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第6章
第135話
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上位の精霊様たちの案内の元、封印術式を施した両扉から離れ、宮殿内にある談話室に移動した。人魚と魚人の、護衛の戦士たちも再び合流している。あの濃さの呪にもなると、数日以内に、事を起こさなければ、状況が、益々悪くなる可能性が高い。直ぐにでも、上位の精霊様たちと協力して、シーサーペントの討伐を考えなければ。上位の精霊様たちも、同じ考えに至ったようで、談話室で一息吐くと、早速とばかりに、話しかけてきた。
「カイル殿、今回の件について、ご協力いただけますか?」(上位の精霊)
「ええ、もちろんです。ヨートス殿の状況は、呪の濃さから考えても、早急に動くべきだと俺も考えます。呪が意思を持ったかの様に襲い掛かってきた時点で、ヨートス殿の自我が、どの程度残っているかも分かりません。最悪の場合、ヨートス殿の、相手もしなければならないかもしれないです」
「…………そこまで、なのですか?」(上位の精霊)
「ええ。呪が、あそこまで自我を持っているという事は、ヨートス殿自身の意識や、肉体の支配権が緩まっている可能性があります」
「肉体の、支配権?……ですか?」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、よく分からない、といった顔でいる。まあ、呪に関しての知識を、持ち合わせていない方からしてみると、何を言ってるんだ、こいつは?、といった感じになるだろうな。
「呪には、組み上げ方によっては、強制的に、相手の肉体を支配する事が可能になります。これは、相手が弱っていればいるほどに、支配力が強化されていきす」
「つまり、五十年の年月を耐え忍んでいるヨートス殿の忍耐を、逆に利用されたという事ですか?」(上位の精霊)
「そうなります。呪は、術士の手から離れようと、術士が死のうと、独立して動き続ける厄介なものです。そして、今回は呪にとっては、とても大きな要素がありました」
「大きな要素、ですか。…………そうか‼ヨートス殿自身‼」(上位の精霊)
「そうです。呪が濃くなっていくのには、それなりの時間がかかります。自我を持つまでに濃くなるには、五十年程度では、到底足りません。しかし、それが可能になったのは、ヨートス殿が竜種という、この世界において、最高位に近い存在だった事です。呪は、ヨートス殿という竜の力を養分に、たった五十年という短い期間で、自我を持つまでになったと思われます」
「呪は、最終的に、どうなるんですか?」(上位の精霊)
「相手を死に至らしめ、その肉体を奪い取ります。そして、あまり知られていませんが、呪が対象の肉体から独立し、悪魔となって生まれ変わる事もあります。なので、今回は早急に動く必要があります」
悪魔が生まれる。この言葉に、上位の精霊様たちの全てが、表情を変えた。呪に対する、不安そうな顔から、真剣な表情に変わる。
通常、悪魔の誕生の仕方は、魔術競技大会の時の様に、生贄などによって生まれる。しかし、世間一般に知られてはいないが、呪が強力な力を持ち、自我を持つ事で、疫病などを世界に振り撒く悪魔として、実体化出来るようになる事がある。故郷の里の、長の持っている本の一冊には、こうした呪から、悪魔にまで昇華した存在が、起こした被害の内容が細かく書かれていた。その中には、村から街一つまでの、様々な規模での疫病を起こし、住民の魂を喰らい、大暴れした悪魔もいたらしい。
そういった悪魔は、呪の状態の時の力を扱う事が出来る。つまり、今回の場合で言えば、呪が悪魔に昇華した際に、人類種や竜種、さらには魔物や魔獣などに対して、狂化状態を強制させる事が出来る。そうなると、仲間内での同士討ちや、疑似的な群れを強制的に作り出し、それを何処かに嗾ける事も出来る。純粋な悪魔も、戦闘力の高さなどから厄介な相手だが、呪から昇華した悪魔も、戦いずらさという点では、同じく厄介な相手だ。
