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第31話

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 裏口からギルド会館に入ると、亜種を発見した事でリゼに賞賛の声が上がっていた。
 しかし、リゼは浮かない顔をしていた。

「凄いね、リゼちゃん」

 受付で嬉しそうに微笑むアイリ。
 しかし、リゼは軽く頭を下げただけだった。

「……お願いします」

 バーランから貰った書類をアイリに差し出す。
 アイリは既に用意してあったのか、成功報酬の銀貨が二枚出される。
 本来であれば銀貨一枚なのだが、亜種の魔核を発見したため、成功報酬銀貨一枚が追加された。

「これは部屋代でお願いします」
「大丈夫?」
「はい。今日はこのまま、休ませて貰います」
「う、うん」

 覇気が無い状態のリゼは、放心状態のままアイリと別れる。
 階段を上がる姿を見ながら、アイリは心配になる。

(やっぱり、まだ怪我が治っていないのかな?)

 もう少し、休ませるべきだったのではないかと、アイリは考えていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 二回目の罰則。
 完全に自分の不注意が招いた結果だ。
 リゼは自己嫌悪に陥り、何も手が付かなかった。

(クエストの強制受注か……)

 絶対に発生するクエストは『デイリークエスト』だ。
 それに発生条件が不明な『ユニーククエスト』。
 そして、冒険者ギルドのクエストを受注した際に発生する『ノーマルクエスト』。
 しかも難易度上昇なので、達成条件も難しくなっている事は間違いない。

 リゼは冒険者ギルドのクエストを受注しない事も考える。
 しかし、それは別の問題に直面する事になる。
 そう、孤児部屋に居る際の宿代だ。
 通貨は必要だが、クエスト未達成による罰則が怖い。

 当初の予定では出来る限り、冒険者ギルドのクエストを受注するつもりでいた。
 通貨を得る事は勿論だが、自分の知識を出来る限り実践したい思いもあったからだ。

 考えていても仕方が無いと思っているが、考えずにはいられない。
 考えれば考えるほどに、悪い事しか浮かんでこない。

 リゼは本を読んで気を紛らわせる事にした。
 しかし、文字が頭に入ってこない。
 本を読む事に集中出来ないのだ。
 リゼも、その事に気付く。

(どうしよう……)

 何をして良いのか、何が出来るのかさえも分からない。
 時間だけが過ぎていった……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 受付では、リゼの様子がおかしい事が話題になる。
 亜種の魔核を発見したのであれば、喜ぶはずなのに落ち込んでいた理由が分からなかったからだ。
 作業場のバーランからも事情を聞いてみたが、特に思い当たる節が無い。

「そういえば、最後に水を飲んでいた時に、何か考え込んでいたな」

 バーランは思い出したように話をするが、それが何を意味するかは誰にも分からなかった。

「仕事も真面目な態度だったし、仕分けした魔核も綺麗だ。満点に近い仕事ぶりだったんだがな?」

 バーランがリゼの仕事ぶりを評価する。

「明日も仕分けの仕事をしてくれるのか?」
「さっきの態度だと分からないわね」
「俺としては助かるんだけどな」
「バーランさん。もしかして、難易度の高い仕分けをリゼちゃんに、頼むつもりだったんじゃないでしょうね」
「出来ればだけどな。その分、報酬は払うつもりだから問題無いだろう」

 実際、バーランはリゼの仕分けを高く評価している。
 ランクCの冒険者で、あの魔核の違いを見分ける事が出来る冒険者は、殆ど居ない。
 きちんと魔核を見ながら仕分けをして、他の魔核との少しの違いを見分ける事が出来なければ難しい。
 冒険者にとって、その少しの違いや違和感を見つける事は大事な事で、時には生死を分ける事だってある。
 しかし、バーランが難易度の高い仕分けをさせようと思っているのは、自分の意思でなく『リゼのクエスト未達成による罰則』のせいだとは、バーラン自身も知らない。

 バーランは仕事場に戻る。
 明日、リゼが仕分けのクエストを受注してくれると信じて、リゼ用の魔核を準備する。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アイリはリゼに夕食を運ぶ。
 扉を叩いても返事が無いので、開ける事を伝えて部屋の中に入る。
 リゼは寝床で目を瞑っていた。

(疲れているのかな?)

 アイリは手が付けられていない昼食の横に、夕食を並べるように置いた。
 とりあえず、呼吸をしているのが分かるので安心する。
 そして物音を立てないようにして、部屋を出る。

(すいません、アイリさん)

 リゼは起きていたが、話す事も目を開ける事も出来なかった。
 今リゼはユニーククエストを実行していたからだ。

 本に集中出来ない為、色々な事を考えている最中に『ユニーククエスト発生』が二つ表示された後に、『強制受注』と一瞬表示されて消えるとクエスト内容が表示された。
 『達成条件:瞑目』『期限:十二時間』。
 『達成条件:沈黙』『期限:十二時間』。
 リゼは十二時間は目を瞑り続けて、言葉を一切発してはいけない。
 目を瞑った状態でも、時間の経過は分かる。
 数字が減っていっているからだ。

(あと四時間くらいか……)

 寝るわけにもいかないし、咳払い等も出来ない。
 難易度が高いクエストとは、こういう事かと感じていた。

 目を瞑っている事で、聴覚や嗅覚が敏感になっていた。
 壁越しに聞こえる音や声で、何をしているのかと想像したりする。
 人が多い時は、この方法で時間を忘れる事が出来たが、冒険者達が居なくなると音も小さくなる。
 音が小さくなれば聞こうとする力が働くのか徐々に、その小さい音で想像出来るようになった。

 アイリが持ってきてくれた食事を匂いだけで、想像する。
 想像するといっても、何度も食べた事がある食事なので、想像するのは簡単だった。

 冒険者ギルドから借りた本に書いてあった、『感覚を研ぎ澄ます』という事を体験した事で理解出来た。
 目からの情報に頼らずに、五感から得た情報を正しく解釈する。
 リゼは、この感覚を忘れないように、今後もこのクエスト内容を実施いこうと思った。


 数時間後に『ユニーククエスト達成』『報酬(全能力値:二増加)』と、『ユニーククエスト達成』『報酬(全能力値:二増加)』と表示される。

(全能力値が四つも上がった!)

 リゼは喜ぶ。
 しかし、以前にノーマルクエストで二キロ歩いた時と、同じ報酬だった事に気付く。
 クエストの難易度が全然違う。
 同じ報酬でも、能力値が高くなるに従い、難易度も上がると言う事なのだろうか?
 そうであれば、今後は能力値を上げるのが困難になるのでは……。
 リゼは、成長期という事も有り比較的、能力値が上がりやすい。
 これは学習院に通う同世代の者達も同じだ。
 しかし、年齢を重ねる度に能力値は上がりにくくなる。
 他の冒険者との比較が出来ないので、冒険者達が能力値を一つ上げるのに、どれだけ苦労しているかを知らない。

(罰則を恐れては駄目だ!)

 リゼは考えを変えた。
 簡単に強くなる事は無い。
 鍛錬する為に自由な時間を犠牲にしたり、格上の人に稽古をつけて貰い怪我をしたりと、誰もが何かを犠牲にして強くなっている。
 自分の考えが甘かったと反省をする。
 明日からは心機一転、頑張る事を誓う。
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