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第一章 生い立ち〜出会い
12、学園生活開始 2
しおりを挟む学園に入学してからの何度目かの日曜日。
俺は勇吾さんの家で岬と絢香と、絢香の娘の華と遊んでいた。
ちなみに華という名前は、俺の母さんから一文字貰ったと言っていた。なんかすごく嬉しかった。
一応、家庭教師として岩峰家には行っているので、俺の土日はというと……。
土曜日、朝一で学園を出発。電車に一時間ほど揺られて岩峰家に到着。午前中に岬の勉強を見る、その後みんなで楽しくランチ。
これはたまに勇吾さんは仕事で参加できないが、めちゃくちゃうまい料理を出してもらっている。俺の栄養は全てこの土日にかかっているから必死だ。
平日は本当に栄養足りてないと思う。朝シリアル、昼食べない、夜は卵かけご飯。
思春期の男の子がこれで育つわけがない。だが俺は少しでも金を貯めたいので、ひたすら我慢だ。米は勇吾さんが買ってくれるのでたくさん食べている。シリアルも勇吾さんが買ってくれる。卵も日曜日に勇吾さんのお家が用意してくれるのを持って帰る。
米も卵も高級なやつらしい。シリアルに至ってはよくわからないがオーガニックの良いやつなんだって、前に絢香が言っていた。俺が買うのは牛乳くらいだ。野菜ジュースは常に飲んでいる。これもケースで勇吾さんが寮に送りつけてくるからだ。
脱線したが、土曜の夜も豪華なディナーなんだな。勇吾さんのお家のコックさんは有名店で働いていた人なんだって! なんか人懐っこいおっちゃんで、こっそり俺におやつをくれるいい人だ。抜群に料理がうまい!
勇吾さんは岬を大事にしている。だけど仕事が忙しくてあまり家の外に連れ出す時間もないから、家での生活は気合をいれているし、美味しいものを食べさせてあげたいからと、勇吾さんは必死におっさんをくどいてお抱え料理人にしたのだという。
そして絢香が来たことを、実は喜んでいる。
家に家族がいる環境が岬には必要なのと、やはり母親恋しい年頃でもある岬は、絢香にそれを求めている部分もあり絢香もそれを感じて、岬に接している。勇吾さん的にはありがたいみたいだ。
俺と絢香と、絢香の娘を家族と思って受け入れてくれているって言われた時、やっぱり絢香は泣いていた。そして俺も嬉しくてたまらなかった。
土曜の夜はみんなで楽しく話したり、遊んだり、いろいろだけど、そのまま俺たちオメガ組は一緒に眠りにつく。
日曜は朝昼兼の食事をテラスでしたり、そのままティータイムに突入でやはり穏やかでとても幸せな時間を過ごす。
絢香はいまだに敷地から出ていない。
あのアルファに見つかるリスクを考えると出られないんだって。そして気が向けば、俺と勇吾さんと岬で買い物に行ったりもする。絢香や華に似合う服を買うのが楽しくてたまらない。
勇吾さんはついでだからと、俺にも色々買ってくれる。
俺に金は使わなくていいし、絢香にかかる費用は俺のバイト代で賄うといっても、勇吾さんは、『僕のお金なんて使い道ないから、大切な家族に使わせて。それが僕にとって幸せなんだ、ね? ありがとうって言葉が聞きたいな』という貢体質だ。
家族って改めて言われたことにくすぐったくて、俺はその優しさに甘えることにした。
勇吾さん、俺たちをジジイから押し付けられて大丈夫かな? と思っていたけど、時々これが幸せなのかな? とも思わせるくらいの笑顔を振りまいてくるので、俺はひねった考えをやめて素直に言葉を聞くことにした。
そして月に一回は、勇吾さんとホテルへ行き個室のレストランでジジイと食事、もとい会合がある。とにかくジジイと俺の接点を誰にも勘ぐらせないように、時間差にして、まるで政治家の密会のような厳戒態勢で会う。
そこで学園のことや薬の作用、絢香の生活など、とにかく全てを話す。
ジジイから同じクラスのアルファ達はどうだ? と言われた。どうだって、何が? と思ったらアルファが苦手だという意識を心配していると言われたから、アルファ達は貧乏ベータには興味を示さないので、自分に感情が向かない相手は平気だと伝えた。