「それと、別件になるのですが、今回の件を、地上の仲間に話す事は可能ですか?もちろん、様々な事は伏せて話します」
「…………分かりました。ですが、条件が一つあります」(上位の精霊)
「その条件とは?」
「今回の地上行きに、私の同行を、認めてもらいたいのです。私の方からも、ユノックの方々に、説明をしておきたいですから。シーサーペントを討伐する際に、ユノックに、必ず影響があると思いますから」(上位の精霊)
「それなら、五十年前に、ユノックの漁師たちと交流のあった、人魚や魚人の方々を、一緒に連れていってもらってもいいですか?」
「そう、でしたね。あの時は、皆が生き残るのに必死でした。地上の方々と、仲の良かった者たちもいたでしょう。その件についても、承りました。少々、お時間いただけますか?色々な所に、説明をしてきますので」(上位の精霊)
「了解です」
「では、少し失礼します。カイル殿たちは、ここでお寛ぎください」(上位の精霊)
上位の水精霊様は、何人かの上位の精霊様たちと共に、談話室を出ていった。俺は、談話室に残っている上位の精霊様たちと、楽しく談笑して、時間を潰す。精霊様方も、久々に実体化している事と、堂々と他の精霊様たちと話せるという状況を、楽しんでいるようだ。俺としても、空いた時間があれば、会話をしたり、食事をしたりとしているが、それでも里にいた頃に比べれば、実体化する時間が減ったからな。そういった点は、俺も反省しなければいけないな。
上位の水精霊様が戻ってきた。精霊様方や、俺と談笑していた上位の精霊様たちは、入れ替わるように談話室を出ていった。談笑中に聞いたところ、メルジーナの国としての運営は、上位の精霊様たちが、人魚と魚人の人たちと協力して運営しているそうだ。精霊という存在は、基本的には自由であり、気ままな存在だ。その精霊様が、真面目に働いているというのは、おかしな感じがした。だが、考えてみれば、精霊様方にもお役目があり、毎日働いているようなものだ。そう考えたら、上位の精霊様たちも、メルジーナ国を守るのが、お役目の様なものなのだと納得できた。
「お待たせいたしました。直ぐにでも、動きましょう」(上位の精霊)
「はい。では、ユノックに向かいましょうか」
俺たちと上位の水精霊様、ユノックの漁師たちと交流のあった、人魚と魚人の戦士たちと共に、時間が惜しいので、直ぐにでもユノックに向けて移動する。メルジーナ国を探す際に放った、青の精霊様の魔力によって、警戒していた魔物たちが、ユノックに戻る際に、次々と襲い掛かってきた。あれから、大分時間が経っていたようで、魔物たちも警戒心が薄くなったいたのか、固まって動く俺たちを、簡単に狩れる得物だと思って襲ってくるのだろう。精霊様方は、上位の水精霊様や、人魚や魚人の戦士の人たちが、少し引いてしまうほどの勢いで、襲い掛かってきた全ての魔物を、嬉々として狩っていった。俺は、瞬殺されていく海の魔物たちを、せっせと回収していく事に専念していた。上位の水精霊様も、その常識外れの、精霊様方の行動を見て、呆然としながらも回収を手伝ってくれた。
人魚と魚人の戦士の方々も、同じように呆然としながらも、せっせと回収する俺を手伝ってくれた。その後も、精霊様方は次々と近寄ってくる魔物を、警戒させる事なく狩っていく。しかし、流石に百以上を狩ると、周囲の魔物もヤバいと感じたのか、こちらに必要以上に近づく事はなくなった。それでも、海の幸を諦めきれない精霊様方は、少しだけ力を解放した青の精霊様が、強制的に引き寄せた魔物を、再び瞬殺して狩っていく。それを見たり、感知した魔物たちが、一斉に距離をとるというか、逃げていった。流石にそこまでされると、精霊様方も諦めたようで、ようやく落ち着いたようだ。その後は、再び不気味なほどに、静かになり、順調にユノックにたどり着いた。
