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第6章

第136話

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俺の言葉や表情、雰囲気から、 冗談ではなく、本当に緊急事態だと察したナバーロさんたち。少しガレンさんたちから距離をとり、中の会話が聞こえないように、魔力を多めに籠めた結界を、展開する。

「それで?早急に対応しなくちゃならない事態や、海やユノックに影響するってのは、どういった事なんだ?」(ガンダロフ)
「それについては、私の方から、ご説明させていただきます。まず、事の始まりは五十年前の………」(上位の精霊)

上位の水精霊様が、俺に話してくれた内容と同じ内容を、ナバーロさんたちに、話していく。シーサーペントの襲撃に始まり、メルジーナ国を守るために戦った、水竜の負傷から現状までの状況。そこから、ユノックの海から消えるまでの流れなどを語っていく。

「恐らく、この付近での魔物の凶暴化と、強力になっていった事は、無関係ではありません」(上位の精霊)
「俺も、同意見です。呪に完全に侵食された、シーサーペントに、影響を受けていると思われます。また、水竜の方も、呪の侵食が、進んでいってしまっています。これらの事から、今直ぐにでも、手を打たなければ、ユノックにも被害が出る可能性が高いです」
「もしかして、呪が自我を持ち始めているの⁉」(シフィ)

シフィさんの一際大きい驚いた声に、ガンダロフさんたちも、珍しいものを見たといったように、シフィさんを見つめている。シフィさんの驚き具合や、呪が自我を持つという事を知っている事から、シフィさんは呪に対する知識を持っているのだろう。しかし、シフィさん以外の全員が、よく理解できていない所を見るに、ガンダロフさんたちには、呪というものが、どういったものかは、分かってはいないのだろう。シフィさんは、自分の思考の海に潜ってしまっている。なので、呪について簡単に、重要な要点を纏めた情報をナバーロさんやガンダロフさんに、情報を共有してもらう。

ガンダロフさんたちも、ナバーロさんも、呪についての情報について驚いている。そして同時に、深刻な状況というのにも、納得してくれた。シフィさんも、顔が少し青褪あおざめているが、思考の海から戻ってきた。この中では、シフィさんが最も呪に対しての警戒度が高い。

「それで、ナバーロさんには、ユノックの領主を含めた、住民への情報共有と共に、避難誘導をお願いします」
「うむ、了解した。私の方は、直ぐにでも動く」(ナバーロ)
「ナバーロさん‼まずは、海側に絶対に近寄らないように、徹底させてください‼」
「了解した‼」(ナバーロ)
「ガンダロフさんたちは、シーサーペントに呼応して、暴れ始める海の魔物たちが、砂浜に現れる可能性があります。さらには、凶暴化していたり、強力になっている可能性があります。………ですが、出来ればガンダロフさんたちのみで、対応してもらいたいと思っています」
「他の冒険者の応援があった方が、対処が楽になると思うが?」(ガンダロフ)
「いえ、ダメよ。ダメなのよ、ガンダロフ。多人数で対応すれば、呪に侵食されて、いいように同士討ちさせられるわ。私たちのように、高ランクの冒険者であっても、油断したり、身体的・精神的に弱っていれば、簡単に呪に侵食されるわ。だから、今回は、私たちの負担が大きくとも、少数精鋭で対処しないとダメ。でないと、余計に被害が大きくなるわ」(シフィ)
「了解だ」(ガンダロフ)
「了解したよ」(シュナイダー)
「………了解」(ラムダ)
「じゃあ、俺は冒険者ギルドと、今そこで感動の再会をしている、ラムダさんたちに伝えてくるよ」(ガンダロフ)
「分かったわ。こっちはこっちで、準備しておくわ。シュナイダー、ラムダ、備えるわよ」(シフィ)

上位の水精霊様は、急激に話が進んでいく事に、困惑している。

「高位の冒険者ってのは、こういった時の行動は、迅速なんですよ。自分たちのすべき事が、分かっているんです。だから、地上に関しては、彼らに任せましょう」
「そう、なんですね。……分かりました。では、私たちも、シーサーペントを討ちに向かいましょうか」(上位の精霊)
「了解です。人魚と魚人の戦士の方々は、この場に残って、ガンダロフさんたちの協力をしてもらいましょうか」
「戦闘をさせるんですか?ですが、いかに歴戦の戦士である彼らであっても、呪への抵抗力は、濃度によって変わるはずですが?」(上位の精霊)
「直接の戦闘は、しないように伝えてください。あくまでも、ガンダロフさんたちが窮地に陥った際に、それをカバーするだけでいいんです。呪にも、魔物にも、出来るだけ近づかないように、伝えておいてください」
「分かりました。では、少々お待ちください。…………。今、念話で伝えておきました。彼らも、必要以上には近づかず、サポートに徹する事で納得しています」(上位の精霊)
「了解です。では、往きましょうか」

