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第6章
第136話
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俺の言葉や表情、雰囲気から、 冗談ではなく、本当に緊急事態だと察したナバーロさんたち。少しガレンさんたちから距離をとり、中の会話が聞こえないように、魔力を多めに籠めた結界を、展開する。
「それで?早急に対応しなくちゃならない事態や、海やユノックに影響するってのは、どういった事なんだ?」(ガンダロフ)
「それについては、私の方から、ご説明させていただきます。まず、事の始まりは五十年前の………」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、俺に話してくれた内容と同じ内容を、ナバーロさんたちに、話していく。シーサーペントの襲撃に始まり、メルジーナ国を守るために戦った、水竜の負傷から現状までの状況。そこから、ユノックの海から消えるまでの流れなどを語っていく。
「恐らく、この付近での魔物の凶暴化と、強力になっていった事は、無関係ではありません」(上位の精霊)
「俺も、同意見です。呪に完全に侵食された、シーサーペントに、影響を受けていると思われます。また、水竜の方も、呪の侵食が、進んでいってしまっています。これらの事から、今直ぐにでも、手を打たなければ、ユノックにも被害が出る可能性が高いです」
「もしかして、呪が自我を持ち始めているの⁉」(シフィ)
シフィさんの一際大きい驚いた声に、ガンダロフさんたちも、珍しいものを見たといったように、シフィさんを見つめている。シフィさんの驚き具合や、呪が自我を持つという事を知っている事から、シフィさんは呪に対する知識を持っているのだろう。しかし、シフィさん以外の全員が、よく理解できていない所を見るに、ガンダロフさんたちには、呪というものが、どういったものかは、分かってはいないのだろう。シフィさんは、自分の思考の海に潜ってしまっている。なので、呪について簡単に、重要な要点を纏めた情報をナバーロさんやガンダロフさんに、情報を共有してもらう。
ガンダロフさんたちも、ナバーロさんも、呪についての情報について驚いている。そして同時に、深刻な状況というのにも、納得してくれた。シフィさんも、顔が少し青褪めているが、思考の海から戻ってきた。この中では、シフィさんが最も呪に対しての警戒度が高い。
「それで、ナバーロさんには、ユノックの領主を含めた、住民への情報共有と共に、避難誘導をお願いします」
「うむ、了解した。私の方は、直ぐにでも動く」(ナバーロ)
「ナバーロさん‼まずは、海側に絶対に近寄らないように、徹底させてください‼」
「了解した‼」(ナバーロ)
「ガンダロフさんたちは、シーサーペントに呼応して、暴れ始める海の魔物たちが、砂浜に現れる可能性があります。さらには、凶暴化していたり、強力になっている可能性があります。………ですが、出来ればガンダロフさんたちのみで、対応してもらいたいと思っています」
「他の冒険者の応援があった方が、対処が楽になると思うが?」(ガンダロフ)
「いえ、ダメよ。ダメなのよ、ガンダロフ。多人数で対応すれば、呪に侵食されて、いいように同士討ちさせられるわ。私たちのように、高ランクの冒険者であっても、油断したり、身体的・精神的に弱っていれば、簡単に呪に侵食されるわ。だから、今回は、私たちの負担が大きくとも、少数精鋭で対処しないとダメ。でないと、余計に被害が大きくなるわ」(シフィ)
「了解だ」(ガンダロフ)
「了解したよ」(シュナイダー)
「………了解」(ラムダ)
「じゃあ、俺は冒険者ギルドと、今そこで感動の再会をしている、ラムダさんたちに伝えてくるよ」(ガンダロフ)
「分かったわ。こっちはこっちで、準備しておくわ。シュナイダー、ラムダ、備えるわよ」(シフィ)
上位の水精霊様は、急激に話が進んでいく事に、困惑している。
「高位の冒険者ってのは、こういった時の行動は、迅速なんですよ。自分たちのすべき事が、分かっているんです。だから、地上に関しては、彼らに任せましょう」
