運命を知っているオメガ

riiko

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本編

58、運命でも、運命じゃなくても

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「正樹のつがいは俺だよ」

 えっ、は? なんだって。

「な、何言ってんだ!? お前は運命である俺を他のアルファにつがわせたんだろ?」

 そして司は、俺のうなじを優しく触る。

「うあっ、ひゃっ」
「ね、俺が触るだけで感じちゃう。つがいじゃなければ嫌悪感があるはずだろう? もう誰も正樹には触れられない、俺だけだ」
「な、なんでっ!」

 俺の目から涙が溢れる。

 どうして、どうして、どうして? 

 俺はやっとの思いでこいつを諦めたのに! なのにどうしてこれから一緒に生きていくこともできない相手を噛んだんだ。

「まさかっ、それがお前の復讐? 俺を噛んで、そしたらお前はもう運命に怯えることないもんな、俺を飼いならして、欲望だけ満たすつもり? それとも、ここで俺を捨てる為に噛んだのか?」
「はあ。どうしてそんな突拍子も無いことを。まあ、俺がそんな印象を与え続けたんだろう責任は感じるけど、それにしても随分否定的だな、正樹はそんなやつだったか?」

 俺だって、こんな女々しいこと言いたくない、嫌われたくないから、つがいにならないように、運命に気づかれないように努力してきたのに。

「……お前のせいだっ、お前なんかと会わなければ俺はこんな女々しい男にならなかったっ」
「そうだね、ごめん。正樹がこんなに怒るのも悲しむのも全て俺のせいだね」

 そうやって俺を抱き寄せて頭を撫でる。俺の目からはどんどん涙が出てくる。司のシャツを濡らしてしまった。

「やめろ、離せっ」
「離さないっ、一生離さないっ、愛している」
「え?」

 あい……している?

「今まですまなかった。正樹は俺を運命だって気づいていたのに、俺は気がつかなくて、散々お前を苦しめた」
「それは、いいよ。だって、運命が嫌いってのはしょうがない」
「うん。でも正樹が好きだ、運命だろうとなかろうと、この気持ちは変わらない。愛している」

 本当に?

 本当にそう思っているのか? 

 いや、司は運命に対しては非道なことを言ってはいたが、実際に非道な行動なんて見たことない、俺の知っている司なら一応は優しいから、つがいにしてしまったオメガをほっとくことができない? 運命のヒートで衝動的になった司は間違えて噛んだだけ? それで責任を?

「離して、そんな嘘いらない。お前が運命だった俺を受け入れるわけないんだ。もういいよ、俺は一生一人でいるし、お前の前には現れないから。だからお前はアルファの女の子と付き合えるし、もうつがい持ちだからほかのオメガのヒートには当てられないだろ? 良かったじゃないか、お前もこれで生きやすくなるよ、サヨナラだ」

 ここで受け入れて、あとでやっぱり違うってなるならそれこそ辛い。もう苦しみはこの一回にしたい。

「正樹、もう俺からは逃げられないんだよ。そんなこと言わないでくれ、俺がどれだけ酷いことをしたかはわかっている。無理やりつがいにしたのも。でも、好きなんだ! 正樹は? 俺のこと好きなんじゃないの?」
「そんなことっ、聞くなよ」

 好きに決まっている。好きだから、司と出会ってからずっと苦しんできた。司の幸せに俺はいないってずっと思ってきた。

「どうして? 前は俺のこと好きって言ってくれたよね? 今もそれは変わらないんじゃないの?」
「……」

 抱き合っている腕を解かれた、そして今度は俺の目を見て言う。

「俺は正樹を愛している。何度だって、毎日だって言う。運命でも運命じゃなくても、もうそんなの関係ない! オメガとかそんなんじゃなくて、俺は真山正樹という人間が好きだ。これまで付き合ってきてお前の可愛さも、人柄も、誠実なところも、優しいところも、俺に流されてくれるところも、エッチの時声を抑えて耐えるところも、でも耐えきれなくて後ろを必死に締め付けてくるところも、」
「ちょっ、ちょっと待てぇ――ぃ!」

 どさくさに紛れてなにを言う!?

「ん? まだまだ好きなところあるのに、なに?」
「いや、もういいです。恥ずかしいから止めろ」

 こいつは真剣な告白で、何を言い出すんだよ!

「ふふっ、俺の気持ち伝わった? 愛してる、俺と結婚してください」
「は? なに言ってんだよ、俺たちまだ高校生で結婚なんてできるわけないだろ」

 俺は嬉しくて、ちょっと涙が出た。司は俺を本気で愛してくれて未来も含めて俺を見てくれている。

「今すぐじゃない、卒業してからでいいから。でももうつがいだし一緒に暮らそう」
「そんなことしたら、父さんが泣くだろ!」

 いつの間にか、いつもの司のペースに流されている。そして好きと言う言葉もすんなり入ってきている自分に、俺はもう司というアルファに従うように、つがいになる前から本能に仕組まれていたのではないかと思った。

 出会った時から、決まっていた。

 運命だろうと運命じゃなかろうと、こいつじゃなきゃダメなんだって。
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