行きは、適当な場所から海に入った。帰りは、直ぐにでも行動を起こすために、ガレンさんたちの船を停めている、停泊所の近くから地上に戻った。戻った時には、朝日が完全に昇っており、漁師の方々も、停泊所で船の定期点検などをしていたりしていた。そんな中で、俺と上位の水精霊様が、近くの砂浜から上がってきた所を、見ていた漁師さんたちが、驚いた様に、漁業組合の建物に向かって走っていく。ちなみに、人魚と魚人の戦士さんたちは、海に潜った状態で、待機している。
〈まあ、驚くよな~〉
突然、海から人が現れたら、驚く以外ないだろう。漁師さんたちが、恐る恐る、近づいてきているのが見えているので、ここで待っている事にする。近づいていた漁師さんたちは、遠巻きに警戒している状態でいる。そこに、ガレンさんが、ナバーロさんたちを連れて近寄ってきた。
「カイルさん、一体どうして此処に?それに、その隣の女性は?」(ナバーロ)
「………まさか、上位の精霊……なの?」(シフィ)
「何⁉」(ガンダロフ)
「おいおい、そりゃ、まさかだろ?」(シュナイダー)
「…………いや、間違いない。水を司る、上位の精霊だ」(ラムダ)
「ええ、そうです。こちらの方は、上位の精霊様ですね。それから、………上がってきてください」
俺の声に、人魚と魚人の戦士たちが、海から上半身だけを出して応えてくれる。ナバーロさんたちも驚いていたが、特にガレンさんの驚きが大きい。
「ガロさん⁉マラットさん⁉ロサーダさんも⁉」(ガレン)
「おお?……もしかして、ガレンの小僧か?」(ガロ)
「言われてみれば………、あのヤンチャ坊主だな」(マラット)
「あれから、五十年経っているものね。小さかった子が、お爺さんになっていても、不思議ではないわよね。……それにしても、親父さんとそっくりじゃない」(ロサーダ)
「本当に、貴方たちなんですね。生きている間に、再びその目にする事が、出来るとは…………何という幸運か」(ガレン)
ガレンさんは、その場に立ち尽くし、涙を流している。ガレンさんと、同年代の漁師さんたちも、顔を綻ばせ、同じく涙を流している。ガロさんたちも、五十年前を思い出したのか、同じく涙を流しながら、ガレンさんたちの傍に近寄り、お互いに抱きしめ合う。その光景を見ていると、ガレンさんたちの奥さんたちも現れる。若い漁師さんたちが、呼びに向かったようだ。奥さんたちも、ガロさんたちに涙を流して近寄っていき、互いに抱きしめ合って、互いに再会を喜んでいる。
俺と上位の水精霊様が眺めていると、ナバーロさんたちが近寄ってきた。俺の隣にいる、上位の水精霊様をチラチラと見ながらも、目の前に広がっている、感動の再会劇の裏側を聞きに来たようだ。
「カイルさん、これは一体?どこで人魚や魚人、それに精霊と出会ったんですか?」(ナバーロ)
「あ~と、昨日、ガレンさんから話を聞いたでしょう?だから、少し興味が湧きまして………。海に潜ってきました」
「海に潜ってきた、ねえ。やっぱり、根本的な部分では、レイアにそっくりだな。やってのける事の大きさが、常人離れしてるな」(ガンダロフ)
「それで?どうやって、彼らを見つけて、どの様な流れで、ここに連れてきたの?」(シフィ)
「まず、始まりは、昨日の実験の最中に、海中深くに大量の魔力反応を探知しまして。その後に、ガレンさんの話を聞いて、まさかと思ったので………」
「実際に、その感知した所まで向かったのか?」(シュナイダー)
「ええ、上手く接触出来まして。話を聞くと、ガレンさんの話と一致する所が多かったんです。それで、その国の話も詳しく聞いてみると、ユノックと交流があった事が分かったので、今回の提案を俺の方からしてみました。その国には、人魚や魚人の方々や、上位の精霊様たちの多くが、実体化していました」
「……上位の精霊が、そんなに大量にいたのか」(ラムダ)
「ええ、少なくとも、十以上は実体化していたのを確認しています。もちろん、こちらの方も、その内のお一人ですよ」
俺の紹介に、隣に立って待機していた上位の水精霊様が、頭を下げる。シフィさんは先程から、ジ~と上位の水精霊様を、観察し続けている。だが、目線が少し怖い。気を反らすために、シフィさんに、話題を振ることにするか。
「それで、ですね。早急に対応しなくてはならない事態が、その国で起きていまして。それの対処の為に、行動を起こすんですが、海とユノックに影響がある可能性がありまして。それを説明するために、こちらの上位の精霊様を連れて戻ってきました」
