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05-06 攻勢
しおりを挟むしかし意外にもセーリスはヘニルが度々会いに来ることに嫌そうな顔をしなかった。自然と会話が続いて、気付けばデルメルの執務室付近や自室の前あたりで別れる、そんなことが増えた。
セーリスの侍女サーシィには苦言を呈されるものの、それでも大好きなセーリスと過ごせる時間が増えたのは嬉しかった。
また別の日。セーリスを待ち伏せしながら彼は呟く。
「だめだ、姫様全然気にしてねぇ……」
嬉しさと、けれど思惑通りにいかない悲しさにヘニルは項垂れる。
「はっ……もしかして俺、ちゃんと姫様と仲良くなれてるんじゃね……?」
ここまで顔を合わせていながら嫌がられないとは、セーリスも随分自分に心を許してくれたのかもしれない。そう思えば希望が見えてくる気がした。
そこでヘニルはセーリスの声が遠くから聞こえてくるのに気付き、そちらへと向かう。
「お願いします、ネージュ様」
聞き覚えのある名前にヘニルは足を止めそうになる。けれど今度は逃げずにそのまま、二人の間に入るように駆け寄った。
「ひめさまー!」
「え」
「探しましたよどこにいたんですか!」
突然の乱入にセーリスも、その目の前にいたネージュも驚く。ぐいっとセーリスの肩を抱くように引き寄せれば、彼女は慌てた様子でヘニルの腕を掴んだ。
「何しにきたの!?」
「何って、いつものように姫様に会いに来たんですけど?」
「はぁ!?」
そう言いながらヘニルは横目でネージュを睨みつける。その視線に何かを察したのか、彼は怯える様子もなくセーリスに頭を下げた。
「セーリス姫のお気持ちはわかりました。…………失礼します」
意味深なその別れの言葉にヘニルはセーリスを隠すように抱きしめる。ネージュの姿が見えなくなったところでセーリスを解放すれば、案の定彼女は怒ったように眉を釣り上げた。
「会話中に割り入ってくるなんてどういうつもり?」
「すいません、姫様しか見えなかったもので」
「はぁ……思ったけど、最近私の周りうろちょろしすぎ、いい加減やめてくれない」
予想していたどころかその一言を引っ張り出す為に今まで付き纏ってきたのだが、いざはっきりと言われると傷付く。そう思いながらも、ヘニルはなんとか笑顔を貼り付けて見せた。
「それは命令ですか?」
「っ、命令よ」
「仰せのままに。んじゃ、今夜伺いますんで」
分かったからさっさと行けと、そう手を払う仕草をするセーリスに、彼は重く沈んだ気持ちを悟られずに踵を返す。
けれどようやく訪れる彼女との夜に、ひどく胸が高鳴った。
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