俺と上位の水精霊様は、再び海中に戻る。すると、精霊様方が姿を現す。今回は、最初から精霊様方の全員で威圧して、潜っていく。上位の水精霊様の案内の元に、今回の元凶である、シーサーペントの眠っている場所に、たどり着いた。シーサーペントは、全身から、ヨートス殿の数倍もの濃度の呪を、周囲に撒き散らしている。呪の影響の範囲外に、三百六十度囲むように、上位の水精霊様たちが、監視の網を広げていた。シーサーペントも、上位の水精霊様たちの存在を、感知しているはずなのだ。だが、全く気にもしないかの様に、海底から地上に向かって伸びる、縦長の岩に巻き付いている。俺と精霊様方、上位の水精霊様が近づくと、一番近くにいた監視の水精霊様が同じように近づいてきた。

「話は聞いてるよ。奴は、五十年前に比べると、大分大きくなっている。だが、ヨートス殿によって傷つけられた部分は、深い傷跡になったままで、再生されてはいない。随分と減っていた魔力も、完全どころか、以前よりも魔力が増えている」(上位の水精霊)
「変わりはないようですね。………どのように、仕掛けますか?」(上位の精霊)
「…………今回は、青の精霊様と一緒に戦わせてください。他の方々は、念のために、ヨートス殿の周囲で警戒していてください。こちらの動きに連動して、ヨートス殿が動かされる可能性もありますから」
「ふむ、いいだろう」(緑の精霊)
「了解だ」(赤の精霊)
「分かった」(黄の精霊)

俺のお願いに、緑の精霊様方は了承をして、一瞬で姿を消す。恐らくは、もう既に、ヨートス殿の動きを、監視し始めていてくれているだろう。

「では、皆さんのお力を、お貸しください」
「はい。共に、戦います」(上位の精霊)
「我らも、共に」(上位の水精霊)
『共に‼』
「はい、共に戦いましょう」

俺の左隣に、真剣な表情の青の精霊様が、移動してくる。一度、大きく深呼吸を一回行う。そして、覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。

〖我が名はカイル。盟約と、自らの意思をもって、この星と、世界樹の守護と調停を行うもの。振るう力は、均衡を保つために〗
『承認だ』(赤の精霊)
『承認』(黄の精霊)
『承認する』(緑の精霊)
「承認よ。均衡を保つ調停者。契約に基づき、その力を振るいなさい」(青の精霊)

青の精霊様が、俺に向けて、右手を差し出してくる。それを優しく握り返すと、青の精霊様は優しく微笑んで、俺の身体の中に、溶け込んでいく。黄の精霊様との時と同様に、溶け込んだ事で、俺の髪と眼の色が、空色に変わっていく。

『完全に同調しているわ。武装を展開するわね』(青の精霊)
「はい、お願いします」

俺の周りの海水が、意思を持ったかのように、うねりながら武具の形になっていく。海水が圧縮され、青の精霊様の力によって物質化されたのは、青色のトライデントだった。一通り、身体の動きと共に、トライデントの感覚を確かめていく。それと同時に、俺の方から、周囲に存在する上位の水精霊様たちに向けて、魔力のパスを繋げていく。そして、青の精霊様の力を借りて、仮の契約を、上位の水精霊様たちの全てと、結んでいく。

「……これは⁉」(上位の水精霊)
「仮とはいえ、ここまでスムーズに契約を結べるとは⁉」(上位の水精霊)
「それに、送られてくる、かのお方の魔力がこれほどとは⁉」(上位の水精霊)
『これで、この戦いの間だけ、貴方たちの契約者はカイルよ‼契約者と共に、その力を、ふるいなさい‼』(青の精霊)
『応‼』

この場の全員の、練り上げ、循環された濃密な複数の魔力に、静観していたシーサーペントも、瞼を開く。そして、ゆっくりと縦長の岩から、巻き付けていた身体を解放した。ユラユラと、巨大な身体を揺らしながら、その口を開く。