ナバーロさんも、ガンダロフさんたちも、表情を変える。シフィさんも、上位の水精霊様の観察をやめて、エルフの魔術師としての顔に変わる。今回は、時間との勝負になる。ナバーロさんたちの協力は不可欠だ。
「カイル殿、今回の件について、ご協力いただけますか?」(上位の精霊)
「ええ、もちろんです。ヨートス殿の状況は、呪の濃さから考えても、早急に動くべきだと俺も考えます。呪が意思を持ったかの様に襲い掛かってきた時点で、ヨートス殿の自我が、どの程度残っているかも分かりません。最悪の場合、ヨートス殿の、相手もしなければならないかもしれないです」
「…………そこまで、なのですか?」(上位の精霊)
「ええ。呪が、あそこまで自我を持っているという事は、ヨートス殿自身の意識や、肉体の支配権が緩まっている可能性があります」
「肉体の、支配権?……ですか?」(上位の精霊)
上位の水精霊様が、よく分からない、といった顔でいる。まあ、呪に関しての知識を、持ち合わせていない方からしてみると、何を言ってるんだ、こいつは?、といった感じになるだろうな。
「呪には、組み上げ方によっては、強制的に、相手の肉体を支配する事が可能になります。これは、相手が弱っていればいるほどに、支配力が強化されていきす」
「つまり、五十年の年月を耐え忍んでいるヨートス殿の忍耐を、逆に利用されたという事ですか?」(上位の精霊)
「そうなります。呪は、術士の手から離れようと、術士が死のうと、独立して動き続ける厄介なものです。そして、今回は呪にとっては、とても大きな要素がありました」
「大きな要素、ですか。…………そうか‼ヨートス殿自身‼」(上位の精霊)
「そうです。呪が濃くなっていくのには、それなりの時間がかかります。自我を持つまでに濃くなるには、五十年程度では、到底足りません。しかし、それが可能になったのは、ヨートス殿が竜種という、この世界において、最高位に近い存在だった事です。呪は、ヨートス殿という竜の力を養分に、たった五十年という短い期間で、自我を持つまでになったと思われます」
「呪は、最終的に、どうなるんですか?」(上位の精霊)
「相手を死に至らしめ、その肉体を奪い取ります。そして、あまり知られていませんが、呪が対象の肉体から独立し、悪魔となって生まれ変わる事もあります。なので、今回は早急に動く必要があります」
悪魔が生まれる。この言葉に、上位の精霊様たちの全てが、表情を変えた。呪に対する、不安そうな顔から、真剣な表情に変わる。
通常、悪魔の誕生の仕方は、魔術競技大会の時の様に、生贄などによって生まれる。しかし、世間一般に知られてはいないが、呪が強力な力を持ち、自我を持つ事で、疫病などを世界に振り撒く悪魔として、実体化出来るようになる事がある。故郷の里の、長の持っている本の一冊には、こうした呪から、悪魔にまで昇華した存在が、起こした被害の内容が細かく書かれていた。その中には、村から街一つまでの、様々な規模での疫病を起こし、住民の魂を喰らい、大暴れした悪魔もいたらしい。
そういった悪魔は、呪の状態の時の力を扱う事が出来る。つまり、今回の場合で言えば、呪が悪魔に昇華した際に、人類種や竜種、さらには魔物や魔獣などに対して、狂化状態を強制させる事が出来る。そうなると、仲間内での同士討ちや、疑似的な群れを強制的に作り出し、それを何処かに嗾ける事も出来る。純粋な悪魔も、戦闘力の高さなどから厄介な相手だが、呪から昇華した悪魔も、戦いずらさという点では、同じく厄介な相手だ。
「それと、別件になるのですが、今回の件を、地上の仲間に話す事は可能ですか?もちろん、様々な事は伏せて話します」
「…………分かりました。ですが、条件が一つあります」(上位の精霊)
「その条件とは?」
「今回の地上行きに、私の同行を、認めてもらいたいのです。私の方からも、ユノックの方々に、説明をしておきたいですから。シーサーペントを討伐する際に、ユノックに、必ず影響があると思いますから」(上位の精霊)
