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日本編
14、類の本能
しおりを挟む類はまだ家族ではないので、医師の説明には参加できなかった。僕が泣きながら部屋を出てきたのを見て、類はまず岩峰 先生を 睨んだ。
「海斗‼ どうした?」
「類っ、うう」
「俺の恋人に何をした?」
僕を抱きしめて類は、岩峰先生に悪態をついた、なぜ!?
「類!?」
「はは、怖い恋人だ。海斗君には支えてくれる人が今はいるんですね! 陸斗君も少しは救われるかな?」
類みたいなお子ちゃまアルファを軽くあしらった。それもそのはず、この先生はなんとこの病院の副院長で、オメガ研究のかなり偉い人だったみたい。
オメガを守るためには、アルファへも強く出られる人なのだと思った。
さっき番解除の治療についても詳しく教えてくれた。その時に薬の安全性も力説してくれたんだ。実際に、開発当時に先生が大切にしていたオメガと何度も試したから、安全だと言っていた。ちょっと照れながら自分の、そういう過去を言ってくれた先生に僕たちは好感が持てた。
意外にわんぱくな人なのかな? でも薬指にはリングもあるし、落ち着いている人にしか見えない。奥さんはその時のお相手のオメガなのかな?
「類、先生は包み隠さず陸斗のことを話してくれただけ。それで僕たち家族は、家族のことなのに、何も知らなくてそれで、陸斗のことを思ってこうなっただけ。だから、類、先生に謝って? 僕は親身になってくれた主治医の岩峰先生には感謝しかないからね」
「……ごめん海斗。俺以外で涙する海斗が許せなくて、その岩峰先生、誤解して申し訳ありません。義理の弟のこと、ありがとうございます」
「義理?」
「俺たち、結婚するんです」
「そうなんだ‼ それは、おめでとうございます。アルファの本能が海斗君を守ろうとしているんだね。アルファの婚約者のいる人を泣かせたら、そうなるのは僕もわかるよ。誤解させてごめんね」
なぜか僕たちの結婚報告で幕を閉じた形となった。類は初めて会った医者に、何を言っているんだと思ったけれど、類はおめでとうと言われてまんざらでもなさそうな顔をしたから、それはそれで僕も嬉しくなった。
そして僕たちは病室に案内されたけれど、まだどういう気持ちで陸斗が僕と会えるかはわからなかったから、両親に任せ僕は落ち着いてからにしようとなった。その前に、岩峰先生から赤ちゃんを見せてくれると言われたので、ガラス越しに見せてもらった。とても小さい、小さいけれど、すでに可愛かった。僕の甥っ子。生命を目の当たりにして僕が泣いてしまうと類が僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
そしてホテルに戻って、先ほどの話を類にした。
「そんな事情があったんだ……」
「うん。陸斗はあんなに若く番になって出産して、子供を育てることも会うことも許されずに、他の人が自分の息子の母親になった。お互いに好きがなくなったのに、それでも発情期には爽を求めて……ねぇ、運命って、番ってなんだろうね」
「ああ、本当になんだろう。でも、それでも、仮にもあの男には結婚を誓うほどの海斗がいた、それなのに抗わなかったのは、そいつの弱さだと思う」
「……うん」
類は僕を抱きしめて言う。
「俺の時は、相手のあの子にも大切な人がいて、お互いに運命だけど違うって心が叫んだんだ。体はフェロモンで反応したけど、俺の心は海斗だけだった」
「うん」
「だけど、もし俺にあの時海斗という存在が無かったら、きっとあの子に相手がいようが、そのまま拉致して噛んだと思う。それくらいにフェロモンの融合性は凄いものなんだ、俺はその時愛する人がいてラッキーだった。だからこそ、あの爽って奴を俺は許せない。本当に愛していたら、あんなにすぐ目の前のオメガだけにならなかったはず、海斗には悪いけど、」
「ううん、わかっている。ちがう、類に出会ってわかった。類こそが僕が心から望んだ人、爽は違った、爽だって僕に対してそこまでじゃなかったんだよ。あの時は、お互い若くてわかってなかった。それが弟という運命に出会って、爽はわかったんだと思う。僕に対しての愛情は、本物じゃないって」
類が悲しそうな目で僕を見た。あの時の類は、自分の腕を噛んで、噛みたいという本能と戦ってくれた。僕のために、相手の子のために。類の愛情こそが本物だって今の僕ならわかるんだよ。そんなに気を使って話してくれなくてもいいのに、優しい僕の恋人。僕だけの恋人に、僕はまた恋をする。
「でも、そのおかげで僕は類みたいな、最高の人に出会えたんだよ」
「海斗、俺はもう、海斗しかいないから。俺の初めての人で、最後の人は海斗だから」
「うん、僕の初めては違うけど、僕にとっても類が最後の人だよ、大好き」
「俺は愛してる」
「ふふ、僕も愛してる」
そしてその夜、類といっぱい話した。
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