運命を知っているオメガ

riiko

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本編

10、運命を諦める

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 長い一週間があけたので、久しぶりに学校へ行った。

 初めてのヒートは辛く悲しいものだった。好きな人ができたのにその人とは結ばれない。それがわかっているのに、その人を想像してひたすら快楽に陥る。彼に抱かれるのを夢見て、実際にはひどい顔で拒絶される夢をみる。

 夢見が悪すぎて毎朝泣いていた。欲望も満たされず、気持ちも疲弊する。

 せめて誰も好きな人がいなければ、こんな悲しい発情期にならなかったのだろうか。考えても仕方ない、俺にはこれから三ヶ月に一度、こんな辛い日々がやってくる人生が待っているのだ、発情期以外の時はそんな悲しいことを考えないで過ごそう。そう思って、久しぶりに会った友人たちと空元気と言われながらも、よく笑うことにした。

 ひとつだけ、櫻井がなんだか妙にスキンシップが増えたのは気になった。

「なんだよっ、お前ベタベタ触りすぎっ!」
「だって、正樹にやっと発情期がきて嬉しいんだもん! それに凄く良い匂い、いつでも嗅いでいたいっ」

 隙あらば俺に抱き着いてくる。友達ってこんなだったか?

「だーかーら! そういう触り方するなっ! 俺日本男児! そういうスキンシップはしないんだよっ」
「うん、次の発情期は触らせてね!」
「ふざけんなっ! あっ一週間分のノート見せてくれっ」

 そんな会話をして、オメガ寄りの会話はなんとか避けた。そうだよな、オメガが一週間休むって、発情期ですって言っているようなもんだもんな。なんか、辛い。

 オメガを認めた瞬間、オメガを諦めた。でも周りは俺を再度オメガと認識する。

 今からでもベータに戻れないもんかなあ。

 無駄な思考が頭をよぎる。もう、やめだやめだ! 俺はただの男子高校生っ! そうだ僧侶になろう。性欲とは関係ない世界へ出家するぞ。

「正樹?」
「出家だ!」
「へっ、寝ぼけてんの?」
「えっ、あっ、なに」
「ははっ、発情期きても正樹は変わらないな。あそこに西条がいる、見たことないだろ? 正樹はもう立派なオメガだから、あいつに匂いかがせちゃダメだからなっ」

 櫻井が言った先を条件反射で見てしまった。そしたら、なんと西条もこっちを見ていた? いやこっちの方面を見ていたのかもしれないけど、目が一瞬合った気がした。俺は瞬時に目を逸らしたけど、息苦しい。ドキドキする。どうして発情期が開けた初日にあいつを見つけてしまうんだろう、いや、今回は櫻井が律儀に教えてくれただけなんだけど。

 この呪縛は逃れられないのか?

「櫻井っ、俺腹減った! 購買付き合って」
「あ、待て! 正樹は色気よりも食い気か」

 櫻井が笑いながらついてくる。俺は一刻も早く西条の見ている世界から離れたかった、まだ鼓動が治らない。
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