運命を知りたくないベータ

riiko

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日本編

13、陸斗の現状

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 遅れて父も到着した。そして僕と両親で医者から陸斗の状態を聞くことになった。

「はじめまして、僕は陸斗君の主治医をしている岩峰勇吾いわみねゆうごです。彼は以前から通院していたので、大体の事情は把握しているつもりですが、ご家族の方は陸斗君の事情をどこまでご存じでしたか?」
「どこまでもなにも、つがいとは発情期だけを過ごす冷めた仲だということだけで、まさか妊娠するとは思っていませんでした。しかもつがい解除なんて聞いていなかった、親なのに情けない」

 三十代くらいの優しそうな医師が、丁寧に聞いてきた。

「そうでしたか、彼はまだ幼い。二十歳になったばかりとは言え、幼いまま何も知らずに成長しただけの子供です。僕はまだ親御さんの保護が必要だと考えています。ご家族の方は、縁を切られたわけではないのでしょうか?」
「まさか‼ そんなことしていません。あの子が爽君……つがいのもとに行って、私たちは孫にも一度も合わせてもらえず、つがいのご両親に孫も取られて……陸斗だけでも返してもらいたいと思っています」

 そして先生はホッとしたように、笑顔になった。個人情報もあるけれど、以前から陸斗からはうちの家族のことは聞かされていたからと、丁寧にオメガやつがいについても説明を交え、全てを話してくれた。

「うちはバース専門医療に特化している病院で、陸斗君はつがいの方とこちらに通っていたんです。二人とも運命でつがいになったけれど致命的に上手くいかないから、別れたいと。だけどいったんつがいになったオメガはつがいから離れることは死を意味する。これは有名な話ですよね、最近になって、ようやくつがい解除後も普通の生活ができる治療薬が発明された。それに伴い法律も整備されて、アルファもつがいを捨てることは犯罪になるんです。だからこそアルファ側もつがい解除には慎重に動く必要もある。うちの病院では法を犯さずに、やむ負えない事情のオメガには新薬の処置をし、つがいがいなくても生きていけるサポートをしています。アルファ側の血液やらいろんなものを採取する必要もあるし、全額アルファ負担と決まっているので、陸斗君のつがいの方もこちらに来院しました」

 そんなことを……。爽は一応責任を取っているらしい。両親もまったく知らなかったみたいだ。

「発情期は誰かの精を受けることが一番の解決法ですが、つがいのいるオメガはつがいしか体液を交換できない。その薬は発情期に他の人と性行為ができる薬です。それによりオメガは生きられる体になる、しかし陸斗君はつがいしか経験もなく、他にそういう相手も欲しいと思えなかった、そういう人の治療にはつがいの血液から採取した薬を投与して、発情を抑えることができるので、発情期にはその治療を開始する予定でした。ですが陸斗君の妊娠が発覚したんです。最後の発情期に避妊に失敗したらしい、陸斗君は相手の家に子供を取られるなら知られたくない、つがいには内緒で一人で産むと決意していました」
「そんな‼」

 母が泣き出した、母も陸斗の孫を一度も抱かないままに爽の実家にとられたので、悔しかったに違いない。そして二度目の子も産んだと同時に奪われるのが決まっているなんて。

「ここはオメガの力になる病院です。陸斗君の秘密は相手には伝わっていません。ただ陸斗君もそんな中、一人で慣れない妊娠生活をしていて限界だったのでしょう。子供ももう親の体にいられないと思ったみたいで、だいぶ早い段階ですが、限界を迎えて運ばれてきました。今赤ちゃんは取り上げられて、保育器に入っています。元気ですが、発育が足りないのでまだ入院が必要です。陸斗君も精神も肉体もボロボロで数か月の入院生活になります」
「子供は!? 生まれたんですね‼」
「ええ、可愛い男の子でしたよ。今度こそ抱くことができますよ」
「ああ‼」

