えたのは嬉しかった。

 また別の日。セーリスを待ち伏せしながら彼は呟く。


「だめだ、姫様全然気にしてねぇ……」


 嬉しさと、けれど思惑通りにいかない悲しさにヘニルは項垂れる。


「はっ……もしかして俺、ちゃんと姫様と仲良くなれてるんじゃね……?」


 ここまで顔を合わせていながら嫌がられないとは、セーリスも随分自分に心を許してくれたのかもしれない。そう思えば希望が見えてくる気がした。
 そこでヘニルはセーリスの声が遠くから聞こえてくるのに気付き、そちらへと向かう。


「お願いします、ネージュ様」


 聞き覚えのある名前にヘニルは足を止めそうになる。けれど今度は逃げずにそのまま、二人の間に入るように駆け寄った。


「ひめさまー!」
「え」
「探しましたよどこにいたんですか!」


 突然の乱入にセーリスも、その目の前にいたネージュも驚く。ぐいっとセーリスの肩を抱くように引き寄せれば、彼女は慌てた様子でヘニルの腕を掴んだ。


「何しにきたの!?」
「何って、いつものように姫様に会いに来たんですけど?」
「はぁ!?」


 そう言いながらヘニルは横目でネージュを睨みつける。その視線に何かを察したのか、彼は怯える様子もなくセーリスに頭を下げた。


「セーリス姫のお気持ちはわかりました。…………失礼します」


 意味深なその別れの言葉にヘニルはセーリスを隠すように抱きしめる。ネージュの姿が見えなくなったところでセーリスを解放すれば、案の定彼女は怒ったように眉を釣り上げた。


「会話中に割り入ってくるなんてどういうつもり?」
「すいません、姫様しか見えなかったもので」
「はぁ……思ったけど、最近私の周りうろちょろしすぎ、いい加減やめてくれない」


 予想していたどころかその一言を引っ張り出す為に今まで付き纏ってきたのだが、いざはっきりと言われると傷付く。そう思いながらも、ヘニルはなんとか笑顔を貼り付けて見せた。


「それは命令ですか?」
「っ、命令よ」
「仰せのままに。んじゃ、今夜伺いますんで」


 分かったからさっさと行けと、そう手を払う仕草をするセーリスに、彼は重く沈んだ気持ちを悟られずに踵を返す。

 けれどようやく訪れる彼女との夜に、ひどく胸が高鳴った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...