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枯葉の褥.5
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伸ばした指先が、相手の髪を柔らかく絡める。
両掌に包んだ輪郭に沿って撫で下ろし、頬の高みを親指の腹で擽る。
急所のひとつでもある、肌の柔らかな首筋に触れることを許してくれる相手の首の後ろを、労わるように優しく擦る。身体を寄せ合って、腕の力でそっと抱き寄せる。
胡蝶であるムラサキにとって、それはごく当たり前の仕草だった。しかし、夢うつつのうちに相手の唇に甘く接吻を施そうとしたその時、驚きを孕んだ声で制止され、急激に意識が戻ってくる。
「──おい、ムラサキ!」
「…ッ、──え…?」
気が付けば、枯葉の褥に横たわってうたた寝をしていたムラサキの顎を、シノノメが怪訝な顔で押し止めている。ぼんやりと霧の掛かる思惟を、頭を振るって起こしてみれば、ムラサキの指は微睡みの中でシノノメの毒々しい程に鮮やかな桃色の髪を梳き、もう片掌で彼の頬を包み込んでいた。
混濁していた意識がはっきりしてきた瞬間、自分がしようとしていたことが何なのかに気付き、さあっと音を立てて頬に血が集まっていくのを感じた。慌ててシノノメから手を引き、思わず首ごと視線を背けるムラサキの様子を、シノノメは実に不可解だと言わんばかりに眉を寄せ、黒い隈に縁取られた青い眼でじろじろと覗き込んでくる。
「一体、何なんだ。今、何をしようとしやがった?」
「…いや、これは。──あぁ。」
口籠りながら横を向くムラサキが、何故恥じらっているのか、外つ国から来た毒蜘蛛には推し測りかねるのだろう。グイ、と強引に顎を掴んでシノノメの方を向かされ、ムラサキは薄く目を閉ざして観念の溜息を吐いた。長い睫毛を伏せ、どうにかシノノメの青い視線から逃れようと悪足掻きをする。
「お前、顔が真っ赤だぞ。…訳が分からねぇ。食事が終わって、腹が膨れたところで一眠りしようとしたら、真横で寝惚けたお前に絡まれた…。今、何をしようとしたんだ?」
「…あぁ…。そんなことを、私は──。」
激しい交尾の贄に据えられていた肉体は、嵐が過ぎ去って気絶のように眠りに落ちた。一糸纏わぬ裸体で寝床に横臥していたムラサキの隣にはシノノメが横たわっていて、鼻の頭に皺を寄せて、俯き恥じ入るムラサキを見詰めているのだ。
最早、誤魔化すことは出来そうにない。その状況から己の過ちの全てを察して、ムラサキは重々しく、実にゆっくりと口を開いた。
「…その。──私たち蝶は、こうするんだ。…共寝の相手の身体に触れ合うことで、心地がよくなる。蝶は、同衾に、長い時間を掛けるからね…。」
「ふん…?」
伸ばした指先が、相手の髪を柔らかく絡める。
両掌に包んだ輪郭に沿って撫で下ろし、頬の高みを親指の腹で擽る。
急所のひとつでもある、肌の柔らかな首筋に触れることを許してくれる相手の首の後ろを、労わるように優しく擦る。身体を寄せ合って、腕の力でそっと抱き寄せる。
胡蝶であるムラサキにとって、それはごく当たり前の仕草だった。しかし、夢うつつのうちに相手の唇に甘く接吻を施そうとしたその時、驚きを孕んだ声で制止され、急激に意識が戻ってくる。
「──おい、ムラサキ!」
「…ッ、──え…?」
気が付けば、枯葉の褥に横たわってうたた寝をしていたムラサキの顎を、シノノメが怪訝な顔で押し止めている。ぼんやりと霧の掛かる思惟を、頭を振るって起こしてみれば、ムラサキの指は微睡みの中でシノノメの毒々しい程に鮮やかな桃色の髪を梳き、もう片掌で彼の頬を包み込んでいた。
混濁していた意識がはっきりしてきた瞬間、自分がしようとしていたことが何なのかに気付き、さあっと音を立てて頬に血が集まっていくのを感じた。慌ててシノノメから手を引き、思わず首ごと視線を背けるムラサキの様子を、シノノメは実に不可解だと言わんばかりに眉を寄せ、黒い隈に縁取られた青い眼でじろじろと覗き込んでくる。
「一体、何なんだ。今、何をしようとしやがった?」
「…いや、これは。──あぁ。」
口籠りながら横を向くムラサキが、何故恥じらっているのか、外つ国から来た毒蜘蛛には推し測りかねるのだろう。グイ、と強引に顎を掴んでシノノメの方を向かされ、ムラサキは薄く目を閉ざして観念の溜息を吐いた。長い睫毛を伏せ、どうにかシノノメの青い視線から逃れようと悪足掻きをする。
「お前、顔が真っ赤だぞ。…訳が分からねぇ。食事が終わって、腹が膨れたところで一眠りしようとしたら、真横で寝惚けたお前に絡まれた…。今、何をしようとしたんだ?」
「…あぁ…。そんなことを、私は──。」
激しい交尾の贄に据えられていた肉体は、嵐が過ぎ去って気絶のように眠りに落ちた。一糸纏わぬ裸体で寝床に横臥していたムラサキの隣にはシノノメが横たわっていて、鼻の頭に皺を寄せて、俯き恥じ入るムラサキを見詰めているのだ。
最早、誤魔化すことは出来そうにない。その状況から己の過ちの全てを察して、ムラサキは重々しく、実にゆっくりと口を開いた。
「…その。──私たち蝶は、こうするんだ。…共寝の相手の身体に触れ合うことで、心地がよくなる。蝶は、同衾に、長い時間を掛けるからね…。」
「ふん…?」
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