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第5章
第95話
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ただひたすらに手を、頭を動かし続ける修羅場がマリベルさんの大きく響く声によって終わりを告げる。昼時の最後のお客さんが食堂から出ていくと厨房にいる料理人の人々が安堵のため息を一つ吐いてゆっくりと自分の包丁やまな板などの消毒や清掃、丁寧に点検を始めていく
すると、食堂の入り口が開く。料理人の人たちが一瞬ビクッと体を震わせて一斉に入り口の方を見る。そして、今度は大きい安堵のため息を同時に吐く。入ってきたのはマレクさんだった。マレクさんは料理人の人たちの過剰ともいえる反応に慣れているのか、特に驚きなどといったような反応は見られない
「相変わらず、忙しかったようだねマリベルさん」(マレク)
「当たり前だよ。この食堂に里の何割の男共が来ると思ってんだい?まあ、それでも美味い美味いって言われちゃあ無下にはできないけどね」(マリベル)
「この食堂に毎日人が絶えないのは、マリベルさんのそういう所があるからだと思いますよ」(マレク)
「アハハハハ‼ありがとうよ。小さい頃から通ってるマレクに言ってもらえるなら嬉しい事はないよ」(マリベル)
マレクさんはそのまま厨房の中に視線を彷徨わせて俺を見つけるとニコリと微笑んで心が衰弱した者を労わるように優しく声をかけてくれる
「カイル君、大変だったろう?辛ければ、レイア君たちと同じ所で手伝ってもらうけれど」(マレク)
「いえ、全然大丈夫です。もう少し、効率的に動ければなと反省してます。夕食時もご迷惑でなければ手伝わせてもらえればと思ってるんですけど、大丈夫ですかね?」
「むしろ、こっちが大助かりだよ‼姉ちゃんがあれだったから弟も同じ感じかと思ったら、真逆みたいに優秀だったからね。夕食時もお願いしたくらいだよ」(マリベル)
「マリベルさんがそんなにべた褒めするなんて…………。そんなに凄かったのかい?」(マレク)
「凄かったなんてもんじゃないよ。最初から……………」(マリベル)
そこからはマリベルさんと料理人さんたちによる‟俺がいてどれだけ助かったか”という事をマレクさんに熱弁していた。下拵えと洗い物から始まり、食材や食器の事前の用意までの手際の良さと丁寧さ。そして極めつけは自分たちの使う殺菌・洗浄の術式よりも質の高い術式での浄化を目にした事。それらを語る料理人たちはようやく求めていたものを見つけたような、少し浮かれたような夢見心地のような状態になっている
マレクさんも自他ともに認める一流の魔術師であることから、浄化魔術の術式に興味をもったようで、俺に申し訳なさそうに見せてくれないかいと頼んできた。一般的に魔術師の持つオリジナルの術式や、既存の術式を改良した魔術師本人の特色や好みがでるような術式は基本的には門外不出であり、知るには弟子入りするか物騒なのだと物理的に聞き出すかくらいしか方法はない。まあ、ユリアさんにはいつもお世話になってるし俺自身のこだわりはないので普通に教える
「これが元になった術式で、さらにこの二つの術式の良い所取りをして元になった術式に組み込んだものが、今回使用した浄化魔術の術式になります」
『ほぉ~』
俺が複数の術式を空中に展開し、見やすいようにしながらどのように組み合わせたのかを分かりやすく示していく。休憩していたはずの料理人の人たちまで興味深そうに元々の術式たちと完成している浄化魔術の術式を見比べてあれはこうで、これはああでと皆して話し合っている。マレクさんもマリベルさんもそこに加わって魔術談議をしている。暫くするとマレクさんが我に返ったように俺を見る
「本当によかったのかい?この術式はカイル君が組み上げた半ばオリジナルのような術式だろう?」(マレク)
「大丈夫ですよ。マレクさんたちがこの術式を悪用するわけでもないですしね。皆さんのお役に立てるなら俺としても嬉しいですから」
「そうかい?そう言ってくれるなら本当にありがたいよ」(マレク)
「私からもお礼を言うよ、カイル。この術式は発動までの時間も効果が出てくる時間も今まで使っていた術式に比べると雲泥の差だからね。この術式なら料理の提供まで数秒でも短縮できる。さっきみたいな忙しい時間帯ならなおさらだね」(マリベル)
