ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第一章 生い立ち〜出会い

10、閑話 〜ローズセラニウム〜

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 母親の実家に初めて足を踏み入れたあの日、ふと庭に咲く花が気になった。
 
 ほのかに香ってくる香りがとても懐かしくて、気づくと涙がでていた。

「あれは、ローズゼラニウムというハーブだよ」
「えっ」

 背後から俺の爺さんだと名乗った老人が、そっと話しかけてきた。

 俺は急いで涙を拭った。

「ローズゼラニウム? あの匂い、なんか知っている気がする……」
「そうだろう? あれはお前の母親のフェロモンの匂いと一致するからな、雪華の母親、儂の妻のフェロモンもあれだった。きっとお前も発情期を迎えたらあの香りなんじゃないか? フェロモンの香りは親子で似てくる」

 そうなんだ。

 俺はオメガという生き物にはなりたくない、そう思っていたが母さんと同じ匂いを感じ取れるなら、それも悪くないなとふと思ってしまった。

 あの可愛らしい花のような母を思い出して、また胸が熱くなった。

 いつか、俺も発情期を迎えたらあの香りになる、それだけがオメガとして唯一の楽しみであった。

――俺を包み込めば母さんにまた会える――

 恐怖でしかなかった必ず来るであろう発情、俺の唯一の希望がローズゼラニウムの香りだった。
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