「そう、なんですね。……分かりました。では、私たちも、シーサーペントを討ちに向かいましょうか」(上位の精霊)
「了解です。人魚と魚人の戦士の方々は、この場に残って、ガンダロフさんたちの協力をしてもらいましょうか」
「戦闘をさせるんですか?ですが、いかに歴戦の戦士である彼らであっても、呪への抵抗力は、濃度によって変わるはずですが?」(上位の精霊)
「直接の戦闘は、しないように伝えてください。あくまでも、ガンダロフさんたちが窮地に陥った際に、それをカバーするだけでいいんです。呪にも、魔物にも、出来るだけ近づかないように、伝えておいてください」
「分かりました。では、少々お待ちください。…………。今、念話で伝えておきました。彼らも、必要以上には近づかず、サポートに徹する事で納得しています」(上位の精霊)
「了解です。では、往きましょうか」
俺と上位の水精霊様は、再び海中に戻る。すると、精霊様方が姿を現す。今回は、最初から精霊様方の全員で威圧して、潜っていく。上位の水精霊様の案内の元に、今回の元凶である、シーサーペントの眠っている場所に、たどり着いた。シーサーペントは、全身から、ヨートス殿の数倍もの濃度の呪を、周囲に撒き散らしている。呪の影響の範囲外に、三百六十度囲むように、上位の水精霊様たちが、監視の網を広げていた。シーサーペントも、上位の水精霊様たちの存在を、感知しているはずなのだ。だが、全く気にもしないかの様に、海底から地上に向かって伸びる、縦長の岩に巻き付いている。俺と精霊様方、上位の水精霊様が近づくと、一番近くにいた監視の水精霊様が同じように近づいてきた。
「話は聞いてるよ。奴は、五十年前に比べると、大分大きくなっている。だが、ヨートス殿によって傷つけられた部分は、深い傷跡になったままで、再生されてはいない。随分と減っていた魔力も、完全どころか、以前よりも魔力が増えている」(上位の水精霊)
「変わりはないようですね。………どのように、仕掛けますか?」(上位の精霊)
「…………今回は、青の精霊様と一緒に戦わせてください。他の方々は、念のために、ヨートス殿の周囲で警戒していてください。こちらの動きに連動して、ヨートス殿が動かされる可能性もありますから」
「ふむ、いいだろう」(緑の精霊)
「了解だ」(赤の精霊)
「分かった」(黄の精霊)
俺のお願いに、緑の精霊様方は了承をして、一瞬で姿を消す。恐らくは、もう既に、ヨートス殿の動きを、監視し始めていてくれているだろう。
「では、皆さんのお力を、お貸しください」
「はい。共に、戦います」(上位の精霊)
「我らも、共に」(上位の水精霊)
『共に‼』
「はい、共に戦いましょう」
俺の左隣に、真剣な表情の青の精霊様が、移動してくる。一度、大きく深呼吸を一回行う。そして、覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。
〖我が名はカイル。盟約と、自らの意思をもって、この星と、世界樹の守護と調停を行うもの。振るう力は、均衡を保つために〗
『承認だ』(赤の精霊)
『承認』(黄の精霊)
『承認する』(緑の精霊)
「承認よ。均衡を保つ調停者。契約に基づき、その力を振るいなさい」(青の精霊)
青の精霊様が、俺に向けて、右手を差し出してくる。それを優しく握り返すと、青の精霊様は優しく微笑んで、俺の身体の中に、溶け込んでいく。黄の精霊様との時と同様に、溶け込んだ事で、俺の髪と眼の色が、空色に変わっていく。
『完全に同調しているわ。武装を展開するわね』(青の精霊)
「はい、お願いします」
俺の周りの海水が、意思を持ったかのように、うねりながら武具の形になっていく。海水が圧縮され、青の精霊様の力によって物質化されたのは、青色のトライデントだった。一通り、身体の動きと共に、トライデントの感覚を確かめていく。それと同時に、俺の方から、周囲に存在する上位の水精霊様たちに向けて、魔力のパスを繋げていく。そして、青の精霊様の力を借りて、仮の契約を、上位の水精霊様たちの全てと、結んでいく。
「……これは⁉」(上位の水精霊)
「仮とはいえ、ここまでスムーズに契約を結べるとは⁉」(上位の水精霊)