マレクさんやマリベルさん、他の料理人の人たちも早速とばかりに自分たちの使っている調理器具や、俺が洗い終わった皿などに試しで発動して慣らしている。俺としてはそれよりも気になっていることがあった。今回、用意されていた食材は全て解凍済みだった。恐らくは腐らせたりしない様に魔力で干渉し、凍らせた状態で保存しているのだろう。保管している所からその日の内に使う分だけを取り出して、解凍して使用しているというのが気になった。確かに保存という観点から見れば凍らせることが一番いいように思えるが、食材によっては凍らせると解凍時に味や栄養素がフライパンなどで焼きや蒸しの際に無駄にすることがある
だからこそ、俺はこの世界の魔力というファンタジー要素を上手く取り込んで発展させた魔力式の家電を生み出す事にしたのだ。氷室といった天然ものや作られたものなど保存に対しての知恵もあるが、環境や魔術の使い手に左右されるという要素が含まれるために何処でも誰でも出来るわけではない。その証拠に母さんや故郷の里の女性陣に詰め寄られるほどに魔力式の家電が喜ばれたわけである
「どうしたんだい、カイル?」(マリベル)
「マリベルさん、マレクさんも夕食時が終わったら話をしたいんですけど、いいですか?」
「うん?私の方はいいけれど、マリベルさんは?」(マレク)
「私の方も大丈夫だよ。場所はここでいいのかい?」(マリベル)
「はい、大丈夫です。マレクさんも夕食時が終わる時って分かりますかね?」
「ああ、大丈夫だよ。忙しい時はここで食事を頂く時もあるからね」(マレク)
「分かりました。では、また後でお願いします」
マレクさんはお祭りの準備の忙しい合間を縫って俺の様子をわざわざ見に来てくれたようで、そのまますぐに食堂を出て自分の仕事に戻っていった。そのままマリベルさんや料理人の人たちと協力して夕食時のために色々と準備していく。交代で昼ご飯を食べに行ったりなど各々が自分のしたい事をして夕食時の少し前の時間までを過ごす。昼食時と比べると夕食時は余裕が大きいらしく俺が訪れた時のような修羅場のような雰囲気はない
そのまま、皆さんと一緒に様々な事を聞いたり答えたりしながら時間が過ぎるのを待つ。夕食時が近づくとマリベルさんを筆頭に皆が真剣な料理人の、プロの顔になってお客さんを待っている。食堂の扉が開き、一日の仕事を終えた狐人族の人たちが癒しだったり美味しいものを求めて食堂に入ってくる
「さあ、お客さんに笑顔になって帰ってもらうよ‼」(マリベル)
『応‼』
俺は先程の反省を踏まえつつ、より効率的に動きつつも他の料理人の人たちの邪魔にならない様に立ち回る。他の料理人の人たちも俺の動きに驚くことなく、用意された食材に取り掛かり見事に仕上げていく。やはり昼食時に比べると若干だがお客さんの量自体は少ないようで、料理人の人たちも余裕を持って動いている。中には子供連れで訪れている人たちもいて、そんなご家族にはマリベルさんがサービスで量を多くしたり、デザートを一品付けて上げたりしている
マリベルさんが言っていたように昼食時は男性が中心の様だったが、夕食時は家族やカップルなどが多く、何故か独り身の男性や女性の肩身が狭そうに見えてしまい、哀しくなる。俺も同じ独り身だし、日本で生きていた時も独り身だったので気持ちはもの凄く分かる。マリベルさんもそんな一人客には他のお客さんに分からない様にサッと家族連れのお客さんとは違う大人向けのサービスをしている。独り身のお客さんもサービスを受けて、マリベルさんを見て、目じりに薄く光るものを見せてくれる。そんな一幕がありながらも時間は過ぎていき、最後のお客さんが帰っていく。さて、今からこの食堂をよりよくするための相談の時間だ。丁度タイミングよく、食堂の入り口が開く
「カイル君、来たよ」(マレク)
「お邪魔するわね、カイル君」(セラ)
「セラさん?」
「マレクがお昼から帰ってからソワソワしてたから。気になってついてきちゃったの」(セラ)
「セラも来たのかい?まあ、一人増えようが問題ないだろ?」(マリベル)
「はい、大丈夫です。むしろセラさんやマリベルさん、料理人の人たちにとって重要な話でしたから。それに、マレクさんが居ると居ないとでは話した後の動きが変わりますから」