「それなら、五十年前に、ユノックの漁師たちと交流のあった、人魚や魚人の方々を、一緒に連れていってもらってもいいですか?」
「そう、でしたね。あの時は、皆が生き残るのに必死でした。地上の方々と、仲の良かった者たちもいたでしょう。その件についても、承りました。少々、お時間いただけますか?色々な所に、説明をしてきますので」(上位の精霊)
「了解です」
「では、少し失礼します。カイル殿たちは、ここでお寛ぎください」(上位の精霊)
上位の水精霊様は、何人かの上位の精霊様たちと共に、談話室を出ていった。俺は、談話室に残っている上位の精霊様たちと、楽しく談笑して、時間を潰す。精霊様方も、久々に実体化している事と、堂々と他の精霊様たちと話せるという状況を、楽しんでいるようだ。俺としても、空いた時間があれば、会話をしたり、食事をしたりとしているが、それでも里にいた頃に比べれば、実体化する時間が減ったからな。そういった点は、俺も反省しなければいけないな。
上位の水精霊様が戻ってきた。精霊様方や、俺と談笑していた上位の精霊様たちは、入れ替わるように談話室を出ていった。談笑中に聞いたところ、メルジーナの国としての運営は、上位の精霊様たちが、人魚と魚人の人たちと協力して運営しているそうだ。精霊という存在は、基本的には自由であり、気ままな存在だ。その精霊様が、真面目に働いているというのは、おかしな感じがした。だが、考えてみれば、精霊様方にもお役目があり、毎日働いているようなものだ。そう考えたら、上位の精霊様たちも、メルジーナ国を守るのが、お役目の様なものなのだと納得できた。
「お待たせいたしました。直ぐにでも、動きましょう」(上位の精霊)
「はい。では、ユノックに向かいましょうか」
俺たちと上位の水精霊様、ユノックの漁師たちと交流のあった、人魚と魚人の戦士たちと共に、時間が惜しいので、直ぐにでもユノックに向けて移動する。メルジーナ国を探す際に放った、青の精霊様の魔力によって、警戒していた魔物たちが、ユノックに戻る際に、次々と襲い掛かってきた。あれから、大分時間が経っていたようで、魔物たちも警戒心が薄くなったいたのか、固まって動く俺たちを、簡単に狩れる得物だと思って襲ってくるのだろう。精霊様方は、上位の水精霊様や、人魚や魚人の戦士の人たちが、少し引いてしまうほどの勢いで、襲い掛かってきた全ての魔物を、嬉々として狩っていった。俺は、瞬殺されていく海の魔物たちを、せっせと回収していく事に専念していた。上位の水精霊様も、その常識外れの、精霊様方の行動を見て、呆然としながらも回収を手伝ってくれた。
人魚と魚人の戦士の方々も、同じように呆然としながらも、せっせと回収する俺を手伝ってくれた。その後も、精霊様方は次々と近寄ってくる魔物を、警戒させる事なく狩っていく。しかし、流石に百以上を狩ると、周囲の魔物もヤバいと感じたのか、こちらに必要以上に近づく事はなくなった。それでも、海の幸を諦めきれない精霊様方は、少しだけ力を解放した青の精霊様が、強制的に引き寄せた魔物を、再び瞬殺して狩っていく。それを見たり、感知した魔物たちが、一斉に距離をとるというか、逃げていった。流石にそこまでされると、精霊様方も諦めたようで、ようやく落ち着いたようだ。その後は、再び不気味なほどに、静かになり、順調にユノックにたどり着いた。
行きは、適当な場所から海に入った。帰りは、直ぐにでも行動を起こすために、ガレンさんたちの船を停めている、停泊所の近くから地上に戻った。戻った時には、朝日が完全に昇っており、漁師の方々も、停泊所で船の定期点検などをしていたりしていた。そんな中で、俺と上位の水精霊様が、近くの砂浜から上がってきた所を、見ていた漁師さんたちが、驚いた様に、漁業組合の建物に向かって走っていく。ちなみに、人魚と魚人の戦士さんたちは、海に潜った状態で、待機している。
〈まあ、驚くよな~〉
突然、海から人が現れたら、驚く以外ないだろう。漁師さんたちが、恐る恐る、近づいてきているのが見えているので、ここで待っている事にする。近づいていた漁師さんたちは、遠巻きに警戒している状態でいる。そこに、ガレンさんが、ナバーロさんたちを連れて近寄ってきた。