「それに、送られてくる、かのお方の魔力がこれほどとは⁉」(上位の水精霊)
『これで、この戦いの間だけ、貴方たちの契約者はカイルよ‼契約者と共に、その力を、揮いなさい‼』(青の精霊)
『応‼』
この場の全員の、練り上げ、循環された濃密な複数の魔力に、静観していたシーサーペントも、瞼を開く。そして、ゆっくりと縦長の岩から、巻き付けていた身体を解放した。ユラユラと、巨大な身体を揺らしながら、その口を開く。
「――――――――‼」(シーサーペント)
もはやそれは、言語による言葉ではなく、ただ本能から出る咆哮だった。そして、その咆哮は、全方位に衝撃波を発生させた。俺や、上位の水精霊様たちは、一斉に積層魔力障壁を展開する。それでも、シーサーペントの放った、咆哮による衝撃波は、上層の何枚かを割ってくる。あれだけの事で、障壁を何枚か割るなど、シーサーペントの持つ、力の強大さが分かる。
『あの頃の、我らだと思うな‼』
上位の水精霊様たちが、海水に魔力で干渉し、水の魔術を発動させる。海水の形は、サメやシャチ、マグロなどの姿に変わっていく。それらは滑らかに泳ぎ、目にも止まらぬ速さで、シーサーペントの身体に、喰らいついていく。
「ガアアアア‼」(シーサーペント)
喰らいつかれ、肉が裂けた事による痛みに、シーサーペントは吼える。そこに畳みかける様に、俺も同じように、海水に魔力で干渉して、イルカの群れを生み出して、一気にシーサーペントに喰らいつかせる。シーサーペントも、防戦一方のままではないようで、ゾクリとした感覚が全身を襲う。俺は、その感覚に素直に従い、この場の全員を包みこむ様に、下から上へと水が流れていくイメージで、障壁を展開させる。
俺を襲った感覚は正しかった様で、シーサーペントが、その身体を喰らいつかれながらも、もの凄い勢いで、横に一回転してきたのだ。さらに、その巨体に捻りを加えて、威力を増した尾の一撃を放ってきた。その大きく太い尾は、俺の展開した障壁にぶつかる。僅かな時間、拮抗していたが、流される様に俺たちの頭上の方に、受け流されていく。
『思ったよりも、動きが速い!!』
『シーサーペントは、海の魔物の中でも、魔力量が豊富なの。呪によって理性もない状態で、本能で動いてる。それに、身体の損傷も、気にしてないようね』(青の精霊)
青の精霊様の言う様に、シーサーペントは、身体の至るところから出血している。だが、痛みは感じていても、傷そのものには、全くと言っていいほどに無関心だ。それも、そのはずで、シーサーペントに噛みついていた、海の魔物の姿をした魔術が与えた傷が、少しずつではあるが、再生していっている。よく見ると、シーサーペントの身体から、呪が溢れ、傷を癒していっているようだ。それに、海の魔物の姿をした魔術も、呪によって魔力を吸われ、元の海水に戻ってしまったようだ。
シーサーペントは、今度はこっちの番だとばかりに、急速に魔力を練り上げ、パカリと口を開く。練り上げた魔力が、パカリと開けられた口に集まり、高密度で巨大な水の魔弾を放ってくる。しかも、一発だけではなく、何発も連続して、絶え間なく放ち続けてくる。
『全ての水は、一滴残らず私の物』(青の精霊)
「………フッ‼」
俺は迫りくる水の魔弾に向けて、トライデントを、水平に一振りする。すると、迫りくる、全ての水の魔弾の先端に、術式が現れる。その術式を、水の魔弾が通り過ぎると同時に、魔力が一欠片も残ることなく、ただの水の塊に戻る。そして、その水の塊も、青の精霊様の力を使っての干渉によって、自然とただの海水に戻っていく。シーサーペントは、無力化されていようとも、ただただ水の魔弾を放ち続ける。それでも、次々に術式が先端に現れ、無力化していく。次第に、シーサーペントの方に向かって、距離が縮まっていく。ついには、シーサーペントの口元に術式が現れ、水の魔弾を放った瞬間に、即無効化されていく。最終的には、シーサーペントの練り上げた魔力が先に尽き、水の魔弾が止まる。
『カイル、お返しよ』(青の精霊)
「了解です」