「それじゃ、前置きはいいよ。聞かせておくれ」(マリベル)
「はい、分かりました」
俺は内心でセラさんやマリベルさんたち女性陣が故郷の里の女性陣のように笑顔のまま詰め寄ってこない事を祈りながら、口を開いて説明を始める
すると、食堂の入り口が開く。料理人の人たちが一瞬ビクッと体を震わせて一斉に入り口の方を見る。そして、今度は大きい安堵のため息を同時に吐く。入ってきたのはマレクさんだった。マレクさんは料理人の人たちの過剰ともいえる反応に慣れているのか、特に驚きなどといったような反応は見られない
「相変わらず、忙しかったようだねマリベルさん」(マレク)
「当たり前だよ。この食堂に里の何割の男共が来ると思ってんだい?まあ、それでも美味い美味いって言われちゃあ無下にはできないけどね」(マリベル)
「この食堂に毎日人が絶えないのは、マリベルさんのそういう所があるからだと思いますよ」(マレク)
「アハハハハ‼ありがとうよ。小さい頃から通ってるマレクに言ってもらえるなら嬉しい事はないよ」(マリベル)
マレクさんはそのまま厨房の中に視線を彷徨わせて俺を見つけるとニコリと微笑んで心が衰弱した者を労わるように優しく声をかけてくれる
「カイル君、大変だったろう?辛ければ、レイア君たちと同じ所で手伝ってもらうけれど」(マレク)
「いえ、全然大丈夫です。もう少し、効率的に動ければなと反省してます。夕食時もご迷惑でなければ手伝わせてもらえればと思ってるんですけど、大丈夫ですかね?」
「むしろ、こっちが大助かりだよ‼姉ちゃんがあれだったから弟も同じ感じかと思ったら、真逆みたいに優秀だったからね。夕食時もお願いしたくらいだよ」(マリベル)
「マリベルさんがそんなにべた褒めするなんて…………。そんなに凄かったのかい?」(マレク)
「凄かったなんてもんじゃないよ。最初から……………」(マリベル)
そこからはマリベルさんと料理人さんたちによる‟俺がいてどれだけ助かったか”という事をマレクさんに熱弁していた。下拵えと洗い物から始まり、食材や食器の事前の用意までの手際の良さと丁寧さ。そして極めつけは自分たちの使う殺菌・洗浄の術式よりも質の高い術式での浄化を目にした事。それらを語る料理人たちはようやく求めていたものを見つけたような、少し浮かれたような夢見心地のような状態になっている
マレクさんも自他ともに認める一流の魔術師であることから、浄化魔術の術式に興味をもったようで、俺に申し訳なさそうに見せてくれないかいと頼んできた。一般的に魔術師の持つオリジナルの術式や、既存の術式を改良した魔術師本人の特色や好みがでるような術式は基本的には門外不出であり、知るには弟子入りするか物騒なのだと物理的に聞き出すかくらいしか方法はない。まあ、ユリアさんにはいつもお世話になってるし俺自身のこだわりはないので普通に教える
「これが元になった術式で、さらにこの二つの術式の良い所取りをして元になった術式に組み込んだものが、今回使用した浄化魔術の術式になります」
『ほぉ~』
俺が複数の術式を空中に展開し、見やすいようにしながらどのように組み合わせたのかを分かりやすく示していく。休憩していたはずの料理人の人たちまで興味深そうに元々の術式たちと完成している浄化魔術の術式を見比べてあれはこうで、これはああでと皆して話し合っている。マレクさんもマリベルさんもそこに加わって魔術談議をしている。暫くするとマレクさんが我に返ったように俺を見る
「本当によかったのかい?この術式はカイル君が組み上げた半ばオリジナルのような術式だろう?」(マレク)
「大丈夫ですよ。マレクさんたちがこの術式を悪用するわけでもないですしね。皆さんのお役に立てるなら俺としても嬉しいですから」
「そうかい?そう言ってくれるなら本当にありがたいよ」(マレク)
「私からもお礼を言うよ、カイル。この術式は発動までの時間も効果が出てくる時間も今まで使っていた術式に比べると雲泥の差だからね。この術式なら料理の提供まで数秒でも短縮できる。さっきみたいな忙しい時間帯ならなおさらだね」(マリベル)