「カイルさん、一体どうして此処に?それに、その隣の女性は?」(ナバーロ)
「………まさか、上位の精霊……なの?」(シフィ)
「何⁉」(ガンダロフ)
「おいおい、そりゃ、まさかだろ?」(シュナイダー)
「…………いや、間違いない。水を司る、上位の精霊だ」(ラムダ)
「ええ、そうです。こちらの方は、上位の精霊様ですね。それから、………上がってきてください」
俺の声に、人魚と魚人の戦士たちが、海から上半身だけを出して応えてくれる。ナバーロさんたちも驚いていたが、特にガレンさんの驚きが大きい。
「ガロさん⁉マラットさん⁉ロサーダさんも⁉」(ガレン)
「おお?……もしかして、ガレンの小僧か?」(ガロ)
「言われてみれば………、あのヤンチャ坊主だな」(マラット)
「あれから、五十年経っているものね。小さかった子が、お爺さんになっていても、不思議ではないわよね。……それにしても、親父さんとそっくりじゃない」(ロサーダ)
「本当に、貴方たちなんですね。生きている間に、再びその目にする事が、出来るとは…………何という幸運か」(ガレン)
ガレンさんは、その場に立ち尽くし、涙を流している。ガレンさんと、同年代の漁師さんたちも、顔を綻ばせ、同じく涙を流している。ガロさんたちも、五十年前を思い出したのか、同じく涙を流しながら、ガレンさんたちの傍に近寄り、お互いに抱きしめ合う。その光景を見ていると、ガレンさんたちの奥さんたちも現れる。若い漁師さんたちが、呼びに向かったようだ。奥さんたちも、ガロさんたちに涙を流して近寄っていき、互いに抱きしめ合って、互いに再会を喜んでいる。
俺と上位の水精霊様が眺めていると、ナバーロさんたちが近寄ってきた。俺の隣にいる、上位の水精霊様をチラチラと見ながらも、目の前に広がっている、感動の再会劇の裏側を聞きに来たようだ。
「カイルさん、これは一体?どこで人魚や魚人、それに精霊と出会ったんですか?」(ナバーロ)
「あ~と、昨日、ガレンさんから話を聞いたでしょう?だから、少し興味が湧きまして………。海に潜ってきました」
「海に潜ってきた、ねえ。やっぱり、根本的な部分では、レイアにそっくりだな。やってのける事の大きさが、常人離れしてるな」(ガンダロフ)
「それで?どうやって、彼らを見つけて、どの様な流れで、ここに連れてきたの?」(シフィ)
「まず、始まりは、昨日の実験の最中に、海中深くに大量の魔力反応を探知しまして。その後に、ガレンさんの話を聞いて、まさかと思ったので………」
「実際に、その感知した所まで向かったのか?」(シュナイダー)
「ええ、上手く接触出来まして。話を聞くと、ガレンさんの話と一致する所が多かったんです。それで、その国の話も詳しく聞いてみると、ユノックと交流があった事が分かったので、今回の提案を俺の方からしてみました。その国には、人魚や魚人の方々や、上位の精霊様たちの多くが、実体化していました」
「……上位の精霊が、そんなに大量にいたのか」(ラムダ)
「ええ、少なくとも、十以上は実体化していたのを確認しています。もちろん、こちらの方も、その内のお一人ですよ」
俺の紹介に、隣に立って待機していた上位の水精霊様が、頭を下げる。シフィさんは先程から、ジ~と上位の水精霊様を、観察し続けている。だが、目線が少し怖い。気を反らすために、シフィさんに、話題を振ることにするか。
「それで、ですね。早急に対応しなくてはならない事態が、その国で起きていまして。それの対処の為に、行動を起こすんですが、海とユノックに影響がある可能性がありまして。それを説明するために、こちらの上位の精霊様を連れて戻ってきました」
ナバーロさんも、ガンダロフさんたちも、表情を変える。シフィさんも、上位の水精霊様の観察をやめて、エルフの魔術師としての顔に変わる。今回は、時間との勝負になる。ナバーロさんたちの協力は不可欠だ。
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