俺はトライデントを、今度はシーサーペントに向けて、穂先を向ける。そして、トライデントに魔力を流し、術式を目の前に展開する。展開された術式は、先程の水の魔弾を、全て無力化した術式と同じものだった。その術式には、溢れる様に膨大な魔力が籠められている。この魔力は、先程のシーサーペントの放った、水の魔弾に用いた魔力の総量だ。術式は、無力化したと同時に、水の魔弾を生成していた魔力を、吸収していた。籠められている魔力を流し、術式を起動すると、超巨大な水の魔弾が生み出され、シーサーペントに向けて、高速で放たれた
「それで?早急に対応しなくちゃならない事態や、海やユノックに影響するってのは、どういった事なんだ?」(ガンダロフ)
「それについては、私の方から、ご説明させていただきます。まず、事の始まりは五十年前の………」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、俺に話してくれた内容と同じ内容を、ナバーロさんたちに、話していく。シーサーペントの襲撃に始まり、メルジーナ国を守るために戦った、水竜の負傷から現状までの状況。そこから、ユノックの海から消えるまでの流れなどを語っていく。
「恐らく、この付近での魔物の凶暴化と、強力になっていった事は、無関係ではありません」(上位の精霊)
「俺も、同意見です。呪に完全に侵食された、シーサーペントに、影響を受けていると思われます。また、水竜の方も、呪の侵食が、進んでいってしまっています。これらの事から、今直ぐにでも、手を打たなければ、ユノックにも被害が出る可能性が高いです」
「もしかして、呪が自我を持ち始めているの⁉」(シフィ)
シフィさんの一際大きい驚いた声に、ガンダロフさんたちも、珍しいものを見たといったように、シフィさんを見つめている。シフィさんの驚き具合や、呪が自我を持つという事を知っている事から、シフィさんは呪に対する知識を持っているのだろう。しかし、シフィさん以外の全員が、よく理解できていない所を見るに、ガンダロフさんたちには、呪というものが、どういったものかは、分かってはいないのだろう。シフィさんは、自分の思考の海に潜ってしまっている。なので、呪について簡単に、重要な要点を纏めた情報をナバーロさんやガンダロフさんに、情報を共有してもらう。
ガンダロフさんたちも、ナバーロさんも、呪についての情報について驚いている。そして同時に、深刻な状況というのにも、納得してくれた。シフィさんも、顔が少し青褪めているが、思考の海から戻ってきた。この中では、シフィさんが最も呪に対しての警戒度が高い。
「それで、ナバーロさんには、ユノックの領主を含めた、住民への情報共有と共に、避難誘導をお願いします」
「うむ、了解した。私の方は、直ぐにでも動く」(ナバーロ)
「ナバーロさん‼まずは、海側に絶対に近寄らないように、徹底させてください‼」
「了解した‼」(ナバーロ)
「ガンダロフさんたちは、シーサーペントに呼応して、暴れ始める海の魔物たちが、砂浜に現れる可能性があります。さらには、凶暴化していたり、強力になっている可能性があります。………ですが、出来ればガンダロフさんたちのみで、対応してもらいたいと思っています」
「他の冒険者の応援があった方が、対処が楽になると思うが?」(ガンダロフ)
「いえ、ダメよ。ダメなのよ、ガンダロフ。多人数で対応すれば、呪に侵食されて、いいように同士討ちさせられるわ。私たちのように、高ランクの冒険者であっても、油断したり、身体的・精神的に弱っていれば、簡単に呪に侵食されるわ。だから、今回は、私たちの負担が大きくとも、少数精鋭で対処しないとダメ。でないと、余計に被害が大きくなるわ」(シフィ)
「了解だ」(ガンダロフ)
「了解したよ」(シュナイダー)
「………了解」(ラムダ)
「じゃあ、俺は冒険者ギルドと、今そこで感動の再会をしている、ラムダさんたちに伝えてくるよ」(ガンダロフ)
「分かったわ。こっちはこっちで、準備しておくわ。シュナイダー、ラムダ、備えるわよ」(シフィ)
上位の水精霊様は、急激に話が進んでいく事に、困惑している。
「高位の冒険者ってのは、こういった時の行動は、迅速なんですよ。自分たちのすべき事が、分かっているんです。だから、地上に関しては、彼らに任せましょう」
「そう、なんですね。……分かりました。では、私たちも、シーサーペントを討ちに向かいましょうか」(上位の精霊)