マレクさんやマリベルさん、他の料理人の人たちも早速とばかりに自分たちの使っている調理器具や、俺が洗い終わった皿などに試しで発動して慣らしている。俺としてはそれよりも気になっていることがあった。今回、用意されていた食材は全て解凍済みだった。恐らくは腐らせたりしない様に魔力で干渉し、凍らせた状態で保存しているのだろう。保管している所からその日の内に使う分だけを取り出して、解凍して使用しているというのが気になった。確かに保存という観点から見れば凍らせることが一番いいように思えるが、食材によっては凍らせると解凍時に味や栄養素がフライパンなどで焼きや蒸しの際に無駄にすることがある
だからこそ、俺はこの世界の魔力というファンタジー要素を上手く取り込んで発展させた魔力式の家電を生み出す事にしたのだ。氷室といった天然ものや作られたものなど保存に対しての知恵もあるが、環境や魔術の使い手に左右されるという要素が含まれるために何処でも誰でも出来るわけではない。その証拠に母さんや故郷の里の女性陣に詰め寄られるほどに魔力式の家電が喜ばれたわけである
「どうしたんだい、カイル?」(マリベル)
「マリベルさん、マレクさんも夕食時が終わったら話をしたいんですけど、いいですか?」
「うん?私の方はいいけれど、マリベルさんは?」(マレク)
「私の方も大丈夫だよ。場所はここでいいのかい?」(マリベル)
「はい、大丈夫です。マレクさんも夕食時が終わる時って分かりますかね?」
「ああ、大丈夫だよ。忙しい時はここで食事を頂く時もあるからね」(マレク)
「分かりました。では、また後でお願いします」
マレクさんはお祭りの準備の忙しい合間を縫って俺の様子をわざわざ見に来てくれたようで、そのまますぐに食堂を出て自分の仕事に戻っていった。そのままマリベルさんや料理人の人たちと協力して夕食時のために色々と準備していく。交代で昼ご飯を食べに行ったりなど各々が自分のしたい事をして夕食時の少し前の時間までを過ごす。昼食時と比べると夕食時は余裕が大きいらしく俺が訪れた時のような修羅場のような雰囲気はない
そのまま、皆さんと一緒に様々な事を聞いたり答えたりしながら時間が過ぎるのを待つ。夕食時が近づくとマリベルさんを筆頭に皆が真剣な料理人の、プロの顔になってお客さんを待っている。食堂の扉が開き、一日の仕事を終えた狐人族の人たちが癒しだったり美味しいものを求めて食堂に入ってくる
「さあ、お客さんに笑顔になって帰ってもらうよ‼」(マリベル)
『応‼』
俺は先程の反省を踏まえつつ、より効率的に動きつつも他の料理人の人たちの邪魔にならない様に立ち回る。他の料理人の人たちも俺の動きに驚くことなく、用意された食材に取り掛かり見事に仕上げていく。やはり昼食時に比べると若干だがお客さんの量自体は少ないようで、料理人の人たちも余裕を持って動いている。中には子供連れで訪れている人たちもいて、そんなご家族にはマリベルさんがサービスで量を多くしたり、デザートを一品付けて上げたりしている
マリベルさんが言っていたように昼食時は男性が中心の様だったが、夕食時は家族やカップルなどが多く、何故か独り身の男性や女性の肩身が狭そうに見えてしまい、哀しくなる。俺も同じ独り身だし、日本で生きていた時も独り身だったので気持ちはもの凄く分かる。マリベルさんもそんな一人客には他のお客さんに分からない様にサッと家族連れのお客さんとは違う大人向けのサービスをしている。独り身のお客さんもサービスを受けて、マリベルさんを見て、目じりに薄く光るものを見せてくれる。そんな一幕がありながらも時間は過ぎていき、最後のお客さんが帰っていく。さて、今からこの食堂をよりよくするための相談の時間だ。丁度タイミングよく、食堂の入り口が開く
「カイル君、来たよ」(マレク)
「お邪魔するわね、カイル君」(セラ)
「セラさん?」
「マレクがお昼から帰ってからソワソワしてたから。気になってついてきちゃったの」(セラ)
「セラも来たのかい?まあ、一人増えようが問題ないだろ?」(マリベル)
「はい、大丈夫です。むしろセラさんやマリベルさん、料理人の人たちにとって重要な話でしたから。それに、マレクさんが居ると居ないとでは話した後の動きが変わりますから」
「それじゃ、前置きはいいよ。聞かせておくれ」(マリベル)
「はい、分かりました」
俺は内心でセラさんやマリベルさんたち女性陣が故郷の里の女性陣のように笑顔のまま詰め寄ってこない事を祈りながら、口を開いて説明を始める
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