運命を知っているオメガ

riiko

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本編

9、拒絶されたオメガ

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 普通のアルファの存在すらもわからない俺なのに、本能がこのフェロモンの香りが俺の唯一で運命のつがいだと教えてくる。

 じゃ相手にもわかっているのか? 

 俺をつがいにしてくれるために入ってきた? 俺の体は歓喜で溢れかえった。香りが一層ブワっと出てきて、まだ見てないその香りの持ち主に自分のフェロモンをぶちまけた。

「くそっ、発情オメガがいるのか!? なんだこの匂いは。おいっ、早く緊急抑制剤を打てっ! 誰かれ構わず誘ってくんなっ」

――発情オメガ、それは罵られた言葉――

 な……んでそんな言い方、俺のアルファじゃ無いのか? どうして俺を抱きにこっちにこない? アルファの怒りの声が伝わってきて、俺は急にビクビクと震えだした。俺を抱く気がないんだって、その言葉の温度でわかってしまった。

 涙が出てきた。だったらお願いっ、まだ知らない俺の運命の人、俺の醜態を見ずにこの場から去って。

「発情初めてで、持ってない。お願い、そこから居なくなって、こっち来ないで」
「くそっ! すぐに生徒会室にある抑制剤持ってくるから、それ以上発情の香り出さずに待っていろ!」

 どうしよう。迷惑そうだ、でも、生徒会室から出てきたのなら、生徒会役員なのか? こんな発情したオメガを放置して問題起きる方が面倒くさいのだろう。俺は彼の仕事の邪魔はせめてしないように、了承するしかなかった。

「……うっ、わ、かった。ごめっ、お願いします」

 香りを出さずにって、どうやるんだ? 

 涙が止まらない、俺のヒートの香りを迷惑そうに出すなと言った。顔は見えてないけど、俺のこと嫌いなんだろう。まだ顔さえ見てもらっても無いし、まともな会話さえしてないのに運命に嫌われる俺って。

 誰かに抱かれるなんて想像もつかなかったし、絶対嫌だと思っていた。だけど声の主、運命の男、そいつになら今すぐ乱暴に扱われても良い、むしろ抱いて欲しいって、香りと声だけでそう思えた。そして直ぐさま俺の浅ましい思いは叶わないと知った。ならせめて発情しないで、運命に迷惑をかけないようにしなければ。

 それに俺のことは嫌っても、放置せずに薬を持ってきてくれるという優しい人だ。

 アルファはすぐに戻ってきた。俺はもう意識は朦朧としていて、履いていたズボンはぐっしょりと前も後ろも濡れていた。恥ずかしいっ、辛いっ、なんで俺を受け入れない運命にこんな姿を見せなくてはいけないんだろう。せめて、俺は相手を見ないようにして言葉を発した。

「見 ないで……」

 俺は聞こえないくらい力の無いか細い声で言った。今までアルファなんか要らない、つがいなんか要らないって、そんなことばかり思っていたからバチが当たったのかな。

「はっ、はぁ 見ないで。お願いっ、それ、置いて出ていって」
「……自分で打てるのか?」
「だい、じょうぶ。ありがとう」

 恥ずかしいのと、悔しいのとで、涙があふれていた。その人は俺を凝視している、目線は合わせられないけど、でもきっとさげすんだ目をしているんだって思った。

 そしてそのアルファは部屋から出た。その後、彼が呼んでくれたらしい保健医が部屋に来てくれて、すぐに保健室に運んでくれた。注射をして少し意識が戻った時に、保健医が言ったその言葉に意識を失いそうになった。

「君を助けてくれたのは、アルファの西条君だよ。彼がオメガ嫌いで良かったね、普通なら発情したオメガを抱かないアルファは居ないから、発見したのが彼だったのは、不幸中の幸いだったよ」

 西条は生徒会役員ではないけど、たまたまそこにいてラッキーだったねって保健医が付け加えた。もしアルファの生徒会役員がいたら、噛まれていた可能性だってあったよって。

 やはり、西条だったんだ。

 俺はなんとなくそうかと思っていた。ひと月前、初めて彼を見た日に電気が走るような感覚。そしてさっき嗅いだ香り、全てが彼にしか繋がらなかった。

 先生は襲われなくて良かったって言ってくれたけど、全然嬉しくない。俺はヒートでもう彼に抱かれたいとしか考えられなかったのに、彼は冷静だった。運命さえも関係ないくらいオメガはどうでもいいんだ。だから今後、俺が西条に選ばれる日なんて決して来ない。

――彼は俺の運命だった――

 その運命に俺は拒絶された。

 死にたくなるほど悲しかった。初めてオメガを認めても良い、抱いてもらいたいと思った運命のつがいに、俺はさげすまれた目で見られた。

 もう彼とは関わってはいけない。発情に任せた脳ではあまり深いことを考えられなかったが、オメガとしての失望が俺を欲望の世界から引き返してくれた。

 少し意識があるうちに、とりあえずもう一生関わることのない人へ、そう自分に言い聞かせて。ただ発情を助けてくれたことだけお礼を一言かいて、もちろん名前も俺の顔も知らなかったはずだから、名乗らずに。俺からアクションをとることは二度とない、それをわかってもらえればそれでいい。

 悲しいけどこれから先も関係を持つことはないので、宛名も自分の名前も記入せずに一言だけのお礼を紙に書いて、先生にその助けてくれた知らない人に渡しておいてくださいと言った。

 そう、あくまでも俺は西条なんて人間を知らない、たまたま近くにいた人間に発情を見られた、そういうことにした。きっと、向こうもそうしたいはず。運命だと言われたら迷惑だと思う。彼を安心させてあげるためにあえて手紙を書いた。

 俺はあなたを……運命を諦める、そういう想いを込めて。

 そして両親が迎えに来てくれたので、家に帰るとそのまま人生初めてのヒートが始まった。

 それは最悪だった。
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