もし、俺が勉強を頑張ってアルファの保護が必要ないくらい力をつけるのなら、ジジイが決めていた婚約者のアルファと無理に番わすことはしない、だから学生のうちに、ベータでいられるうちに能力をつけろと言われた。いずれ、ジジイの後を継ぐための。
信じられない、ジジイがそんなことを言うなんて。アルファの脅威に怯えることなく、学園生活に馴染めている俺を喜んでいるジジイを見ると、アルファだけど身内のあったかさみたいなのを感じた。
ってか、俺の婚約者っていたのか!? 何も聞かされてないが、男なのか女なのか、ちょっと怖くて聞けなかった。
まぁ俺は騙されないけどな、アルファは所詮アルファだ。こんな感じで、高校に入って一ヶ月の流れができてきたところだ。
ジジイと会合の帰り、勇吾さんが学園まで送ってくれた。
高級米、シリアル、持ちきれない食料をジジイと会う前に買ってくれたので、荷物を運ぶついでに保護者として学園も見たいと車を出した。
学園に着いたので許可証をもらい、勇吾さんと寮に入る。俺はさっきからトイレに行きたくてそわそわしていた。勇吾さんはそれを見て笑った。
「だから、途中のコンビニでトイレ借りればよかったのに」と。でもその時はまだ我慢できると思ったんだもん! なんて楽しそうに寮の廊下でやり取りをしていた。
寮に入り、エレベーターに乗り込み目的階に着いてドアが開くと、そこには飛び抜けたイケメンがいた。勇吾さんと俺も、んっ? と思っていると、そのイケメンが勇吾さんに声をかけてきた。
「あの、失礼ですが岩峰医師ですか?」
勇吾さんもその人を知っているようで、笑顔で答えていた。
「ああ、そうだよ。君は確か上條グループのご子息だったね?」
「はい、覚えていてくれてありがとうございます。先日の学会は素晴らしかったです。先生の話とても感銘を受けました。今日はどうされたんですか?」
俺は目の前のイケメンを見て、あれ? と思った。上條って、……生徒会長! 俺の調査する相手じゃん! その人は俺を見て笑いかけた、なんだ!? 笑った顔の顔面偏差値やばいだろっ、俺は思わず赤面して勇吾さんの後ろに隠れた。勇吾さんがその光景を見て、俺の紹介を始めた。
「ありがとう、今日はこの子を送り届けに来たんだ。この子は桐生良太君、今年この学園に入ったばかりで、僕の大事な子なんだ。今日は送ったついでに部屋を見せてもらおうと思ってね。良太君、彼は上條桜君でこの学園の生徒会長、だったかな?」
「はい。今年の首席入学の子ですよね、大事な子って、お二人はどういう……」
顔面偏差値の高いアルファが話を続けているが、俺は我慢の限界だった。
「勇吾さんッ! もう我慢でき、なぃ……っ」
勇吾さんは律儀に俺のことを話しているけど、そして目の前のこいつがアルファでジジイの敵会社の御曹子で、俺が攻略しなければいけない相手。でも今はそんなこと言っていられない。も、も、もれるっ!
俺は勇吾さんの腕をチョンって掴んで二人の話の邪魔をした、最後は少し小声で。
「あぁ良太君、そうだったね。早く部屋へ行こう。上條君、少し急いでいるんだ。ごめんね、では失礼するよ。良太君もう無理? 抱っこしようか?」
「……や、やめてよ、勇吾さん……ここ学校……それよりっ早く!」
もうおしっこが我慢の限界にきている。俺と勇吾さんの会話を上條桜が怪訝な顔で見た。そりゃそうだ、お漏らししそうな高校生って。あっ、この怪訝な顔! そっか、生徒代表挨拶の時、舞台袖でもこんな顔されたな。俺嫌われているのかな?
「あの……先輩、失礼な態度すいません。でも僕たち急いでいるので失礼しますっ」
そう言って、相手の返事も待たずに勇吾さんの腕を引いて俺の部屋へと向かった。隣で勇吾さんが「急いでいるのは我慢できない良太君だろう」と言いながら笑っていた。「もう! 言わないでよっ」と騒がしくその場を去っていった。
そのあと勇吾さんの顔が少し険しくなっていたけど、俺はトイレのことしか考えられなかった。
これが俺と上條桜の、二回目の対面であった。
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