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第一章 生い立ち〜出会い
11、学園生活開始 1
しおりを挟む学年主席で入試をクリアしたので、入学式には編入生にも関わらず、新入生代表の挨拶をしなければならなかった。
それにしてもこの学校、アルファもオメガも多いな。もう薬を飲み始めているから、バース性の匂いは一切感じられなかった、だがなんとなくわかる。とにかくカッコいい奴や背の高い奴はヒエラルキーのトップを匂わせる……。
ああ、今の俺に匂いは感じないがあいつらはアルファだ。
そして可愛くて儚い、男なのにめちゃ綺麗とか、そんな奴らがオメガだ。
けっ、同族嫌悪というわけではないが、イライラする。俺のような経験などせず、のうのうと愛されて守られて生きてきた。そんな空気が漂ってくる。もちろん、オメガに対しても今の俺にはなんの匂いもしないけど、そんな雰囲気が腹立たしい。
そして結構多いのはベータ。
これが一番安心するわ。でもこの学園はベータであってもいいとこの坊ちゃんだから、ベータでも中の上みたいな奴が多い……むかつくわ。
そして俺はオメガだけどベータとして認識されているはずだ。
ベータは様々だった。背の高さは平均的な人が多いが、低いのも高いのもいる。ちなみに俺は、普通の男子よりは低い。でも、大人の絢香よりは背が伸びた。
ただ、顔ははっきりいうが両親の血をひいている純オメガだから……可愛い、らしい?
そんな可愛さとしたたかさを武器に生きてきたのだから、しょうがない。
だが、なんとかなる。
目の下にアイシャドウでクマを作る。そして定番のメガネだ! ダテだがな。ちょっときつめの印象になるフレームのなんともオシャレではないメガネをかけてダサい奴を装う。これは可愛い俺が、ちょっかいをかけられない予防策みたいだ。心配性の勇吾さんの提案だった。ザ、優等生の出来上がり!
勇吾さんがあまりに心配するから、こういう装いになった。
まあベータと言っておけば、おのずと手を出す対象から外れるので問題はないはずだ、そう思っていたら勇吾さんは俺に恐ろしいことを言ってきた。
この学園には男しかしいない、だから自然と可愛い男は恋愛対象とされてしまうらしい。それはオメガに限らずベータもこの学園内では恋愛相手となってしまうとか、カオスだ。
そして新入生代表の挨拶を舞台袖で待っている時、舞台上で話している男を見た。
あれがジジイの言っていたライバル会社の子息、上條桜、二年で生徒会長、いかにもアルファ。そして家の持つ力も凄いながら、高身長で男前すぎる。まるで王子様のような風貌、舞台を見ている生徒たちの中には目をハートにしているオメガが多い。いや、ベータでさえも見惚れているな。アルファからも熱烈な支持をもっている。
とにかく一周回って、もう嫌味がないくらいのハイスペックな男だった。
ここは全寮制の男子校、目をハートにしているのは全て男。恐ろしい世界である。
上條桜を観察していたら、『では新入生代表の挨拶です』と俺を呼ぶ声がした。
そして舞台上から俺を見た上條桜は、一瞬怪訝な顔をして俺を凝視しているじゃないか。まさかジジイのこと? バレてる……わけないな。俺みたいな平凡ベータが主席で驚いたのかな? さすがにアルファに凄まれると固まってしまうが、そのまますれ違う時に軽く会釈して壇上へ行くと、あたりさわりない挨拶をした。
なんだか舞台袖から妙な視線を感じるが、気にしないようにした。
あの男とすれ違った時いい香りがしたが、いい男はやはりいい香水をつけているんだなと呑気なことを考えながらも、ふとどこかで嗅いだことある? と思った。
ちょっと懐かしい香りだった。
それが俺の人生を変える男、上條桜との初めての出会いであった。
そんな入学式も終わり、クラスを確認するも特進クラスに配属だった。首席だからそうなるのだろう。とにかくこのクラスにはアルファが多い、そして次にベータ。
もちろん、頭脳の弱いオメガという人種は、このクラスには一人もいない。
助かった。
もしオメガの発情に当てられたら、薬でオメガを抑えているとはいえ、自分も誘発される可能性があると言われている。だからオメガとは極力関わるなと勇吾さんは言った。
オメガは残念なことに学力が足りない奴が多い。まあこの学園に入れているだけ優秀なのかもしれないが、そもそもオメガに学力は必要ない。どうせ番に養ってもらう人生しかないのだから、変に頭がいいと扱いづらいと嫌がられる。
オメガはバカくらいがちょうどいい。
俺については、あいつベータだよな? でも学年主席ってことはもしかしてアルファ? などとベータ達はざわついていた。
間違っても俺をオメガと勘違いする者はいなかった、オメガ達がバカで助かった。
そしてアルファ達は、俺の匂いがしないからベータとわかっている。俺に関心を持つものはいなかった。アルファはベータ自体どうでもいいのだ。関心があるのは番になれる、もしくは遊べるオメガ。そして将来ビジネスで絡んでくるアルファ。
ほとんどが中等部からの持ち上がりで、外部入学自体が珍しいのに、さらには学年主席。そして奨学制度が久々に適応されたのが俺、というのも囁かれていた。
奨学制度など金持ちには必要ないから、異物が入り込んできて戸惑っているのだろう。
ここは金持ち学校、やはり金があると余裕があるのか? それとここは大会社の子息ばかりだから、いじめなどする必要性もないみたいで俺が貧乏なのは初日にバレたが、誰も馬鹿にしなかった。まぁ俺みたいなバックボーンのない人間自体こいつらは興味がないだけだったようだが。
そんな感じで俺は一応、話しかけられる分には答えたが自分からは声をかけなかった。他人に興味がない勉強好きなベータという設定で皆に接した。
昼食を誘われれば、眠くなるから昼は食べないと言いひたすら勉強。
夕食は大抵の人がカフェテリアを利用するので、それも誘われても夜は自炊だと言う。
朝は? と聞かれると、朝は弱いからシリアルをかっこむ時間しかない、だからカフェテリアは必要ないと食事の一切の誘いを断った。
夜は何しているの? と聞かれれば、奨学制度を保つために勉強をしている、その他の時間は外注の仕事をしているから、自分には時間が少しもないと答える。
苦学生ってこういう時は楽だ。だって断る理由が切実すぎるから。
休日に誘われれば、俺は天涯孤独で生活費は自分で稼がなければいけないから、土日は学園の許可をもらって働きに出ている、と全て嘘はつかずに真実を話して断った。
同級生たちは、あまりの身分の違いに俺とどうやって付き合っていくべきかわからないみたいで、気を使ってくれたのは始めの頃だけで、ひと月ほど経つとあまり関わらなくなってくれた。
そんな感じで学園生活にも慣れて、そろそろこの学園でのミッションを開始しなければいけないなと思い始めた頃、偶然にも対象者と初めて接触する機会が巡ってきた。
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