「了解です。人魚と魚人の戦士の方々は、この場に残って、ガンダロフさんたちの協力をしてもらいましょうか」
「戦闘をさせるんですか?ですが、いかに歴戦の戦士である彼らであっても、呪への抵抗力は、濃度によって変わるはずですが?」(上位の精霊)
「直接の戦闘は、しないように伝えてください。あくまでも、ガンダロフさんたちが窮地に陥った際に、それをカバーするだけでいいんです。呪にも、魔物にも、出来るだけ近づかないように、伝えておいてください」
「分かりました。では、少々お待ちください。…………。今、念話で伝えておきました。彼らも、必要以上には近づかず、サポートに徹する事で納得しています」(上位の精霊)
「了解です。では、往きましょうか」
俺と上位の水精霊様は、再び海中に戻る。すると、精霊様方が姿を現す。今回は、最初から精霊様方の全員で威圧して、潜っていく。上位の水精霊様の案内の元に、今回の元凶である、シーサーペントの眠っている場所に、たどり着いた。シーサーペントは、全身から、ヨートス殿の数倍もの濃度の呪を、周囲に撒き散らしている。呪の影響の範囲外に、三百六十度囲むように、上位の水精霊様たちが、監視の網を広げていた。シーサーペントも、上位の水精霊様たちの存在を、感知しているはずなのだ。だが、全く気にもしないかの様に、海底から地上に向かって伸びる、縦長の岩に巻き付いている。俺と精霊様方、上位の水精霊様が近づくと、一番近くにいた監視の水精霊様が同じように近づいてきた。
「話は聞いてるよ。奴は、五十年前に比べると、大分大きくなっている。だが、ヨートス殿によって傷つけられた部分は、深い傷跡になったままで、再生されてはいない。随分と減っていた魔力も、完全どころか、以前よりも魔力が増えている」(上位の水精霊)
「変わりはないようですね。………どのように、仕掛けますか?」(上位の精霊)
「…………今回は、青の精霊様と一緒に戦わせてください。他の方々は、念のために、ヨートス殿の周囲で警戒していてください。こちらの動きに連動して、ヨートス殿が動かされる可能性もありますから」
「ふむ、いいだろう」(緑の精霊)
「了解だ」(赤の精霊)
「分かった」(黄の精霊)
俺のお願いに、緑の精霊様方は了承をして、一瞬で姿を消す。恐らくは、もう既に、ヨートス殿の動きを、監視し始めていてくれているだろう。
「では、皆さんのお力を、お貸しください」
「はい。共に、戦います」(上位の精霊)
「我らも、共に」(上位の水精霊)
『共に‼』
「はい、共に戦いましょう」
俺の左隣に、真剣な表情の青の精霊様が、移動してくる。一度、大きく深呼吸を一回行う。そして、覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。
〖我が名はカイル。盟約と、自らの意思をもって、この星と、世界樹の守護と調停を行うもの。振るう力は、均衡を保つために〗
『承認だ』(赤の精霊)
『承認』(黄の精霊)
『承認する』(緑の精霊)
「承認よ。均衡を保つ調停者。契約に基づき、その力を振るいなさい」(青の精霊)
青の精霊様が、俺に向けて、右手を差し出してくる。それを優しく握り返すと、青の精霊様は優しく微笑んで、俺の身体の中に、溶け込んでいく。黄の精霊様との時と同様に、溶け込んだ事で、俺の髪と眼の色が、空色に変わっていく。
『完全に同調しているわ。武装を展開するわね』(青の精霊)
「はい、お願いします」
俺の周りの海水が、意思を持ったかのように、うねりながら武具の形になっていく。海水が圧縮され、青の精霊様の力によって物質化されたのは、青色のトライデントだった。一通り、身体の動きと共に、トライデントの感覚を確かめていく。それと同時に、俺の方から、周囲に存在する上位の水精霊様たちに向けて、魔力のパスを繋げていく。そして、青の精霊様の力を借りて、仮の契約を、上位の水精霊様たちの全てと、結んでいく。
「……これは⁉」(上位の水精霊)
「仮とはいえ、ここまでスムーズに契約を結べるとは⁉」(上位の水精霊)
「それに、送られてくる、かのお方の魔力がこれほどとは⁉」(上位の水精霊)
『これで、この戦いの間だけ、貴方たちの契約者はカイルよ‼契約者と共に、その力を、揮いなさい‼』(青の精霊)