「――――――――‼」(シーサーペント)

もはやそれは、言語による言葉ではなく、ただ本能から出る咆哮だった。そして、その咆哮は、全方位に衝撃波を発生させた。俺や、上位の水精霊様たちは、一斉に積層魔力障壁を展開する。それでも、シーサーペントの放った、咆哮による衝撃波は、上層の何枚かを割ってくる。あれだけの事で、障壁を何枚か割るなど、シーサーペントの持つ、力の強大さが分かる。

『あの頃の、我らだと思うな‼』

上位の水精霊様たちが、海水に魔力で干渉し、水の魔術を発動させる。海水の形は、サメやシャチ、マグロなどの姿に変わっていく。それらは滑らかに泳ぎ、目にも止まらぬ速さで、シーサーペントの身体に、喰らいついていく。

「ガアアアア‼」(シーサーペント)

喰らいつかれ、肉が裂けた事による痛みに、シーサーペントは吼える。そこに畳みかける様に、俺も同じように、海水に魔力で干渉して、イルカの群れを生み出して、一気にシーサーペントに喰らいつかせる。シーサーペントも、防戦一方のままではないようで、ゾクリとした感覚が全身を襲う。俺は、その感覚に素直に従い、この場の全員を包みこむ様に、下から上へと水が流れていくイメージで、障壁を展開させる。

俺を襲った感覚は正しかった様で、シーサーペントが、その身体を喰らいつかれながらも、もの凄い勢いで、横に一回転してきたのだ。さらに、その巨体に捻りを加えて、威力を増した尾の一撃を放ってきた。その大きく太い尾は、俺の展開した障壁にぶつかる。僅かな時間、拮抗していたが、流される様に俺たちの頭上の方に、受け流されていく。

『思ったよりも、動きが速い!!』
『シーサーペントは、海の魔物の中でも、魔力量が豊富なの。呪によって理性もない状態で、本能で動いてる。それに、身体の損傷も、気にしてないようね』(青の精霊)

青の精霊様の言う様に、シーサーペントは、身体の至るところから出血している。だが、痛みは感じていても、傷そのものには、全くと言っていいほどに無関心だ。それも、そのはずで、シーサーペントに噛みついていた、海の魔物の姿をした魔術が与えた傷が、少しずつではあるが、再生していっている。よく見ると、シーサーペントの身体から、呪が溢れ、傷を癒していっているようだ。それに、海の魔物の姿をした魔術も、呪によって魔力を吸われ、元の海水に戻ってしまったようだ。

シーサーペントは、今度はこっちの番だとばかりに、急速に魔力を練り上げ、パカリと口を開く。練り上げた魔力が、パカリと開けられた口に集まり、高密度で巨大な水の魔弾を放ってくる。しかも、一発だけではなく、何発も連続して、絶え間なく放ち続けてくる。

『全ての水は、一滴残らず私の物』(青の精霊)
「………フッ‼」

俺は迫りくる水の魔弾に向けて、トライデントを、水平に一振りする。すると、迫りくる、全ての水の魔弾の先端に、術式が現れる。その術式を、水の魔弾が通り過ぎると同時に、魔力が一欠片も残ることなく、ただの水の塊に戻る。そして、その水の塊も、青の精霊様の力を使っての干渉によって、自然とただの海水に戻っていく。シーサーペントは、無力化されていようとも、ただただ水の魔弾を放ち続ける。それでも、次々に術式が先端に現れ、無力化していく。次第に、シーサーペントの方に向かって、距離が縮まっていく。ついには、シーサーペントの口元に術式が現れ、水の魔弾を放った瞬間に、即無効化されていく。最終的には、シーサーペントの練り上げた魔力が先に尽き、水の魔弾が止まる。

『カイル、お返しよ』(青の精霊)
「了解です」

俺はトライデントを、今度はシーサーペントに向けて、穂先を向ける。そして、トライデントに魔力を流し、術式を目の前に展開する。展開された術式は、先程の水の魔弾を、全て無力化した術式と同じものだった。その術式には、溢れる様に膨大な魔力が籠められている。この魔力は、先程のシーサーペントの放った、水の魔弾に用いた魔力の総量だ。術式は、無力化したと同時に、水の魔弾を生成していた魔力を、吸収していた。籠められている魔力を流し、術式を起動すると、超巨大な水の魔弾が生み出され、シーサーペントに向けて、高速で放たれた
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