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日本編
23、過去との決着 1
しおりを挟むエレベーターでカップルが先に降りると、僕の後ろに一人だけ男が残った。
「海斗」
「えっ」
呼ばれて振り返ると、その人は爽だった。
「な、なんでここにいるの?」
「海斗に会いに来た」
「会いにって、だって僕との……飯田家との面会は今後ダメだって弁護士さんが。というかどうして僕がここに来ていたこと、知っているの!?」
なぜこのホテルに今日、僕がいることを知っているんだろう。それに、なんのために僕に会いに来たのかわからない。
「海斗のことは日本に来るってところから、プロを使って調べていたから。それに俺だってちゃんと海斗と話したかったんだ。俺たち何も話してないまま別れたから」
なにそれ、怖すぎるし、何も話さないまま別れたんじゃなくて、そういう風に爽がしただけだ。
「それはっ、それは爽がそうしたんでしょ。とにかく、もう終わったことを話すつもりもないし、迷惑だから、あっ‼」
部屋のキーを取られた。そしてエレベーターが開くと僕の手を取って、強引に部屋の前に連れて行かれた、キーを解除した。
「何するの‼ というか勝手に入らないでよ‼」
「あいつは?」
「あいつって、僕の夫のこと?」
「夫? 結婚したのか?」
爽はずけずけと部屋に僕を押し込んで、僕をベッドに投げ飛ばした。
「えっ、なに、なんなの‼」
「話をしよう」
「話って態度じゃないでしょ、僕を投げ飛ばして!」
僕がベッドを降りようとしたら、爽に押し倒されたその時、ドアがノックされた。
「助けっ、んん」
「しーっ」
爽は、僕の口に手を押し当てた。すかさず自分のネクタイを外して僕の口にグルっとまいて、手も縛られた。
なに、なにが始まるの!?
「大人しくしとけよ」
爽が、ドアの先の人の対応をして、すぐに戻ってきた。
「流石だな、お前にホテルからサービスだって。こんなシャンパンが出るなんて、世界で名を馳せたモデルは違うな。せっかくだから飲もう」
シャンパンは、もしかしたら司からのサービスかもしれない。爽は、僕の口に巻きつけたネクタイを外した。
「ぶはっ、はぁ、はっ、爽ってそんな乱暴な人だった? 僕と付き合っている時、隠していたの? それに無責任にオメガの命を簡単に散らす人には見えなかったけど、僕の見る目が無かったんだね。爽と過ごした六年、僕は何を見ていたんだろう」
爽がベッドに座った。
「海斗は何もわかってない。俺はお前だけだった、だからまだフェロモンも感知する前から強いアルファの薬を常用して、オメガに惹かれないように必死だった。アルファはオメガのフェロモンをかけられたらひとたまりもない。俺はそうまでして、高校時代どんなにオメガが誘って来ようと耐えて、海斗だけを愛してきた」
「……そんなこと、知らなかった」
優雅に見えていたのは、爽がそうした努力をしていたから? でも今さらそんなこと言われても過去は戻らない。
「海斗はベータだからアルファの苦労を知らない、でも知らせる必要もないと思った。俺だって薬で自制してこられたし、だけどあの日、海斗は家にオメガがいるなんて一言も言わなかった。俺は油断していたんだよ、それに運命だったからどうしたって抑えきれなかった」
「……今さらそれを言ってどうするの? 確かにベータである僕と付き合うために、いろいろ我慢して耐えてきたんだろうけど、いつかオメガに靡くなら、我慢してまで付き合うことなかったよね? そんな努力の上で付き合っていたなんて知ったら、僕はすぐにでも別れた」
まるで僕のせいでそうなったみたいに言うけど、僕も爽も陸斗だって、誰かの被害者であって加害者なのかもしれない。だからこそ、僕だけのせいにされても困る。
「だからだよ‼ お前は結局流されていただけで、俺を愛してなかった。俺の苦労なんて知ったら、お前は俺を諦めてしまうって思ったから。だから言えなかった。そんな時、無条件で俺だけを受け入れて欲しいってオメガが目の前に現れたんだ。ラットだって初めての経験で抗えるわけない。お前は、アルファとオメガの運命を知らないから、簡単に俺がお前を諦めたみたいに言えるんだ」
「僕だって、知りたくなかった! だけど、もう僕は運命を知っているし、抗えるってこともわかった」
「は!? ベータが簡単に言うな」
爽は僕を嘲笑った。でも、僕は知っているんだ。
「僕の夫は、目の前で運命のオメガに出会って、その子はヒートを起こしたけど、彼は僕を呼んだ。彼はオメガを噛まないように自分の腕を噛んで、衝動を抑えた」
「え……」
爽が驚いた顔をした。
「それが爽と類の違いだよ。そして愛情の違い。結局、爽も僕も本当の愛じゃなかったんだ、本物だったら運命だって抗えた。現に類はラットを起こしても、僕を選んだ」
「そんなバカなことあるか‼ それは運命なんかじゃない‼」
「そんなこと言われても、僕が感じたわけじゃないからわからないけど。でもオメガの子もヒートを起こしながらも運命は嫌だって、抗っていた。その子も愛している人がいたんだ、だからお互いに強い愛情を与える人がいたっていうのも要因だったかもしれないけど。だからこそ爽を許せない、陸斗は恋をしたことが無かった子供だから、初めてのヒートで運命が現れたら惹かれるのはわかる。だけど爽は僕という婚約者がいたのに、陸斗と会った瞬間に僕の存在を忘れた、それが全ての答え」
爽が言葉に詰まった。
「わかったでしょ、もう帰ってよ。そして僕のことも陸斗のことも綺麗さっぱり忘れて」
「俺は、俺は海斗を愛しているんだ。どうしてもラットの時しか陸斗を求められなかった。それでも陸斗を手放さなかったのは、海斗が戻ってくるかもしれないって思ったから。陸斗の状況を知ったら、弟が番解除されないために海斗が俺とよりを戻してくれるかもしれないって、そう思った。その頃には俺の親も海斗の活躍を知って、海斗を嫁にすることを許してくれていたんだ」
「はっ、なにそれ」
「陸斗は俺を愛していたから、そんな陸斗を簡単には捨てられなかったのもある。俺が部屋に行くといつも喜んでいたけど、その顔を見るたびに、俺は海斗を思い出してダメだった」
なに、それ。なにそれ。
陸斗は部屋にこない爽をずっと待っていたの? お互いに愛情がないんじゃなくて、陸斗はずっと爽を好きだったってこと? それもあって陸斗は心を壊したんじゃないのか? 好きな人は兄を連れ戻すためだけの手段として、自分を番にしておくなんて、どんな辛い十代を過ごしたんだ。
「じゃあ、なんで番解除に乗り切ったの」
「お前がサクラジュエリー御曹司と本気の恋をして、結婚秒読みという記事を見たから。もう日本を忘れて、自分の人生を進んだのかと思ったから。飯田家にも連絡が来なくなったって陸斗から聞いて、それで陸斗を引き留める理由がなくなった」
「……」
言葉が出なかった。僕を裏切って、仲良く生まれた子供と家族三人で暮らしていると思っていたのに、この五年、陸斗には苦痛でしかなかった。出産と同時に子供を取られて、番は仕方なく発情期だけ抱きに来る。それでも爽を愛していたのに、肝心の爽は僕のことを思っていた。
陸斗を想うと苦しさしかなかった。
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