『応‼』
この場の全員の、練り上げ、循環された濃密な複数の魔力に、静観していたシーサーペントも、瞼を開く。そして、ゆっくりと縦長の岩から、巻き付けていた身体を解放した。ユラユラと、巨大な身体を揺らしながら、その口を開く。
「――――――――‼」(シーサーペント)
もはやそれは、言語による言葉ではなく、ただ本能から出る咆哮だった。そして、その咆哮は、全方位に衝撃波を発生させた。俺や、上位の水精霊様たちは、一斉に積層魔力障壁を展開する。それでも、シーサーペントの放った、咆哮による衝撃波は、上層の何枚かを割ってくる。あれだけの事で、障壁を何枚か割るなど、シーサーペントの持つ、力の強大さが分かる。
『あの頃の、我らだと思うな‼』
上位の水精霊様たちが、海水に魔力で干渉し、水の魔術を発動させる。海水の形は、サメやシャチ、マグロなどの姿に変わっていく。それらは滑らかに泳ぎ、目にも止まらぬ速さで、シーサーペントの身体に、喰らいついていく。
「ガアアアア‼」(シーサーペント)
喰らいつかれ、肉が裂けた事による痛みに、シーサーペントは吼える。そこに畳みかける様に、俺も同じように、海水に魔力で干渉して、イルカの群れを生み出して、一気にシーサーペントに喰らいつかせる。シーサーペントも、防戦一方のままではないようで、ゾクリとした感覚が全身を襲う。俺は、その感覚に素直に従い、この場の全員を包みこむ様に、下から上へと水が流れていくイメージで、障壁を展開させる。
俺を襲った感覚は正しかった様で、シーサーペントが、その身体を喰らいつかれながらも、もの凄い勢いで、横に一回転してきたのだ。さらに、その巨体に捻りを加えて、威力を増した尾の一撃を放ってきた。その大きく太い尾は、俺の展開した障壁にぶつかる。僅かな時間、拮抗していたが、流される様に俺たちの頭上の方に、受け流されていく。
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シーサーペントは、今度はこっちの番だとばかりに、急速に魔力を練り上げ、パカリと口を開く。練り上げた魔力が、パカリと開けられた口に集まり、高密度で巨大な水の魔弾を放ってくる。しかも、一発だけではなく、何発も連続して、絶え間なく放ち続けてくる。
『全ての水は、一滴残らず私の物』(青の精霊)
「………フッ‼」
俺は迫りくる水の魔弾に向けて、トライデントを、水平に一振りする。すると、迫りくる、全ての水の魔弾の先端に、術式が現れる。その術式を、水の魔弾が通り過ぎると同時に、魔力が一欠片も残ることなく、ただの水の塊に戻る。そして、その水の塊も、青の精霊様の力を使っての干渉によって、自然とただの海水に戻っていく。シーサーペントは、無力化されていようとも、ただただ水の魔弾を放ち続ける。それでも、次々に術式が先端に現れ、無力化していく。次第に、シーサーペントの方に向かって、距離が縮まっていく。ついには、シーサーペントの口元に術式が現れ、水の魔弾を放った瞬間に、即無効化されていく。最終的には、シーサーペントの練り上げた魔力が先に尽き、水の魔弾が止まる。
『カイル、お返しよ』(青の精霊)
「了解です」
俺はトライデントを、今度はシーサーペントに向けて、穂先を向ける。そして、トライデントに魔力を流し、術式を目の前に展開する。展開された術式は、先程の水の魔弾を、全て無力化した術式と同じものだった。その術式には、溢れる様に膨大な魔力が籠められている。この魔力は、先程のシーサーペントの放った、水の魔弾に用いた魔力の総量だ。術式は、無力化したと同時に、水の魔弾を生成していた魔力を、吸収していた。籠められている魔力を流し、術式を起動すると、超巨大な水の魔弾が生み出され、シーサーペントに向けて、高速で放たれた
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仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
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