 母は泣いた。この涙には今までの重みがある。岩峰先生は優しく微笑んだ。きっと陸斗に寄り添ってきてくれたのだろう、陸斗の事情もだいぶ知っているようだった。そして今度は僕に向き合った。

「陸斗君、あなたに申し訳ないことをしたってよく言っていました」
「え……」
「自分が兄の婚約者を寝取ってしまったし、あの頃は子供でそれが当たり前だと思っていたって」
「……陸斗が?」
「僕はベータですが、ここでは数多くのオメガの子を見てきました。フェロモンに抗うのはとても難しい、それが運命と言われる絶対的遺伝子の持ち主と出会ったならなおさらです。陸斗君は人道を外れた行為をしたと、つがいの方と上手くいかなくなって、初めて気が付いたって言っていました。そしてお兄さんに謝りたいと」
「……っ」

 父が僕の肩を引き寄せた。僕はこぼれる涙をぬぐうことができず、何も言えず、下を向いてしまった。

 先生が僕にティッシュを差し出した。

「すいません」
「いえ、あなたも被害者ですし、僕は陸斗君もフェロモンの被害者だと思っています。ついでに言うと、アルファもフェロモンに抗えないところがとても強い。みんなそれに惑わされたんです。つがいの方は、愛情が無いとはっきり言っていましたが、それでも陸斗君へのサポートは全面的に協力すると言っていました。自分がやったことの償いはしたいと……」

 たしかにあの時の陸斗はまだ中学生で、初めての発情だった。抗い方なんかわからないだろうし、本能が求めたらそれを追いかける、そんなまだ子供だった。爽のことは許せないけれど、それでも僕にはわからない本能がそうさせるなら何も言えない。せめて責任を取ると言ってくれたことには少し救われた。

「それから、ここからはご家族の協力が必要な話ですが、今後の陸斗君の世話を見る覚悟、ご両親にはありますか?」
「もちろんです。本当に親として情けないが、できることなら、最初からやり直したいです」

 父がそう言った。それを聞いた先生は安心したようで話を続けた。

「きっと彼には子供を育てることができない、まだわかりませんが、彼は最初こそ妊娠を喜んでいました。だけど途中から不安が大きくなり、早く産み落としてつがいを忘れたいと言っていました。嘘か本当かはわかりませんが、子供は孤児院の前に捨てると……もしそんなことになるなら、病院側でもオメガサポートをいれることもできるので、子供が欲しい家庭との養子縁組も見つけることもできます」
「だめ‼ だめよ、今度こそ孫は私たちが責任を持ちます」

 岩峰先生は、母の答えをわかっていたみたいだ。微笑んで続きを話した。

「そうですか、それは安心です! ただ陸斗君が自分の子供を受け入れられない場合、どうしますか? 陸斗君とお孫さん両方は同じ家にいられないかもしれませんよ? 陸斗君、精神的に病んでいる傾向があって、赤ちゃんを見ることもできない可能性もあります」
「それでも、それでももう、子供を取られたくないっ」

 母が泣き出して父が抱きしめた。

「ご両親も辛いお話でしたね。赤ちゃんはしばらく保育器で育てることになるので、急に決断されなくても大丈夫ですし、陸斗君の気持ちが持ち直すこともあるでしょう、ただ現状をお伝えしたかっただけですから、気落ちせずに一緒に見守りましょう」
「はい、先生なにからなにまで陸斗をありがとうございました」

 父が頭を下げた。岩峰先生はそっと父の手を握り、大丈夫ですよって言った。


 ***

「ローズゼラニウムの箱庭で」主要キャストの岩峰勇吾、登場。
こちらは、ローズゼラニウムの世界から数年後、オメガ新薬が承認されて彼の病院でオメガ専門治療が始まりました。番解除されたオメガに少しでも優しい世界になっていたらいいな。
この作品とはそこまで繋がりが無いので読まなくても問題ありませんが、「ローズゼラニウムの箱庭で」興味のある方はお読みいただけたら嬉しいです!
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