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第30話

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 クリステーナと一緒に、冒険者ギルド会館の裏にある作業小屋へと移動する。
 小屋の中には、既に何人かが解体作業を行っていた。
 リゼは小屋の片隅のあり小さな机で、袋に入った魔核の仕分けをする。
 
「詳しい作業説明は、この指導員兼作業員でもある解体業者のバーランさんに聞いて下さい」
「よろしくな!」

 バーランは笑顔で挨拶するが、上半身裸だった。
 この作業部屋は暑いため、作業員は汗をかきながら作業をしていた。

「リゼです。宜しくお願いします」

 リゼは頭を下げて挨拶をする。

「では、あとは御願しますね」
「おぅ!」

 クリスティーナは挨拶をして、戻っていった。

「じゃあ、説明するぞ」
「はっ、はい」

 バーランは最初にノルマは、この袋に入っている量だと説明する。
 袋から魔核を机の上に出すと、スライムの体の一部なのか、粘度の高い透明な液体のような物が沢山付着していた。

「まず、これを水で綺麗に洗う。その後、色や大きさ別に分けて、この箱に入れてくれ。大きさの基準はこの道具を使ってくれ」

 リゼはバーランから、細長い板を渡される。
 板には穴が空いていて、穴の上には『特大』『大』『中』『小』『極小』の文字が書かれていた。
 この穴を通して、仕分けする事をリゼは理解する。
 魔核の色も数種類あるが、作業自体は単純な作業だ。

「質問はあるか?」
「いいえ、分かりやすい説明でしたので、大丈夫です」
「そうか。俺は、そこら辺で作業をしているから、何かあったり終わったりしたら、声を掛けてくれ」
「分かりました」
「頑張れよ!」

 バーランは、自分の作業へと戻っていった。

「よし!」

 リゼは洗うように置かれた桶等を持って、魔核を洗い始める。
 魔核は球体の形状をしている物や、多面体の物がある。
 本で球体の物がスライム等の骨格を持たない魔物だと知っていた。
 又、色は魔物の種類によって異なり、大きさは年齢に比例している。
 魔物の身体が小さくても、長く生きている場合、思っていた以上に魔核が大きい事もあると、本に書かれていた。
 リゼは魔核を洗いながら、本で読んだ知識と照らし合わせていた。
 血や肉片等はすぐに洗えたが、スライムの粘液は、なかなか落ちなかった。
 袋に入っていたせいで、他の魔核にも付着してしまっていた。

(スライムの魔核だけ、別の袋に分ければいいのに)

 洗いながらリゼは心の中で思っていた。
 しかし、冒険者の殆どは袋を分けている。
 最初に、このクエスト受注した者に仕分けの苦労を知って貰うために敢えて、一緒にした袋を用意していたのだ。
 スライム系の粘液が付着した魔核の仕分けが、どれだけ大変か身を持って知って貰う為だ。
 これは冒険者ギルドからの依頼になるので、オーリス独自の冒険者教育用クエストになる。
 他の領地でも同じようなクエストはあるらしいが、領地毎のギルドによって特色を出したりもしている。

(……なんだろう、この魔核)

 一見、同じように見える。
 しかし、目を凝らしてよく見ると、微妙に形が異なっている。
 魔核が欠けているとか、そういう感じではない。

 作業を進めていくと、最初に見つけた魔核同様に、形状や色合いが異なる魔核が全部で二つあった。

(私の見間違いなのかな?)

 仕分けする箱にも、余分に入れる所も無い。
 リゼは、何度も魔核を見たり、他の似たような魔核と比較したりして考えていた。

(やっぱり、違う)

 リゼは自分を信じて、バーランに声を掛ける事にした。

「バーランさん。作業中にすいません」

 バーランの作業を見ながら声を掛けるタイミングを計っていた。

「ん、どうした?」
「この魔核なんですが……」

 リゼは、悩んでいた二つの魔核をバーランに差し出して、他の魔核と違うがどうすればいいのかと尋ねる。
 バーランは魔核を受取ると片目を瞑り、慎重に魔核を見る。
 魔核を見終わると、二つ目も同じように見ていた。

「……この二つが違うと思った理由は何だ?」
「はい。まず、これですがアルミラージの魔核に似てますが、多角形の形状が違います」
「これは?」
「それは、キラープラントの魔核に比べて、少しだけ色が薄い感じがするのと、ほんの少しだけ赤い気もします」
「分かった。ちょっと待っていてくれるか」
「はい」

 バーランは、リゼが渡した魔核を持ったまま、作業小屋を出て行った。

(やっぱり、間違っていたのかな。簡単な仕分けも出来ないから、バーランさんも怒ったのかも……)

 リゼは椅子に座り下を向き、落ち込む。

 三十分程経って、バーランが戻って来る。
 リゼは怒られるのを覚悟していた。
 もしかしたら、クエスト報酬も大幅に減らされると思っている。

「お手柄だな」

 バーランはリゼの目の前に先程、渡された二つの魔核を置く。
 この魔核を収集してきた冒険者に聞き取りをした所、確かに少しだけ奇妙な魔物だったと分かる。
 それから、会社に戻り魔核の資料と照らし合わせた結果、 アルミラージとキラープラントの『亜種』だと判明する。
 亜種とは、何かの原因で変異した魔物の事で非常に珍しい。
 普通の魔物は『原種』と区別さえている。
 只、問題も有る。
 亜種は原種に比べて、身体能力が高い。
 発見や討伐された亜種が、それ単体であれば良いが複数体生息していると、何も知らない冒険者が危険に晒される。
 亜種の発見は、最重要クエスト発行されると言う事になる。
 バーランは既に、クリスティーナに伝達済みで、魔核を持ち込んだ冒険者達に詳しい情報を聞いていた。
 普段、仕分けを行っている作業員でも見落とす事が良くある。
 気付かなければ、何事も無かったかのように過ぎていくだけだ。

 つまり、リゼが亜種に気が付いたおかげで、冒険者の命が救われたかも知れないと言う事になる。
 バーランはその事をリゼに伝えるが、リゼは表情を変えずに頷くだけだった。

「仕分けは終わったのか?」
「はい。こちらになります」

 リゼは仕分け終えた箱を、バーランの前に出す。

「確認するから、これでも飲んで少し休憩していてくれ」
「有難う御座います」

 リゼはバーランから貰った飲み物を口にする。
 同時にリゼの目の前に『ノーマルクエスト未達成』『罰則:クエスト難易度上昇・強制受注(三日)』が表示された。
 リゼは慣れない作業から、気が緩んでいたがノーマルクエストを忘れていた訳ではない。
 失敗した理由は、リゼの勘違いにある。
 絶食と思った時に、食べ物だけを考えていた。
 飲み物は含まれないと思っていたのだ。
 リゼは目の前の表示を見ながら、呆然としていた。
 クエストの難易度上昇。
 この状況でクエストの難易度が上がる事は正直、厳しいと感じていた。
 しかも、どれ位の難易度上昇かも分からない。
 それに加えて、クエストの強制受注。
 クエスト未達成であれば、更に罰則を受ける事になる。

「おいっ!」

 何度呼んでも返事をしないリゼに、バーランはリゼの肩を叩いて呼び掛けた。

「あぁ、すいません。少し考え事をしてました」
「……そうか、クエストは問題無く達成だ。この紙を受付に出せば、クエスト完了だ」
「有難う御座います……」

 そう答えるリゼの目は虚ろだった。
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